ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
追想
『過去のことは過去のことだといって片付けてしまえば、それによって、我々は未来をも放棄してしまうことになる』
――――ウィンストン・チャーチル
*
今でも鮮明に思い出せる光景がある。
高校二年生の時、僕に降り掛かった悲劇、その始まりとなった場面だ。
放課後の教室。
差し込む陽の光。
揺れるカーテン。
そして、彼女が見せた、決意を秘めた眼差し…。
全て、昨日の事の様に思い出せる。
今覚えば、あの瞬間から僕は非日常に足を踏み入れていたに違いない。
昔はそれを後悔した。どうしてこんな事になったのだと泣き叫びもした。だけど…今は違う。確かに今も後悔はしている。あの時行動が出来なかった自分を呪う事もある。
だけど、そんな僕でも…救えるものがあったのだ。この矮小な生命でも、護れるものがあったのだ。そしてそれはあの時僕が出来なかった事でもあった。
もうすぐ、その時が来る。誰かの為にこの命を投げ出せる瞬間が来る。その前に、あの時の事を書き残そうと思って、これを書いている。
これは、僕の物語ではない。
誰かの為に戦って…その命を落としてしまった少女と、僕を恨んで死んでいった少女。そして、僕に希望をくれた少女。この三人の物語だ。
書き残しておかなければ、三人の事はやがて風化して忘れ去られるかもしれない…まるで古城が砂に埋もれていくみたいに。
それが嫌だから、僕はこれを書き残すのだ。これがエゴである事は解っている。だけど、僕には耐えられないのだ。彼女らの人生が忘れ去られ、無意味なものとして処理されていくのが、どうしても肯定出来ない。
だから…これを読んだ人は、どうか心の片隅にでも留めておいて欲しい。
「魔法少女」という存在が、命を賭けて僕達を守ってくれている事を…。
前書きが長くなってしまった。
そろそろ、始める事にしよう。
先程も書いた通り、「悲劇」は僕が高校二年生の時に起こった。
正確にはもっと前から始まっていたのかもしれないが、それを僕が知覚したのはその時が初めてだった。
僕にとっての悲劇は、何の変哲もない放課後にある事実を知らされた事から始まったのだ…。
*
高校二年生の夏。
空は突き抜けるような快晴で、陽射しは強く、茹だるような暑さだった。
そんな中で、僕達の学校は無事に終業式を迎えた。
「あー!終わった終わった!」
ホームルームが終わり、生徒がバラバラと散っていく。明日から夏休みという事もあり、皆が浮かれていた。僕がそんな周りの喧騒に関わらずにいると、唐突に声を掛けられた。
「なぁセージ!これからゲーセン行かねー?」
喧しい声を上げながら近付いてきたのは皆本慎也。僕の友人で、とにかく元気なヤツだ。
「腕を振り回すのはやめてくれないか?」
「えー?別にいいじゃねえか。んな事よりゲーセン行こうぜ!」
良くないから言ってるんだけどね…まあコイツはこれが平常運転なんだけど。
僕は鞄に教科書を詰めながら言った。
「今日はダメだ。美奈と約束がある」
慎也はがっくりと落ち込んだ。少しオーバー過ぎる動作だ。
「あーそうか!ったく、いいなあ!彼女持ちはよぉ!」
慎也はそう言って不貞腐れたように教室を出ていった。多分明日にはもう機嫌を直しているだろうから問題は無い。
さて、僕も行くかな。
自分の教室を出て、少し離れた所にある教室に入る。中には殆ど人が居らず、二人の女生徒が居るだけだった。そのうちの一人が僕に気付き、駆け寄ってくる。
「セイ君!」
「やあ、美奈」
女生徒は「ごめんね、急に…」と済まなそうな表情を浮かべた。
この女生徒の名は
「いや、大丈夫だよ」
僕がそう言うと、美奈はほっとしたような表情を浮かべた。
その時、もう一人の女生徒が、「森岡も大丈夫って言ってんだし、早いとこ済ましちまいな」と眠そうな声と目をして言った。
彼女の名は
美奈は頷き、僕の目をじっと見た。
「…?」
どうしたんだろうと思っていると、彼女は「落ち着いて聞いてくれるかな」と確りした口調で言った。
「う、うん…」
もしかして、別れようとかそういう事を言うんじゃなかろうか。僕と美奈は付き合い始めてまだ一年くらいしか経ってないが、それでもお互いの事は良く分かっている…つもりだ。
何かやらかしたかなと内心ビクビクしていると、美奈は恥ずかしそうに、然しハッキリと「それ」を言った。
「実は私…魔法少女なんだ」
「……へ?」
余りにも予想外過ぎた言葉に、僕は固まった。
魔法少女?それってあの日曜朝にやってるやつみたいな?どういう事だ?コスプレでもやっているのか?
頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる。すると美奈は慌てて、
「ご、ごめんね…いきなりこんな事言って…」
「あ、いや…」
…暫く、重い沈黙が流れた。美奈は顔を赤くし、僕は只管困惑している。
そんな重い沈黙を断ち切るかのように、真奈がぶっきらぼうな口調で言った。
「何言ってんのかわからないだろうけど、これはれっきとした事実だから」
「はあ…そもそも魔法少女って何なんだ?いきなり言われても訳が分からないんだけど…」
「そ、そうだよね…えっと、魔法少女っていうのは…」
まだ顔を赤くしたままだったが、それでも美奈は説明してくれた。
魔法少女とは、どういったものなのかを。
*
「それ…本当の話なのか…?」
話を聞き終わった後、僕の口から出た言葉は自分でも驚く程疑念に満ちていた。
美奈の口から語られる事は余りにもスケールが大き過ぎて、現実離れしていたし実際それは非日常だった。普通の人間が関わってはいけない領域…そこで美奈が戦っているとは、俄に信じがたかった。
「…うん。全部本当だよ。実際、キュゥべえも近くにいるし」
「いるって…どこに?」
私の机の上だよと美奈は言ったが、そこには何も無かった。
「僕には何も見えないけど…」
「キュゥべえは普通の人には見えないから…あ、でもこうすればいいのか」
瞬間、美奈の姿が光に包まれ、一瞬の後には露出度が高い服装になっていた。
僕は阿呆みたいに口を開けた。純情な高校生には少々刺激が強過ぎる。それは美奈にも分かっていたみたいで、再度顔を赤くした。
「あ、あまり見ないでくれると…嬉しいかな」
「あ、ああ…」
慌てて目をそらす僕の頭に、何かが触れる。美奈の手だった。
瞬間、雷が落ちたかのような衝撃が身体中を駆け巡る。目を見開き、思わず美奈の方を見ると彼女は元の制服姿に戻っていて…その後ろ、美奈の机の上に見慣れぬ生物が立っていた。
「な、なんだこれ…」
猫でも犬でも無い、強いて言うなら狐だろうか?…兎に角そんな感じの生物はビー玉の様な目で僕を凝視している。
「やあ、初めまして」
不意に、頭の中に少年のような高い声が響いた。吃驚して謎の生物を見るがその口は閉じられたままだ。
「テレパシーだよ。魔法少女の間ではこんな事常識中の常識さ」
「…そうなのか?」
試しに頭の中でそう訊いてみると直ぐに肯定の返事が来た。空想にしてはやけにリアルだ。どうやらこれは現実に起きていることらしい。
「というか…なんで急に見えるようになったんだ?」
「あ…それはね、私の魔法でそうなったからなの」
美奈の魔法は「共有」の魔法らしい。自分の視覚や感情を誰かと共有する事が出来るという。魔法というよりは、ライトノベルのキャラクターが使う能力みたいだと思った。
「そういえば、真奈も魔法少女なの?」
僕が訊くと、違うよと否定された。
「あたしは素質があるから白タヌキが見えるだけ。契約はしてない」
「何で?」
魔法が使えて、願いも叶うならいい事じゃないか―そう言うと真奈は顔を顰めてキツイ口調で言った。
「アンタは美奈が戦ってる所見た事ないからそんな事が言えるんだ。一度見てみなよ。もう二度とそんな巫山戯た事言えなくなるから」
大体、その白タヌキにしたって怪しいんだよと真奈はキュゥべえに鋭い視線を向ける。
「ノーリスクで叶えられる望みなんてない。そんな事常識中の常識じゃないか。魔女と戦う事以外にも、なにか裏があるような気がするよ」
「お、お姉ちゃん…」
美奈が慌てて真奈を制止する。真奈はフンと鼻を鳴らし、窓の外へと視線を向けた。
その時、唐突にキュゥべえが言った。
「美奈!魔女の気配だ!」
「えっ…!」
美奈が着けていた指輪を卵型の宝石に変化させ、それから険しい顔になる。
「近く…しかも、校内にいる!」
「校内に…?」
つまり、この学校の何処かに魔女の結界があるという事か?
僕が口を開きかけた時、「それ」が教室に入ってきた。
「慎也…?」
先程別れたばかりの僕の友人…皆本慎也が、虚ろな目をしてよたよたとこちらに歩いて来る。
「セージぃぃぃぃぃぃぃ…美奈ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん…」
な、何だこれ…。明らかに様子がおかしい。
「慎也…!まさか、これが…」
「…うん。魔女の口づけを受けてる…」
「そんな…」
見ると、慎也の首筋には何かタトゥーのようなものが浮かんでいた。あれが魔女の口づけか。
「み、美奈…どうすれば…」
「大丈夫。私に任せて」
狼狽える僕とは対照的に、美奈は落ち着いていた。
「お姉ちゃん、セイ君をお願い」
「あたしも魔法少女じゃないんだけどね…まあいいか。ほら、森岡!邪魔になるからとっとと下がりな!」
真奈に促され、僕は後退する。同時に慎也がばったりと倒れ、教室内の景色が一瞬で塗り変わり、なんとも形容し難い不思議な空間に僕達は立っていた。
そして…その奥には、腐食した蛇の様なバケモノが居て…僕達を見て、舌舐めずりをしていた。
森岡のあんちゃん、小説家志望なのに文章書くの下手じゃね…?と思う方もいるとは思いますが、まあ私的な記録なので書きなぐっているという事で…。