ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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大変長らくお待たせ致しました。
今回から、本編再開となります。


冬天から神浜へ

 冬天市で起こった凄惨な事件。

 その結果、冬天中学校の吹奏楽部は全員が死亡し、事件を止める為に現場に駆け付けた森岡誠司も犯人―吹綿秕に殺害された。

 そして、森岡が死んだ事により秕の最後のターゲットであった琴音咲も魔女化し、秕の支配下に置かれた。

 これで秕の復讐は完了した。然し彼女の憎悪は留まる事を知らず、咲の魔女に神浜の魔法少女を襲わせる事に決め、神浜市へと向かった。

 一方、秕の手駒として利用された生方夏々子と水無月霜華は咲との戦闘後、暫くその場に倒れていた。

 周りに人は居らず、キュゥべえが近くにいるだけだ。最も、夏々子と霜華は魔法少女であり、常人よりも遥かに優れた治癒能力を持っている。一時間もすれば動ける様にはなるだろう。周りに魔女の気配も無く、自分達を害する存在は居ないと思われたので、ふたりは無言で寝転がっていた。

 だが―その判断が命取りとなった。

 

 突如、周りの景色が変化する。

 廃墟と化した遊園地。その真ん中に鎮座する、醜悪なメリーゴーランド。

 秕が使役していた筈の、子喰いの魔女だった。

「コイツは、秕の…」

 夏々子が驚いた様に言った。何故、この魔女がこんな所に居るのだろうか。

「…用済みって事ね」

 霜華は気怠い声で言うと、重い躰をなんとか動かして立ち上がった。咲に貰ったグリーフシードを使っていたので、魔力も復活している。

 …この魔女が自分達の前に現れたという事は、秕の復讐が完了したという事になる。恐らく、咲は間に合わなかったのだろう。

「…はぁ、全くアイツは…」

 夏々子も溜息をつくと立ち上がり、武器となる水晶を顕現させた。

 魔女が居るという事は、ここは結界の最深部だ。逃げようとしても無駄だろう。

 なら―戦うしかない。躰は少しばかり重いが、魔力は満タンだし、こちらはふたりいる。だから何とかなるだろう。

「来るよ!」

 キュゥべえが鋭い声で叫んだ。

(コイツも呑み込まれてたのかよ)

 すっかり存在を忘れていた。まあキュゥべえがどうなろうが夏々子にはどうでもいいのだが。

 とりあえず、今はこの魔女を何とかしなければいけない―そう思い、水晶を槍の形にして構えた。

 魔女が牙を噛み合わせ、襲いかかってくる…直前、軽い発砲音と共に魔女の気が逸れた。

 すかさず霜華が接近し、武器である大型バイクでぶん殴る。魔女の躰が少しへこみ、魔女は歪んだ声で叫んだ。

 夏々子が発砲音の出処を探ると、魔女の後ろに人影が見えた。それは―日向美雪だった。

 服はあちこちが破れ、躰も傷だらけだ。しかも左腕は欠損していた。恐らくあの魔女がやったのだろう。

 乱れた髪の向こうにある視線は苦痛と怒りで染まっている。美雪は夏々子達を認識すると驚いた様に目を見開いた。

「どうしてキミ達が襲われているの!?」

「こっちが聞きたいよ…多分、アタシ達はもう用済みなんだろ」

 夏々子はぶっきらぼうに言った。魔女だけでも精一杯なのに、これ以上敵を増やしたくは無かった。

 美雪は唇を噛み、暫く考え込む様な素振りを見せた後、顔を上げて夏々子達に訊いた。

「ここから出たい?」

「…当たり前」

 霜華が答えると、美雪は思わぬ事を口にした。

「…じゃあ、共闘しない?」

「は?」

 夏々子は思わず惚けた声を出してしまった。自分と霜華にはその意思が無かったとはいえ、美雪にとって自分達は敵の筈だ。

「私達は敵同士の筈だけど」

 霜華もそれを指摘する。美雪は「確かにそうだね」とそれを認めた。

「…でも、今は敵とか味方とか言ってる場合じゃない。そんな事言ってたらキミ達も私もコイツに殺されちゃうし、それに…」

 キミ達、本意じゃなかったんでしょ―そう美雪は言った。

 細かい事情も知らないくせに、お人好しなヤツだと夏々子は思った。だが確かに美雪の言う通りだ。このままだと三人とも殺されてしまう。

 魔女をもう一発ぶん殴り、後退した霜華を見る。彼女は夏々子の目を見て微かに頷いた。

 なら…こちらとしても異論は無い。

「…分かった。アンタに協力するよ」

 夏々子は元々中立なのだ。秕が自分を用済みと思った事に怒りは無いし、今は自分が生き残る為に全力を尽くすだけだ。

「ありがとう。じゃあ…行くよ!」

 美雪が拳銃を構えて発砲する。

 それで魔女の気を逸らしている間に、夏々子と霜華が接近。全力で得物を叩きつける。

大型バイクと鈍器型の水晶が魔女の躰をへこませた。少しは効いたのか、魔女が苦しげな声を上げた。

 魔女の咆哮を聞き付けたらしき使い魔がわらわらと集まってくる。三人で対処出来るかどうかは怪しいが―やるしか無い。

 夏々子は水晶を槍の形に変化させ、襲いかかってくる敵を迎え撃った。

 

