ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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彼女の為に出来ること

「…ただいまー」

 咲が公園から去った後、いろはは重苦しい気持ちを抱えながら帰路に就いた。足どりも重く、酷く疲れているのを自覚した。

「おかえりなさい!」

 いろはが下宿先である「みかづき荘」に帰ると、直ぐに妹である環ういが飛び出してきた。何かいい事でもあったのだろうか、ういは笑顔でいろはを迎え入れた。

「ただいま、うい」

 その笑顔を見て沈んでいた気持ちが少し軽くなる。ういはそれほどに純粋な笑顔を浮かべていた。

「機嫌がいいみたいだけど何か嬉しい事があったの?」

「灯花ちゃんとねむちゃんと一緒に病院に行ってきたんだ。先生にも会って色々お話したよ!」

 里見灯花(さとみとうか)(ひいらぎ)ねむ。ういの親友であるこの二人と病院…里見メディカルセンターに行ってきたらしい。嘗て難病を患って入院していたういはいろはの魔法少女契約時の願いによって完治し、その後に起きた様々な試練も乗り越えて親友達と過ごしている。少し前なら想像も出来なかった光景を浮かべ、自然といろはも笑顔になった。

「そっか」

 妹の頭を撫でてから靴を脱いで上がり框を踏み、リビングへと向かった。

 

 リビングには家主である七海(ななみ)やちよが居て、いろはを見ると「おかえりなさい、いろは」と微笑んだ。

「ただいま、やちよさん」

 やちよもういも、いつも通りだ。それに深い安堵を覚えた。

「フェリシアと二葉(ふたば)さんは一緒じゃなかったの?」

「フェリシアちゃんとさなちゃん?会わなかったですけど…」

 深月(みつき)フェリシアと二葉さな。いろはと同じくみかづき荘の下宿人だ。二人とも帰っていても良い時間なのだが、何処かで遊んでいるのだろうか。

「連絡くらい入れてくれてもいいのに…」

 やちよは深々と溜息をつく。いい加減な性格のフェリシアは兎も角、さなは遅くなるなら連絡は入れる筈だ。いろはは少し心配になった。

 最も、その心配は直ぐに杞憂に終わる事となるのだが。

 

 

 

* * *

 

 

 いろはが帰宅して少ししてから二人は帰ってきた。

「遅くなるなら連絡くらい入れてくれてもいいじゃないの…」

 やちよが言うとフェリシアが怒ったように言い返した。

「だって仕方ねーだろ!?魔女を倒してたんだからよ!」

「魔女…?大丈夫だったの?」

「はい、フェリシアさんと協力して倒しました」

 いろはの問いかけにさなが答えた。どうやら二人は放課後に偶然会って一緒に帰る途中に魔女の気配を察知し、追いかけて倒したらしい。

 魔女と聞いていろはの脳裏に浮かんだのは先程咲が戦っていた砂場の魔女だ。あの後咲はどうなったのかは分からない。だけどまた魔女を追いかけるような事はしていないだろうといろはは思っていた。…そう思わないと悪い予感で押し潰されそうだった。何故あの時自分は彼女を追いかけられなかったのか、今更の様に後悔が沸き上がる。

「さなちゃん、その魔女って…」

「えっと、砂場の魔女です」

「やっぱり…!」

 あの時の魔女で間違いないようだった。

「…やっぱりって、どういうことかしら?」

「何かあったの?」

 やちよとういがいろはに訊く。いろはは少し躊躇った後、全員に先程の事を話した。

 

 

* * *

 

 

「…そんなことが」

「はい、琴音さんは何か暗いものを持っているような気がして…助けたいって思っていて」

 話を聞き終えた一堂は黙り込む。咲の豹変の理由が分からないとなっては対策が立てられない。気まずい沈黙が皆を包み込んだ。

 

 やがて、一つの声が上がった。

「…でも、調整屋も行ってない訳だからこの街で戦うのはキツいと思うよ?」

「…うん、確かに鶴乃ちゃんの言う通り……えっ?鶴乃ちゃん!?」

「あ、お邪魔してまーす!」

 いつの間にか、「チームみかづき荘」最後の一人である由比鶴乃(ゆいつるの)が居た。鶴乃はみかづき荘には住んでおらずに実家である「中華飯店 万々歳(ばんばんざい)」に住んでいる。が頻繁にみかづき荘に来ているため、半同居人と言ってもいいくらいになっていた。

「いつから居たのよ…」

「さっきから居たよー。やちよ、合鍵の場所は変えた方がいいと思うよ?」

「それ、前にももこにも言われたわよ…」

 何にせよ、鶴乃の登場により深刻な雰囲気が少し薄れたのは事実だ。いろはは心の中で鶴乃に感謝した。

 

「とにかく、まずは様子を見るのがいいと思うわ。下手に接触して警戒されたらもしもの時に手遅れになる可能性がある」

 やちよが冷静に意見を述べた。

「いろはは同じクラスだし、何かあった時に対応できる可能性がいちばん高い、それに…」

 そこまで言ってから、やちよはいろはを見て微笑んだ。

「琴音さんを救えるのは、あなただと思うから」

「やちよさん…!」

 かつてのやちよも様々な事情から「自分がいろは達を殺してしまうのではないか」と思い込んでいた事があった。若しかしたらその時の自分と咲を重ね合わせているのかもしれない。

「もちろんわたし達も手伝うよ。どんな事情があるのかは分からないけど、わたしたちでやれることをやろう」

「もう誰にも居なくなってほしくねーからな!オレ達でそいつを助けようぜ!」

「独りぼっちが辛いのは私もよく分かっています。だから、私も助けたいです」

「わたしも頑張るよ。今度はわたしが誰かを助ける番だから!」

 全員が力強く言った。それだけでいろはは大丈夫だと思えた。きっと、咲を助け出せると。咲の瞳を淀ませる深淵から、彼女を救い出せると、そう思えた。だからいろはも力強く言った。

「―うん、みんなで琴音さんを助けよう!」

 

 

* * *

 

 

 同時刻。琴音咲は自室で膝を抱えていた。親には部屋で勉強するからと言ってあるから入ってこない。だから余計な心配をする必要は無かった。

(……友達、か)

 先程会った少女…環いろは。彼女が差し出す手を、咲は振り払ってしまった。

 …ここでなら変われると思っていた。それなのに「過去」が咲を呪縛する。仲間を作る資格はないのだと、耳元で囁くのだ。

(環さん、どう思っているんだろう)

 自分が悪い事をしてしまったという自覚はある。その上で、いろはならどうするかと考えてしまう。諦めたのか、それとも…自分を助けようとするのか。後者であってほしいと思う反面、前者だろうという諦観もある。

(わたしには、仲間を作る資格はないんだ。あの子を… (しいな)ちゃんを傷つけたわたしには…)

 咲は更に強く膝を抱えた。深淵に堕ちた自分は光が当たる場所に戻る事など出来ないという諦観といろはを拒絶してしまった自分への怒りが、彼女を包み込んでいた。

 

 

* * *

 

「怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない。

深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。」

 

――――フリードリヒ・ニーチェ『善悪の彼岸』




内容が薄いことこの上ない…。
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