ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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サブタイトルが思いつかない


追跡、発見、そして戦闘

 翌日、安藤達は咲と合流した後、駅前の喫茶店に入って話をする事になった。森岡と美雪はコーヒー、咲はオレンジジュース、安藤はコーラをそれぞれ注文して席に着く。

 店内はがらんとしており、窓際に女子高生らしき少女が二人いるだけだった。

 注文していた飲み物が届くと、咲が安藤に訊いた。

「…本当に良かったの?」

「なにが」

「危険な目に遭うかもしれないんだよ?それでも魔女と戦うつもりなの?」

 安藤は頷き、話は終わったとばかりに飲み物を飲む事に集中する。咲はまだ何か言いたそうだったがため息をついた後、森岡と美雪の方に向き直った。それを待っていたかのように、森岡が口を開く。

「それで―君の従姉妹というのはどんな子なんだい?」

「えっと…小学5年生で、わたしが見る限りでは魔法少女では無い、普通の子です。『凪坂書店』という書店の一人娘で、名前は凪坂詩季といいます」

「凪坂書店の娘さん…ああ、あの子か…」

 森岡には思い浮かぶ人物がいた様だった。

「あの子、琴音君の従姉妹だったんだ」

「はい、それで、その詩季ちゃんが昨日からいなくなっているという話を聞いて…」

「今朝になっても、戻ってこなかったと…そりゃあおかしい。何かに巻き込まれたと見た方がいいだろうね」

 咲の両親と凪坂夫妻は警察に捜索願を出し、彼らと一緒に詩季を探している。咲は情報収集の為と言って別行動をとることに成功したのだが、その際母親がかなり心配していた事を思い出した。だが…。

「もし魔女絡みの出来事に巻き込まれていたなら、警察じゃ探せない…わたしがやるしかないんです」

「といっても、その確証もないんだよね?」

「はい…ただ、詩季ちゃんは最後に目撃された時、様子がおかしかったようです」

 詩季を最後に見たのは学校のクラスメイトで、彼女はふらふらと歩いていたという。声を掛けたのだが、聞こえている様子は無かったとの事だった。

「魔女の口付けを受けているかもしれないと…日向、調べられるか?」

「魔法少女じゃないからちょっと大変だけど…でも、魔女の口付けを受けているのだとしたらわかると思う」

 ちょっと待っていてねと呟き、美雪は目を瞑った。辺りの魔力反応を調べているのか、固有魔法を発動して広範囲まで「視ている」のかは分からないが、とにかく彼女なりの方法で調べているのだろう。

 ちなみに彼女の固有魔法は「視認」である。眼が異常発達し、周りの状況なども簡単に見る事が出来る。それこそ、透視くらいなら簡単にやってのけるとの事だった。

 美雪は5分ほどしてから目を開け、少し考える素振りを見せてから言った。

「…ちょっと遠く…無題荘の方に反応が一つ。子喰いの魔女だと思う」

「じゃあ、そこに詩季ちゃんが…」

「可能性はあるね。行ってみよう」

 飲み物を急いで飲み干して勘定を払う為にレジに向かう。勘定は美雪がまとめて払ってくれた。

 ふと視線を感じて咲が振り向くと、窓際に居た女子高生がこちらに視線を向けていた。面識は無いはずだが、何故か観察するようにこちらをじっと見てくる。咲は居心地が悪くなって、逃げる様に喫茶店を後にした。

 

 

 無題荘に向かう途中、安藤が咲に訊いた。

「無題荘というのは、アパートか何かか?」

「うん、森岡さんが住んでいるアパートだよ」

「…そこに、小鳥遊と反町を殺したヤツが居るのか?」

 咲は頷いた。安藤はそうかと言って、黙り込んだ。

彼にしてみれば、突拍子もない事なのだろう―そう咲は思った。彼から見ると、反町渚が殺されて直ぐに、犯人は捕まっていたのだ。別件で逮捕された麻薬中毒の男が犯行を自供して、それで終わった筈の事件なのだ。だが、ここにきて小鳥遊浩平も同じ手口で殺された。事件はまだ終わっていなくて、しかもそれは魔女という非日常の存在の仕業だと判明した。安藤から見てみれば、全てが急で現実味がない事なのだ。