 

 ―同時刻、冬天市内の某病院。

 

 安藤樹は病室のベッドに横たわり、ぼんやりと天井を見つめていた。

 咲達が飛び出していって暫く経つが、未だになんの連絡も無い。携帯端末のニュースサイトを見てみたが、冬天市内の学校で何かが起きたという情報は無かった。

 躰は回復しているし、自分も行こうと思ったが少し考えて思い直した。相手はバケモノだ。自分が行った所でどうにか出来るとも思えない。寧ろ足でまといになって咲や美雪に負担を掛けてしまうだろう。吹綿秕に刺された事により、自分の躰は大きく変化してしまったらしいが、安藤にその自覚は無い。きっと、力の使い方を覚えないと自分で制御する事は叶わないだろう。

 復讐を自分の手で成し遂げたいという思いは確かにあるが、その過程で知り合いが死ぬ事を望んでいる訳では無い。足でまといになるくらいなら、行かない方がいいと思った。この辺りが森岡とは異なる部分であり、結果的にこの選択が彼を生かす事に繋がったのだが今の安藤にそんな事が分かる訳も無い。

 溜息をついて、目を閉じる。

(…おれは、無力なんだ)

 大切なものは救えず、その為に命を使う事さえ出来ない、無力な人間。

(小鳥遊、反町…すまない)

 固く結んだ唇が、ちいさく震える。

 力を抜いて、安藤は後悔の波に身を任せた。

 

 

 少し時間を遡る。

 咲と秕が冬天中学校の音楽室で対峙していた頃、神浜市でも異変が起こっていた。

 

 環いろはがみかづき荘で学校の課題に取り組んでいる途中、誰かの携帯端末が振動した。

 住人は全員帰ってきていたし、今日は鶴乃も顔を出していた。いろはは自分の携帯端末を見てみたが、どうやら自分のものからでは無いらしい。

 するとやちよが「十七夜からだわ」と言って携帯端末を耳に当てた。

「どうしたの?」

「十七夜さんから電話が来たって…」

「何かあったのでしょうか…」

 課題から逃走しようとするフェリシアを抑えていた鶴乃と、その横で読書をしていたさなが首を傾げる。今日は定期報告会は無かった筈だし、思い当たる節も無かった。

「…えっ?」

 そこで、やちよが驚いた様な声を上げた。思わず全員が彼女の方を向くと、やちよは険しい顔をしながら、

「何故、今になって黒羽根が…?」

 黒羽根という単語に全員が驚いた。また、マギウスの翼絡みの事件が起きたというのか。

 だが、マギアユニオン結成の際に、マギウスの翼の魔法少女達とも和解した筈だ。ユニオンに加わっていない黒羽根や白羽根もいるにはいるが、今更争う理由は無い筈だった。

 やちよは「…分かったわ。そっちも気をつけて」と言ってから通話を切った。ういが「どうしたの?」と訊くと、険しい顔のまま振り返り、

「十七夜が黒羽根に襲われたみたい。それも、様子がおかしい黒羽根に…」

「様子がおかしい?」

 黒羽根の様子がおかしい―思い出すのは、マギウスの受信ペンダントの事だ。

「だけど…灯花もねむも、もうあんな事はしていない筈だよ!」

「黒羽根だって仲間になった筈じゃねーか!」

 鶴乃とフェリシアの言う通りだ。少なくとも、マギウスの翼としての活動はしていない筈である。

 だが、いろはには思い当たる節があった。

「まさか…」

 以前にも十七夜を襲った黒羽根が居たでは無いか。

 今回も同一犯だとしたら、十七夜を襲ったのは…。

 

 ―その瞬間、破砕音と共に窓ガラスが粉々になり、黒い影が飛び込んで来た。

 

『―――っ!?』

 

 全員が反応し、変身する。

 窓から飛び込んで来たものの正体は、人間だった。最早見慣れてしまった黒いローブを纏った花車な少女で、その表情は読み取れない。

「…黒羽根」

 やちよの目が細まる。危機感を持ったというより、別の事で怒っている様だった。

「窓ガラス、弁償して貰うわよ…高いんだから」

「やちよがコエーよ…」

 フェリシアが少し怯えた様に言う。まあいきなり窓ガラスを破壊されたのだから怒るのは当然の反応といえるだろう。

 いろはは相手の行動に注意しながら、静かな声で訊いた。

「…あなたは、吹綿秕さんですか?」

 以前に十七夜を襲った魔法少女。

 琴音咲と深い因縁で結ばれている魔法少女。

 いろははこの黒羽根が吹綿秕では無いかと思っていたのである。

 黒羽根は答えずに、得物を構える。

「ここで戦うつもり…?」

 やちよの声が恐さを増した。恐らく穏便には終わらないだろうし、これ以上何かを破壊されるのも困る所だ。

 然し、黒羽根はそんな事お構い無しとばかりに敵意と殺気を剥き出しにした。

 こうなったら、どうにかして外に誘導するしかない。

 全員が得物を構え、何時でも動き出せるように緊張感を漲らせる。

 長い様で短い時間が過ぎ、そして…。

 

「…来ます!」

 

 いろはの声と同時に。

 悪意と殺意の塊が、自分達を終わらせようと襲いかかって来た。

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