ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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美奈の魔法少女ストーリーです。


木本美奈編 第1話『ありふれた出会い』

 ―大きな牙がソウルジェムを砕いた時、少女の心中に後悔は無かった。

 こうなる事は分かっていた。魔法少女を続けていれば、いずれは何処かで命を落とす…そんな事は、分かりきっていた。

 後悔は無い。幸せな夢を見れただけで、満足だったから。

 ああ、でも、ひとつだけわがままを言えるなら…

 

 …もっと彼と、一緒に居たかったなぁ。

 

   *   *   *

 

 その人と初めて会話をしたのは、高校に入学して初めてのホームルームでの事だった。

 今まで通っていた小学校や中学校から離れた高校に入って、それと同時に自分の世界も広がった。

 だけど知り合いは居なくて、唯一頼れるのは双子の姉だけ。その姉とはクラスが別になってしまい、本当にひとりぼっちだった。

 周りは中学から一緒…という人が多いようで、直ぐに会話を始めていた。コミュ障という訳では無いしその輪に入ろうと思えば入れるのだが、どうも逡巡してしまう。

 これは良くないぞ…と思い、教室をキョロキョロと見回してみる。すると少し離れた席に、ひとりでぼんやりとしている男子生徒が居るのを見つけた。

 黒縁のメガネを掛けた温和そうな男子生徒だ。彼の周りには複数のクラスメイトが居たが、どうやら彼と話すのは諦めたらしく声を掛ける様子は無かった。

 男子だし、話しにくいかな…と思ったが、ここは勇気を出して話しかけるべきだ、という結論に至った為、意を決して立ち上がり、彼の方へと向かった。

「あ、あの…」

 声を掛けると、彼はこちらを向いて「どうしたの?」と聞いた。不思議そうな声色から察するに、いきなり話しかけられた事に驚いている様だった。

「あ、いや…君もひとりだったから、話しかけてみようかなぁって」

「そっか。でも初対面だし、話題なんて無いしなぁ…君、好きなものとかある?」

「え?えっと…」

 いきなり聞かれて狼狽する。好きなもの?色々あるけど…女児向けアニメとか御朱印とか…ダメだ、話題になりそうなものが無い。

 どうしたものかと思い、何気なく男子生徒の机に目を遣る。すると話題になりそうなものが見つかった。

「… 各務(かがみ)亜里朱(ありす)の小説、かな」

「へぇ…気が合うね、僕も好きなんだ」

 各務亜里朱というのは小説家で、日常ものからミステリーまで幅広い作風で注目されている。たまたま何冊か読んだ事があり、ハマっているとまではいかなくても多少の話が出来る程度の知識は持ち合わせていた。

「私が好きなのは『時計と兎の殺人』なんだけど…君は?」

「僕は『狂った帽子屋の憂鬱』かな。日常ものに見せかけたミステリーってあまり無い気がするし、最後のどんでん返しが…ってまだ読んでなかったらごめん」

「ううん、大丈夫…」

 小説の事になると、途端に彼は饒舌になった。好きなものには目が無いタイプなのだろう。

「そういえば、名前は?」

 男子生徒はいきなり訊いてきた。これは友達を作るチャンスと思い、名乗る。

「木本美奈。よろしくね」

「木本さんか…僕は森岡誠司。なんの特技も無い平々凡々なヤツだけど、よろしく」

 男子生徒―森岡誠司は微笑を浮かべた。

 変なひとだな、と思った。

 だけど、悪くは無い。むしろ心地良かった。

 

*  

 

 森岡は本当に変な男子生徒だった。

 周りと会話をする事はあまりなく、最低限の連絡事項しかやりとりは無かった。穏やかで馴染みやすい人柄だとは思うのだけれど、何故か馴染めず奇妙に出っ張っている…そんな感じだ。

 教室に居る時は本を読んでいて、大体が小説だった。各務亜里朱の小説だったり、他の小説家の小説だったり、ミステリーだったりラノベだったり…そんなに読んでいて疲れないのかなと思うくらい読んでいた。美奈はよく彼と話をしたが、小説に関する知識はとても凄かったし、何より小説の話をしている時の彼は年相応というか…普段より明るく、笑顔も多かった。美奈も彼と話していて楽しかったし、他の友達とはしゃぐより、森岡とふたりだけでゆっくりした時間を過ごす事が良いと思う事もあった。

 そもそも美奈は上手くやっていけているのかという話だが、クラスに馴染んで話す人も出来たので上手くやっていけていた。最初は馴染めるか少し心配だったのだけれど、いざ話してみると全然そんな事は無かった。元々美奈は穏やかな気質だし、他人に合わせるのも苦痛では無い。高校生活三日目には友達と遊びにいったくらいに馴染んでいた。

 ちなみに、美奈の姉である木本真奈はというと、森岡と同じ様に集団に馴染めずに独りで居るらしい。最も、彼女は孤独癖がある為、集団に合わせる方が苦痛な様だった。昼食も美奈と食べるか、そうでなければひとりで食べている。

 ある時、真奈に森岡の事を話してみると、彼女はぶっきらぼうに、

「構う必要は無いと思うけどね。ソイツもあたしと同じ…誰かと居るよりひとりでいる方が楽だと思ってるタイプなんだよ」

 寧ろ、誰かにくっつかれる方が迷惑なんだろうよと真奈は言って、持っていた紙パックのジュースを飲み干した。

(…確かに、森岡くんにはそういう一面がある、よね)

 真奈の言う事は的を得ている様に思える。だけど、本当にそうだろうか?確かに森岡は自分から進んで会話に混ざるとか、そういった事はしない人間だ。

 だが、だからといってひとりで居る事が好きだとは思えない。誰かと居る事が嫌なら、何故美奈を邪険に扱わないのだろう?

 …あるいは、美奈が勝手にそう思っているだけかもしれない。

 この時点で、美奈は森岡に友情とは別の何かを抱いていた。それは放っておけないという気持ちだったのかもしれないし、もっと別の、甘酸っぱいものだったのかもしれない。

 今の段階では自覚は無かったし、後で振り替えってみてもどうして自分が森岡に惹かれたのか…上手く説明は出来ないのだけれど。

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