ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜   作:転寝

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木本美奈編 第3話『決意とお終い』

 願いの効果。

 それは絶大なもので、美奈は森岡と付き合う事になった。

 どちらから告白したのかは曖昧だった。気付いたら恋人になっていて、そこに至るプロセスはぼんやりしていてよく覚えていない。美奈が舞い上がっていた可能性もある。

 とはいえ恋人同士になった事で何かが劇的に変化したのかというとそんな事は無く、美奈と森岡はいつも通りの日常を過ごしていた。

 昼食を一緒に食べたり、放課後の教室で一緒に過ごしたり…魔法少女になる前と変わらない日常が続いていた事に、美奈は満足だった。

 それと同時に、その裏で美奈が苦しんでいるのを森岡が知らない事に、寂しさを覚えていた。

 もし打ち明けてしまえば、この日常は崩壊する…それは分かっていたから、森岡に打ち明ける様な事はしなかったけれど、それでも美奈の中に芽生えた気持ちは日に日に大きくなっていく。

 魔女との戦いは大変だが、願いの代償なのだから仕方が無いと割り切る事が出来た。人を救っているという実感もあったからこそ、比較的ポジティブに捉えられたともいえる。

 だが、その戦いは余りにも孤独で辛いものだった。

 弱音こそ吐かなかったし、辛い顔も見せなかったけれど…それでも、美奈はどんどん憔悴していった。

 

   *   *   *

 

「…なあ美奈、大丈夫か?」

 ある日の事。

 魔女を討伐して家に帰って来た美奈に、真奈が心配そうな顔をして訊いた。

「大丈夫って?」

「お前、最近疲れてるだろ…魔女との戦いが苦しいんじゃないのか?」

「…ううん、大丈夫だよ…」

 嘘だ。真奈の言う通り、美奈はかなり疲れている。

 咄嗟に誤魔化したが、恐らく真奈にはバレているだろう。現に真奈はこちらを睨むように見て、「嘘をつくな」と低い声で言った。

「そのくらいわかるよ。それに、あたしだって魔法少女の事は知っている…少しくらい頼れよ」

「お姉ちゃん…」

「…あたしは、森岡もキュゥべえも嫌いだ」

 真奈は静かな声で呟く。

「だけど、アンタは放っておけない…だからさ、美奈…森岡に打ち明けないか?」

「え…」

 真奈の提案に美奈は驚いたが、直ぐに首を横に振った。

「ダメだよ…そんな事したら、セイ君まで巻き込む事になる!」

「それでいいんだよ。アンタも思ってるんだろ?誰にも知られずに戦うのは辛いって」

「それは…」

 そうだけれど、でも…。

「アンタひとりが苦しむ必要なんてない。アイツはアンタの恋人なんだろ?なら、打ち明けるべきだ…それでアイツが訳分からないとか巫山戯た事を抜かす様ならその時はあたしがぶっ飛ばすからさ」

「ぶ、ぶっ飛ばす…」

 とにかく、打ち明けてみな―そう言われて、美奈は悩みながらも曖昧に頷いた。

 …確かに、真奈の言う通りかもしれない。

 森岡なら分かってくれる可能性もあるし、それに…自分自身、もう限界だった。

 

 …セイ君に、打ち明けてみよう。

 私が日常と非日常の間を綱渡りしている事を。

 

   *   *   *

 

 ―結論から言うと、森岡は受け入れてくれた。

 彼に打ち明け、実際に魔法少女に変身したタイミングで魔女が現れたのがある意味では良かったのかもしれない。強制的に信じざるを得ない状況に置かれたという訳だ。

 話が終わり、真奈と共に帰る途中、真奈がぽつりと言った。

「…よかったな」

「えっ?」

「森岡が信じてくれてよかったなって」

 真奈は無表情で美奈を見る。今まで姉がそんな表情を浮かべる事など無かったので、美奈は一瞬だけ返答に窮した。

「うん…」

 結局、当たり障りのない相槌を打っただけだった。

 

 これでよかったんだ。

 これで、私はまた頑張れる。

 魔法少女として、願いの対価を支払う事が出来る…森岡くんを助ける事だって出来る。

 もっと頑張らなくちゃ…。 

 

