ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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断章最終話です。


そして始まる物語

「君、引っ越すのかい?」

 突然の言葉に少々驚いて、僕は尋ねる。琴音君はこくりと頷いて、申し訳ないと言った様子で俯いた。

「お父さんの仕事の都合で急に引っ越す事になりました…」

「あそう…寂しくなるね」

 実際、琴音君がいる事が当たり前のようになっていたので寂しい気持ちはあった。だが別に死別する訳ではない。いつかまた会えるだろう。神浜なら行けない距離ではない事だし。

 とはいえ…。

「親御さんの仕事の都合なら仕方ないかもしれないけどさ、神浜ってあんまりいい噂は聞かないよ?」

「え、そうなんですか?」

 琴音君は少し不安そうな顔をした。

「んまぁ、普通に生活している分には問題ないんだろうけどね?君みたいな『普通じゃない』人間にとっては彼処は危険だ」

「それはどういう…」

「ここの所、町から『ヤツら』が消えているのは君も知っているだろう?で、消えたヤツらが何処に居るのかというと……神浜市なんだよ」

「えっ…」

 琴音君が目を白黒とさせる。そりゃあそうだ。僕だって話を聞いた時は驚いた。

 神浜と冬天市は電車で二〜三時間くらいの距離だ。お世辞にも近いとは言えない。近隣の町ならまだしも、そんな離れた場所に魔女が集まるものなのだろうか?

 確かに神浜は冬天市と比べ物にならない程の大都市だ。当然人口も多い訳で、魔女の餌場になるのはある意味必然ともいえる。

 だけど流石にこの状況はおかしい。聞けば陽ヶ鳴でも魔女が減っているらしく、日向が困り果てていた。

 兎に角、神浜には魔女が集まっている。そんな場所に琴音君が行くなんて…悪い想像が頭を過り、慌ててそれを振り払おうとする。だが、何故かその想像は中々頭を離れなかった。情報を集める中で聞いた事が脳裏を過ぎる。

「加えて、神浜に居るヤツらは他の町のものよりも強力だと聞く…気を付けた方がいいよ。今までみたいな単独行動は控えた方がいい…端的に言うと仲間を作った方がいい」

「そ、それは…」

 琴音君は狼狽えた様な声を出した。表情にも焦燥が滲み、落ち着き無く辺りを見渡し始める。

 琴音君の心配も分かる。また自分が友人を傷付けてしまう事を恐れているのだろう。

 だが、実の所琴音君は親友を―吹綿秕さんを傷付けてなどいない。彼女は気付いていない様だが、話を聞く限りではそう思える。

 現に僕は傷付いてなどいない。琴音君の近くにいて、魔女とも遭遇した。だけど身体的にも精神的にも悪い所は無い。

 …後は、彼女が気付くか否かの問題なのだ。

 そんな事より、彼女が神浜でやっていけるかの方が問題だ。何故か神浜の魔女は他の町の個体より強く、神浜の魔法少女達はそれに相対する為に何らかの強化をしているという噂だった。

 琴音君も強化をすれば戦う事自体は可能だろうが、冬天市の魔女にすら苦戦していたのだ。仲間はいた方が良い。

 最も、ここで僕が何を言おうが、結局彼女次第なのだが。

 不安そうに狼狽える琴音君に、僕はなるべく平静を装って言葉をかける。

「…大丈夫だよ。神浜には今までの君を知っている人間なんて居ないはずだ。ゼロから、まっさらな状態で始まるんだからさ」

 それから何か励ます事でも言おうとしたのだが内心に反して出てきたのはこんな言葉だった。

「兎に角、気をつけた方がいい…何があるか分かったものじゃないからね。僕としても、君に何かあったらそれなりに心が痛いからさ」

「それなりって……はぁ、分かりました。気をつけます」

 琴音君は溜息をついた。こんな筈じゃなかったのだが…まあ、僕みたいなヤツに優しい言葉を掛けられたら気味が悪いだろうしいいという事にしておこう。

 

 琴音君は腕時計を一瞥し、そろそろ帰りますと言って頭を下げた。多分暫く会えないだろうし、何か餞別になるものでも無いかとさりげなく辺りを見渡したら未開封のワイヤレスイヤホンが目に入った。琴音君は音楽が好きだし、丁度いいと思って出て行こうとした彼女にそれを投げる。

 慌ててキャッチし、目を丸くしている琴音君に僕は言った。

「餞別だ。未使用だから安心して使うといい。君、音楽好きなんだろ?」

「良いんですか?こんな高価なもの…」

「別に良いよ。今使ってるやつ、まだまだ現役だし…あ、そうだ最後に一つだけ」

「はい、何でしょう?」

 …この位は、言わないとだよな。

 

「……頑張れよ」

「……はい!」

 

 琴音君はにっこりと笑った。

 その瞬間、何故か僕は安堵した。それが、心の底からの笑みに見えたからだ。

 琴音君はぺこりとお辞儀をし、部屋を出てドアを閉めた。

 先程まで彼女が居た場所をぼんやりと見詰めながら、僕は琴音君の無事を祈った。

 

 

 僕が彼女の姿を見たのはそれが最後…という事は無く、それから少しして神浜に行った時に再会する事が出来たのだが、それはまた別の話である。

 

 

 これで、僕の話はおしまいだ。

 これを読んでいる人がどう思っているのかは分からないが、僕はこれからも魔法少女の為に出来る事をするつもりでいる。

 無論、危険だという事は重々承知している。魔女が見えるだけの一般人である僕が彼女達の為に出来る事なんて微々たるものでしかないし、必然的に魔女とも関わる事になる。中途半端に病気の知識を持った者が、何か出来る事は無いかと喚きながら病気の発生している所へと突っ込むような、無謀で馬鹿らしい事しか出来ないかもしれない。

 それでも―こんな僕でも出来る事があるのなら、喜んでこの身を捧げたい…そう僕は思っている。

 

 イギリスの政治家であるウィンストン・チャーチルの言葉に、「過去のことは過去のことだといって片付けてしまえば、それによって、我々は未来をも放棄してしまうことになる」というものがある。

 僕の過去を―美奈と真奈の悲劇を、過去として片付けたくない。あの出来事があったからこそ、今の僕がいる。

 そして…僕はもう二度と、大切なものを喪いたくない。僕と一緒に居てくれた琴音君を、失いたくないのだ。

 

 …いつか、悲劇を喜劇に変えるチャンスが来る。僕が琴音君の為に、魔法少女達の為に役立てる日が、きっと来る。

 今の僕はあの時みたいに弱くは無い。やるべき事も確りと分かっている。

 

 …最後まで戦った美奈の様に、僕も誰かの為に戦う。

 ただ、それだけだ。




森岡と咲の過去編、いかがでしたでしょうか?
森岡誠司という一般人が、どうやって魔法の世界に踏み込んだのかが分かったと思います。今後は彼の動向にも注目して読んでくだされば幸いです。

次回から第3章となります。ようやく折り返し地点といった所ですが、これからも読んでくださると嬉しいです。
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