ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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日向美雪編 第3話『為すべき事は』

 その青年を見掛けたのは、大学の講義室での事だった。

 確か、心理学か何かの講義だったと記憶している。皆が友達と一緒に居る中、虚ろな目をしてひとりで座る青年―近くに座っていた事もあり、何故か彼が気になった。

「美雪、どしたの?」

 一緒に座っていた友達が不思議そうに美雪の顔を見た。どうやらぼんやりしていたらしい。

「ううん、なんでもないよ…ねぇ、あの人って…」

 美雪は友達に青年の事を訊いてみた。友達は交友関係が広いし、何か知っているかもしれないと思っての事だ。

 案の定、友達は知っていたようで、眉をひそめて小さな声で言った。

「アレは日文(日本文学科)の学生だよ。確か森岡とかいったかな…アタシ、演習のクラスが一緒だったから覚えてるんだけど…なんていうか、根暗だよ。誰とも話さないし、マジの陰キャって感じ」

 なに美雪、あんなのがタイプなの?―友達は驚いた様に訊いた。

「えっと…あはは、ただちょっと気になっただけ」

 美雪は笑って誤魔化しながら、森岡の方をちらりと見た。

 深い絶望と諦念に彩られた眼…どういう経験をしたら、あんな眼になるのだろう。

 ちょうどその時に先生が講義室に入って来た為、そこで美雪の思考は中断された。

 

   *   *   *

 

 講義が終わり、生徒が講義室を出ていく。美雪はこれで今日の分の講義が終わった為、友達と別れて帰路についた。

 森岡はいつの間にか消えていた。見た限りでは魔女の口づけを受けた様子は無かったが、少し心配になった。最も、自分が出来る事なんて殆ど無いのだが…。

 通い慣れた道を歩く。大学に入学したのはつい最近だが、だんだん慣れつつあった。実家から近い大学に入学したのも大きいといえる。

 大学生になった今でも、魔法少女の活動は続けていた。今も魔女の反応を感じ、元来た道を引き返した所だ。

 少しずつ魔力は衰え始めているものの、まだまだ現役だった。美雪は直ぐに結界を見つけ、中に入る。

 と、そこで予想だにしない事が起きた。結界内にひとりの男性が迷い込んでいた。それは予想範囲内なのだが、ちらりと後ろを向いたその顔を見て、美雪は驚いた。

(あの人…森岡さん?)

 恐らく帰宅途中に引き込まれたに違いない。美雪は一瞬だけ逡巡したが、変身して森岡に襲いかからんとしていた使い魔を次々と倒していった。

「大丈夫!?」

 粗方片付いたところで、美雪はぼんやりしている森岡に駆け寄る。彼は美雪をちらりと見て、「問題ない」と頷いた。

「使い魔に襲われる直前で助けて貰ったからね」

「…え?」

 美雪は呆けた声を出した。森岡の言った事が聞こえなかったのでは無く、森岡の口から「使い魔」という言葉が出てきた事に驚いたのだ。

「使い魔が…見えるの?」

「まあね。僕は逃げるけど、君はどうする?」

「わ、私は…先に進むけど、その前に君を入口まで援護するよ」

「…ありがとう」

 森岡は微笑んだ。この状況で微笑むとは…一体、彼は何者なのだろうか。

 森岡を入口まで送り、魔女の居る最深部まで進む間も、美雪の頭は疑問で満ちていた。

 

   *   *   *

 

 魔女を倒し、結界が解除される。

 美雪がひと息ついていると、「さっきはありがとう」という声がした。森岡が此方に向かって歩いて来る所だった。

 美雪は「無事で良かった」と微笑んでから、

「あの…森岡くん、だよね。さっき、社会心理学の講義にいた…」

「…というと、君もあの講義に居たのか」

 森岡は驚く様子も無く呟いた。美雪は頷き、気になった事を質問してみる。

「使い魔の事を知ってたみたいだけど…」

「ああ、僕は魔女や使い魔が見える体質だからね」

 森岡は事も無げに言うが、美雪にとっては驚くべき事だ。魔法少女では無い、それも男性が魔女や使い魔を認知しているとは…。

 と、そこへもうひとつの声が割り込んだ。

「森岡誠司。キミが居るのは珍しいね」

「…キュゥべえか。君こそ、契約で忙しそうじゃないか」

 森岡は嫌悪感の篭った目でキュゥべえを見る。キュゥべえは美雪の方を見て「彼が珍しいかい?」と言った。

「え?あ、うん…」

「種を明かせば珍しい事じゃない。これは呪いみたいなものだしね」

 森岡が吐き捨てる様に言う。キュゥべえは「間違ってはいないね」とそれを肯定した。

「呪い?」

「…キュゥべえのいる所で話したくはないな。場所を変えようか」

 森岡は近くのファストフード店まで美雪を連れていき、自身の抱える特異性とその原因について話し始めた。

 

   *   *   *

 

「そんな事が…」

 話を聞き終えた美雪は呆然と呟く。

「厄介な体質だけど仕方が無い。僕はそれだけの事をしたんだから」

 森岡は自嘲する様に言って、窓の外を眺めた。もうすぐ日が暮れようとしている。

「まあ、僕に出来る事は少ない。だけど何かあったら言うといい。話を聞くくらいなら出来るだろうから」

 森岡はそう言うと立ち上がり、「お金置いておくから払っておいてくれ」と自分が飲んだコーヒーの代金を置いて店を出て行った。

 後には、美雪だけが残された。

 

 森岡の話を聞いて、思う事があった。今までの決意を、再びなぞり直したのだ。

 自分の過去を話す森岡の目は、とても哀しそうだった。大切な人を喪い、それが自分のせいだと言われたのだ。そんな理不尽、あっていい筈が無い。

 今までも他人の為に戦っていた。自分や逆浪の様な人を増やしたく無い―その一心で、戦い続けた。

 今日、森岡の話を聞いてその決意が一層強くなった。

 例え、自分が死んでしまっても、最期の瞬間まで、魔女と戦う…それこそが、自分が()すべき事だ。

 魔力は衰え始めている。もしかしたら数年のうちに、引退する事になるかもしれない。

 その時まで、戦うのだ。みんなを護る魔法少女として、悪しき呪いを振り撒く魔女と。

 特に、自分と森岡に消えない傷を着けた子喰いの魔女…あの魔女だけは、絶対に(たお)す。

 ここ最近は現れておらず、次にいつ現れるかも分からない。だけど次にヤツと合間見えたその時に…決着をつける。

 美雪はソウルジェムを宝石状にする。

 強い決意が、穢れ無きソウルジェムをより一層光らせた。

 

   *   *   *

 

「美雪さん!」

 

「どうしたのつばめちゃん、そんなに慌てて…」

 

「冬天市に、子喰いの魔女が…!」

 

「…そう、分かった」

 

「…行くんですか?」

 

「うん。君と夢羽(むう)ちゃんにはここにいて、陽ヶ鳴の魔女の討伐をお願いしたいんだ」

 

「それは大丈夫ですけど…でも、危険ですよ!」

 

「大丈夫、心配しないで。私が居ない間、頼んだよ」

 

 自分を不安そうな目で見る後輩魔法少女の頭を撫で、冬天市に向かう準備を整える。

 前回現れた時は間に合わなかったが、今回は違う。

 

「…じゃあ、行ってくるね」

 

 行こう。

 みんなを、護る為に。




美雪の魔法少女ストーリーはこれで終わりです。
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