ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
生方夏々子が魔法少女になったのは、友達を占う為だった。
夏々子は温厚な良識派で、周りへの気遣いも出来、ルールを守る様な模範的な少女だった。成績も良く、運動もそれなりに出来た為、周りからは非の打ち所が無い優等生だと認識されていた。
優等生でありながら周りの行為に必要以上に干渉する事が無かった所為か、彼女を敵視したり妬んだりする人間は少なかった。ひとりも居ないという訳では無いがその数は片手で数えられる程度だった為、夏々子自身は特に気にしていなかった。
家庭環境も平凡そのもので、特に変わった事情を抱えている訳でも無い。魔法少女の世界とは無縁でいる事だって出来たのだが…夏々子はそうせず、自ら魔法少女の世界へと飛び込んでいった。
そして、その日から彼女の人生は大きく変わる事になる。
*
全てのきっかけは、友達がテレビ番組の風水を信じた事だった。
「なんかさー、よく分からないけど東南に向かって歩くといい事あるらしいんだよねー」
「へぇ…」
運命の人と会えたりするらしいよ!と嬉しそうに話す友達。夏々子は相槌を打ちながら話を聞いていた。
別にそういったものを全く信じていない訳では無いが、信じているかと言われると微妙だ。人間は自分がいいと思った事象や考えを採用するものだ。占いだっていい結果が出れば信用するが、悪い結果は信用しない。つまり占いは「どう行動するか」の指標に過ぎないのではないだろうか。
友達は嬉しそうだし、その方向に進んでいい事があったとしたらそれはそれでいい事だ。だから夏々子は余計な口を挟む事をせず、友達の話を聞いていた。
だが、風水を信じてその方角に向かった友人に齎されたのは…幸運とは正反対の結果だった。
*
「どうしたのさ、そのケガ…」
翌日、夏々子が友達の所に行くと、友達の腕には包帯が巻かれており、その表情は曇っていた。いつもは元気な友達の落ち込んだ様子に夏々子は驚いた。
「…昨日、テレビで見た方角に行ってみたんだ、そしたらデカい野良犬が居て、襲われた」
友達の話によると、実際にその方角に足を運んでみた所、お腹を空かせた野良犬とバッタリ遭遇してしまった。慌てて逃げようとしたが、それより早く野良犬が飛びかかってきて腕を噛まれた…という事だった。
その後、友達が野良犬に襲われていた所を通りすがりの人が目撃し、保健所に連絡。直ぐに保健所の人が来て、野良犬を連れて行ったらしい。腕を食いちぎられなかっただけマシだよね…と、友達は苦笑しながら言った。
「まあ、仕方ないか…上手く行くと思ってたんだけどなぁ」
友達はため息をつく。それを見て、夏々子の中にひとつの決心が生まれた。
「…じゃあ、アタシがアンタを占うよ」
「え?」
「そりゃ、テレビみたいに本格的なものじゃないかもしれないけどさ…でも、アタシなりにやってみたいんだ」
「夏々子…」
「それに、アレだ…友達が悲しんでる姿は見たくないんだよアタシは」
夏々子は少しばかり照れ臭くなり、ぶっきらぼうに言う。友達はじっと夏々子を見つめた後、いきなり飛び付いてきた。
「夏々子ー!アンタマジでいい子じゃん!」
「ちょ、いきなり飛び付くな!」
夏々子は見事にひっくり返り、頭を打った。
兎に角そんな訳で、夏々子は風水の勉強を始める事になったのだが…これが中々難しかった。
もともと風水は古代中国の思想で、日本では風水が完全に成立する唐代以前の一部の理論のみが陰陽道や家相として取り入れられた事で、中国本土とは別の形で独自の発展を遂げた…とされている。更に、ネットで情報を漁ってみたところ、「近年、日本国内で風水という名称で行なわれている占いの多くは、風水そのものではなく、家相術や九星気学などのアレンジに過ぎない。」とあり、友達が見ていたテレビ番組の風水は厳密には風水では無かった可能性があるという事が判明した。ネットの情報なので嘘か誠かは判然としないのだが、折角だしと思い家相術や九星気学にも手を出す事にした。
そんなこんなで苦労しながら勉強や研究を進め、一応占いが出来るだろうというレベルにまで到達した。後は友達を占うだけだ。
だが…いざ占うとなると、躊躇ってしまう。自分の風水は完璧とは程遠いものだし、言ってしまえば、テレビでやっていたもの以下である。友人にとっては外れた占いだったが、テレビに出ているくらいだからプロが行っていたものだろう。単純な実力という世界では無い事は分かっていたが、どうも踏ん切りがつかないのだ。
情けないな…とは思う。だが、自分の占いのせいで友達に何かあったらと思うと、どうもやる気が起きないというか、失敗を恐れてしまうのだ。
(参ったなぁ…)
夏々子はため息をつく。これでは勉強した意味が無いでは無いか。この経験も自分の糧にはなるので無いなら無いでいいのだが、友達に言ってしまった以上はどうにか踏ん切りを付ける必要がある。
どうしたものか…と思っていた時、転機があった。
夏々子の前に、魔法の使者が現れたのだ。
*
「生方夏々子。キミの願いを何でもひとつだけ叶えてあげる。その代わり、キミには魔法少女になってほしいんだ!」
「…へ?」
ある日、自室で悩んでいた夏々子の元にソイツは現れた。
現れて早々「魔法少女になってほしい」なんて言うものだから、夏々子は困惑した。まあ当たり前の反応だといえる。
「…あー、何が何だかよく分からないんだけど、アンタ誰?」
「ボクはキュゥべえ。いきなり過ぎたね。今から説明するよ」
キュゥべえの説明を聞いた夏々子は驚くより先に「なるほど」と思った。
確かに驚きはあるが、それだけだ。寧ろ、面白いとさえ思えた。
魔法少女という、自分が見た事の無い世界…それを知る事もまた、自分に益を齎す筈だ。
それに、キュゥべえは何でもひとつだけ願いを叶えてくれると言った。なら、自分が今抱えている問題も解決するのでは無いか。
「キュゥべえ」
「なんだい?」
「魔法少女…だっけ。なるからさ、願いを叶えてよ」
キュゥべえは驚いた。実際には表情は変わらなかったしそもそもキュゥべえに感情という概念があるかどうかさえ分からないのだが、夏々子は漠然とそう思った。
「珍しいね。キミの様に即断する人間はあまり居ないのだけれど」
「ダメだったかい?」
「まさか。願いを言うといい」
「ああ。アタシは―」
―自分の占いに信憑性が欲しい。
…こうして、夏々子は魔法少女となり、「風水」の魔法を手に入れた。
風水の魔法の効果はてきめんで、夏々子の占いはよく当たると評判になった。友人を占う事も出来、夏々子に言われた通りに行動したら運命の出会いがあったと大はしゃぎしていた。
これで一件落着。肩の荷がひとつ降りたと夏々子はほっとした。
魔法少女になり、魔女と戦う使命を負わされたものの、全体としてはプラスの結果に落ち着いたといえるだろう。
だが…魔法少女になった事で夏々子の日常は大きく変化する事になる。否、魔法少女になった事というより、魔法少女になった事で出会ってしまったある人物の所為といった方が正しいか。
勿論―この時は自分の日常が大きく変わる事になるなんて、分かりはしなかったのだけれど。
今回の話はhidon様の原案を元にして執筆しました。
この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
また、作中の風水についての説明はWikipediaを参考にしております。