ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
森岡誠司は冬天市行きの電車に乗っていた。
予定よりも長く神浜に留まっていたが、流石に一度帰った方が良いと判断しての行動だった。
友人である皆本慎也は「好きなだけ居ればいい」と言ってくれたのだが、いつまでもその好意に甘えている訳にはいかない。それにその気になればいつでも来れる。
思い立ったその日に冬天市行きの電車に乗ったため、神浜で出来た知り合いには挨拶をしなかった。一応咲にはメッセージを送っておいたが、リプライはまだ返ってこない。
一緒に神浜に来た水無月霜華にも連絡をしたのだが、「やる事が出来たから放っておいて」と返事がきた。ボディガードのつもりだったのだが、思い切り人選を間違えてしまったようだ。危険な目に逢う事は無かったが、今度は他の人に頼もうと思った。
(それにしても…)
今回は色々な事があった。
咲が仲間と歩んでいる事に安堵し、魔法少女の真実を知って呆然とし、神浜が団結して一歩を踏み出すその瞬間に立ち会った。
咲は運悪く風邪を引いてしまったが、森岡は神浜マギアユニオンの結成式に参加した。単純に興味があったからであり、その後のパーティは辞退したが…中々有意義な体験だった。
あの街から希望が拡がれば魔法少女は魔女化の宿命から解放される。…それは、森岡の願いにもなりつつあった。
何時か彼女達が普通の少女として笑い合える日が来ると、今なら確信出来る…それだけでも神浜に来た意味があった。
電車の振動に身を任せ、ぼんやりとしているとポケットで携帯端末が震えた。
咲がリプライを送ってきたのかと思い開いてみると、それは全く予想外の人物からだった。
メッセージを送ってきた人物は
珍しいなと思いながら本文を読んで、森岡は凍り付いた。
『子喰いの魔女が冬天市に戻ってきたみたい』
簡素な文ではあったが、それは森岡に大きな衝撃を齎した。
(……まさか、こんな時になって戻ってくるとは…)
自然と手に力が入る。
冷や汗が流れ、目眩にも似た感覚に襲われる。
震える指で「分かった。今移動中だから後で連絡する」と送った後、大きく息を吐いて落ち着こうとした。
子喰いの魔女。
森岡が学生だった頃から周期的に冬天市に現れ、多くの命を奪っていった魔女である。
その名の通り子供を攫って食べる魔女で、並の魔法少女では歯が立たない強力な魔女だった。冬天市の魔法少女からは「ハーメルン」と呼ばれ恐れられている。
咲が魔法少女になる少し前に一人の魔法少女を襲い、彼女を喰い殺してからは姿を消していたが、どうやらまた餌を求めて街に現れた様だった。
今の冬天市で対抗出来る者が居るとすればそれは水無月霜華以外に居ないが、水無月は暫く戻らないと言っていた。そう簡単には帰って来ないだろう。
ならば近隣の魔法少女に頼むしかない。そう考えると思い浮かぶのは美雪か見滝原市の巴マミ位だが、それだけでは絶対に無理だろう。
とりあえず、冬天市に着いたら直ぐに美雪と連絡を取らないといけない。あの魔女を野放しにしておいてはいけない…森岡はそれだけを考えていた。
電車は彼の気持ちとは裏腹に、のんびりと進んでいった。
*
水無月霜華は携帯端末を見て渋い顔になった。
「どうした?」
生方夏々子が訊くと、彼女はちょっと顔を顰めて、
「子喰いの魔女が出た」
「なんだそれ」
「周期的に冬天市に現れて子供を喰う、とても強い魔女」
「へえ」
そんな魔女が居るのか…という在り来りな感想を抱いた夏々子とは裏腹に、霜華は相変わらず嫌な顔をしている。
「なんでそんな顔してんのさ」
「あの魔女と張り合えるのが私しか居ないから、呼び戻されそう」
「一人で張り合えるんなら他のヤツらでもいけるんじゃないの?」
「あの町の魔法少女は弱い」
「バッサリ切ったな…」
