ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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最終話です。


ある少女の物語

 事件から1ヶ月が経過したある日の事。

 環いろははとある場所に向かう為、イヤホンで音楽を聴きながら歩いていた。

 あの事件の後、特に何かが変わったという事はなかった。神浜はまた新たな驚異に直面しつつあるが、それはあの事件とは無関係であって、事件が齎したものは何も無いといえる。

 強いて言うならば、人が何人か死んだという事実が世間に広まっただけだ。そんな事がこの世界に及ぼすものなんて、何も無い。

 美雪の通報によって咲と秕の死は世間が認知する事となった。だが、事件の捜査はあまり進んでいないという。頭部しか見つかっていない遺体と、肉塊と化した遺体…ふたりに何が起こったのか、想像出来る者は居なかったからだ。

 また、時を同じくして冬天市でも大きな事件が起こっていた。冬天中学校の吹奏楽部員と顧問、そして森岡誠司の遺体が中学校の音楽室で発見されたのだ。

 吹奏楽部に何があったのか、どうして無関係な森岡の遺体があったのか―この事件を説明出来る者も居ない。警察は森岡の犯行と捉えた様だが、凶器は見つからず、仮説を裏付ける証拠も無い。

 咲の遺体と同じく、頭部のみが残されていた事や、咲と秕が冬天中の吹奏楽部に所属していた事もあってか、ふたつの事件を絡めて捜査するという動きも見られた。だが、これといって大きな収穫は無く、事件はこのまま迷宮入りするだろうと思われる。

 他にも、秕が操っていた黒羽根の遺体が発見されたりもしたが、そちらは事故として処理された様だった。

 咲の死は通っていた学校―神浜市立大付属学校にも伝わったが、在籍していた期間が短く、親しい友達も余りいなかったという事もあり、大きな話題になる事はなかった。

 1ヶ月が経過した現在では、事件の事などほぼ忘れ去られている。

 人の死など、その程度のものなのだ。

 

 

 夏々子や霜華、美雪とは事件の翌日に会い、今回の事件に関わった者も含めて事情説明が行われた。

 それにより秕が今回の件の主犯格であると断定され、魔力の痕跡などから夏々子と霜華はただ操られていただけという結論に至った。

 夏々子は「アタシは秕のやる事を黙って見てたんだ。罰を受ける必要がある」と主張していたが、結局これといった罰は受けなかった。ただ、本人はマギウスの翼として動いていた事実も踏まえて「今後二度と神浜には現れない」と宣言した。

 霜華は「…特に用は無いし、神浜に行く必要もないから」と言い、美雪も「後輩が待ってるから」とそれぞれ神浜から去っていった。

 

 こうして、事件の前と殆ど変わらない日常が続く事となった。

 

 

 いろはが歩いていると、前から茶髪の男性が歩いてきた。以前、万々歳で見た事がある顔だった。

 向こうもいろはに気付いたらしい。「奇遇だなぁ…確か環さんだったか」と言いながら此方に近付いてきた。いろははイヤホンを外し、会釈をする。

「こんにちは。えっと…皆本さん、でしたよね」

「覚えていてくれたのか」

 男性―皆本慎也は嬉しそうな顔をして、それから「…そうだ。ちょうどキミと話をしたいと思っていたんだよ」と思い出した様に言った。

「今、忙しいか?」

「…いえ、大丈夫ですよ」 

 いろはが少し緊張しながら言うと、慎也は近くにあった自動販売機で缶コーヒーを二本買い、一本をいろはに投げて来た。

「そんなものしか買えなくて悪いけど、良ければ話を聞いてくれないか。立ち話になっちまうけど」

 慎也は以前会った時とは違い、真剣な表情をしていた。

 いろはが頷くと、慎也は「ありがとう」と言って、それから神妙な顔になった。

「咲ちゃん…死んじまったんだってな」

「はい…」

 咲の死は、慎也もニュースを見て知っていたのだろう。…勿論、彼の親友である森岡の死の事も。

 だが、その後に慎也が言った言葉は予想だにしないものだった。

「…それも、()()()()()()()()()なんだろうな」

「はい……えっ?」

 いろはは驚く。

 自分が知る限り、慎也は一般人の筈だ。そんな彼から魔法少女という言葉が出てきた事に違和感を感じた。

 慎也は此方を向くと、「やっぱり知っていたか」と言った。

「…どうして、皆本さんが魔法少女の事を?」

「セージの葬式をする時にアイツの好きなものを棺に入れてやろうと思ってな、部屋に入ったんだよ…そしたら、机の上にこれが置いてあったんだ」

 慎也は持っていた鞄から一冊のノートを取り出した。表紙には「魔法少女について」と書かれている。

「…最初はアイツの創作だと思った。だが、読んでいくうちにそうじゃないって分かってきたんだ」

 慎也が見せてくれたノートの内容は、魔法少女についてのまとめだった。かなり細かい部分まで記述してあり、神浜のドッペルシステムの事も書かれている。

 暫く読み進めると、文体が小説調に変わった。

「これは?」

「オレ達が高校生の時に起きた事件の記録らしいな。その事件でセージの恋人とその姉貴が死んだんだが…どうやらアイツらも魔法少女だったらしい」

 ノートの最後には、魔法少女の名前が記されたリストがあった。街ごとに分けられており、冬天市の項目には咲や秕の名前が、神浜の項目にはいろはや鶴乃、フェリシアの名前があった。

