ある少女の物語〜マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝より〜 作:転寝
久しぶりに書いた為、おかしい所が多いと思われます…。
ちなみに、今回で過去編は終わりです。
2020/03/30…サブタイトルを一部変更しました。
「魔法…少女…?」
目の前に現れた白い妖精が言った言葉。その言葉は、「魔法少女」になれば、自分の運命を変えられる…そんな風に聞こえた。
「そう。キミにはその資質がある」
…白い妖精は、今思えば妙な存在だった。口を一切動かさずに喋り、ビー玉を思わせるその無機質な赤い目はわたしをじっと見ている。頭の中に響く声は少年のものだったが性別は分からない。もしかしたら性別なんて無いのかもしれない。動かなければぬいぐるみと間違えてしまうようなその身体は、然しある種の迫力を伴っているようにも思えた。
白い妖精と話すわたしの後ろで、何人もの人がわたしを怪訝そうに見ながら歩き去っていった。後で聞いた話では、この妖精は普通の人には見えないらしい。
普段なら自分の正気を疑うところだが、その時のわたしは疑いもせずに話を聞いていた。
「…どんな願いでも、叶えられるの?」
「勿論。なんでもできるよ」
その誘いは、あの時のわたしにとってはまさに救いとも言えるものだった。目の前にいる妖精の事が、天使だとも思えた。
「…その話、詳しく聞かせて」
白い妖精は「キュゥべえ」と名乗った。
キュゥべえによれば、魔法少女になれる資格がある者は彼(性別は分からないけれど…)と契約をする事で願いを一つ叶えることが出来る。但しリスクもあり、願いを叶えた者は魔法少女となり、悪しき「魔女」と戦う使命を負わされる。わたし達が知らないだけでこれまでの歴史の中でも魔法少女は存在し、この世界を守ってきた…という事だった。
「…それ、本当の事なの…?」
「全て事実さ。キミ達が知らないだけで今もこの世界には多くの魔法少女がいる」
キュウべぇから告げられた話は衝撃的だった。わたし達の知らないところで、少女達が自分の命を削って戦っている…その事実は、わたしの積み上げてきた価値観をあっさりと破壊した。それこそ、わたしが抱えている絶望を一瞬忘れそうになるくらいに。
わたし達の平和は、彼女達の屍の上で成り立つ脆いものなのかもしれない…そんな事を考えて、急に怖くなった。
魔法少女になればわたしの抱えている黒くてモヤモヤしたものは消えるだろうけど、この先ずっと戦い続ける事になる。それがどんなに辛くて苦しいものなのか…あの時のわたしには想像できなかった。でも、選択を誤れば、一生苦しむ事になるという事は理解出来た。
「…ちょっと考えさせて。魔法少女になるって言うのは簡単だろうけど、それでこの先苦しむ事になるかもしれない。だから…」
「分かった。ボクはいつでも歓迎するよ」
キュゥべえと話しているうちに少しずつ落ち着いてきた。それは魔法少女になれば全てを丸く収めることが出来るかもしれないという「希望」を手に入れたからかもしれない。あくまでも最終手段ではあるけれど、それでわたしの失敗を無かった事に出来るなら、わたしは…。
取り敢えず、一度みんなの所に戻った方がいいだろう。そう思ってわたしは歩き出した。
だけど、そこで待っていたのは……地獄だった。
観客席に続く扉の前に辿り着いた時、その光景が目に入った。
「だからさぁ…あんたが琴音のフォローに回らなかったのが悪いんだよ。そこ、理解してる?」
「………」
何人かの部員が秕ちゃんを取り囲んでいる。彼女らの雰囲気はどう見ても穏やかなものでは無かった。
秕ちゃんはぼんやりと何処かを見つめていて、他の部員達はそれに苛立っているようだった。
「ちょっと、聞いてんのぉ!?」
「あんたがグロッケン運び終えてぼーっとしてなきゃ琴音はあんなミスしなかったんじゃないの?そうでしょ!?」
……違う。あれは秕ちゃんのせいじゃない。あれは事故だ。…そう、事故なんだ、だから…。
「黙り?なんも言う気ないの?あんたがしっかりしてれば、あたし達は金賞取れたのかもしれないのにさぁ!」
「他の皆の手伝いもしないでぼーっとしてるなんてさぁ、あんたが協調性ないのは嫌でも分かってるけど流石に空気読まないとまずいとか思わないの?だから嫌われんだよ!」
違う、違う、違う…!
