ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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魔法少女ストーリーです。
一人の魔法少女につき3話程度を予定しています。
尚、相変わらず一話の文章量は短めです(2000〜3000字程度)


魔法少女ストーリー
琴音咲編 第1話『独奏』


叶うなら 時計の針巻き戻して

笑っていよう

この空の向こうでも いつまでも

星の輝く 遠いあの世界でも

――――UNICORN「4EAE」より(作詞:川西幸一 作曲:ABEDON)

 

 

 

 「それ」が出てきたのは、部屋の掃除をしていた時の事だった。

 埃を被ったドラムスティックと、チューナー、パーカッションの教則本、そして―一冊のファイル。

 懐かしい品々に、掃除の手を止める。

 それは―わたしが幸せだった頃の欠片だった。

 スティックは先が削れているし、教則本は書き込みで一杯になっている。ファイルの中は、ボロボロになった楽譜で一杯だった。

 見れば見る程、思い出が溢れ出てくる。

 それと同時に、耐え難い後悔も。

 もしもあの時、わたしが選択を間違っていなければ…そんな事ばかりを考えて、気分はどんどん沈んでいく。

 

 もう、あの頃には戻れない。

 後悔しても遅いのに…。

 

 どうして、わたしの目からは涙が零れているのだろう?

 

 

 中学生になって直ぐ、わたしは吹奏楽部に入部した。

 当時通っていた中学校―冬天中学校は部活数が少なく、文化部は吹奏楽部と美術部しか無かった。運動は苦手だったし、絵よりは音楽の方が好きだった事もあり、割とあっさり決めた事を覚えている。

 そして、入部初日。

 わたしは緊張しながら顧問の先生の話を聞いていた。

 見れば、緊張しているのはわたしだけらしく、他の新入部員は気楽な態度で話を聞いている。わたしだけが特別臆病なのか、それとも皆が気楽すぎるのか…明らかに前者だった。

 先生の話が終わると、早速「適正テスト」が始まった。これは所謂楽器選びで、全てのパートの楽器を試した後、本人の希望と適性を元に先生と各パートリーダーがその人の楽器を決定するというものだった。

 わたし達は二日間掛けて全ての楽器を試し、結果発表の日がやってきた。わたしは特にやってみたい楽器は無かったけれど、吹いていて楽しかったフルートパートを希望していた。

「琴音咲」

 名前を呼ばれ、立ち上がる。

「パーカッションパート!」

 視界の隅で、パーカッションパートの先輩達が笑顔になったのを見ながら、わたしは驚いていた。

 パーカッションは木琴を叩いたりドラムロールをしただけで、正直言って印象が薄かった。ドラムロールも粒が揃わず、上手いとは言い難い出来だったので、パーカッションパートになるとは思わなかったからだ。

 そんなわたしを他所に、結果発表は続いていった。

 

 それから暫くして、ある名前が呼ばれた。

「吹綿秕!」

 無言で立ち上がったのは、ボサボサ髪の女の子だった。目には覇気がなく、眠そうに見える。

「パーカッションパート!」

 視界の隅に映る先輩達が、今度は余り嬉しくなさそうな顔をしていた。貧乏くじを引き当てたと言わんばかりの顔だ。

 女の子―吹綿さんは静かに着席すると、ぼんやりと宙を見詰めていた。

 彼女は全てに興味がないという様な目をしていて…何故かその目が印象に残った。

 

 

 パートが決まった後は、基礎練習と応援歌の練習を並行してやっていた。

 応援歌の中でわたしが担当しているのは、マリンバ…木琴とタンバリンだ。パーカッションといえばドラムやティンパニ、木琴や鉄琴といったイメージが強いけれど、タンバリンやトライアングル、マラカスなどもパーカッションが担当していたりする。使う楽器は曲によって変わるけれど、ドラムやティンパニを除けば単一の楽器を使い続けるという事は少ない。曲の途中で楽器を変える事はよくある事だった。