 美奈は帰り道、ずっとそんな事を考えていた。

 

 だけど、そんな決意も虚しく。

 数日後に彼女は命を落とす事になる。

 

   *   *   *

 

 その魔女を見つけたのは本当に偶然だった。

 夏休みに入り、やる事が無いので図書館にでも行こうと家を出て歩き出した、その途中。

 魔女の口づけを受けた子供を見つけ、直ぐに追いかけて、そしてその魔女と遭遇した。

 結界の中は荒れ果てた遊園地。そこらかしこを魔女の使い魔と思われる醜悪な着ぐるみがうろついている。

 ソイツらは美奈を…否、魔女の口づけを受けた子供を見つけるとわらわらと寄ってきた。美奈は虚ろな目をした子供を抱き抱え、大きく跳躍して包囲網から逃れる。

 着地した途端、また別の包囲網。

 キリが無い。美奈は得物―長槍を構え、大きく薙ぎ払った。

 前方に居た使い魔がぶっ飛ばされ、道が出来る。美奈は走り出し、結界の出口まで辿り着くと子供を脱出させ、次いで自分も結界から脱出…出来なかった。

「きゃっ!?」

 突然、横から強い衝撃。

 美奈は吹っ飛ばされ、勢いよく地面に叩きつけられた。

「いっ…何、が…」

 自分を吹っ飛ばしたのは何体かの使い魔だった。彼らはグロテスクな顔を互いに見合わせると、集団で美奈を拘束しに掛かった。吹っ飛ばされ、一瞬だけ思考に空白が出来た所を突かれた形となる。

「離してっ!」

 藻掻き、振りほどくが多勢に無勢だ。数で抑え込まれ、散々抵抗した末に、

「あああっ!」

 鈍い音と共に、美奈の左腕が切り落とされた。使い魔が持っていた鉈で切り落としたのだ。痛みは少ないとはいえ、ショックで美奈は悲鳴を上げた。

 美奈の身体から力が抜けたのを認めると、使い魔達は彼女を結界の奥へと引き摺っていった。

 そこにはメリーゴーランドがあった。但しただのメリーゴーランドではなく、無数の牙が生えたバケモノだった。

 ソイツは美奈を認識すると此方(こちら)に近付いてきた。美奈は痛みに耐えながら使い魔の拘束を振りほどこうと必死に藻掻く。

 魔女はそんな彼女を嘲笑うように近付き、そして…

 

「あ っ」

 

 美奈の脳天を、牙が貫く。

 脳味噌を抉られ、思考が停止し、そのまま視界が暗転する。

 そんな状態でも、まだ生きていた。

 魔女は美奈をゆっくりと食べ始める。

 もう感覚もないから、よく分からないけれど…多分、自分は負けたのだ。

 これで終わり。

 後は意識が消えれば、それでお終い。

 実に、呆気なかった。

 

 (やが)て、大きな牙がソウルジェムを砕き、それと同時に何もわからなくなる。

 こうなる事は分かっていた。魔法少女を続けていれば、いずれは何処かで命を落とす…そんな事は、分かりきっていた。

 後悔は無い。幸せな夢を見れただけで、満足だったから。

 ああ、でも、ひとつだけわがままを言えるなら…

 

 …もっと彼と、一緒に居たかったなぁ。

 

 …こうして、木本美奈は呆気なく死亡した。

 だから、彼女の物語はこれで終わり。

 後に残された木本真奈と森岡誠司がどの様な絶望を体感したのかは…ここで語るべき物語では無い。

 

 今、といえばいいのかは分からないけれど。

 現在も、美奈はふたりに再会出来ていない。

 だからふたりがどうなったのかも、知らないままだ。




美奈の魔法少女ストーリーはこれで終わりです。

詳しい事は次の魔法少女ストーリー(木本真奈編)が終わったら書きますが、真奈編のあとに書く予定だったお話(反町渚編)はここでは書かず、独立した作品にしようと思っています。
なので、真奈編が終わったら本編再開となります。いつもの如く急な告知で申し訳ございません。
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