「大体さ、よくそんなんで部活にい続けられるよね?皆から嫌われてるっての理解してる?あんたいつも琴音にくっ付いてるけどさ、どうせ迷惑ばかりかけてんだろ?琴音の気持ちももう少し考えたらァ?」
「…………」
全く応えない様子でぼんやりしている秕ちゃんに痺れを切らしたのか、彼女を取り囲む部員の一人が秕ちゃんを強く突き飛ばした。
秕ちゃんがよろめく。瞬間、わたしの足は自然に動いていた。
「秕ちゃん!」
駆け寄ろうとしたが、何人かの部員が行く手を阻んだ。
「琴音、あんなやつに同情なんてしない方がいい。じゃないとあんたが潰れるよ」
「そんな事は…」
「ない、なんて言いきれないだろ?あたし達は、あんたを助けようとしてるんだ。あいつのせいで、あんたはあんなミスをしたんだろ?あいつが助けてくれなかったから、あのまま始めざるを得なかったんだろ?」
「それは違う…」
「何が違うんだよ。あんたは優しいから口には出さないけど、本当はそう思ってるんじゃないの?」
「わたし、は…」
言われて、初めて気付いた。わたしの奥底から、聴こえてくる声に。
(秕ちゃんが来てくれたら、わたしはミスをしなかったかもしれない)
(違う、そんな事は有り得ない!あれはそんな短時間で直せるものじゃない)
(でもあの子は来なかったよね?わたしが慌てているのを見ても、ぼんやりしていたよね?)
(違う、違う!そんな事はない!わたしはそんな事は思ってない!)
頭の中でふたつの声がせめぎ合う。
(認めなよ。秕ちゃんのせいだって認めなよ。そうすれば楽になるよ?)
(それはただの責任転嫁だ!しちゃいけない事なんだ!)
目の前が暗くなる。意識があやふやになり、思考が混濁していく。
嫌だ。
こんな事、間違っている。
わたしはどうすればいいの?
無かった事にすればいいの?
そうすればわたしは、秕ちゃんは、みんなは救われるの?
分からない。わからない。ワカラナイ。
―ワタシハ、ナニヲネガエバイイノ?
…わたしは、気付かないうちに先程キュゥべえに出会った場所に戻っていた。目の前には相変わらずキュゥべえが居て、わたしをじっと見上げている。
わたしは掠れた声で訊いた。
「…キュゥべえ」
「なんだい?」
「わたしは、どうすればいいの?」
「どういう事だい?」
「無かった事にすればいいの?それともほかの事を願った方がいいの?」
キュゥべえは暫く黙り込んでいた。その赤いビー玉のような眼は、無機質にわたしの姿を映すだけで、彼が何を考えているのかは分からない。…やがて、彼は答えた。
「それはボクにもわからないよ。でも…キミが今の状況を変えたいと思っているなら、それは多分、無理だろうね」
「…どうして?」
「吹綿秕…彼女は自分の才能を過信するあまり、周りと合わせるという事をしてこなかった。それが溜まりに溜まって、今回の事を切っ掛けに吹き出しているというのが今の状態だ。他の部員はキミがミスをしたという事は分かってるのだろう。だけど、吹綿秕がキミを手伝わなかったという事もまた事実だ。それに日頃の妬みが合わさって、この事態が起きたのだろう。だから、キミが今の状況を無かった事にしたとしても、何れ今回のような事態はまた起きるだろうね」
そこで一旦言葉を区切り、また続ける。
「加えて、過去を下手に改変するとどのような事態になるのか、ボクにも想像できないんだ。もしかしたら、今よりも酷い事が起こるかもしれないよ」
キュゥべえの言っている事には説得力があり、わたしはそれに呑まれかけていた。それに重なるように、前に秕ちゃんが言った言葉が蘇る。わたしが起こった事をやり直せたとして、そのチャンスを使うかどうか彼女に尋ねた時の事だ。
―その機会が全員に与えられたものなら、それを行使するべきだろ。でも、それが誰かひとりにだけ与えられたものなら…使うべきじゃないんじゃないか?フェアじゃないし、何よりそれは使い方を間違えれば今まで積み上げできたものを否定しかねないしね―
…確かに、そうかもしれない。
でも、それならわたしは何を願えばいいんだろう。
金賞を獲りたい?でもそれは今まで積み上げてきたものを否定しかねない。
最初からやり直したい?やり直したとして、どうやったらあの事故を防げるのか。
…考えれば考えるほど、わたしは泥沼に嵌っていく。だけれどその時、またわたしの奥底からの声が聞こえた。
(自分だけが助かればいい)
…確かに、それなら、確かに出来るかもしれない。でも、それはダメだ。わたしだけが助かるなんて、許されない。強くそう思った。自分の奥底の声を否定しようとした。
しかし、声は続ける。
(秕ちゃんに仲間の事について聞かれた時、わたしは答えられなかった。それは、わたしが傷付きたくなかったからじゃない?)
