そう思って書き上げました。
歌が聞こえる。
人々の悲痛な絶望の
「きゃああああぁぁぁぁ」
「く、来るな、来るなぁ!」
「や、やめt」
グッズTシャツを着た女性が一心不乱に逃げ惑う。
出口へと向かった男性が我先にと出入口へ殺到し、他人を気にも留めず圧しコロス。
スーツを着た人が悲鳴を上げながら
ツインヴォーカルユニット『ツヴァイウィング』のライブ会場は突如現れた認定特異災害『ノイズ』の襲撃を受け、地獄とも言える状態に変化していた。その地獄をステージの上からさらに上空のヘリコプターから
「すんません!もっと早く高度落とせませんか!?」
そうパイロットへとプロペラの風切り音に負けないくらいの声で叫ぶが、パイロットからの返答はこれでも全速力だという答えだった。
「くそっ早くしねぇと二人が……!」
そういう彼の眼下には武装を纏いノイズへ切り込む橙と蒼の二人の少女。
シンフォギア《ガングニール》を纏う天羽奏。
シンフォギア《天羽々斬》を纏う風鳴翼。
たった二人の装者が広大なライブ会場を縦横無尽に駆け巡り、人々を護るためにノイズを殲滅している。しかし、敵の数は膨大であり、次第に二人は押されていく。さらに、ノイズは人々襲う手を緩めず炭化される被害者は増える一方だ。
やがて、一人の少女が足を滑らせる。ノイズはその隙を逃さず少女を炭素にするべく襲いかかった。
「っ!もうやるしかねぇ!おっさん、俺もう下りるわ!」
おいちょっと待て!?というパイロットの静止を無視し、彼は落下の準備を始める。
安全無視した垂直落下。養父ならば無傷で問題無く着地するのだろうが、自分には分の悪い賭けも同然だ。だがやるしかない、一人の少女を救うために。もう身体がボロボロでいつ倒れるかわからない
「二人とも、今行くからな!」
通信機で二人に連絡を叩き込み、ゴーグルをかけて青年は身を投げた。戦う彼女達を支えるために。しかし、
(間に合うか!?)
空気抵抗を減らす姿勢で落下速度をあげる。だが、それでも間に合うかはギリギリだった。
視線の先ではあろうことか奏がノイズの猛攻をしのいでいた。翼も加勢しようとしているがノイズが多すぎて手が届かない。
手を伸ばしてもまだ届かない戦場は転機を迎える。
「奏!!!」
少女を護っていた奏に限界が来たのだ。武装が壊れ、崩れ落ちる親友を目にし、空気抵抗も忘れて翔は叫ぶ。
さらに、戦況は悪く進む。
(そんな……!?)
戦闘の余波が少女にも及んでしまったのだ。何かの破片が少女の胸に刺さり、おびただしい量の血を流す。
『……を開けてくれ!生きるのを諦めるな!!』
耳の通信機から奏の声が聞こえる。先ほどダメージを負ったときに通信機が誤作動を起こしたのだろう。奏は少女を支えて必死に叫んでいた。
やがて、奏は瓦礫に少女をもたれかけさせ、槍を掲げた。
『いつか……心と身体、全部空っぽにして歌いたかったんだよな……』
「おい……待て、やめろ!!!!」
空を見上げこちらを見やる奏。その顔はまるで憑き物が落ちたような、全てを空にした笑みを浮かべていた。それを見た青年は叫ぶ。奏がやろうとしていることを理解してしまったのだ。
『――』
何かをつぶやく。聞こえない。
『――』
言葉を紡ぐ。聞きたくない。
「奏えええええぇぇぇぇぇ!!!!!」
青年の叫びも虚しく。
絶唱は歌われた。
絶唱の威力は凄まじいものだった。
無限にいるかとも思われるノイズの群れは一瞬にして消え去り、あとには何も残っていない、ただ広いだけのライブ会場が戦場として広がっているだけだった。
「奏!しっかりして!かなでぇ!」
そして、衝撃の中心地で蒼の少女は親友を抱きかかえる。
それと同時に青年も衝撃をまき散らし着地する。身の安全など考慮せずに落下したため全身を衝撃と激痛が走るが無視し、奏の下へと向かった。
