ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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一回ミスって下書き状態のものを投稿してしまいました(恥)
実質再投稿です…。


終わりの始まり

 翌日、午後三時。

 咲と森岡は、冬天市内の病院を訪れていた。

 詩季が無事に見つかり、咲が冬天市に居る理由も無くなった。ただ、秕がこの街で何かをしようとしているならば止めなくてはいけない。なので、咲は両親を説得して暫く冬天市に残る事にしたのである。

 両親は無理に理由を聞こうとせずに「学校が始まるまでなら」との条件付きで許可を出してくれた。

 秕が何をしようとしているのかは分からない。なんとなく悪い予感がするだけだ。だが、それが何であろうと咲は止めなくてはいけない。

 …秕がこうなってしまった原因は、自分にあるのだから。

 

 秕の事も気になるが、病院に居る美雪と安藤の事も気掛かりだ。

 丁度森岡が見舞いに行くというので、それに着いて行く事にした。二人を傷付けたのは自分の所為だと思っている詩季も着いて行くと言い張ったが、咲はそれを拒否した。

 詩季が居ると魔法少女についての話は出来ないし、出来れば彼女には普通の女の子でいてほしいと考えての事だった。

 自分達が向き合っている事に、詩季まで関わる必要は無いのだ。

 

 

 県内最大級の病院は冬天市のお隣である陽ヶ鳴市に所在する「陽ヶ鳴総合病院」である。

 ただ、冬天市内にも病院はあり、市内に住んでいるならばそちらの方が格段に近い。規模は陽ヶ鳴のものより劣るが、確りとした病院である。

 その病院の一室に、日向美雪の姿はあった。

 

「咲ちゃんに森岡くん…来てくれたんだ」

 手続きを済ませて病室に入ると、美雪が笑顔で出迎えてくれた。

「美雪さんこんにちは。あの、傷の方は…」

「ん、もう全然大丈夫だよ。魔法少女は回復が早いからね」

 そう言って胸を張る美雪に、森岡が苦笑する。

「要らない心配だったか…そういえば、安藤君は?一緒の病室だと聞いたのだけれど」

「安藤くんは飲み物を買いに行ってるよ。多分もうすぐ戻って来ると思う」

「飲み物を…?」

 安藤はかなりの重傷を負っている筈だ。気軽に出歩くどころか、集中治療室に入っていてもおかしくないのだが…一般の病室に居ると受付で言われた時、かなり驚いた。

 思っていたより浅い傷で済んだのだろうか…そんな事を考えていると、病室のドアが開いて安藤が姿を現した。相変わらずのボサボサ髪に入院着、手には麦茶のペットボトルを持っていた。

