ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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進みが遅いですがちゃんと終わりには辿り着かせたいと思っています。


心象の風景

 気が付くと、咲は音楽室にいた。音楽室と言っても神浜市立大附属学校の音楽室ではなく、咲が以前通っていた学校…冬天中学校の音楽室だ。咲にとっては慣れ親しんだ場所である音楽室。皆で部活をした場所。そして…辛い思い出が内包された場所。誰もいないそこに咲は立ち尽くしていた。

 普段は秩序が保たれていて掃除も行き届いている筈の場所だが、今見ている光景はその間逆と言っても良いものだった。窓ガラスはひび割れ、傷ついて倒れた譜面台やそこから落ちたであろう楽譜があちこちに散乱している。管楽器も譜面台と同じようにあちこちに打ち捨てられており、中には歪んだり破損しているものもあった。

 あまりにも酷い光景に絶句しながら打楽器が置かれている場所に眼を向けると、打楽器も倒され、破損していた。中でもティンパニは悲惨で四台あったティンパニの全てが倒され、打面に張られていた皮が破られていた。最も、打面に張られている皮を突き破って演奏する曲もあるためそこまで衝撃的な光景という訳ではない。然し咲にとってははじめて見る衝撃的な光景だった。自分が演奏していた楽器であったからなおさらだ。入部時からおんぼろだったそれを大切に整備し、使い続けてきたのだ。そんな自分の相棒とも言えたティンパニの哀れな姿に、悲しい気持ちが込み上げて涙となって流れ出す。ティンパニだけではない。自分が親しんでいた全てが蹂躙されているという事実が容赦無く心を抉った。

「誰が…こんな事を…っ!」

 此処には咲以外誰も居ない。だから彼女の叫びに応える者は居ない…その筈だった。

 

「気付いているくせに」

 

 その声は、咲の後ろから聞こえた。

 反射的に振り向く。そこには一人の少女が居た。そして少女は咲がよく知っている人物だった。

「秕ちゃん…」

「咲。これはアンタの心の中だ。解ってんだろ?」

 少女… 吹綿秕(ふきわたしいな)は咲を睨み付けて言う。憎しみの籠った視線が、咲を突き刺す。

「わたしの…心の中…」

「そう。馬鹿なアンタの心象風景だよ。あたしを助けてくれなかったアンタの、荒んだ心」

「………」

 咲は黙り込む。秕は怒りに満ちた声で言った。

「あの時…アンタが助けてくれれば。アンタが自分の間違いを認めてくれればあたしはそれで良かった。なのに…あんたは全てをあたしに押し付けた!自分の間違いも、何もかも!」

「わたしは…」

「つくづく思ったよ。アンタにとってあたしは唯の道具でしかないってね!アンタにとって仲間ってのは都合良く利用できる道具でしかないんだろ!?そんなヤツが新しい土地でゼロから始めようだなんて、都合が良すぎるッ!」

 秕の言葉が、咲を抉る。言葉が刃物だとするなら、咲の目から流れる涙は血だ。

「その挙句魔法少女の願い事を下らない事に使いやがって!アンタの願い次第では皆幸せになれたのにアンタは自分の心の平穏の為だけに願い事をした!あまりのクズさに反吐が出るよ!この利己主義者がぁッ!」

 利己主義者。確かに自分はそうかもしれない。結果的に秕に全てを負わせてスケープゴートにしてしまったのは事実だし、魔法少女の願い事を下らない事に使ったのも事実だ。

 なのに、自分はそれから逃げている…。その事実から目を逸らそうとしている。自分はなんて矮小な人間なのだろうか。

 膝から力が抜けた。そのまま崩れ落ちる咲を秕は冷ややかに見つめる。

「アンタに仲間を作る資格なんてない。アンタは一人で醜く死ね。それがお似合いの末路だ」

 そう言い残して、秕は消えた。それと同時に世界が白い光に包まれていく。現実に戻ろうと…「琴音咲」が目覚めようとしているのだ。

 やがて、壊れた音楽室は完全に光に包み込まれ、咲の意識は現実へと浮上していく。

 

 

 

* * *

 

 

 目を覚ますと、教室の天井が見えた。どうやら自分は気を失っていたようだ。窓の外からは夕陽が差し込んでいる。そこまで長い時間気絶していた訳では無いらしい。

 顔を横に向けると、いろはが心配そうに此方を見ていた。咲が目覚めた事に気付き、安堵の息を吐く。

「良かった…急に倒れたから…大丈夫?何処か辛い所はない?」

「…あ…うん…」

 上半身をゆっくりと起こす。身体は重く、倦怠感が全身を包み込んでいた。

「まだ動かない方がいいよ…」

「大丈夫だよ。それよりわたしどれくらい気を失ってたの?」

「本当に少しの間だけだよ。保健室に連れていこうと思ったけれど…それより前に目を覚ましたから」

「そっか…ありがとう、環さん」

 いろはは「大丈夫」と微笑んでからまた心配そうな顔になって言った。

「咲ちゃんが大丈夫って言うなら大丈夫なんだろうけど…お母さんとか呼んだ方がいいと思うよ」

 確かにそうしたい気持ちはある。然し咲は首を横に振った。

「歩けない程じゃないから…それより、環さんってまだ時間ある?」

「えっ?うん、あるけど…」

「…良ければ一緒に帰らない?話したいことがあるんだ」

「話したい…こと?」

 咲は決意を込めた目でいろはを見た。

「うん…なんでわたしが魔法少女になったのかを話しておきたくて」

「咲ちゃんが…魔法少女になった理由?」

「そう…環さんには話しておきたいんだ。それを聞いてどう思うかは分からないけど…」

「咲ちゃん…」

 何処か複雑そうな顔をしたいろはに咲は言った。

「わたしの話を聞いて、それでもまだ友達と呼んでくれるなら…それは嬉しいかもしれない。環さんが拒絶したとしても、わたしはそれでいいと思ってる。だから…聞いて欲しいな」

「……わかった」

「ありがとう。じゃあ、話すね」

 そして、咲は語り始めた。

 自分の…忌まわしい過去を。




マギレコ第二部が始まりましたね。
どうなるのか楽しみです。
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