な、何を言ってるのか僕には理解できなかった。
「済まなかった。まずは私の個性の話からだったね」
確か週刊誌等には毎回「怪力」だとか「ブースト」だとか書かれていた覚えがある。
「私の個性は聖火の如く引き継がれてきたものなんだ。その名はワン・フォー・オール」
ワン・フォー・オール。
1つは皆のためにって意味だ。
「一人が力を培い、その力を一人へ渡し、また培い次へ。そうして、救いを求める声と義勇の心が紡いできた力の結晶!!!」
「なんでそんなものを僕に?」
「元々、後継は探していたのだ」
するとオールマイトの体から煙が出て、まるで骨と皮だけになったようなオールマイトがいた。
更にオールマイトは自分の服を脱いで腹などを僕に見せてきた。
そこには荒々しい傷と手術の跡が合った。
「5年前、敵の襲撃で負った傷だ。呼吸器官半壊、胃袋全摘。度重なる手術と後遺症で憔悴してしまってね。私のヒーローとしての活動限界は今や、一日三時間程度なのさ」
5年前、一体何があったんだ!?。
「そして、君の先程の行動力と言動を見て確信したよ。君になら託しても良いと」
ここまで聞いて、大事な秘密まで晒してくれて、断る理由なんてあるか?。
そんなことは、あるわけない。
「分かりました」
「即答。そう来てくれると思ったぜ。なら二日後の朝6時に、市営多古場海浜公園に来てくれ」
そう言うとオールマイトは去っていった。
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二日後、僕は約束の市営多古場海浜公園に来ていた。
時間は5時55分。
するとオールマイトがやって来た。
「5分前に来てるとは、なかなかだね」
「オールマイト、おはようございます」
「うん、おはよう。早速だが君にここで1つ試練を与えてみようと思う」
「試練、ですか」
「そう。ネットの調べによるとこの海浜公園の一部は何年もゴミの山できているようだね」
「はい、海流で漂着物が多くて、さらにそこにつけ込んで不法投棄する人までいますから」
「うん、だから君にはこの海浜公園の清掃を行ってもらう」
なるほど、そういうことか。
「物によっては使う筋肉が違うから筋トレになるわけですね。それに本来ヒーローは本来奉仕活動。この海浜公園を綺麗にして市民に喜んでもらおうって事ですね」
「1を聞いて10を知るとはまさにこの事だな。その通りだよ。早速始めてくれ」
「はい」
僕は返事をすると同時におじさんがくれたベルト(オーマジオウドライバーって名前らしい)を巻き付ける。
「変身」
すると嘗ておじさんが変身した時と同じようにベルトからあの声が聞こえてきた。
『祝福の刻。最高、最善、最大、最強王』
後ろからオールマイトが「あのベルト。それにその姿は、まさか!?」とか言っていた。
変身できた理由は分からないけれど、昨日の夜、おじさんの家で特訓をしていると変身できるようになっていた。
おじさんの説明だと強い思いが可能にしたらしい。
まだ長時間変身を維持するのは難しく、10分程しか出来なかった。
能力の方もまだ完全には使えない。
全体的にはまだ、1%程度の力しか出せていないらしい。
それでも海浜公園のゴミを全部片付けるのは夜明け前に終わらせる事ができた。
ゴミの片付けが終わり変身を解除すると同時にオールマイトに質問をされてしまった。
「そのベルトはどこで手にいれたんだい、緑谷少年」
「知り合いのおじさんに貰いました」
すると綺麗になった海浜公園から海の方を見ながら。
「彼はまだ、生きているのか」
消えそうな声で呟いていた。
「ところで緑谷少年。君の進路希望は雄英高校だろ」
「は、はい」
急に大声を出すからビックリしてしまった。
「本当は10ヶ月かけてやるつもりだったんだけどな」
「あー、それは済みません」
「別に構わないさ。だから残りの10ヶ月は私と組み手方式で鍛えていこうと思う。覚悟は良いかね」
「はい、お願いします」
こうして僕の特訓生活が始まった。
平日は夜明け前にオールマイトとオーマジオウの変身を使っての組み手。
夕方からはおじさんの家でオーマジオウの力の使い方の勉強。
勿論、中学にも普通に登下校する。
そして休日は午前中はオールマイトとひたすら組み手、午後からはおじさんにオーマジオウの力の使い方のトレーニング。
ただオールマイトも、おじさんもお互いに会おうとはしなかった。
おじさんに聞くと「5年前に少しね」と言うだけで詳しくは教えてくれなかった。
そして月日は流れるのは光陰矢のごとしというようにあっという間に10ヶ月がたった。
日付としては雄英高校の試験日1日前。
同級生より筋肉が有るかなと思っていた筋肉は、今やシックスパックが作れるほどになった。
オーマジオウの力もまだ、完全とは言えないが、ある程度は使えるようになった。
ただし、オーマジオウの最大の能力はまだ使えていないらしい。
おじさん曰く、それが使えるようになった時、君に敵はいなくなると呼べる代物らしい。
そして僕は今、オールマイトと一緒にあの海浜公園に来ている。
「この10ヶ月、よく頑張った。早速個性を授与しよう」
そう言うとオールマイトは髪の毛を1本抜き。
「食え」と言ってきた。
「なるほど、オールマイトのDNAを取り込む訳ですか」
「やっぱり君は物分かりが良いよ。別にDNAを取り込めればなんでも良いんだけどね。ただ、誰でも良いと言うわけではないんだけどね」
「どういう事ですか」
「簡単に説明するとワン・フォー・オールは持ち主が渡したいと思った相手にしか譲渡されないんだ。無理矢理奪われる事は無い。けど、無理矢理渡すことは出来るがね。この事を肝に命じておいてくれ」
「分かりました」
そして僕がオールマイトの髪の毛を飲み込んで1時間後、僕の体に変化が起きていた。
見た目はそんなに変化は無いけど、腕や足に、大きな力を感じている。
「想像以上に適応しているな」
「え、そうですか」
「私は精々5%使えれば良いと思っていたが、今の君は60%の力を引き出せていると感じている」
「60%、ですか」
「残りの40%は君の脳が勝手にリミッターの様なものを掛けているのかもしれない。今日はもう帰って休みなさい」
「はい、それでは休ませてもらいます」
そう言えば、おじさんも言ってたな。
筋肉を休ませるのも特訓の内だって。
その後、僕は家に戻り、そのままお昼近くまで寝ていた。