ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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2021/03/18…原作設定に則り、一部のシーンに加筆しました。


吹綿秕編 第4話『変動と怨讐』

「…何を言っているんだ?」

 目の前の動物が言った事を理解するのに、少しの時間を要した。

「言葉の通りさ。ボクはキミの願いを叶える。その代わり、キミには魔法少女として魔女と戦ってもらいたいんだ」

「意味が分からない。最初から説明しな」

 魔法少女や魔女…何かのアニメかラノベだろうか。そもそもこんな生物が目の前にいる事自体どうかしているし、本当に幻覚なのかもしれない。

「分かった」

 そう言ってソイツは話し始めた。

 魔法少女という、非日常の事を。

 

 

「…俄には信じ難い話だな」

 それが、話を聞き終わった秕の感想だった。

「でも、事実だよ。魔法少女という存在が無ければ、人類はここまで発展しなかった筈だ」

 …馬鹿馬鹿しい。

 秕は内心そう思ったが口にせず。代わりに、目の前の動物―キュゥべえが言った事を自分なりに纏めてみた。

 キュゥべえと契約し、魔法少女になった人間は悪しき魔女と戦う事になる。魔法少女はこれまでにも多く存在し、人知れず世界を護ってきたのだという。

 纏めてみると単純だが…何となく、違和感がある。この得体の知れない生き物の目的についてだ。

 少女を魔法少女にして、コイツになんのメリットがあるのだろう。

 気になった秕はキュゥべえに訊いてみた。するとキュゥべえは「ああ、その事か」と言った後、自分の目的について話し始めた。

 

 

 

 話を聞き終えた秕は、「やっぱり何か企んでいたか」と吐き捨てた。

「それ、契約しているヤツにはちゃんと話しているのか?」

「訊かれなければ話さないよ」

「…アンタ、マジで外道だな」

 秕は呟く。人間ではないとはいえ、理解し難い生き物だ。

「…けどまぁ、魔法少女とやらになれば、ひとつだけ願いを叶えてくれるのは確かなんだよな?」

「そうだよ」

 秕は少しばかり考える。

 そして―今後の人生を変えるであろう決断を、あっさりと下した。

 

「…あたしが理想とするセカイが欲しい。だから、その為の力をあたしに寄越しな」

 

「キミは、その願いでいいのかい?」

「構わないよ。その為なら何でもやる。魔女だかなんだか知らないけど…ソイツをぶっ殺せばいいんだろう?」

 秕はキュゥべえを鋭い瞳で見て、それから言った。

「とっとと願いを叶えな」

「なら、契約成立だ」

 

 …こうして、秕は魔法少女になった。

 手に入れたチカラは「精神汚染」

 この日から、秕の人生は更なる変動を遂げていく事になる。

 

 

 コンクールが終わってからすぐに、秕は転校した。あの学校にいる意味はもう無かったからだ。

 固有魔法で施設の人間を従わせ、転校の手続きを済ませた。どうせ馴染めないだろうし、直ぐに行かなくなるだろう。籍さえ置ければ何処でも良かった。

 そうして適当な学校に転校し、適当に登校して適当にバックレた。勿論秕の周りに人は寄り付かなかったし、そちらの方が都合が良かった。一度だけクラスの女子に絡まれた事があったが、固有魔法を使って従わせてからはそういった事は無くなった。

 魔女退治も、簡単といえば簡単だった。理不尽な暴力を振るうのはストレス解消になったし、倒せばグリーフシードも手に入る。一石二鳥という訳だ。

 退屈な日々を過ごしていた秕だったが、その間も咲への憎悪は消えなかった。いつか再会したら、ぶっ殺してやる―特に生きる目的が無かった秕にとって、それだけが生きる目的と呼べるものだったのかもしれない。

 そんな状況が暫く続いて、その繰り返しに何も思わなくなってきた時、秕はマギウスの翼という組織に勧誘された。

 

 

 きっかけは、神浜市に足を運んだ事だった。

 魔女や使い魔が姿を消し始め、その原因が神浜市にあると判明したので乗り込んでみたのだ。魔女が消えると困るし、何故神浜に魔女や使い魔が集まっているのかという事に興味を持ったという事もあった。