 それでも、彼は復讐をすると言った。彼の態度はいつもと変わらないがその裏には激しい怒りがあるのだ。その怒りを魔女にぶつける―その気持ちは咲にも理解出来る。

 だが―これでいいのだろうか?安藤はただの一般人だ。魔女に立ち向かったところで、勝てる訳が無い。だが彼の決意は固く、咲が何を言っても無駄なようにも思える。

 どうしたらいいのだろう―咲が悩んでいると、唐突に美雪が声を上げた。

「あの子…!」

 いつの間にか無題荘の近くに来ていた様だった。見慣れたオンボロアパートが少し先に見える。そして、その前に一人の少女が立っていた。

「詩季ちゃん!」

 長い髪をポニーテールにした、活発そうな少女―凪坂詩季は咲を見ると泣き笑いのような表情を浮かべた。

「咲ちゃん…」

「詩季ちゃん、どうしたの?未来ちゃんと洋介おじさんが心配していたよ?一緒に帰ろうよ」

 咲は優しく話しかけるが、詩季は泣き笑いのような表情を浮かべたまま首を横に振る。

「だめ…あたしは帰れない」

「どうして…?」

 詩季はしばらく俯き、言い淀んでいたが、やがて顔を上げて言った。

()()()()()()()

「え…?」

「お腹が空いて、どうしようもないんだ…食べなきゃ…………を食べなきゃ…」

「詩季ちゃん?お腹空いてるなら帰ろうよ。未来ちゃん、ご飯作ってくれると思うよ」

「咲ちゃん…」

 いつの間にか、詩季は咲に近付いていた。森岡が怪訝そうに詩季を見る。美雪がハッとした表情を浮かべ、魔法少女姿―パンツスーツに黒い手袋という何処かの諜報員のような服装に変身した。

「咲ちゃん離れて!その子は…」

 然し、その警告は無意味なものとなった。

 

「咲ちゃん…… ()()()()()()()()()()()()()()

 

 詩季の手が咲の首元に伸ばされる。

 手の平には魔女の口付けが浮かんでいた。

 咲が驚いた顔をして後ずさろうとする。

 それよりも早く、詩季は咲を抱き締め、その首に顔を近付ける。

 そして大きく口を開け―。

 

「……つっ!」

 咲の顔が歪む。

 詩季が咲の首筋に噛み付いていた。

「詩季ちゃん、何を…!」

 詩季はまだ小学生。力もあまり強くないはずだ。それなのに咲は彼女を引き剥がすことが出来なかった。

 詩季の歯が首の肉を少しばかり食いちぎる。咲が痛みでちいさく声を漏らした。

「あっ…」

「…咲ちゃん、美味しいね」

 詩季は咲の首元から流れ落ちる血を啜り、傷を優しく舐める。その目は虚ろで魔女に操られているのは確かだった。

 咲の肩がびくりと跳ねる。荒い息の中で、それでも必死に声を掛けようとする。

「………っ、詩季、ちゃん…」

「大丈夫だよ咲ちゃん…あたしが優しく食べてあげるから…」

 詩季は微笑み、再び咲の首筋―先程噛み付いた部分に今度はより深く歯を立てる。

 それを見た美雪は反射的に詩季の背後に近づき、無防備な(うなじ)に手刀を叩き込んだ。

「あ」

 呆けた様な声を上げて、詩季が崩れ落ちる。気絶したようだった。詩季を抱き留めつつ、美雪が訊く。

「…咲ちゃん、大丈夫?」

「は、はい…あの、詩季ちゃんは…」

「気絶しただけだよ。それよりも…」

 突然、周りの景色がぐにゃりと歪み、廃墟と化した遊園地に変化した。

「…やっぱりか」

 美雪が鋭い目をして呟く。

 彼女の視線の向こうには、メリーゴーランドに大きな口が付いたようなバケモノがいた。

「コイツが…」

 安藤が驚いた様に言う。いつもは無表情なその顔には、驚きの色が浮かんでいた。

「…子喰いの魔女」

 森岡が嫌悪感を込めてその名を呟く。

 バケモノ―子喰いの魔女は咲達を認識したらしく、その口から醜い咆哮を上げた。

 厭な音が辺りに響き渡り―刹那、魔女の周りにうさぎや犬の着ぐるみが現れる。魔女の手下だろう。

「………来ます!」

 咲がそう叫んだ瞬間、手下が襲いかかってきた。

「…行くよ!」

 美雪が武器である二丁拳銃を構え、手下の方へと向かっていく。

 戦闘が、始まろうとしていた。

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