 といっても、応援歌のリズムは簡単なものだ。だから直ぐに覚える事が出来たのだが…問題が一つあった。タンバリンのロールが出来ないのだ。

 ドラムロールというものがあるように、タンバリンにもロールがある。わたしが先輩に教わったのは、親指の腹でタンバリンの縁を擦り、それで振動を起こすというものだった。

 だけど、これが中々難しい。まず滑っていかないし、滑ったとしても振動しない。

 単なる技術ではなく、ちょっとしたコツの問題なんだろうけど…他の事が上手く出来ていただけに、出来なかった事が悔しかった。

 悩んで、先輩に聞こうかと思っていた時、いつの間にか吹綿さんが隣にいる事に気付いた。

「ど、どうしたんですか…?」

 吹綿さんと話した事は一度も無かった。彼女はいつも不機嫌そうで、同学年の子や顧問の先生さえも彼女には極力近付かないようにしている様に見えた。

 とはいえその実力は当時から抜きん出ており、基礎練習を完璧にこなし、渡された楽譜も直ぐに暗譜していた。やる事が無くなってしまったので部活に来ない日もある程だ。

 吹綿さんはわたしをじっと見て、わたしが持っていたタンバリンを取り上げた。

「あ…」

「…タンバリンのロールは、指を湿らせるといい」

 そう言うと、タンバリンの縁に親指を走らせる。連鎖した音が、耳に届いた。

「手汗症の人間はロールを成功させやすい傾向がある。最も、アンタは違うようだけれど」

 吹綿さんは素っ気なく言うと、わたしの手にタンバリンを押し付けた。

「あ、ありがとう…」

 わたしは掠れた声でお礼を言う。

 彼女はそれには応えず、何事も無かったかのように鞄を持ち、音楽室を出ていった。

 

 

 下校時刻になり、片付けをしていた時、わたしはパートリーダーに呼ばれた。

「わ、わたし…何かしてしまったでしょうか…」

「いや、別に怒るわけじゃないし、そんなにビクビクしなくても…」

 パートリーダーはそう言って苦笑した。

「琴音はさ、吹綿の事どう思う?」

 いきなり訊かれて、わたしは返答に困った。吹綿さんと話したのは今日が初めてだったからだ。

「えっと…なんというか、凄い人だと思います。才能があるというか…」

「やっぱりそう思うよな…アタシもこれまで色々な子の演奏を見てきたけれど、吹綿の演奏技術は抜きん出ている。なんでこんな学校に来たのか疑うレベルだよ」

「は、はぁ…」

 パートリーダーが何を言いたいのかが掴みきれず、わたしは相槌を打つことしか出来ない。

「…でもね、彼女には協調性ってもんがない…それは琴音も分かっているだろう?」

 確かにそうだ。彼女は孤立しており、部活内では必要最低限の会話しかしない。例外はパートリーダーで、彼女は吹綿さんに気軽に話しかける事が出来る唯一の人物だった。最も、いつも無視されている様子だったが…。

「…はい」

「…やっぱり、二年後のパートリーダーはアンタしかいないな」

「えっ」

 わたしは驚いた。まだ入部したばかりなのに…。

「アタシは夏のコンクールで引退だ。その後は二年が継ぐ事になるが…その二年も引退したら、アンタらの世代になる。アタシは今からそれが気がかりでなぁ」

 パートリーダーは苦笑して、それからわたしの肩をポンと叩いた。

「まあ、吹綿と仲良くしてやってくれな。何となくだけど、アンタならアイツの友達になれる気がするよ…知ってるか?アイツが自主的に話しかけたのは、アンタが初めてなんだぜ」

 そう言ってパートリーダーは去っていった。

 

 吹綿さんの友達になる。

 その時は実感が湧かなかったけれど、それから少し経った後に起きた「ある出来事」をきっかけとして、わたし達は友達になった。

 

 …今思えば、その瞬間からわたしの運命は大きく変わる事になったのだ。




時系列としては、咲が神浜に来る直前の話となっています。
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