魔法少女リリカルなのは「狼少女、はじめました」 作:唐野葉子
更新サギも何度かありましたし、本当に申し訳ないです。
ぼちぼち更新を再開していきたいと思います
◇
金色の閃光が一閃し、音高く弾かれる。想像以上に強固な防壁。相手はデバイスを使用していないのに、構築強度、構成速度共にフェイトの予測のはるか上をいっている。もちろん、攻撃が弾かれたことによりできた隙をやさしく見逃してくれる相手ではない。仮面を付けた男の手からカードが放たれようとしたその時、上空から飛来したアルフの拳が相手の防壁に深々と突き刺さった。衝撃で彼女の長い赤毛が翼のようにひるがえる。
「チッ」
「…………ひゅっ」
苛立ったように舌打ちする男と相対的に、アルフの顔に表情は無い。ただ呼吸のために歯が空気を鳴らすのが聞こえた。どちらが仮面を付けているのかわからないような光景の下、拳とシールドが拮抗した状態は数秒も続かない。動けないアルフは格好の的である。いったん距離を置こうとしたアルフの斜め右下、シールドを展開している男とまったく同じ外見の仮面の男が死角からえぐりこむような一撃を彼女にお見舞いしようとした。
もともと、一対一の戦いではない。主の危機に使い魔がとっさに馳せ参じたわけだが、そのぶんおろそかになった自分が担当していた相手に痛撃を受けるのはある意味当然と言えた。フェイトとアルフの主従コンビより、相手の方がよっぽど実力があり、経験も豊富なのだから。
もっとも、フェイトがそれを傍観しないのも同じくらい当然の流れである。
「させない!」
デバイスを経由して放たれた【フォトンランサー】の連撃の速度はなかなかのものだったが、直線的な軌道が災いして相手にあっさりとかわされてしまう。だがそれでいいのだ。回避のために発生するその一瞬が欲しかったのだから。
果たして使い魔は主の期待に応え、新たな魔法を展開する。
「くうっ!?」
初めて仮面の男が狼狽の声を出した。避けたはずの魔法が背後で跳ね返って直撃したのだ。バリアジャケットもあるし、直前に何らかの防御措置を施したらしく大したダメージにはなっていないようだが、それでもこの戦いは始まって初めてまともに入った一撃である。
周囲に展開されるのは、夕日を水面にばら撒いたかのように無数に散らばるオレンジ色の円盤。無数のシールドがまるで動物の群れのように悠然と飛び交う。シールドの破壊をあっさり諦めたアルフもそれを足場に高速で空を跳び回り始めた。
【ミラーラビリンス】。昔、アルフがお披露目した【ラビリンス】の上位互換である。数と展開速度と数はそのままに、フェイトの【フォトンランサー】を反射する効果を付け加えている。もっとも、お互いの魔法を前提にプログラムを組んでいるので他者の射撃魔法をはじき返すことなどできない。むしろ、追加効果にキャパシティをつぎ込み過ぎて本来のシールド系として見るなら砲撃魔法の一撃にも耐えられない脆すぎる一面がある。
だが、足場として利用する分には何の問題もないし、相手を自分のテリトリーに引きずり込む戦場の演出としての役割もじゅうぶん果たしてくれる。
中心に並んだ仮面の男二人を包囲するように高速で周囲を跳び回るアルフと【フォトンランサー】の金色の弾核、フェイトはその外を高速で飛び回り狙いを付けさせないようにしている。その有様は空中に展開されたプラネタリウムを連想させた。一見すると包囲しているフェイト側が攻撃のアドバンテージを握っているようだが実はそうでもない。
動き回るということはその分余計に消耗するということだ。実力差があるために効率的な手段が取れない、スピードという自分の得意分野を生かした力押しの戦法である。そして何より、魔力刃を圧縮したサイズフォームの一撃でさえ弾かれてしまったという苦しい現実がある。
出力不足。たとえ当たったところで大したダメージにならない攻撃は、牽制以上の効果を持てない。仮面の男たちはたとえ飛び交っているすべての弾核が集中して直撃したところで防ぎきれると判断し、そしてそれは正しかった。アルフの一撃でバリアブレイクしようにも、相手のシールドを解析して破壊するまでに時間がかかり過ぎる。
