ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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霜華の魔法少女ストーリーです。


水無月霜華編 第1話『映えある生の為に』

「…なんでも願いを叶えてくれるの?」

「ああ、どんな願いでも叶えてあげられるよ」

「なら、映えある生と唯一無二の死を私に与えて」

「映えある生と…唯一無二の死?」

「そう。今まで生きてきた、幽霊みたいな生から抜け出したいの。だって…」

 

 ―人生は一度きり。なら価値のあるものにした方がいいでしょう?

 

 

 水無月霜華の人生を一言で表すなら「空虚」だろう。

 両親とは幼い頃に死別し、親戚に預けられて育てられた。ここまではいい。両親の愛は得られず、親戚も自分を厄介者扱いしている節があるものの、まあこのくらいならよくある悲劇といえる。平凡の域を出ない、退屈で有り触れた悲劇だ。

 だけど、そこからが地獄だった。

 普通の少女として過ごして、気付いたら生に関心が無くなっていたのだ。

 別に口下手という訳でも無いのに友人は中々出来ない。それどころか人の汚い部分を見過ぎてしまった為、人間という生き物を全く信用出来なくなってしまった。

 自分と仲良くしていた友達が自分の陰口を言っていた、信用していた先生が生徒にわいせつ行為をして逮捕された…そういう事が、自分の周りで起きる事が増えたのだ。

 中でも最悪だと思ったのが、霜華が中学生の時に学年中を挙げてひとりの女生徒をいじめたという事件が起きた事だった。元々何処かズレていたその女生徒を奇異に思った何人かの生徒がSNSをフルに活用して女生徒へのいじめを始めた。軈てその活動は学年中に拡がっていき、面白いからという理由で便乗する輩やいじめに快感を覚えた輩…そういう連中が増えていき、遂にはほとんどの人間が女生徒へのいじめ行為に加担していったのだ。

 こうなると頼りになるは教師のみ。然しその教師でさえ、この問題に見て見ぬふりをした。

 いじめ防止集会とやらでは「いじめは良くない」だの「いじめを無くそう」だのといった綺麗事を言っているのに、いざいじめが起こると「個性が有る限りいじめは無くならない」と見て見ぬふりだ。ならいじめを無くそうなんて言うなよと霜華は思い、その日から教師を信じる事をやめた。

 (やが)てその女生徒は学校に来なくなった。風の噂では自殺したとの事だったが真偽は不明だ。兎に角そういう事があって霜華は自分を含む「人間」という生き物を完全に信用出来なくなってしまったのだった。だから表面では愛想良く振舞っていても、内心では誰も信用していない。

 その人間不信が、霜華の人生を空虚なものに変えてしまった要因である事は言うまでもないだろう。

 

 「ただ一度きりしかない為、生は激しく、貴い。一瞬にして永遠であるため、死は重く、尊い。故に生は映えあるものでなくてはならないし死は唯一無二であるべきだ」

 幼い頃からそんな持論を持っていた霜華だったが、自分の人生はその持論とは対極にあるものだった。

 空虚で有り触れた生と、軽く、ゴミのように扱われる死。

 いつしか霜華は汚れた世界の中で持論を掲げる事に疲れていた。

 

 

 ある日唐突に、人生に飽きた。

 このまま生きていても変わらない日々が続くだけだ。友達も家族も居らず、人を信用出来ぬまま孤独に一生を終える…そのビジョンがはっきりと脳裏に浮かんだ。

 ならいっその事、死んでしまおうか―諦観の中で、霜華はそう考えた。別に難しい事では無い、死への恐怖なんてものはとっくに無くなっていたし、自分のいのちをこの世から消し去る事なんて、中学の試験問題より簡単な事だ。

 死への憧れは日に日に大きくなっていった。どうせ何も変わらないのだから、死という新しいステージに踏み出すのも悪くないのではないか。

 そんな事を思い、そして遂に実行に移す事を決めた時―霜華はキュゥべえと出会った。

 