……そう、かもしれない。
わたしは自分が傷付きたくなくて、答える事が出来なかった。答えたらどちらかを敵に回すから。
そこまで考えて、気付いた。
……ああ、そうだ。
わたしは、口ではダメだと言いながら、本音では、自分が助かる事を望んでいるんだ。
(何がやり直したいだ。それだって、自分が助かりたいがためじゃないか…キュゥべえは何も変わらないと言った。なら、もう良いじゃないか)
…正直に言って、その時のわたしはおかしかった。冷静な判断が出来ていなかったのかもしれない。
もう何もかもが分からなくなって、自分の本当の気持ちの望むままに「わたし」は言った。
「キュゥべえ」
「なんだい」
「何も変わらないというのなら、わたしを変えて」
「つまり、それは」
「一時的なものでもいい。平穏を下さい」
「…キミは、それでいいのかい?」
「だって、何も変わらないんでしょ?なら、わたしはわたしだけを助けるしかないじゃん」
キュゥべえが少し驚いた様に言った。
「琴音咲、キミは…」
「もう、いいよ。わたしは助かりたい。だからあなたに願うんだよ」
「それで後悔することになってもかい」
「今、この時を乗り切れればいいよ。どうせ、これ以上の絶望なんてないんだし」
暫くの沈黙の後にキュゥべえは言った。
「…分かった、契約は成立だ」
そして、わたしは魔法少女になった。
自分勝手な願いを抱えて、一人の親友を失うのと引き換えに。
願いのおかげかは分からないけれど、わたし達は無事に金賞を獲る事が出来た。無事に終わった事でどうでも良くなったのか部員達はそれ以上秕ちゃんを責める事はしなかった。
だけどこれで丸く収まる筈も無く、次に部活に行った時には、既に秕ちゃんは居なかった。先生の話では急な都合により転校したという事だった。
その話を聞いて直ぐに、わたしは部活を辞めた。親には心配されたけど、本当の事は話せるはずもなかった。
それから暫くして、わたしは神浜市に引っ越すことになって、ここに来たという訳だ。
これで、わたしの話はおしまい。
…こんな愚か者に、仲間なんてできる筈ないよね。親友を助けなかった、こんなわたしに…。
* * *
…咲は話し終えると一息ついた。
ここは以前いろはと出会った公園だ。二人はベンチに腰掛け、沈みゆく夕陽を眺めていた。
いろはが口を開く。
「それが…咲ちゃんが魔法少女になった理由?」
「うん」
答えると、いろはは暫く俯いて何かを考え始めた。
咲は景色をぼんやりと見つめながら、彼女がこの後に言うであろう拒絶の言葉を想像していた。
(あの人には友達を作れなんて言われたけど…無理だよ。わたしには出来ない)
また誰かを傷付けたくない。なら、友達なんて居ない方がいい。前の町で出会った小説家志望の青年は咲の話を聞いても変わらずに彼女と接してくれたが、そんな人の方が少ないだろう。何せ、自分は以前親友を傷付けていますと告白したのだから。
(これで、環さんも諦めてくれる。そうすればわたしはまた上辺だけを取り繕いながら生活して、そのうちに魔女と戦って、死ぬ)
それしか、自分が赦される方法はないと思っていた。
やがて、いろはが顔を上げた。
彼女は穏やかな目で咲を見つめて言った。
「咲ちゃん、私は―」
やっと話が進みます…。
小説家志望の青年関連の話はまた後程書く事になると思われます。
ちなみにこの物語、予定では大体3〜4章を考えています。今は1章の半分辺りかな…。
亀更新な物語ではありますが、次回も見てくださると嬉しいです。