動き出そうとした男たちの鼻先を引っ叩くように飛び交っていた【フォトンランサー】の集中砲火が突き刺さる。実力差が開き過ぎている現状で、拮抗しているように見えるのはこの相手にペースを握らせないフェイト側の動きが主な理由だった。主導権を一度渡してしまえば最後、そのまま終わりだと理解している。しかしそれでいて、プレッシャーに押しつぶされて判断を間違うようなこともなく主従共々パートナーを信頼し自分の力を余すところなく、補い合うように発揮している。男たちは相手の評価を一段階上げた。
もっとも火力を一点に集中させるのは戦術としては基本だが、この場合に限って言えば最良手とは言い難い。何故なら集中してしまったものはそこを防御すれば防げるからだ。男たちの実力があれば防ぎきるのは容易とまではいかないが充分可能であったし、フェイト側は意識の死角を攻撃できるアドバンテージを捨てさせられたことになる。
弾幕にまぎれ再びアルフの拳が防壁に突き刺さる。集中砲火によってダメージを受けた防壁にバリアブレイクのかかった拳はそれを砕く寸前までいったが、拮抗の隙をついて防壁を張ったのとは別の男の蹴りがアルフの腹に打ち込まれることとなった。
壊れた人形のように少女の身体が宙を舞う。
「なっ……!?」
しかし狼狽の声を上げたのは、攻撃を仕掛けた男の方であった。
未だかつて体験したことのない手ごたえ。確かに当たったはずなのに、ぐんにゃりとダメージを殺されてしまった。
魔法の打ち合い、魔力の削り合いが主眼となっている現在の魔導師の戦闘に置いて、体術は魔法に比べそこまで研鑽されてはいない。ベルカ式ではなくミッド式ならなおさらだ。だから身体の硬度ではなく強度を高め、しなやかにやわらかく完全な脱力を持って攻撃を受け殺すなどという技術を男は経験したことがなかった。
迫りくる圧倒的暴力に対し、脱力を持って受け入れる。理論的には可能かもしれないが、完全に肉体を支配下に置く必要がある。そのようなことに対して研鑽を積む時間があるのなら、魔法で防御した方が容易いというのはある種当然の考え方である。
(完全に余談ではあるが、これからわずか数年後にストライクアーツなる『打撃による徒手格闘技術』がミッドチルダで大流行することになる。しかしそれはとある事件をきっかけに近代ベルカ式魔法が急速に完成したことと、その後の管理局主催の総合戦闘合評会で某使い魔や某守護獣が圧倒的なまでの好成績を打ち立てたことが大きく影響しており、現段階の認識では格闘技術は魔法の補助というのが一般的な見解だ)
攻撃とは最大の隙になりうる。糸の切れたマリオネットのように気持ち悪い動作でアルフの身体が男に巻き付いた。
すかさずアルフの身体で死角になっていた場所からフェイトの金色の鎌が一閃される。
はやすぎる。
声に出さないまま男は驚きを飲み込む。一瞬後には自分の計算が狂った理由を把握していた。
先ほどの射撃魔法。起動式を組み上げたのは主の方だが、弾道制御はおそらくあの宙を舞う円盤で使い魔の方が行っていたのだ。共から微細な制御を必要としない直射型、魔法の維持に必要とされる
その刹那の間隙を生かし一瞬だけ合い方から分断した男に主従の連撃が叩き込まれる。
しかし届かない。ときにかわされ、ときにいなされ、そしてただ単に防がれる。
所詮アルフたちが試みているのは奇策であり、その場しのぎ。
膨大な基礎と経験に裏打ちされた本物の実力を砕くには至らない。
工夫に工夫を重ね、作り出した宝石のように貴重な刹那の隙は、最大出力で張られた障壁を突破できなかった。
◆
「以上が模擬線の様子。見ての通り、現在のぼくらじゃ強敵の防御を抜くのに火力が足りなさすぎる。【フォトンンランサー・マルチシフト】はタメが大きすぎて実用にはまだまだ叶わないし」
「あなたがその時間を稼ぐだけの実力がないだけでしょう、
「……ぐうの音も出ないよ」
嘆息交じりにぼくは定期報告を終えた。
結局、
実力は急に跳ね上がるものではないのだから、足りないのならいまそれを埋めるだけの何かを探さなくてはならない。……こうしてその場しのぎだけが上手くなって、本当に必要な実力がまったく身についていない気もしないでもないけれど、考えるのはやめておこう。