「安藤くん!」

「大丈夫なのかい?」

「…問題ない」

 安藤はベッドに腰掛けると、麦茶をぐびぐびと飲む。その様子はいつもと変わらない。

「…安藤くんの傷の治りは本当に早かったんだよ。私と同じくらいの速度で回復していたと思う」

 まるで、魔法少女みたいだ―そう美雪は言った。

 安藤は一般人だ。特殊な能力なんて持っていない筈。なのに、美雪の銃弾に貫かれた傷が一日で殆ど治っている。

 医者の中に魔法少女でも居たのだろうか…咲が信じられないものを見るような目で安藤を見ていると、

「…多分、吹綿さんの魔法の所為だろうね」

 何やら考え込んでいた森岡がそう呟いたので、咲と美雪は彼の顔を見た。

「それって…どういう事ですか?」

 咲が訊くと、森岡は「あくまで仮説だけれど」と前置きしてから言った。

「吹綿さんの魔法は精神汚染…だったよね。自分の意のままに従わせる魔法…だけど、もし従えない命令を下されたらどうなる?」

「どうなるって…」

「背けない訳だし、達成出来るまでやるんじゃない?」

「まあ、そうなるよね…例えば目の前にいる人を素手で解体しろという命令を出されたら、それが達成出来るまでやるだろう。でもそれは道具を使わなければ難しいだろう」

 思うに、魔法に掛かった人間は、そういった「実現不可能な命令」に対応する為の処置を施されるんじゃないかな―森岡はそう言った。

「処置?」

「さっきの例で言えば身体強化とかだね。普通にやって無理なら、強化して出来るようにすればいい」

「つまり、魔法を掛けられると身体にそういう影響が出るって事?」

「ああ。言わば後遺症の様なものだろうね」

 吹綿さんが死ねば解除されるかもしれないけれどね―そう言って、森岡は話を終わらせた。

「後遺症…」

 話を聞き終わると、今まで黙り込んでいた安藤が口を開いた。

「きっと、こうなる事は想定していなかっただろう」

「…ああ。だが別に構わない。おれの気がかりは…復讐を果たせなかった事だけだ」

 友人を殺した魔女に復讐する…安藤はそう決めていた。彼からしてみれば、自分が傷を負った事や後遺症が残った事より、目的を果たせなかった事の方が問題なのだろう。

「死んだら復讐どころじゃないのに…」

 咲は思わず呟く。

 安藤は秕と良く似た性格で、利己的な人間だ。だが秕と違い、友達をとても大切にしていた。

 小鳥遊浩平と反町渚…友達が居なかった安藤にとっては、何よりも大切なものだったに違いない。それを奪った魔女に復讐したいという気持ちも、分からないでもない。

 だが…。

「…その復讐は、わたしが代わりにやる…それじゃダメかな」

 咲がそう言うと、安藤が少しばかり驚いた様子で彼女を見る。

「何故だ?アンタがそこまで深入りする必要は無い筈だ」

「小鳥遊くんと渚ちゃんは、わたしの後輩だし…それに…」

 咲は他の三人の顔を見て、呟く。

「…もう、誰にも傷付いて欲しく無いんです」

 傷付いた安藤と美雪の姿が脳裏に浮かぶ。

 自分が無力だった為に、あんな事態を引き起こすのはもう嫌だった。

 それに、自分がやらないといけない理由はもう一つある。

「子喰いの魔女結界で遭った時、秕ちゃんは魔女を支配する為に来たと言っていました。もし、秕ちゃんの魔法で魔女を支配出来たら…」

 咲の言葉に、森岡と美雪がハッとした表情を浮かべる。

「出来ない…とは、言い切れないね」

「そうなれば、兵器を手に入れたも当然だよ…!」

 秕の事だ。魔女の力を良い事に使うとは考えにくい。

「だから、それも含めてわたしが止めるしかないんだ。秕ちゃんはわたしを憎んでいるみたいだから…」

 自嘲気味の笑みを浮かべる咲に、森岡が厳しい目を向ける。

「…琴音君、まさか自分が死ねばいいなんて思ってるんじゃないだろうね?」

 咲は黙って、病室の窓から空を見た。森岡の質問に答えるつもりは無かった。

 沈黙を肯定と判断したのか、森岡が更に咲を問い詰めようとした時―。

「あっ!」

 美雪が声を上げた。

「どうしたんだ?」

「魔女反応…多分子喰いの魔女だ」

「何処ですか!?」

 咲が血相を変える。美雪は「ちょっと待って」と目を閉じ…真っ青な顔になった。

「冬天中学校…まずい、早く行かないと!」

「まさか…秕ちゃんが!?」

 冬天中学校は、咲と秕が居た学校だ。

 そして…そこの吹奏楽部の事を、秕は恨んでいる。

 急がないと手遅れになるかもしれない…そう思った咲は、病室を飛び出した。

「琴音君!」

 その後を、森岡が慌てて追う。

「ちょっ…森岡くん!君が一番危ないんだって!ああもう…」

 美雪は安藤に「いい?絶対にここにいるんだよ!」と言うと、病室のドアを壊す程の勢いで飛び出した。廊下で運悪く担当医に見つかり、「日向さん!どこ行くの!?」と声を掛けられたが今はそれに構っている暇は無い。

 美雪は担当医に「すみません!」と叫ぶと、人でいっぱいのロビーを突き抜けて森岡を追いかけた。

 

 

 こうして三人が冬天中学校に向かったのだが、この事が二つの不幸を引き起こした。

 病院から中学校まではさほど遠くない。五分も歩けば到着する程度の距離だ。但しそれは真っ直ぐ進んだ場合の事で、近道をすればその限りでは無い。

 二つの不幸のうち一つ目は、咲が中学校に真っ直ぐ向かおうとした事だった。そこには行く手を阻むべく、足止め役が二人配置されていた。

 二つ目は、森岡が近道を使った事である。咲を追いかけた森岡だったが、途中で「学校に向かう方が先だ」と考え、近道を使って学校に向かったのである。その結果、咲より早く到着する事になり、これが悲劇を引き起こす事になる。

 尚、美雪は確りと森岡を追っていた。固有魔法で咲と森岡の位置は補足しており、魔法少女である咲よりも生身の人間である森岡の方が危険にさらされるリスクは高いと判断して彼を追ったのだ。

 その判断自体は正しかったのだが、結果として美雪は悲劇を止められなかった。

 何しろ…森岡と美雪が現場に着いた時には、既に悲劇は起こった後だったのだから…。

 

 もし、咲が近道を使っていたら。

 もし、森岡が近道をせずに真っ直ぐ進んでいたら。

 結末は、もう少し違ったものになっていたのかもしれない。

 だが、それを後悔した時にはもう遅かった。その時には既に最終段階。終わりへと突き進んでいた。

 

 …冬天中学校で、突如起きた惨劇。

 この事件が、咲と彼女に関わる人々の運命を、大きく分ける事になる。




 惨劇は、人知れず最初の小さな亀裂を生じさせる。そして、誰も気づかぬうちに四方へその先端を伸ばす。既に不可逆。破滅が目に見える頃には、もう最終段階。ぱんと弾け飛ぶように、一気に周囲へ拡散し、形を消すことで露わになる。

―――森博嗣『τになるまで待って』より
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