ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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愚か者

 琴音咲が生方夏々子や水無月霜華と戦闘を繰り広げている、ちょうどその頃。

 森岡誠司と日向美雪は魔力反応があった場所―冬天中学校へとやってきていた。

 グラウンドを通り過ぎ、生徒用入口の前に立つ。然しこのまま闇雲に探し回ると時間のロスなので、森岡は美雪に聞いた。

「日向、場所は分かるかい?」

「…多分、こっちだと思う」

 美雪は生徒用入口を通り過ぎて走っていく。森岡もそれについて行き、二人はもうひとつの入口の前で立ち止まった。

「ここは…」

「理科室とか家庭科室とか音楽室とかがある所だよ。確か、特別棟だったかな」

 確かに、本校舎とは独立している棟だった。二つは渡り廊下で繋がっており、行き来は自由に出来る様だ。

「詳しいね」

「私はここの卒業生だからね」

 美雪はそう言うと、特別棟の中に入っていった。

 咲はもう到着しただろうかと思いながら、森岡もそれに続く。

 中に入ると直ぐに階段があり、それを上っていく。

「…多分、魔力の出処は三階の音楽室だと思う」

「音楽室か…この時間帯って、吹奏楽部が部活しているイメージがあるけど」

「多分…急がないと手遅れになるかもしれない」

 二人は階段を駆け上がる。そのうちに辺りの景色が変化した。

 廃墟と化した遊園地。子喰いの魔女の結界だ。音楽室(と思われるドア)に到着する頃には、元の校舎は影も形も無くなっていた。

「ここだ」

 美雪は変身し、拳銃を構える。

 使い魔は今のところは見当たらない。だが…この先に魔女がいるのは確実だ。

「森岡くん。君は戻って」

「…その方がいいのかもしれないね」

 驚いた事に、森岡は素直に従った。何時もなら何かと理屈をつけて入ろうとするのだが。

「ここから先は私ひとりで―っ!?」

 突如、ドアが開き、中から子喰いの魔女の使い魔がわらわらと出てきた。美雪が反応するよりも早く、使い魔達は二人を捕まえてドアに押し込む。

 中に広がっていたのは何かのショーでもやる様なステージだった。中央に秕が立っており、後ろに子喰いの魔女を従えている。

「来たね」

 秕はニヤリと笑った。

「やっぱり、あなたが魔女を操って…」

「その通りさ。コイツはあたしの所有物だ」

 秕に応える様に、魔女はカチカチと牙を重ね合わす。美雪は拳銃を秕に向け、低い声で言った。

「今すぐ魔女を退かせて。こんな事、間違ってるよ」

「アンタにとってはそうだろうが、あたしにとっては正しい事なんだよ。まあアンタには分からないだろうけど」

 秕はそう吐き捨てると、美雪を見据えて言った。

「魔女を退かせるのは構わないよ。ただその場合…アンタも道連れだ」

 瞬間、美雪は飛び退いた。

 先程まで彼女が居た所に魔女が居た。飛び退くのが少し遅ければ、その牙は美雪を捉えていただろう。

 美雪は拳銃を発砲しつつ後退する。然し魔女に堪えた様子は無く、牙を噛み合わせながら突進する。

 森岡はそれを見ながら逃げるチャンスを伺っていた。辺りは魔女の使い魔に包囲されているが、使い魔ならば自分でも対処できるだろうか…。

 そんな事を思っていると、背中に何か冷たいものが触れた。

「動くなよ」

 秕が森岡の背後に回り込み、ダガーを突き付けていた。

「…人質を取るつもりかい?」

「いや、そんなつもりは無い。ただ…ちょっとばかしアンタに興味があるだけだ」

 あたしと一緒に来てもらうよ―そう秕は言った。

 美雪がそれに気付き、表情を変える。

「森岡くん!」

「大丈夫だ!君はソイツを倒してくれ!」

 森岡は叫ぶ。どの道、ここで抵抗してもどうにもならないし、ならば秕に従った方がいい。

「振り返らずに真っ直ぐ歩け」

 秕はダガーを突きつけたまま、森岡を結界の出口へと誘導する。

 森岡はそれに従い、結界から出た。

 後ろから、自分を呼ぶ美雪の声と子喰いの魔女の咆哮が聞こえてきたが、結界を出るとそれも消えてしまった。

 

   *   *   *

 