「お前何やってんだ!まだ生きて、生きていてくれよ!」
「お願いだから、また一緒に歌ってよ!まだ行かないで!」
自分のために必死に繋ぎ留めようと叫ぶ親友達。
それを見届けた天羽奏は満足そうな、しかしどこか後悔の残ったような笑みを浮かべ、灰となって消えていった。
「か……なで?嘘だよね?どこかにかくれているのよね……?いつものいたずら……なんだよね?」
翼は自分の目を現実からそらした。親友が灰になって消えたのは悪い夢だと、現実を理解せず逃げるように。
「ちくしょう……ちくしょおおおおぉぉぉぉ!!!!!」
翔は拳を握り、怒り任せに瓦礫を殴りつけた。何の助けにもなれなかった、間に合わなかった自分を怒り、己を恥じる。
二人の防人が唐突な死に打ちひしがれる中、ガラッと何かが崩れる音がした。翔はそちらを睨みつけるように見やり、直後、衝撃に目を見開く。
翔の視線の先。
そこには人型のノイズが一体、たった一体こちらに歩み寄る姿だった。
「嘘……だろ。何でいるんだよ」
距離はだいぶ離れており、ノイズも走ってくる様子はない。こちらが無抵抗だと感じ、歩き、余裕だと言うように。
はたまた、お前らの犠牲は無駄死にだったとあざ笑うように。
「翼……立てるか?」
親友の必死の抵抗を否定するかの光景を義妹に見せることは酷な事だろう。しかし、人類の脅威を前に、なにより親友の仇を前に怒りと殺意が沸き上がる。
そう思っていたのは翔だけだった。
「……翼?」
返答の無い義妹を見やる。
翼は座り込み、武装が解かれた状態で奏を抱いた姿勢のままノイズをただ呆然と、諦めた表情で見ていた。
「のいず……ノイズ……ねぇ、義兄上……………………私達も灰になれば奏に会えるのかなぁ?」
こちらを見ずに呟かれた言葉は、青年の次の行動を決めるには十分のものだった。
義妹を強く胸に抱き、ノイズを視界から隠す。今の翼は、風鳴翼をノイズへ向かわせてはならない。
間違いなく自分から灰になりに行くだろう。
抱きしめたままで翔は言う。
「翼……目をつむったままでいい。歌っていてくれないか」
「なん……で……」
「あの
翔がノイズを倒すというのだ。しかし、問題型一つある。
「ギア……は?」
翼の疑問の通り、倒すための
「お前のがある。俺は装者じゃないからギアを纏えないけれど、お前が歌ってくれたら武器をちょっと借りるくらいなら大丈夫だって」
ノイズは位相差障壁というものを持ち、物理的干渉を無効化できるのだ。シンフォギアを使えば位相差障壁を無効化出来るのだが、装者ではない翔には不可能だ。
ならばどうするか。
だったら装者から借りればいいだろう。これが翔の答えだった。
正直これが上手く行くかはわからない。言い切ったのは勢いと怒り任せの自信からだ。
人型ノイズは依然としてこちらへ迫る。
「でも……奏は」
「奏は死んだ」
「っ!!??」
翼と目を合わせ現実に戻す。辛い気持ちは十分にわかるし目を背けさせたい気持ちもある。
だが、これだけは譲れない。
「奏は死んだんだ……俺はあいつの仇を討ちたいんだ!」
「……わかった」
義兄の思いが通じたのか、翼は弱弱しくながらも剣を握り、歌いだす。
それで、十分だった。
「死ね」
翼から剣を受け取り、翔はすぐさまノイズへ斬りかかる。
白刃一閃。ノイズは灰となって消えていった。
ちょいキャラ資料
・風鳴翔(かざなりかける)
男性 21歳
オリキャラ。風鳴弦十郎の養子として風鳴家へ。養父と同じような戦い方でツヴァイウィングの戦闘を補助していた。
・風鳴翼
作者の被害者。奏の死を受け入れることから逃げたらこうなるのかなぁとの作者の思いで発狂してしまった。多分まだ悲劇は走る。
作者は翼さんが嫌いなわけではありません。むしろ好きだからこそこんなもん書いてしまったんだ。