現在、霜華は秕の支配下に置かれている。だから勝手な行動は取れない。よって冬天市に戻るのは秕の許可を得ない限りは不可能である。
「どうするの?」
「さあ…」
霜華は面倒くさそうな顔で首を傾げた。そんな強力な魔女を倒したならそれこそ「映えある生と唯一無二の死」を得られるのではないかと思ったがどの道今の霜華には無理なので言わないでおいた。
すると、すぐ側で話を聞いていたらしき秕が何かを思い付いた様に霜華に訊いた。
「…水無月、ソイツは強いのか?」
「かなり」
秕は何かを考える様に少し黙って、それから言った。
「その魔女、捕まえるぞ」
「は?」
夏々子は何言ってるか分からないという顔で秕を見た。霜華も少し驚いたような顔をしている。
「あたしの固有魔法でソイツを従わせるんだよ」
阿呆かと夏々子は叫びそうになって辛うじて自制した。秕さ神浜マギアユニオンが注意喚起を出してから思う様に行動が出来ずにずっと不貞腐れていたが、久しぶりに口を開いたらこれだ。といっても秕はこれが平常運転なのだが。
「…それに、そろそろあの街に戻るつもりだったしな」
「どういう事?」
「あの吹奏楽部の連中に恩返しするのさ」
秕は暗い眼をして言ったが、夏々子も霜華も訳が分からない。
「秕、アタシ達に分かるように話してくれよ」
「あたしをバカにした連中に一泡吹かせてやるって事」
「なるほど」
秕の事だ。その恩返しとやらは苛烈なものなのだろう。
やれやれと呟いてから夏々子は言った。
「行くなら早くしてくれ。ここは満足に動けないから早く羽を伸ばしたい」
霜華も無言で頷いた。
「…行くぞ」
秕は呟き、いつもの様にさっさと歩き出した。
*
夕陽に照らされた道を、小鳥遊浩平は歩いていた。
これから塾という事もあり、少し急ぎ足で進む小鳥遊だったが、彼が塾に辿り着く事は無かった。
突如、周りの景色が変貌する。…見慣れた駅前の光景が消え失せ、廃墟と化した遊園地が目の前に現れた。
「………え」
あまりにも突然の事で声を失う小鳥遊。その背後から音楽が聞こえてきたのは景色が変わってすぐの事だった。
廃墟にはそぐわない華やかな旋律。思わず振り向き、音の出処を探ろうとした小鳥遊の目に、「それ」が映った。
何の変哲もないメリーゴーランド。その筈なのに…。
「…うああ」
小鳥遊の口から悲鳴が漏れた。
それが、メリーゴーランドの姿をした「何か」だと気付いたからだ。
だって、メリーゴーランドには牙も口も無い筈なのに、ソイツには立派な口と鋭い牙があったのだから。
「ああああああああぁぁぁ…!」
その牙には赤い液体が付着していて、
生臭い匂いが、かすかに鼻をついた。
いつの間にか小鳥遊はそのメリーゴーランドの前にいた。
否、メリーゴーランドが小鳥遊の前にいたのだ。
それで悟った。
自分の人生が、呆気なく終わろうとしている事を―。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
大きな口が、小鳥遊を喰らって、
満足そうに、舌舐めずりをした。
…突如として冬天市に現れた「災厄」
これが、新たな物語のはじまりだった。
第2章、いかがでしたでしょうか?
構想時とは大幅に話が変わり、なんとかゴールに辿り着けたという感じでした。
第3章もこんな感じになるとは思いますが、どんなに酷くても完結まで書き続けられるよう、これからも頑張りたいと思います。
次回から第3章…の前に、ちょっとした幕間を。
森岡と咲がどのようにして出会ったかという話を短期連載でやりたいと思っています。
その為また少し間が空きます。予めご了承下さい。
ゲストキャラクターである霜華と夏々子は次章以降も秕さんに振り回される予定です。そして神浜市の魔法少女達は更に影が薄くなります。神浜を舞台にした意味無かったかもしれない(今更)
こんな駄文で良ければ、次回以降もよろしくお願いします。