 結界の外は音楽室だった。

 窓から夕陽が射し込む。譜面台や打楽器が倒れており、楽譜が散乱していた。

 そして―それに紛れて、奇異なモノが転がっているのを見つける。

「これは…」

 森岡はソレの正体を察して―絶句した。

 ソレは人間の頭部だった。その全てが首のところから雑に切断されている。

「どの道、遅かったって事だよ。アンタらが着く前に全部終わっていたんだからな」

 秕は愉快そうに言った。それを聞いて、ひとつの考えが思い浮かぶ。

「まさか、琴音君も…」

「咲か?アイツは来ていない」

 今頃、何処かで足止めされているよと秕は言った。

 良かったとは言えないものの、とりあえず知り合いは無事なようだった。

「…君は先程、僕と話したいと言ったね。どうして僕なんかと話したいと思ったんだ?」

 そう口にして、視界に映る凄惨な光景を見ても正常なままで居られる自分に驚く。

 …いや、もう既に自分は壊れているのか。

「アンタみたいなイカれた人間、そう居ないからね。興味が湧いただけさ」

 秕はダガーをクルクルと回しながら答えた。やはり、自分はイカれているのか。

「死体を見ても驚かないって事なら、確かに自分でもイカれていると思うよ。ただ…」

「いや、違う」

 秕は森岡の言葉を遮る。

「あたしが言いたいのは…凡人の分際で魔法少女と関わる事がイカれてるって意味だ」

「どういう事だい?」

 秕はため息をつく。

「無自覚か…アンタ、あたしより酷い人間だってのにさ。本来ならアンタは守られる側の人間だ。それが魔法少女の世界にノコノコと踏み込んで自ら危険にさらされようってんだから理解出来ないな」

 あたしよりか、アンタの方が余程狂人だよ―秕はうんざりしたように言った。

「アンタがやっている事はただの迷惑行為だ。何も出来ない癖にイキって、自ら魔女の結界に踏み込む。咲と一緒にいたみたいだが、アイツはさぞかし苦労しただろうよ」

「そ、それは…僕はただ、彼女の力に…」

 森岡は固まる。それに追い打ちをかけるように、秕は冷たく言い放つ

「アンタは無力なんだ。魔法少女の力になるなんて、思い上がるのも大概にしな」

 この、愚者が。

 秕は吐き捨て、ダガーを握り締める。

 森岡は項垂れた。

 

 自分は、魔法少女の力になれると思っていた。

 魔女や使い魔を見る事が出来、一般人でありながら魔法の世界を知る事が出来る存在。それが自分だ。

 だから、驕った。

 自分は魔法少女の為に何かが出来るなどと考え、思い上がった。

 だけど、自分は何も出来なかった。

 それどころか…大切な少女を、咲を無意識に傷付けていたのだ。

 無力。

 自分は無力だったのだ。

 美奈を救えず、真奈を救えず、それでも尚誰かを救いたいと願い、結果的にその誰かを危険に晒す愚者。それが自分だ。

 …不意に、かつて真奈が魔法少女になった時の事を思い出す。

 彼女はキュゥべえと契約する時、言っていたではないか。

 「森岡に無力感を味合わせる」と…。

 

(ああ…)

 

 森岡は息を吐いた。

 真奈の願いは、彼女が子喰いの魔女に殺される事で叶ったと思っていた。

 だけど、違ったのだ。

 真奈の願い事は、まだ叶っていない。

 そして、それが叶う時は…。

 

 秕がダガーを構え、森岡に言う。

「もういいや。アンタには愚者のまま終わって貰うことにしよう。ここに居られても邪魔になるだけだしね」 

 秕は森岡に近付く。

 森岡は動かない。俯いたまま、ぶつぶつと何かを呟き続けている。

「…じゃあね愚者。精々地獄で後悔しな」

 秕のダガーが、

 森岡の心臓を貫き、

 世界が色を喪い、

 躰が、ゆっくりと倒れ込む。

 ドクドクと血が流れ、

 霞む視界で、森岡はそれを見た。

 音楽室のドアが開き、ひとりの少女が入ってくる。

 彼女は森岡を見ると目を見開き、駆け寄ってくる。

 躰を揺すりながら、必死に声を掛けてくるが…その声は聞こえない。

 酷く寒い。

 少女は必死に呼びかけてくる。

 最期の力を振り絞って、森岡は彼女に声を掛けようとした。

 然し、口から漏れたのは言葉の欠片。

 自分が何と言おうとしたのかさえ、分からない。

 大丈夫?

 心配するな?

 それとも…謝罪の言葉か。

 今度は酷く眠くなってきた。

 森岡は目を閉じる。

 

(ごめん)

 

 一言だけ、謝罪の言葉。

 回らない頭で、それだけを考える。

 何に対して?

 美奈に?

 真奈に?

 咲に?

 …いや、違う。

 これまで出会った全ての魔法少女に。

 ごめん。

 ごめんなさい。

 愚者だった事の。

 魔法少女と関わって彼女達を危険に晒した事への。

 自分の人生に意味が無かった事への。

 自分が無力だった事への。

 謝罪。

 

 最期まで、愚者で居て、最後まで、咲を危険に晒した。

 意識が消えていく。

 

 ―ごめんなさい。




魔法少女ストーリーですが、もう少しで冬天市sideが終わり、神浜市sideに切り替わるのでその時点で一気に投稿する事にしました。
よろしくお願いします。
ちなみに、冬天市sideは(予定では)次回で終わりです。

森岡は構想時と連載中でかなりキャラが変わったな…と、自分でも思います。
彼にとってはバッドエンドで終わった物語、咲にとってはどうなるのか…。
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