ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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祭りのあと

「これは…」

「酷いな…」

「…間に合わなかったのね」

 

 不意に、魔女の向こう側から声が聞こえた。結界に入り込んでいた魔法少女だろうと思い、いろはは大声で叫ぶ。

「誰かいるんですか!?」

「その声は…アンタ、まさか環いろはかい?」

 そんな声と共に、魔女の頭上を何かが跳び越えた。次いで、みっつの影がいろは達の横に着地する。

 影はいずれも魔法少女だった。真っ青なバイクスーツを着た少女と、紫色のローブを纏う少女、そして、パンツスーツに二丁拳銃という何処ぞの諜報員の様な服装の女性だった。

「あなた達は…?」

 やちよが訊くと、パンツスーツの女性が名乗った。

「日向美雪。冬天市の魔法少女だよ、それでこのふたりが…」

「生方夏々子。よろしく」

「…水無月霜華」

 ローブの魔法少女とバイクスーツの魔法少女もそれぞれ名乗る。そのうちのひとり、生方夏々子の声に聞き覚えがあったいろはは、「もしかして、あの時咲ちゃんの携帯を使っていたのは…」と呟いた。

「よく覚えてたね」

 夏々子は感心した様に言った。あの時というのは、咲が秕に重傷を負わせられた時の事である。

「そういえば、ここってやっぱり神浜だったりする?」

 夏々子が訊ねると、鶴乃が「そうだよ」と答えた。

 それを聞いた霜華が自分の近くに転がっていた肉塊を一瞥し、それから呟く。

「…やっぱり、秕は神浜に居た」

「みたいだね…ねえ、環いろは」

 夏々子はいろはを見て、真剣な口調で言った。

「悪いけど手伝ってくれるかな。コイツ、秕が支配してた魔女なんだけど強くてさ…アタシ達じゃ手に負えないんだ」

「魔力が衰えてなければこんなヤツに遅れをとる事もなかったんだけど…」

 美雪が歯痒そうに呟く。霜華も無言で頷いたが、その顔には疲労が浮かんでいた。

「…アイツ、咲を喰って回復したみたいだしね…アタシ達はもう無理だ」

 夏々子は溜息をついて頭を搔いたあと、「勿論、タダでとは言わないよ」と言った。

「アンタ達、秕に襲われたんだろ…それについて、アタシ達が知ってる事なら何でも話すよ」

「…ちょっと待ってよ。アンタはアイツの仲間な訳?」

 レナがそう訊くと、夏々子は霜華と顔を見合わせてから頷いた。

「…美雪さんは違うけどね。アタシと霜華が秕に協力してたのは事実だ」

 そこら辺の説明もちゃんとするよと言って、夏々子は魔女の方を向いた。

「とりあえず、あのデカブツをどうにかしないと」

「…分かりました。みんなも、それで大丈夫ですか?」

 いろは達とて疲労がない訳では無い。だが、それでも全員が頷いた。

 それを見た夏々子は弱々しい顔で「…助かるよ」と言った。

「アイツの弱点は口の中だ…悪いけど、アタシは少し休ませてもらうよ」

「…私はまだ大丈夫。協力する」

 霜華はそう言ってから、お前はどうなんだという顔で美雪を見た。

「勿論、私は行くよ。今度こそ、あの魔女と決着をつけなきゃだし」

 美雪は苦笑しつつも拳銃をクルクルと回してみせる。

 それで話は纏まり、夏々子以外の全員が得物を構え、魔女と激突した。

 

 

 戦闘はほぼ一方的なものとなった。

 使い魔は一掃されていたし、敵は子喰いの魔女のみだ。人数差がありすぎるという事もあり、魔女の攻撃を喰らったのは数える程だった。

 かえでが蔦で魔女を拘束し、そこを全員で攻撃する。攻撃しようにも、フェリシアの忘却魔法で忘れてしまう為、魔女は中々攻撃出来ていなかった。

 いくら子喰いの魔女が強いとはいえ、神浜の魔法少女は普段から強い魔女と戦っているため、その点では冬天市の魔法少女よりも経験がある。冬天市最強と謳われる水無月霜華でも、やちよには勝てないと後に言っていた事からも、神浜と冬天の格差が伺えた。

 とはいえ市外の魔法少女―美雪と霜華もかなり暴れていた。美雪は固有魔法を駆使して全体の動きを把握し、司令塔の様な役割を果たしていたし、霜華は「既視感」の固有魔法が発動したのか魔女の攻撃をひょいひょいと避け、バイクで突っ込んだり拳銃を発砲したりと大暴れしていた。恐らく、殆どの攻撃は霜華によるものだろう。

 

