ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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終わりへの漸進

 少し時間を遡る。

 咲達が子喰いの魔女結界から逃走した後、吹綿秕は苛立ちを隠そうともせずに次々と使い魔を屠っていた。

 元々が弱い使い魔達は、碌な抵抗も出来ずに次々と屠られていく。敵とはいえ、その姿は哀れを誘うもので、夏々子は少しだけ彼らに同情した。

 それにしても、何故ここまで秕は咲に執着するのだろうと夏々子は思う。今怒っているのも、獲物を逃がしたからというよりは咲を殺せなかったからという事の方が大きい。二人に起こった事は多少聞いていたが、流石にこれは異常すぎるのではないか。

 そもそも、咲達を見つけたのは全くの偶然だった。子喰いの魔女を支配すると秕が言ったので冬天市を訪れたら、同じくらいのタイミングで咲も来ていたのだ。

 それを見つけてからの秕の行動は迅速だった。子喰いの魔女そっちのけで咲を殺す事に執着し、近くに居た女子高生を魔法で支配して咲の動向を見張らせた。そして喫茶店内での会話から咲達も子喰いの魔女を追っているという事を突き止め、嬉々として結界に飛び込んだという訳だ。秕にしてみれば一石二鳥といったところなのだろう。

 最も、咲と再会してからの第一声は「アンタも来ていたのか」という興味が無さそうなものだった。時々秕の人格が把握し切れない事がある夏々子である。

 そんな事を思っていたら、危うく使い魔の攻撃を喰らうところだったのでそれ以上は考えず、夏々子はわらわらと寄ってくる使い魔を倒す事に専念した。

 

 暫く使い魔を相手取っていると、使い魔のほうが根負けしたらしく、一切出てこなくなった。合計で100体近くは倒したかもしれない。その半分近くは秕が固有魔法で下僕にした為、夏々子の疲労感はそんなに無かった。

 子喰いの魔女の相手は霜華に任せているので、二人は一旦休憩(ソウルジェムの浄化)を行う事にした。特に秕の魔法は魔力の消費が激しく、既に穢れが溜まり始めている。

「秕、その魔法って使い魔相手にちゃんと効くの?」

 ふと気になった夏々子は秕に訊いてみた。秕の固有魔法は精神汚染だが、使い魔に精神という概念があるのかは不明だ。今は大人しくしているが、それが魔法の効果によるものとは断定し難い。

「一応効いている。ただ、一時しのぎにしかならないだろうな」

 秕はソウルジェムを浄化しながらそう答えた。

「じゃあ、魔女を支配するなんて芸当、難しいんじゃないの?」

「魔力が切れるまでやれば問題ない。あの魔女は中々に硬いし普通の攻撃だと通りにくいから、あたしは準備が出来るまで下がっている」

「…つまり?」

「アンタと水無月でヤツの体力を奪え」

 面倒だなぁと夏々子は顔を顰める。実際霜華一人でどうにかなっているので、自分は必要無いのではないだろうか。

 だが、そんな事を口にしたらコイツはまた怒り出すに決まっている。秕とのトラブルを避けるか、戦闘を避けるか…3秒程迷って前者を選択した。子喰いの魔女より、キレたら何をやるか分からない秕の方が恐ろしいと判断した為だ。

 夏々子は溜息をつきながら、子喰いの魔女を見る。霜華一人で相手取れてはいるが…戦闘開始からかなりの時間が経過している。ソウルジェムの穢れも、それ相応に溜まっているだろう。

「霜華!交代だ、アタシがやる」

「…私はまだ戦えるけど?」

「ソウルジェムの穢れを見てみなよ。一旦引いて回復しな。ここで死んだら、アンタの目標も達成出来なくなるよ!」

 夏々子が言うと、霜華は魔女に一撃を浴びせて隙を作ってから離脱した。

 入れ替わりで魔女の前に立つ。醜悪なメリーゴーランドといった魔女の容貌を見て、こんなのが遊園地に居たら子供が泣くだろうなぁ、と思った。

(取り敢えず、占ってみるとしますかね)

