ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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生方夏々子編 第3話『一緒に居る理由』

 秕に助けられたその日から、夏々子は秕に絡む様になった。魔女狩りが終わり、解散する時になるといつも秕にくっついて一方的に話す様になったし、マギウスの話を聞く為に聖堂に居る時も秕の近くて話を聞いていた。秕は夏々子と同じく冬天市に住んでおり、帰りの電車も一緒だったのは―流石に偶然だったのだが。

 秕には悉く無視されていたが、夏々子はめげなかった。

 この経験も、自分の糧になるとわかっていたから。

 

「なんであたしに関わろうとするんだよ」

 ある時、秕はいつもの様に絡んでくる夏々子に呆れた声で言った。鋭い目で睨み付ける秕に対し、夏々子は動じずに答えた。

「アンタに興味があったからかな」

「迷惑だ。さっさと失せろ」

「そう言われて失せるヤツなんていないよ。アンタも、ひとりよりふたりの方が行動し易いだろう?」

「…あたしはひとりでいい」

 秕はそう言うが、夏々子は「秕に切り捨てられる事は無い」と確信していた。自分が居た方が動きやすい筈だし、そうなる様に行動してきたつもりだった。客観的に見てもここで自分を切り捨てるのは得策では無いだろう。

「本当かい?アタシがいた方が、色々と便利な気がするよ?」

「……」

「何も、仲良くなりましょうって言っている訳じゃないんだ。別にいいだろう?」

 使えないと分かったら、切り捨てればいいんだからさ―夏々子はそう言って秕を見る。

 なんだかんだ言ってコイツはお人好しの気がある。要はツンデレなのだ。そうでなければあの時に夏々子を助けたりはしないだろう。

 案の定、秕は鼻を鳴らしてくるりと背を向け、言った。

「…勝手にしろ」

「どうも」

 夏々子はニヤリと笑う。

「…アンタ、夏々子って言ったっけ」

「そうだよ。よく覚えてたね」

「じゃあ今度からアンタの事かかしって呼ぶから」

「かかし?」

 口に出してみて気付いた。「夏々子」は「かかし」と読めなくも無い。

 ひねくれたヤツだなぁと思いつつ、夏々子はそれを了承した。自分も秕に何かあだ名を付けようとしてみたが、いいあだ名が思い浮かばなかったのでやめる。

 

 こうして、夏々子と秕の歪な関係が生まれたのだった。

 

 

 その後、マギウスの暴走により、マギウスの翼もどんどん過激になっていった。

 夏々子自身も受信ペンダントで操られ、環いろはを初めとした敵対者を消す為に行動する事になった。その時の記憶はなんだか朧気でよく覚えていない。気付いたら受信ペンダントの大元であるウワサは倒されており、自我を取り戻していた。秕に操られたのかどうか聞いてみたが、答えは無かった。だがいつもより苛立っていたので恐らく操られていたのだろう。

 夏々子はそれに苦笑しながら、マギウスはもう終わりだなとぼんやり思った。

 

 

 その予想通り、程なくしてマギウスの翼は解体した。彼女達は環いろは達と合流し、「魔法少女の解放を平和裏に目指そう」という方針で動く事になったようだった。夏々子はそれでいいのではないかと思ったが、秕はマギウスや羽根達の決断にガッカリしている様で、小さな声で「馬鹿なヤツらだ」と吐き捨てていた。

「…かかし」

 ワルプルギスの夜を撃退して全てが終わった後、勝利に浮かれる魔法少女達を微笑ましいものを見る目で見ていた夏々子を、秕呼ぶ。彼女は夏々子とは対照的に、魔法少女達に冷たい視線を向けていた。

「どうした?」

「…アンタ、これからどうする?」

「どうするって?」

「あたしはあの中には入らないが、アンタはどうするんだ?」

 マギウスの翼は解体し、秕は行く場所を失った。素直に環いろは達に合流すればいい話なのだが、秕が死んでもそうしない事は夏々子もよく分かっている。なので、

「アタシはアンタについて行くつもりだけど」

 彼女達と進むより、秕と居た方が面白そうだった。それに…唯我独尊気味で危ういこの少女を放っておけなかったという事もある。

「あそう」

 呟くと、要は済んだとばかりに秕は歩き出す。

 夏々子は一瞬だけ環いろは達の方を振り返ってから、秕を追いかけた。

 ここで環いろは達に合流していればまた何かが変わったのかもしれないが…夏々子は秕と居る事を選んだ。

 この選択をした事に後悔はしていないが…正しかったのかどうかは、分からない。

 

 

 その後、秕と夏々子は冬天市と神浜市を行き来しながら活動する事にした。

 秕は神浜に行く事を嫌がっていたが、魔女は神浜の方が多い。なので夏々子が説得し、神浜行きを認めさせたのだ。

 魔女や使い魔と戦うのは良い。だが…秕は黒羽根(もう黒羽根では無いので元黒羽根の魔法少女と読んだ方が正しいか)ともトラブルを起こし、戦闘になる事があった。

 最初に秕が黒羽根と争っていた時、夏々子はどちらにつくか迷っていた。秕の側につくのが道理だろうが、相手は魔法少女で、元仲間だ。どちらの側にも立てなかった。

 なので夏々子は、

「秕、狙うならアイツの右腕だ。で、アンタは秕の左足を狙うといい」

 対人戦では中立を貫く事を決めた。

「かかし!なんで敵にもアドバイスしてるんだ!」

 秕の怒号。然し夏々子は怯まずに応じる。

「うるさいよ秕。対人戦じゃアタシは中立なんだよ!」

「お前―」

「嫌ならソイツを殺した後にアタシも殺せばいい話だろ!使えないと分かったら、切り捨てればいいだけの事だ。アンタが何と言おうと、これだけは貫かせてもらうよ!」

 この後に及んで何が中立だと自分でも思ったが、こうするしかなかった。

 …こうしないと、自分の中で、踏み越えてはいけない一線を踏み越えてしまう気がしたから。

 

 

 結局、秕は黒羽根を殺してしまった。

 してはいけない行為だ。それは分かっている。

 だが―夏々子には秕を咎めるつもりは無かった。

 自分が止めても秕はこうしていた気がした。ならばいっその事この行為を秕の個性と割り切って傍観すればいい。自分でも嫌な考え方だと思ったが、他に方法が無かった。

 ダガーに付いた血を振り落とした秕はこちらを見る。その目に宿るのは敵意と―僅かばかりの逡巡。

「…アタシを殺すかい?」

 夏々子は静かな声で訊く。

 暫くの沈黙の後、秕は答えた。

「…いや」

 秕は変身を解除し、スタスタと歩いて行く。夏々子も変身を解除し、それを追い掛けた。

 結局、なんだかんだ言って秕も独りぼっちになりたくないのだろう。

 だからこそ隣に居るのだが…それを口に出す事はしない。自分が秕を受け入れればそれでいい話なのだから。

 

 …歪で、いつ壊れるかも分からない関係ではあるけれど。

 今はまだ、それを維持していたかった。




夏々子編はこれで終わりです。
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