 長い様で短い時間が過ぎた時、魔女は横倒しになり、口を大きく開けて舌をだらんと出していた。

 美雪がそこに拳銃を突っ込み、魔力を込める。

「終わりだよ、これで…」

 そう呟いた後、美雪は躊躇なく引き金を引いた。

 銃弾が魔女の躰を貫き、魔女は消滅する。

 後にはグリーフシードがひとつ、残されていた。

 結界が消滅し、辺りの風景が真夜中の公園へと戻る。それを見届けて、今度こそ全員が警戒を解いた。

 と、夏々子が何かを見つけたらしく、しゃがんで「それ」を拾い上げる、

 手に持った物をまじまじと見つめた後、いろはに向かって投げ渡してきた。

 いろははキャッチしたものを見る。

 それは、咲が変化した魔女―ティンパニの魔女のグリーフシードだった。

 それを見た瞬間、自然と涙が零れ落ちた。

 短い間とはいえ、一緒に過ごしていた友達が死んだのだ。しかも、操られていた死体に矢を撃ち込んだのはいろはだった。飛び散る脳漿とグラリと揺れて崩れ落ちる躰を思い出し、吐き気を覚える。

 過去に囚われていたけれど、やっとそこから抜け出して、新しい生活を始めるはずだったのに。

 これから、たくさんの思い出を作る筈だったのに…。

 

 暗く沈んだ空気が全員に伝播していた。

 酷く、気分が重かった。

 

 

 咲の頭部と秕の遺体をそのままにしておく訳にはいかなかったが、もう夜も遅いので、警察に連絡したら別のトラブルまで招きかねない。

 そこで美雪が「私が警察に通報して適当に事情を話しておくよ」と言った。迷惑をかけるのは申し訳なかったが、美雪はこの中で唯一成人済みだ。彼女に任せるのが最適だという意見に落ち着いた。

 日付は既に変わっている。怒られそうだなぁとももこがぼやき、それを聞いたレナとかえでが青ざめていた。

 終電もとっくに出ていた。警察と話す美雪は兎も角、夏々子達はどうするのか聞いてみると、帰ろうにも帰れないから適当な所で野宿するという返事が返ってきた。「よかったら泊まる?」とやちよが提案したが、「アタシ達はまだアンタ達の敵にあたるわけだし、遠慮する」と夏々子が固辞した。やちよはそれでも納得していない様子だったが、夏々子が言っても聞かない事を悟ると漸く諦めたようだった。いろはや鶴乃も説得したが、夏々子と霜華が意見を変える事はなかった。

 この事件に関わったマギアユニオンのメンバーに向けて、事態の終息を告げた後、後日に事情説明を行う事を約束して、いろは達は解散した。

 みかづき荘に戻り、交代でシャワーを浴びる。食事をする気力も無かったので、全員が浴び終わると直ぐにベッドに潜り込んだ。

 眠れないと思っていたが、直ぐに睡魔がいろはを包み込んだ。

 

 …こうして、ささやかな騒擾は終わりを迎えた。

 

 

「君たちはこれからどうするの?」

 いろは達が帰った後、美雪が夏々子と霜華に訊いた。

「水無月さんはバイク持ってるし、帰ろうと思えば帰れそうだけど」

「…どうせ近日中には事情説明をしなくちゃだし、今から帰るのも面倒」

 霜華はぶっきらぼうに言った。

「美雪さんこそ大丈夫なの?」

 夏々子が訊くと、美雪は頷いて、「慣れてるから大丈夫」と言った。

「ならいいけど…霜華は?」

「寝れないし、バイクに乗る」

 霜華はそう答えた後、夏々子を見て、

「…乗せようか?」

 と言った。

「いいのかい?」

「ああ」

 確かに夏々子も眠れなかったし、その提案は有難かった。

「じゃあ、お願いするよ」

 夏々子の答えに霜華は頷く。

「…じゃあ、行こう」

 霜華は魔力でヘルメットを作ると、夏々子の頭に被せる。

「ちょっと待って。美雪さんと連絡先交換しておきたい」

「確かにそうだね」

 夏々子は美雪と連絡先を交換した後、バイクに乗った。霜華の胴に手を回し、「準備できたよ」という。

 霜華は頷き、バイクを急発進させた。

 美雪の姿がみるみる遠くなっていく。

 

 秕が死んで、咲も死んだ。

 知り合いがふたり死んだが、悲しみはまだ無い。

 だが、そのうちに湧き上がってくるだろう。

 それまでは何も考えずにバイクに乗っていようと、そう思った。

 

 ふたりを乗せたバイクは、夜の闇の中を走り続けた。

 夏々子も霜華も、ずっと無言だった。




次回、「ある少女の物語」最終話です。
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