ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
それからの事は曖昧だった。
どうやって二体の魔女から逃げきれたのかは分からない。気付いたら結界を出て、日がすっかり落ちた街を歩いていた。
霜華の脳裏には先程の光景が
これでは、何の為に魔法少女になったのか分からない。何の為に生きてきたのか分からない。自分がこれまでやってきた事を、否定された様な気分になった。
重々しい気持ちが溜息となって漏れる。陰鬱な気分を覚えながら、霜華は自宅へと歩みを進めた。
* * *
その日から、霜華はより一層魔女狩りに精を出す様になった。
閉じ篭っていてもソウルジェムに穢れは溜まる。現実逃避は時間の無駄でしか無い―その事はよく分かっていたからいつも通りの生活を続けた。ただ、以前より魔女狩りの頻度が高くなっただけだ。
魔女になって死ぬなら、戦いの末に死んだ方がいい。それまでは分が悪ければ逃走するという選択肢も(僅かではあるが)視野に入れていたが、現在は逃げるという選択肢を排除し、自分を害そうとするものを片っ端から返り討ちにしていった。霜華自身、他の魔法少女のテリトリーを侵害しているという自覚はあったので他の魔法少女のグリーフシードを奪うという行為に出る事は無かったが、自分のグリーフシードを奪おうとする輩には容赦無く対処していた。何人かは霜華との戦闘が切っ掛けで魔女化したようだったが、知った事では無い。
傍目から見れば自暴自棄としか思えない行動だろう。魔女を討伐した後、襲い掛かって来た魔法少女と続けて交戦するなんて、自殺行為もいい所だ。だけど霜華は必死だった。誰かが殺してくれる事を、自分が満足出来る死を
…結局、固有魔法や霜華自身の実力により、その機会が訪れる事は全くと言っていい程無かった。それに苛立ち、また戦闘を重ねるという悪循環。霜華はそれに疲れ切っていた。
ただ、それだけではなかった。
いつの間にか、何処かでその状況を渇望していた自分が居る事に気付いた。それを自覚した事で次第に疲れよりもそちらの感情の方が勝っていき―霜華は、闘争を求める様になっていった。
私は生きている。
死に向かって、今を必死に生きているのだ。
戦えば戦う程、霜華は満たされていく。
自分の信条に向かい、歩んでいける。
ソウルジェムは光り輝き、霜華の生き生きとした気持ちを反映しているかの様だった。
紆余曲折あったものの、魔法少女の真実は霜華にとってプラスの方向に働いたのだ。
* * *
ある日を境に、魔女に遭遇する機会が減ってきた。
最初は気にもとめなかったのだが、日を経るにつれ魔女の減少の影響が目に見えて現れてくるようになった。魔女は減ったが魔法少女は減っておらず、その戦闘でグリーフシードを消費した結果、グリーフシードのストックが減ってきたのだ。
もしや、狩りすぎたのだろうか―そう思い、試しに隣街に足を運んでみた。だが隣街―陽ヶ鳴市でも魔女が減っているらしく、魔女に出会う事は無かった。ふたつの街は元々魔女が少ない街ではあるが、それでもこれはおかしい。
魔女が減る事は良い事ではあるのだが、魔法少女にとっては文字通り死活問題だ。どうしたものかと思っていた時、ひとつの電話が掛かってきた。
「…もしもし、水無月君かい?唐突で済まないけど…君、神浜に行く気あるかな?」
電話を掛けてきたのは森岡誠司だった。
「神浜?」
聞いた事はある地名だが話が見えず、霜華は困惑する。
「実はね、ちょっと用が出来て神浜に行こうとしているんだ。それでよければ君もどうかなって」
「…私じゃなくてもいいと思うけど」
今は悠長に観光をしている場合ではないのだ。霜華は断ろうとした。
だが、
「神浜には魔女が多く存在している。今、街に魔女はあまりいないだろう?どうやら神浜に魔女が集まっているみたいなんだ」
彼処の魔女は強いと聞く。それでもいいなら、行ってみてもいいんじゃないかな―そう森岡は言った。
「…それ、本当の事なの?」
魔女は僅かながらではあるが戻り始めている。結局何が原因かは分からなかったが、戻ってきたのならばどうでもいい事だ。
だが戻ったと
暫く考えて、霜華は答えた。
「…行くわ」
「そうか、なら―」
森岡は細かい説明を始める。
それを聞きながら、霜華は神浜に思いを馳せた。
―魔女が強いというならば、魔法少女もまた、それなりに強いのだろう。
それなら私の願いも叶う筈だ。魔女でも魔法少女でもいい。誰かが私を満足させてくれる筈だ。
表面上は無表情であったが、霜華の心中は悦びに満ち溢れていた。
…こうして水無月霜華は、自身の信条を貫く為に神浜市へと向かう事になった。
そこで何が起こったのか、そして彼女の願いが叶ったのかどうかは―また別の話である。
霜華の魔法少女ストーリーはこれで終わりです。
次回から、サブキャラ(美雪、美奈、真奈、渚)の魔法少女ストーリーを書いていきます。本編はもう少しお待ち下さい。