 水晶を球状に変化させ、固有魔法を発動する。出現した矢印が指し示したのは―魔女の口内だった。

(いや、アタシじゃ届かんだろこれは) 

 水晶を槍の形にして投げればいい話だが、魔女の牙を躱しつつ口内に攻撃するというのはかなりリスクを伴う。

 どうしたものかなぁと考えている内に、魔女が動き出した。

 

 鋭い牙が噛み合わされる。

 アレに貫かれたらひとたまりもないだろう。

 瞬間、魔女が夏々子の前に移動し、彼女を喰らおうと口を広げる。

「やばっ!」

 バックステップで回避。少しでも遅ければ喰われていただろう。

 魔女はそのまま突進してくる。

 それを紙一重の所で躱しつつ、水晶を槍に変えて投擲した。それは魔女の身体に当たりはしたものの、甲高い音を立てて弾かれてしまった。

(口内以外に弱点はないってか…!)

 舌打ちをして、すぐさま水晶を回収。

 思えば、霜華と戦っている筈なのに魔女の身体には傷らしきものは少なかった。バイクで殴られたからかあちこちがへこんでいるが、それだけだ。特に応えた様子は無い。

 本当にバケモノじゃないか―そう思った夏々子の額から、汗が零れ落ちる。

 矢張り、リスクを承知でやるしかないのか…?

 ふと秕の方を見ると、彼女は目を瞑って魔力を溜めている様だった。霜華の姿は見えないし、動けるのは自分しか居ない。

 夏々子は覚悟を決めた。

 

 再び魔女が突進してくる。

 今度は避けず、ギリギリまで引き付ける。

 それをチャンスだと思ったのか、魔女の口が大きく開き、夏々子を呑み込まんとする。

 血に塗れた牙とドス黒い舌が見え、生臭い匂いが鼻をついた。きっとこれは、このバケモノが今まで喰らってきた人間の匂いだ。

(アタシもこの匂いに加わるなんてゴメンだ)

 だが、一歩間違えればそれも有り得る。

 水晶は既に槍の形に。

 魔力も込め終わっている。

 魔女の口が、ゆっくりと閉じられる。

 このままでは夏々子は喰われてお終いだ。

 だが、

「いまだっ!」

 魔女の口内がハッキリと見えた瞬間、夏々子は手に持った槍を投擲した。

 それは真っ直ぐ飛んでいき、魔女の喉を貫いた。

 だが、魔女は執念で口を閉じ、夏々子を呑み込もうとする。

 逃げようとしても、間に合わない。

(やば…)

 牙が自分に迫る。

 その瞬間…。

 

 爆音と共に、夏々子の身体は横へと引っ張られた。

 魔女の牙が噛み合わされる音が聞こえた時には、既に魔女から離れていた。

 霜華がバイクを駆り、その勢いで夏々子の服の襟首を引っ張ったのだ。

 魔女の右側でバイクは急停止し、霜華が夏々子の襟首を放す。

「あ、ありがと…」

 まだ状況がよく掴みきれないまま、夏々子は掠れた声で礼を言った。

 霜華は頷くと、魔女の方へと近付く。魔女は倒れ、痛みでだらしなく口を開けていた。

 その口内に、副武装の大型拳銃を突っ込み、霜華は呟くように言った。

「…くたばれ、バケモノ」

 銃声が聞こえ、それから辺りは静かになった。

 

 

 倒れたままの魔女に秕が近付く。

「生きているよな?」

「殺してはいない」

 霜華の言葉に頷くと、魔女の舌にダガーを突き刺し、魔力を送る。

 魔力が流し込まれていくにつれ、魔女の身体が弛緩していくような気がした。

 軈て溜めていた魔力を送り切った秕は、笑みを浮かべて魔女に言った。

 