 そこで、秕は黒いローブを着た魔法少女と出会った。

 

「魔法少女の真実を知っていますか?」

 黒いローブを着た、正体不明の魔法少女―彼女はダガーを構える秕を制止し、そう質問した。

 知らないと反射的に言いそうになったが、思い当たる節があったので言葉を飲み込む。

 魔法少女の真実―魔女化という呪縛の事だろう。

「魔女化の事か?」

 秕が訊くと、彼女は頷いた。

 それから頼まれもしないのに話を始めた。ウザいので斬り捨てようと思ったが、話の内容は興味深いものだった。

 彼女はマギウスの翼に所属する黒羽根で、魔法少女の解放を目指していると秕に語った。魔法少女の解放―それは即ち、魔女化という呪縛からの解放の事だ。

 なるほどと秕は思った。魔女化についてはキュゥべえから話を聞いていたので驚く事は無かったし、解放されたいという感情も理解は出来る。

 少し考えて、秕はマギウスの翼に入る事にした。魔女化からの解放云々ではなく、「魔法少女が助かるためなら手段を選ばない」という理念が面白いと思ったからだ。

 勿論その他にも理由はある。神浜の魔法少女組織に所属していれば、公然と神浜で魔女を狩る事が出来る。街に魔女が戻って来る気配は無いし、それならここで魔女を狩った方がいい。

 そんな訳で、秕はマギウスの翼に加入した。勿論、仲間が増えたなんて事は一ミリも思っていなかったが。

 黒羽根達は脆弱で、ひとりでは魔女を狩れない魔法少女ばかりだった。その癖、秕が自由行動をすると喧しく注意してくる。ひとりで魔女を狩れない癖に、生意気なヤツらだと思った。

 そんなヤツらに混ざって魔女狩りをするのは苦痛でしかない。元々集団は苦手だし、こういう組織には向いていないのだろう。向こうも秕を疎ましく思っているようだったし、秕としては直ぐに抜けたい気分だった。だが、神浜以外の街には魔女が居ない。我慢するしかなかった。

 そんな秕が組織に留まり続ける事が出来たのは、ある黒羽根のお陰だった。

 

 

 生方夏々子と名乗ったその黒羽根は、お人好しで器量も良いという秕の対極に位置する人間だった。

 彼女も弱い部類の魔法少女らしく、魔女狩りをしていた時にピンチに陥った事があった。それを秕が助けたのだ。

 助けたといっても、たまたま夏々子が秕の近くに居て、夏々子を狙った攻撃の余波を喰らいたくなかったから魔女を怯ませた。それが結果的に助けた事になったというだけの事だった。

 魔女を倒した後、夏々子は笑顔を浮かべて此方に近付いてきた。

「ありがと、助かったよ…吹綿秕さんだっけ」

「……」

 秕は答えず、さっさと帰ろうとする。こうすれば大体のヤツは関わる事を断念するのだが…夏々子は違った。

「ねぇ、せめて礼くらいは言わせてよ。アンタの人嫌いは分かっているけどさ」

「…なら構うなよ。それともアンタは人が嫌だと思う事を敢えてやるのが趣味なのか?」

「別にそんなのじゃないさ。ただ、礼を言いたいだけだって」

「…変なヤツだ」

 ため息をついて、秕は歩いて行く。後ろから夏々子が何かを言っていたが無視をした。

 これで追い払えただろう、そう思った。

 だが…その考えは甘かった。

 

 次の日から、夏々子がやけに絡んで来るようになった。

 魔女狩りの最中でも、マギウスの話を聞いている時も、冬天市に帰ろうとする時も着いてくる。はっきり言ってうざい。最後のは単純に帰り道が一緒だからという事だったが、それでも迷惑なのには変わりない。

「なんであたしに関わろうとするんだよ」

 ある時、秕は夏々子に言った。鋭い目で睨み付ける秕に対し、然し夏々子は動じずに答えた。

「アンタに興味があったからかな」

「迷惑だ。さっさと失せろ」

「そう言われて失せるヤツなんていないよ。アンタも、ひとりよりふたりの方が行動し易いだろう?」

「…あたしはひとりでいい」

 秕はそう言うが、実際のところ、夏々子が居た方が動きやすかった。向こうが勝手に自分に合わせてくれるし、他の黒羽根とトラブルを起こした時も夏々子が仲裁してくれる。何より彼女の固有魔法―風水の魔法は便利だ。わざわざ精神汚染で支配しなくても言う通りにしてくれるのなら、そちらの方がいいのではないか?

