ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
夏休みになり、吹奏楽コンクールが開催された。
冬天中学校は地区コンクールで金賞を獲ったが、続く県大会では銀賞を獲り、三年生の先輩達の夏は、そこで終わった。
引退の日。
お疲れ様会が終わり、解散になった後、パートリーダーはわたしを呼んでこう言った。
「これから色々とあるだろうけど、頑張れよ。吹綿とお前ならきっと乗り越えられるさ」
「…はい!ありがとうございますっ!」
手に花束を持ったパートリーダーはにっこりと笑い、それから振り返らずに歩いていった。
わたしがその姿を見ていると、誰かに肩を叩かれた。見ると秕ちゃんがわたしの隣に並び、パートリーダーを見送っていた。
なんだかんだ言って、パートリーダーに一番世話になったのは秕ちゃんかもしれない。彼女もそれが分かっていたから見送りに来ていたのだろう。
「…咲」
不意に、秕ちゃんがわたしの名前を呼ぶ。
「ん?」
「そろそろ帰るぞ」
「え、あ、うん…帰りにアイスでも買っていく?」
「ああ、それがいい」
秕ちゃんはさっさと歩き出す。
わたしは苦笑しながら、その後ろ姿を追いかけた。
今思えば…これがわたし達が本当の意味で一緒に居られた、最後の時間だった。
*
それから、秕ちゃんはあまり部活に来なくなっていった。
パートリーダーが引退し、益々部活に居辛くなったのだろう。わたし以外の部員は冷たい態度を隠さない様になり、あからさまに秕ちゃんを避けるようになった。
偶に部活に来た時には堂々と悪口を叩かれていたし、部活以外…授業の合間の休み時間に擦れ違った時等にもそれはあった。
秕ちゃんは傷付いている。それは誰が見ても分かる事だったのに…誰も止めようとしない。まるでそれが「当たり前」かの様に行われている。
わたしはそれが耐えられなかった。
ある時、別のパートの友達にその事を言うと、彼は鼻で笑ってこう言った。
「協調性が無いアイツの方が悪いんだ。少しでも周りに合わせていればこんな事にはならないのにな…」
「それでも無視したり悪口を言ったりするのは良くない事だよ!」
わたしが強い口調でそう言うと、彼は呆れた様子で首を振った。
「…なあ琴音、
「…………」
「あんまりアイツに近寄らない方が良いぜ?お前も同じ目には遭いたくないだろう?」
そう言い残して、彼は笑いながら去っていった。
…思えばあの時、わたしは声を上げるべきだった。
それでも構わないから秕ちゃんの味方をすると言うべきだったのだ。
友達として、その覚悟は有る筈だった。
それなのに…わたしはその言葉を口にする事が出来なかった。
心の何処かで、我が身可愛さに友達を見捨てる選択をしていた。
…わたしは、最低な人間だったんだ。
…それから暫く経った後、わたしと秕ちゃんは決別する事になる。
*
…暫く、ぼんやりしていたらしい。
掃除の途中だった事を思い出し、慌てて手を進める。
機械的に動く身体とは裏腹に、頭の中では色々な事を考えてしまう。
…わたしと秕ちゃんは、二年生のコンクールで完全に決別してしまった。あれから秕ちゃんの姿を見た事は無いし、二度と見る事も無いかもしれない。
後に残ったのはわたしが魔法少女になったという事実だけだった。自分勝手な願いで契約して、自分だけが助かったという、最低な結果…その代償として魔女と戦う事になったけれど、それは当然の報いといえるものだろう。
いつか、魔女に殺される事は目に見えている。わたしが死んだら…秕ちゃんも少しは報われるだろうか。
…もしも。
もしも、時間を巻き戻せたら…わたしは秕ちゃんと居られただろうか。
…いや、多分それは無理だろう。
たとえやり直せたとしても、わたしは同じ事を繰り返すに違いない。
また、秕ちゃんを傷付けてしまうに決まっている。
…わたしなんて、居なくなればいいのに。
*
「咲、ちょっといいかしら?」
その声に振り返ると、お母さんが立っていた。
「どうしたの?」
「大事な話があるから来てくれる?」
お母さんにそう言われ、わたしは居間へと向かう。
居間にはお父さんが居て、わたしを見ると「咲、突然ですまないが、聞いてくれ」と真剣な表情で言った。
「…実はな、神浜市に引っ越す事になった」
「引っ越し…?」
「急な話ですまないけれど、二週間後には神浜に向かう事になる。それでなんだが…咲はどうしたい?」
「どうしたいって………」
いきなり言われても分からない。わたしが戸惑っていると、お母さんが「つまり、こういう事なのよ」と説明してくれた。
「神浜市に向かうか、冬天市に残るか…冬天に残る場合は未来達の元に行く事になるわ」
「わたしは……」
この街から出る?
そんな事、考えた事も無かった。
この街には沢山の思い出があるし、わたしは此処が好きだ。
だけど…。
「今決めろとは言わないけど、なるべく早く…」
「…お父さん」
この街には…辛い思い出もあるんだ。
「…わたし、神浜市に行く」
「咲…」
両親は驚いた様な顔でわたしを見た。
「本当に、いいのか?」
「うん」
わたしは迷い無く頷く。
もう答えは決まっていた。
わたしは、ここから…辛い思い出があるこの街から、逃げる事を選んだのだ。
友達を傷付けた。
自分の為だけに奇跡を利用した。
そして…その過去から目を逸らそうとしている。
もう、何もかもがどうでもよくなっていたのかもしれない。
救いは無い。
奇跡も、魔法も無い。
起こってしまった事は変える事が出来なくて、たとえ過去に戻れたとしても同じ過ちを繰り返してしまう。
…その事に、気付いてしまったから。
新しい環境になったとしても、友達なんて出来る筈が無い。
出来たとしても、わたしはその友達を裏切ってしまう。
独りぼっちで無気力に生きて、いつか魔女に惨たらしく殺される。それがお似合いの末路なんだ。
…虚無感に支配されながら、わたしは目の前で両親が話す事をぼんやりと聞いていた。
それから二週間後。
わたしは冬天市を離れ、神浜市に向かう事になる。
大した期待もせずに神浜に来たわたしは、そこで思わぬ「救い」を得る事になるのだけれど…それはまた別の話。
咲の魔法少女ストーリーはこれで終わりです。例によってグダグダになってしまった…。
秕との出会いの話を書いてみたかったのでこんな事になりましたが、いろは達との交流の話でも良かったなぁと思いました。まあそういった話は本編に行き詰まった時にでも書いてみたいと思います。
次回は本編です。
3章が終わるまでは、魔法少女ストーリーを1人分(3話)書いたら本編を3話書く…という形で行きたいと思います。
それでは、次回以降もよろしくお願いします。