「今日からアンタは、あたしの所有物(げぼく)だ」

 

 それと同時に、魔女がゆっくりと起き上がる。足も無いのにどうやって起き上がったのかは謎だったが、思えば足が無いのに突進していたので不思議では無い。

 魔女は秕の言葉を了承する様に牙を噛み合せる。

 瞬間、結界が解除され、秕の手の甲には魔女の口づけが浮かんでいた。

 それが、契約の証だった。

 

 いつの間にか、辺りは暗くなっていた。

 秕が魔女の口づけを見つめ、ニヤリと笑みを浮かべる。

「これであたしは…『力』を手に入れた」

 でも、と夏々子が訊いた。

「秕はその魔女をどう使うつもりだい?」

 秕は少し黙ってから、冷たい笑みを浮かべて答えた。

「…この街に冬天中学校という学校がある。そこの吹奏楽部に、コイツをけしかけるのさ」

「な…」

 秕の言葉に、流石の夏々子も絶句した。見ると霜華も顔を顰めている。

 吹奏楽部に魔女をけしかける?

「あ、アンタ…大虐殺を起こすつもりか?」

 冬天中の吹奏楽部については、噂で聞いた事があった。去年の全国大会で金賞を取った所だ。確か秕や咲も、そこに所属していた筈。

 それに、秕はこの街に来る前に言っていたではないか。

 『あの吹奏楽部の連中に恩返しするのさ』と…。

 秕の事だ。苛烈な事をするとは思っていたが…魔女に襲わせるとは。

 これまで秕の行いを許容してきた夏々子だったが、流石に今回ばかりはすんなりと許容出来るわけが無かった。

「アンタ、流石にそれは…」

「人殺しを許容してるヤツが今更になって止めるか。怖気付いたのか?」

「…そんな事をしたら、あなたは破滅する」

 そう霜華が言った瞬間、秕の表情が変わった。

 今まで見せた事が無いような、穏やかな表情に…。

「確かにそうだな…だが、これはあたしの問題だ。止めようとしたって無駄だぞ」

 そう言って霜華に近付き、その腹にダガーを突き刺した。

「………ッ!」

 霜華の顔が歪む。精神を更に汚染され、秕に逆らえない様になったのだ。

 いつの間にか、秕は夏々子の方へと近付いてきていた。その手には、もう一本のダガーが。

 反射的に、夏々子は距離を取ろうとした。

 然し、

 

「… ()()()

 

 名前を呼ばれ、動きが一瞬だけ止まる。

 その隙を逃さず、秕は夏々子の脚にダガーを突き刺した。

 じわりと、熱を持った痛みが拡がる。

 血液が体外に排出され、意識が一瞬だけ遠くなる。

 それと同時に、秕に逆らえないという諦観を覚え、それが自分の基盤を変えていくのを体感しながら、夏々子はちいさく呻いた。

「…アンタは使い勝手のいい相棒(どうぐ)だったよ。あたしの行いを許容してくれたから魔法で支配する必要も無かった」

 ただ、と秕は続けた。

「アンタだってひとりの人間…いつかはこうなる事は分かっていたさ」

 最初からこうすれば良かったんだと言って、秕は二人の身体からダガーを引き抜いた。

 二人は痛みで崩れ落ちる。動こうにも、秕が行動を制限しているらしく指一本動かす事さえ叶わない。

 そんな二人を見下しつつ、秕は嗤った。

「咲も吹奏楽部の連中も全部殺す。あたしを助けてくれなかったアイツらに…生きている価値なんて無い」

 

 …秕の哄笑が、夜空に吸い込まれていった。




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ありがとうございます!

これを記念して…という訳ではありませんが、前々から書いてみたかった「魔法少女ストーリー」を書いてみようと思っています。
具体的には、この作品に出てきたオリジナル魔法少女の過去編を本編と同時連載していこうと考えています。
需要は全く無いかもしれませんが、よろしくお願いします。
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