ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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それから

 琴音君と出会ったあの日から、一ヶ月が経過した。

 彼女は何故か僕の元へ来る様になり、僕自身もほぼ毎日のように彼女を部屋に招き入れている。このままではいけないとは思っているが、心の何処かではこれを望んでいた自分が居るのも確かだ。

 とはいえ一人暮らしの男の部屋にまだ中学生の少女が通ってるなんて明らかに事案と思われかねない。実際周りの目はどんどん冷たいものに変わっていっており、僕は社会的信用を順調に失いつつあった。最も、元からそんなものは持ち合わせていないのだが。

 琴音君自身もこの事で親と喧嘩してしまったらしい。それでも来るのはやめなかったが…その時はなんというか、凄く責任を感じた。僕が彼女を危険に晒してしまった事もあるし、それで彼女が傷付く事も何度もあったからだ。だけど琴音君はそれを苦とも思わずに僕の元へ来てくれた。

 …それを嬉しいと思う反面、これも真奈の願いによって齎された事かもしれないと考える自分もいた。

 …いつか、琴音君が僕の前から居なくなる時が来たとして…その時僕は、まだ無力なままでいるのだろうか?自分が無力だから、また大切な人を喪ってしまうのだろうか?

 …考えても、分からなかった。

 

 

 ある日、琴音君が酷く疲れた様な顔をして家にやってきた。

「どうしたのさ。そんな顔して」

 僕が驚いて訊くと、彼女は弱々しく笑いながら「なんでもないです」と言った。明らかに何かあった顔だった。

「僕で良ければ力になるよ」

 冷蔵庫からジュースを出し、コップについで渡すと琴音君は「珍しいですね、普段はそんな事言わないのに…」と驚いたような、そして何処か縋り付くような顔をした。

「たまにはこういう時もあるさ。それに…人に話す方が良い時もあるからね」

 僕が言うと、彼女は俯き、小さな声で話し始めた。

 

 …僕が琴音君の過去を知ったのはその時だった。

 何故暗い顔をしていたのかと訊いた時、自分の過去の事で少しトラブルを起こしてしまったと彼女は言って、それから思い出すように過去の事を―吹綿秕という少女との事を話してくれた。

 自分の所為で友達が傷付く事になったと語る彼女は悲痛な表情をしていて、目にも光が無かった。

 …僕に出来た事は、話を聞いて慰める事だけだった。それで事態が好転するとは思えないけれど、気休め程度になればそれでいい。彼女の心の傷は時間の経過でしか治せないし僕みたいな傍観者の言葉が彼女に届くはずが無い。何処かでそう思っていた。

 琴音君はそれでも嬉しいと言ってくれたけれど…僕は最低な人間だ。助けられないとたかを括って、彼女の心の闇に踏み込まずにいたのだから。

 それをしてしまったらきっと今の関係は崩れる。それが怖いからなんて―ただの言い訳でしかない。

 でも、当時の僕はそう思う事で自らを正当化していた。

 …本当に、情けなかった。

 

 

 琴音君と行動を共にするにつれ、魔女に襲われる機会も減ってきた。

 彼女は食材の買い出しにも律儀に着いてきてくれたのだが、そこで魔女と遭遇する事が二、三回あっただけだ。以前はかなりの頻度で襲われていたのだが…魔法少女がいるからだろうか?

 その疑問を琴音君に伝えると、彼女は暫く考えた後、あまり自信がなさそうな口調で言った。

「…多分、気の所為じゃないと思います。わたしもあまり魔女に遭遇しなくなったし…なんだか、町から魔女が居なくなっているみたいです」

 …それは僕にとっては喜ぶべき事なのだが、琴音君の表情は不安そうだった。

 冬天市は魔法少女が少ない町だ。然し、それでも魔女の数が減ると争いも増加する訳で、実際琴音君も何回かその争いに巻き込まれかけた事があったらしい。

 琴音君は弱い部類の魔法少女といえる。魔女と戦う時も苦戦していたし、戦闘自体があまり得意ではないようだった。

 以前、知り合いの魔法少女を紹介しようとしたのだが…思えば水無月君と日向以外に知り合いと言える魔法少女は居なかった。この町にいる魔法少女は皆「顔見知り」であって「知り合い」では無い。誰かと行動するリスクもあるし、引き受けてくれそうな魔法少女は居ないだろう。

 ならば日向か水無月君に頼めばいいと思うだろうが、そう出来ない事情もある。

 日向は最近隣町に引越した。仕事が忙しいらしく、満足に魔女を狩れない状態だとこの前伝えてきた。そんな訳で彼女に頼むのはどうも躊躇われる。

 水無月君は…彼女の願いが琴音君に悪影響を及ぼしかねない。彼女の願いは本当に危険なのだ。それこそ―人が死ぬくらい。

 

 兎も角、琴音君は戦闘が得意ではなく、そのうえソロで活動している。だからこそ、グリーフシードの取り合いになる事を恐れているのだろう。

 それにしても…。

「魔女が減っているなんて、おかしな話だ」

「そう…ですよね」

 魔女はいつまでも存在するものだと思っていただけに、その現象を不可解だと感じた。

 …そういえば、美奈と真奈を殺した魔女もここの所姿を見せない。キュゥべえが言うには冬天市はアイツの餌場で、定期的に現れるという事だったのだが…。

「ちょっと、僕も調べてみるよ。魔女が減ったってのは手放しで喜んでいい事ではなさそうだしね」

「…無理はしないでくださいね」

「なんでそんな心配そうに言うのさ…」

「だって…森岡さんいつも無茶するじゃないですか」

 そんな風に思われていたのか…。まあ、心当たりがない事もないが。

「わかったよ。無茶はしないさ」

 琴音君はほっとした表情を浮かべた。過去の話以来、暗い表情を見せる事も多かったのだが、普段の彼女は中々表情豊かだったりする。ただ過去の事を聞いてしまった今ではその表情も作り物のように思えてしまうのだが。

 …いつか、彼女が本当に笑顔を浮かべる日は来るのだろうか。

 

 

 その後、無茶をしない範囲で数日かけて調べてみた所、神浜市という場所に魔女が集まっているという情報を得た。

 何故神浜に集中しているのかは分からないが、どうも嫌な予感がした。確か神浜には慎也が居たはず。

(アイツ、大丈夫かな…)

 最近連絡を取っていないが、それでも友人だ。魔女に襲われているとは思えないが、少し心配になった。

 とりあえず、琴音君に話しておかなければいけないと思っていると、アパートのドアがノックされた。インターフォンが壊れているからノックしないと聞こえないのだ。

「どうぞー」

 入ってきたのは琴音君だった。

「こんにちはー」

 礼儀正しく挨拶をする彼女に僕は言う。

「いなくなった魔女がどこにいるのか分かったよ」

「本当ですか!?」

 驚いたような声を出した琴音君に頷く。

「えっとね…神浜市ってところなんだけど」

「えっ…」

 琴音君が目を見開いて固まった。

「どうしたの?」

 僕が訊くと、彼女は小さな声で何かを呟いた。

「………です」

「…ごめん、もう一回言ってくれるかな」

 今度は確りと聞き取ることが出来た。

 

「…神浜市は…今度わたしが引越す場所です」




次回、断章最終話です。
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