「ボクと契約して魔法少女になってよ!」

 唐突に現れ、そんな事を言った不思議な獣に、然し霜華は動じない。

「魔法少女ってなに、そもそもあなたは誰」

 平坦な声で訊いた霜華に、キュゥべえは魔法少女の事を話した。勿論、いつもの様に重要な部分は話さず、必要な事しか話さなかったが。

 話を聞いた霜華は「…そう」とだけ呟いてキュゥべえに背を向けた。

「悪いけど、そんな胡散臭い話を信じられるほど単純じゃないの」

「…そうか。それなら仕方ない。契約を強制する事は出来ないからね」

 思ったよりあっさりと引き下がったが、まあいい。

 霜華はその場を後にして、自分の家に帰る為に歩き出す。

 それきり、キュゥべえが持ち掛けた不思議な契約の事は忘れてしまった。

 

 

 それからも度々、死にたいという衝動に襲われる事があった。

 その度に自殺を試みようとしたのだが…全て失敗した。自分のせいでは無い。自殺を試みる度に、キュゥべえが邪魔してきたのだ。

 

「…契約は強制しないって言ったのに」

「ボクから強制はしないというだけだよ。それに、契約出来る少女を失うのは勿体無いからね」

 いけしゃあしゃあとそんな事を言うキュゥべえに、霜華はちいさく溜息をついた。

「合理的なのね」

「ボクからしてみれば、余計な感情で動かされる人間は理解出来ないよ」

 それで、どうするんだい―キュゥべえの問いに、霜華は首を横に振る。

 確かに、契約すれば自分の願いが叶うかもしれない。

 だが、確証が無い為首を縦には触れなかった。それは裏を返せば、確証さえあれば契約する可能性はあるという事である。

 そして、キュゥべえからの何度目かの誘いを断ったその日に、霜華は確証を得る事になった。

 

 キュゥべえと別れて帰る途中に、周りの景色が変化した。

 見慣れた街並みが不思議な空間に変わり、辺りには明らかにヒトでは無いバケモノが跋扈し始める。

 霜華は直ぐに、結界に引き摺り込まれたのだと理解した。

(キュゥべえの話は本当だった…と)

 辺りを警戒するが、その時には既に魔女の使い魔の攻撃を受けていた。

 背中に何かがクリーンヒットし、霜華の躰は飛ばされていく。地面に胸を強く打ち、肺の中の空気が吐き出された。

「かふっ…」

 意識が遠くなる。使い魔は無感情に二発目の攻撃を放ってきた。それは動けない霜華にヒットし、地面をゴロゴロと転がりながら血反吐を吐く羽目になった。

 このまま死ぬのか。

 なら、それでもいい。

 霜華は観念して目を閉じる。と、そこに聞き慣れてしまった声が聞こえた。

「本当にそれでいいのかい?」

「…キュゥべえ」

 目を開けると、頭の横にキュゥべえの姿があった。

「このままだとキミは死んでしまう。無為に人生を終わらせるなら、魔法少女になって生まれた可能性に賭けてみたらどうだい?」

 確かにそうだ。

 確証は得た。それに魔法少女になれば…自分の持論を貫き通せるかもしれない。

 目の前に垂れ下がった蜘蛛の糸。

 銀色に輝くそれを、掴む時じゃないのか。

 

 暫くの間があったように思えたが、実際は一瞬だった。

 霜華は頭の中でキュゥべえに言う。

「…なんでも願いを叶えてくれるの?」

「ああ、どんな願いでも叶えてあげられるよ」

「なら、映えある生と唯一無二の死を私に与えて」

「映えある生と…唯一無二の死?」

「そう。今まで生きてきた、幽霊みたいな生から抜け出したいの。だって…」

 

 ―人生は一度きり。なら価値のあるものにした方がいいでしょう?

 

 霜華の言葉を聞いたキュゥべえは「キミがそれでいいなら」と了承した。

「契約成立だ。受け取るといい」

 霜華の胸から、光る宝石が生み出される。

 それを受け取った霜華を眩い光が包み込み…。

 

 光が収まると、そこには藍色のバイクスーツを身に纏い、超大型バイクに跨った魔法少女が立っていた。

 魔法少女―水無月霜華は使い魔を見据えると、バイクのエンジンを始動させる。

 そして次の瞬間には…バイクで勢いよく使い魔を轢いていた。

 

 新たな魔法少女が、誕生した瞬間だった。




霜華の魔法少女ストーリーは矢吹風月様の原案を元にして執筆しています。
この場を借りて御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
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