ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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木本美奈編 第2話『自分の為の願い』

 その頃から、美奈は変なものにまとわりつかれる様になった。

 キュゥべえと名乗るその不思議な生き物は美奈に魔法少女の素質があるといい、しつこく契約を迫ってきたのだ。

 最初はびっくりした。イタチだか犬だかなんだか知らないが、ヘンテコな生き物(しかも喋る)が自分の行く先々に現れ、魔法少女になれと言うなんて…夢でも見ているかのようだ。というか、本当に幻覚の可能性も否定出来ない。自分はそこまでおかしな人間では無い筈なのだけれど…。

 然し、美奈はこの出来事が幻で無い事を知っていた。姉である真奈にもキュゥべえが見えていたのだ。

 それはすなわち、姉妹揃って魔法少女になる素質があるという事に他ならなかった。

 

 

「…っち、またかよ」

 自宅で勉強している最中、真奈が窓の方を見て忌々しげに舌打ちをした。

 美奈もそちらを見てみると、窓の外には見慣れた影。美奈は立ち上がり、窓を開けてその生き物―キュゥべえを入れてあげた。

「ありがとう、美奈」

「おいおい美奈、そのクソタヌキにそんな事しなくてもいいって」

 勉強の邪魔だ出ていけよ―真奈は噛み付くように言ったが、そもそも真奈は勉強していない。先程から漫画を読んでいるだけだ。

「キミは勉強していないみたいだけどね」

 キュゥべえに指摘された真奈は無言でキュゥべえに近付くとその躰を掴み、開いたままの窓から投げ捨てた。ちなみに美奈と真奈は共同で部屋を使っており、部屋は二階にある。

「お姉ちゃん!?」

 流石にやりすぎだと思い、美奈は慌てて窓から下を覗き込んだ。

 すると、

「ひどいじゃないか」

 キュゥべえが下から美奈を見上げていた。

 猫は高い所から落ちても平気…みたいな事を聞いた事があるが、キュゥべえもまさにそんな感じなのだろう。テレパシーを使っているので声も鮮明に聞こえる。

「なんで無事なんだよ」

 美奈の横から下を覗き込んだ真奈が顔を顰めた。どうやら本気で排除するつもりだったらしい。

「まったく…もっと大事に扱って欲しいよ」

「言ってろ。とっとと失せないと今度こそぶっ殺すぞ」

「お姉ちゃん…」

 美奈は少しばかり呆れた。

 確かに、真奈の気持ちも分かる。得体のしれないモノから美奈を護ろうとしてくれているのは、嬉しい。

 だけどキュゥべえがそれだけで引くとは思わなかったし…実を言えば、美奈はキュゥべえの話に興味があった。

 願い事を叶える事と引き換えに魔法少女として戦う。魔女がどんなものか分からないし、恐怖はあるけれど…それでも、願いがひとつ叶うという事は魅力的だった。

 叶えたい願いは…まだ、ぼんやりとしか浮かんでいないのだけれど。

 

 

「…木本、どうしたんだい?」

 どうやらぼんやりしていたらしい。森岡の声に我に返った美奈は、「ううん、なんでもない…」と誤魔化す様に笑顔を浮かべた。

 魔法少女になる為に叶える願い…それを、ずっと考えていた。

 お陰で授業中はぼんやりしてしまい、何度か先生に注意された。

「珍しいね、君がぼんやりするなんて…熱でもあるのかい?」

 森岡は心配そうに訊いた。

「ううん、大丈夫…」

 言って、美奈は辺りを見渡した。

 放課後の教室。美奈と森岡の他には人は居ない。美奈の前では森岡が文庫本に目を落とし、没頭している。

 偶に、こうやってふたりで居る事があった。日常の喧騒から離れた、穏やかな時間。濁流と清水…は、言い過ぎかもしれないけれど、イメージとしてはそんな感じ。

 悪くはない。別に日常が嫌いという訳では無いし、騒がしさを忌避している訳でも無い。だけど…どちらかというと、この穏やかな時間の方が気質に合っていると思うし、美奈は好きだった。

 森岡は変わり者だ。集団に馴染めないし必要以上に干渉もしない。自分だけの世界を作り、そこに閉じこもっているように見えた。

 だけど、彼はその世界に美奈を入れてくれた。偶然、美奈と森岡の気質が合ったからかもしれないし、あるいは他の理由があるのかもしれない。それは分からないけれど…だけど、森岡は美奈にだけ別の顔を見せてくれる様な、そんな気がしていた。

 

(…あ)

 

 と、そこで思い付いた事があった。

 自分の叶えたい願いというものは、これじゃないのか?

 この時間を森岡と共有したいというちいさな願望―それこそが、美奈を魔法少女にする願望じゃないのか?

 …他にも色々あるのかもしれないけれど、それでも、美奈は決めた。

 この穏やかな世界がいつまでも続くように、魔法の使者に願う事を。

 

 

「…アンタ、本当にやるつもりかよ」

 その日の夜。家から程よく近い公園で、美奈はキュゥべえを呼び出した。

 現れたキュゥべえはいつもの様に無表情でこちらを見ている。意を決して美奈が口を開きかけた、その時―真奈が美奈に言った。

「本当に、その願いで魔法少女になるつもりか?」

「うん。もう決めた事だから」

「…やめておいた方がいいと思うけどな」

 真奈は真剣な眼差しで美奈を見た。

「魔法少女になる事も、その願いの事も…だいたい、森岡はヘンテコなヤツだ。あんなヤツの為に命を掛けるなんて」

「お姉ちゃん」

 美奈は静かな声で、然しハッキリと真奈を制止した。

 真奈が森岡に対してあまりいい感情を持っていない事は分かっていた。美奈に森岡と付き合う事を止めるよう言った事もある。

 だけど…これはもう決めた事なのだ。

「キュゥべえ」

 美奈はキュゥべえの方を見た。

「おい、美奈…ッ!」

「私は…」

 

 ―森岡くんと一緒の時間を共有したい。

 

 真奈が声を上げたが、その時には既に、美奈は契約を終えていた。

 こうして、美奈は魔法少女となり…願いの効果により、森岡と付き合い始める事になった。

 

 …そしてこの願いが、後に森岡を苦しめる事になる。




場面転換時のアスタリスクの数が回によって違うのは私のミスです…。
基本的にひとつで統一する様にはしてますがかなりの確率でミスします、本当にすみません。
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