ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
このような投稿ペースが続きますが何卒ご了承下さい。
尚、今回は咲の一人称で話が進みます。
2020/03/30…サブタイトルを一部変更しました。
全ての始まりはわたしが吹奏楽部に入部した事だった。
わたしが前通っていた中学校…冬天中学校は部活の数が少ない学校で、運動部はそれなりにあるけれど文化部は吹奏楽部と美術部しか無かった。元々運動部に入る気は無かったし、自然と吹奏楽部と美術部の二択という事になった。わたしとしてはどちらでも良かったんだけれど、音楽と絵なら音楽の方が好きだったし小学生の時にピアノを習っていた事もあって吹奏楽部に入部する事にした。
…何処の部活にも入部しないっていう選択肢もあったけれど、何かしら部活をやっていた方が高校受験の時に有利だったから皆部活をやっていた。わたしはそれに流されただけ。
ともかく吹奏楽部に入部して、適正テスト(所謂楽器選びだ)の結果わたしは打楽器…パーカッションをやる事になった。
そこで努力して腕を上げていき、1年生の夏休みにはコンクールメンバー入りを打診される程に力を付けることが出来た。わたし自身打楽器が自分に合っていると思っていたし、先生にも才能があるって褒められた事もあった。今はそんなもの全くないと思っているけれど…当時のわたしはそれで浮かれていた。
そんな時、「彼女」と出会ったのだ。
当時パーカッションパートにはわたしともう1人1年生が入っていた。彼女は所謂サボり魔で、練習にも殆ど出ていなかった。ただ部活に籍を置いているだけの幽霊部員みたいなものだったけれど、彼女の実力はとても高かった。それこそ彼女が演奏に加わるとその曲が一段と輝くような気がしたほどに凄かった。天才…その言葉がピッタリと当てはまるような、そんな子だった。
彼女はあまり周りの人と関わらないような子で、友達もあまり居なかった。練習に出ないのに実力がある彼女を皆は疎ましく思っていて、顧問の先生も彼女に関わりたがらなかった。でも、わたしにとってはいい友達だった。彼女はわたしの事を認めてくれたし、わたしも彼女に惹かれていった。いつの間にか彼女の事はわたしに一任されていて、練習で彼女が必要になるとわたしが呼びに行ったりもした。
わたし達はお互い上手くやれていた。わたしと居ると彼女はよく笑ったし、いい友達だと思っていた。
だけど…二年生になって直ぐの頃、その関係に罅が入った。
ある日、いつもの様に彼女を呼びに行った時のことだった。彼女は学校の屋上でよくサボっている(冬天中学校は屋上が解放されていた)事を知っていたわたしが真っ直ぐ屋上に向かうと案の定彼女は学校の屋上で手摺りにもたれ掛かり、屋上からの景色を見ていた。
彼女はわたしに気付き、振り向かないまま言った。
「また呼びに来たの?…なんであたしが入らないといけない訳?」
「だって、先生が呼んでるし、秕ちゃんが居ないと合奏が出来ないよ?」
「あたしが居なくても世界も合奏も回る。だからあたしに構わず行きな」
彼女はつっけんどんに言った。彼女のそういった態度には慣れてはいるけれど自然とため息をついてしまう。
「なんでそういう事言うかなぁ…」
「あんなヤツらと合奏やりたくなんてない。どーせアイツら妬みとか悪口しか向けてこないし。ならやらない方がいいよ」
「それは…みんな仲間でしょ?一緒に…」
その言葉を聞いた瞬間、彼女は勢いよく後ろを振り返った。その目が暗い怒りに満ちていた。その目のままギロリとわたしを睨みつける。
「仲間?あんなのが?咲にとって仲間ってのはああいったヤツらの事を言うわけ?」
強い口調で放たれたその言葉にわたしは固まった。
彼女が他の部員を良く思っていないのには訳がある。彼女は一部の部員に嫌がらせを受けていたのだ。理由は…恐らく嫉妬。練習をしないのに才能だけで曲を輝かせる彼女に嫉妬して、それが悪意に変わったのだと思う。
嫌がらせは巧妙で、先生が全く気付かない形で行われていた。部長を始めとした当事者以外の部員も彼女を助けようとせず、ただ静観しているだけ。彼女はあの部活でひとりぼっちだったのだ。
そして…そんな状況で彼女が頼りにできる唯一の人物が、わたし…琴音咲だった。わたしだけが彼女を理解出来たし、彼女を助ける事が出来た。慢心かもしれないけれど、わたしはそう思っている。
だからこそ、わたしは彼女の望む答えを言うべきだったのだ。「あの子達は仲間じゃない」と自分の台詞を否定するべきだったのだ。
だけど…わたしは何も言えなかった。否定も肯定も出来ず、ただ立ち尽くしていることしか出来なかった。どちらを選択しても敵を作ってしまうと判断した本能がわたしの口を封じていた。
彼女はそんなわたしを鼻で笑った。
「答えられない?まあ咲は優しいからね。どっちも傷付けたくないんでしょ?」
冷ややかな双眸が静かにわたしを見つめている。歪められた口元からは棘のある言葉が吐き出された。
「いや、どっちも傷付けたくないんじゃなくて自分が傷付きたくないだけか。答えればどちらかを敵に回す事になるからね。所詮仲間なんてその程度のもの…か」
彼女は固まっているわたしの脇をすり抜けて下へと戻っていった。
わたしはしばらくそこから動く事が出来なかった。頭の中で彼女が最後に言った「仲間なんてその程度のもの」という言葉が繰り返し響いていて、それがわたしの思考を停止させていた。
この出来事をきっかけとして、わたしと彼女の間に埋められない溝が出来た。
そして…あの事件が起きてしまったのだ。わたしと彼女の関係を修復不可能にした、あの事件が。
その事件の元凶は、他でもないわたしだった…。
長くなりそうなので一旦切らせていただきました。
前後編の前編だと思っていただければ…。