「森岡さんは、なんでこんなものを…」

「さあな。アイツの考えはよく分からねぇけど…でもきっと、アイツは魔法少女の事を世の中に知ってもらいたかったんじゃねぇかな」

 慎也はそう言って、缶コーヒーに口をつけた。それから少し考える素振りを見せた後、いろはに言った。

「…それ、もし良ければ持っていてくれないか?」

「でも、森岡さんのものですし…」

「オレみたいなヤツより、キミが持っていた方がいいと思うんだ。こんな内容、世間に発表した所で妄想の産物だって思われるだけだろうし、それに…」

 そこで慎也は表情を曇らせた。

「…オレみたいな一般人が関わる事じゃないような気がするんだ。力になりたい気持ちはあるけど、でもそれだけじゃ何も出来ない…いい方法も思いつかなかったし、ならいっその事魔法少女に託した方がいいなと思ってさ」

 慎也はそう言った後、慌てて「迷惑だったらごめんな」と言った。

「いえ、そんな事はないですよ。皆本さんがいいなら、私が預かります」

 いろはが言うと、慎也はどこか済まなさそうに「ありがとな」と言った。

 

 …後に、そのノートは魔法少女の事を世間に伝えようとする少女の手に渡る事になる。

 だが、それはまた別の話だ。

 

 

 慎也と別れた後、いろはは目的地―新西区の公園に到着した。

 そこは初めて咲が魔法少女である事を知った場所であり、咲を過去の呪いから解放した場所でもあった。いわば、思い出の場所だ。

 特にこれといった用事は無い。なんとなく来ただけだった。ベンチに座り、イヤホンから流れる音楽に浸りながら、いろはは目を閉じる。

 咲の葬式には出席したが、お墓参りには行けていない。今度時間があったら行こうと、そんな事を思う。

 …こうしていると、果たして琴音咲は本当に存在していたのかという考えが浮かんでくる。彼女と過ごした時間は短くて、何も齎さないまま終わってしまった。学校でも、友達との会話でも咲の話題になる事は殆どない。それが悲しい事だとは思うけれど、魔法少女とは、そうやって忘れ去られていくものなのだという諦念もあった。

 もしかしたら、森岡が魔法少女についてのノートを遺したのも、魔法少女の事を忘れて欲しくないからなのかもしれない。そう考えると納得がいくような気がした。

 …せめて、自分が生きている間は事件の事を忘れない様にしよう、と思った。

 誰も知らない物語だとしても、いろはだけは覚えていようと。

 それが誰の為になるのか分からないけれど、それでも忘れ去られるよりいいはずだ。

 だから、琴音咲と吹綿秕の物語は確かに存在していた事を覚えていよう。

 ぼんやりと、そんな事を思った。

 

 

 ―冬天市

 

 いつも通りの日常、変わらない日々。

 今日も、ふたりの魔法少女が魔女退治を終え、家に帰る為に歩いている。

 

「なぁ、霜華」

 

「…なに?」

 

「アタシ達、これからどうするか」

 

「どうするって?」

 

「言葉の通りだよ。美雪さんは陽ヶ鳴に戻ったし、入院してた安藤ってヤツも退院していつも通りの日常を過ごしている。もうあの事件は終わったんだよ」

 

「…それが?」

 

「なんていうかさ、アタシ達だけが未だに踏ん切りついていないっていうか…」

 

「そう?私はそうは思わない」

 

「かなぁ…アタシはたまに秕の事思い出して後悔してるけど」

 

「過去を振り返る事は悪い事では無いし、忘れるよりずっといい事だと思うけど」

 

「……まあ、そうだよね」

 

「それとも、今のコンビを解散する?そうすればあの事件に関わったものはあなたの周りから消えると思うけど」

 

「…いや、やめとくよ。せっかく新しい相方が出来たんだ。映えある生と唯一無二の死だっけ?アンタがそれを見つけられるまではついて行く事にするよ」

 

「……そう」

 

 そこで会話が途切れ、暫くした後にまた始まった。

 

「…なぁ、霜華」

 

「なに?」

 

「過去の傷を癒すのはなんだと思う?」

 

「時間。それ以外に術はない」

 

「…じゃあさ、秕はもう少し時間があれば、咲を許して、忘れる事が出来たと思うか?」

 

「…さぁ。それは私には分からない」

 

「…まあそうだよね」

 

「…でも、時間では癒せない傷もある」

 

「秕はそういう傷を負ったって事か?」

 

「そうかもね。そもそも…」

 

「そもそも?」

 

 そこで会話が途切れる。

 少し経ってから、ひとりの魔法少女が呟くように言った。

 

「…傷は癒せても、記憶は残るから」

 

「だから忘れる事なんて出来ないと」

 

「そういう事」

 

「…………」

 

「…………」

 

 再び会話が途切れる。 

 それきり会話が再開される事は無く、ふたりは家路を辿っていった。

 

 

 

        【おしまい】




本編はこれでおしまいとなります。
量も質も全く無い駄文ではあったけれど、何とか最終話まで続ける事が出来ました。正直言って「途中で失踪するやろ」と自分でも思っていただけに、ここまで続けられた事が驚きです。
次回作…というか、この話の続編みたいなもの(直接の続編では無く、世界観が同じというだけ)は一応考えていて、投稿しようとも思っています。
恐らくいつも通りの駄文になるとは思いますので、読んでくださいとは言えませんが…また別の作品でお会いできたら幸いです。

何はともあれ、読了ありがとうございました。
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