 秕のそんな考えを分かっているのかいないのか、夏々子は平然とした態度で言う。

「本当かい?アタシがいた方が、色々と便利な気がするよ?」

「……」

「何も、仲良くなりましょうって言っている訳じゃないんだ。別にいいだろう?」

 使えないと分かったら、切り捨てればいいんだからさ―夏々子はそう言って、どうなんだという目でこちらを見た。

 …変なヤツだと思ったが、確かに夏々子の言う通りではある。

 友達としてではなく、道具として傍に置いておく…それでいいじゃないか。こんな使い勝手のよさそうな道具は滅多に居ないのだし。

 秕は鼻を鳴らし、くるりと背を向けた。

「…勝手にしろ」

「どうも」

 表情を見なくても、夏々子がニヤリと笑っているのが分かった。

 何となくムカついたので、「夏々子」では無く「かかし」と呼んでやろうと思った。

 

 

 それから程なくして、マギウスの翼は解体された。

 ワルプルギスの夜とエンブリオ・イブが引き起こした大災害を見ていた時は面白いと思ったが、それだけだ。その後の「魔法少女の解放を平和裏に目指そう」という動きには心底ガッカリした。そんな事出来るわけ無いのに、馬鹿なヤツらだ。そこにマギウスのふたり―里見灯花と柊ねむが加わっていると知ると、落胆は更に大きくなった。

「…かかし」

 全てが終わった後、ワルプルギスの夜を撃退してその勝利に浮かれる魔法少女達を冷たい目で見ながら、秕は夏々子を呼ぶ。

「どうした?」

 夏々子も浮かれている連中を見ているが、その表情は秕とは異なり、優しいものだった。

「…アンタ、これからどうする?」

「どうするって?」

「あたしはあの中には入らないが、アンタはどうするんだ?」

「アタシはアンタについて行くつもりだけど」

「あそう」

 呟くと、秕は歩き出す。

 これ以上、この場に居たくは無かった。

 

 

 それから、秕と夏々子は冬天市と神浜市を行き来しながら活動していた。

 秕は神浜に足を運びたくなど無かったのだが、魔女は神浜の方が多い。なので仕方無く神浜に行き、魔女や使い魔、時には黒羽根を相手に戦っていた。魔女や使い魔はともかく、黒羽根を殺してしまうと面倒だったが、その場合は魔法で無理やり支配していたので問題は無い。

 そんな生活を続けていた時、夏々子からひとつの情報が齎された。

 

 いつもの様に夏々子が横で喋るのを聞き流しながら歩いていると、不意にひとつの名前が聞こえてきた。

「……で、その子…琴音咲っていうんだけど、その琴音さんが…」

 その名前に、秕は夏々子の方を向く。

 今、コイツはなんて言った?

「琴音…咲だと?」

「そうだよ。知ってるの?」

 そうか。

 咲も、魔法少女に…。

「…そうか、魔法少女になってたのか…ハッ!これは面白い!」

 秕は笑った。咲が魔法少女になり、しかも神浜に居る…このチャンスを、逃す訳にはいかない。

「…かかし」

「なんだい?」

「琴音咲の事を調べるぞ」

「いいけど…どうして?」

 夏々子は不思議そうに訊く。

「決まってるだろ…」

 秕は昏い笑みを浮かべ、夏々子の方を見た。

 

「あたしを裏切ったアイツを、絶望に突き落として終わらせる為だよ」

 

 あたしが味わった絶望を、アイツにも味あわせてやるんだ。

 

 …殺してやる。

 アイツだけは、絶対に。




秕の魔法少女ストーリーはこれで終わりです。
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