だって他にやりようがないじゃないか。やらなきゃいけないことは目の前に依然としてあるんだから。
閑話休題。
「なぜ本気を出さなかったの? 返答次第によっては……」
プレシアの絶対零度の瞳がぼくを貫く。
「本気は出したよ」
「嘘仰い。【シンバル】とやらつかってなかったじゃない」
「非殺傷設定のできないブラックな魔法を管理局代表のまえで使えと?」
「じゃああれはどうなの。【レールカノン】とかいう魔法を新たに開発したって……」
「原理がまるっきり実弾兵器と同じ魔法を以下同文」
「サボらずに最後までちゃんと言いなさいバカ犬」
そう言いながらも不満そうにプレシアは口を閉ざした。
映像記録は編集して、ぼくとフェイトの撃墜されるシーンはカットしてもらっている。この子煩悩な親バカマッドサイエンティストにそんな映像を見せるとろくなことにならないと思ったからだ。
まあ映像をカットしたところで結果を想像するのは容易なのだけれど、与えるショックが違うだろう。まさか杖を片手に権利局に箱庭ごと乗り込むとまでは思わないが、念には念を入れたい。
実際、少し考えればわかりそうなことをわざわざ口に出して問いただすあたり平常心とは程遠そうなプレシアさんである。
まあグレアム一向にはまったく歯が立たなかったわけだけど、実は伏せ札が無いわけではないということだ。
それは相手も同じだろうから一概には言えないが、殺し合いになればただ一方的にやられるだけではないと思う。いや、フェイトを守るためならあの二匹の先輩方の頭蓋骨を刺し違えてでもぱちんしてやろう。
そんな状況にならないのがベストなのはいうまでもないことだけどさ。
「で、話を戻すけど」
「それで解決策としてあなたが持ち帰ってきた手段がこれというわけ?」
プレシアが不機嫌そうな表情のままカードを一デッキ持ち上げて見せる。グレアムたちからほどこし同然に譲渡された技術だということが気に入らないのだろう。
カートリッジシステム。
ベルカ式の最大の特徴といえる一時的に魔力をブーストする原理で、同時にベルカ式が衰退した原因。個人の適性によるところが大きいためミッドチルダ式魔法に比べ汎用性に欠けるのだ。
このカードはカートリッジシステムをミッド式に改良したもので、使い魔用というかなり限られた用途でしか使えないが安定して魔力をブーストすることができる技術として完成している。
なんでも個人的にギル・グレアムが研究し秘密裏に完成させた技術らしく、ミッドチルダには出回っていなかった。対闇の書を想定した武器の一つだったのだろう。闇の書以上の敵が出てきたのでぼくらにも開放されたわけだけど。
もしこの事件が一件落着して、ぼくらが持っている技術がすべて解放され、新たに研究され直したらミッド式魔法は新たな歴史の一ページを刻むことになるかもしれないな、なんてふと考える。
ぼくのような凡人(人じゃないけど)がこの場にいるのがとても場違いだ。自虐していても仕方ないけどさ。感じてしまうものは仕方ないよね。フェイトの横のポジションを譲る気はさらさらないので場違いを承知で踏みとどまり続けますともさ。
「まあ、よくできた技術だったわ。これに関して言えば私から手を加えることはなさそうね」
珍しくプレシアが手放しで絶賛した。わかりにくいけど。
へえ、頑張ったねグレアム。やっぱ管理局トップクラスは伊達じゃないってことか。いや、平行世界を守る組織のトップクラスとタメを張れるレベルの魔導士がこんな辺境で隠居(?)している方がおかしいのか。
「より正確にいうのならまだまだ技術としては未完成もいいところだけど、現状あなたが使うものとしてみれば手を加える余地がないという意味よ。誤解しないで」
はいはい、BBAのツンデレ乙。
とこっそり思っていたらオオカミが殺せそうな目で睨まれた。どこまでもぼくは顔に出やすいらしい。命取りになるようなことを考えるのはやめておこう。
「一応聞いておくけど、もしフェイトが使うのだとすれば?」
「論外ね、。一から見直しに決まっているでしょうこんなもん」
たちまちこんなもん扱いである。ま、わかっていたけど。
「てことは」
「ええ、バルディッシュの新形態移行許可もカートリッジシステム取り付けも反対よ。あの子にもバルディッシュにも負荷がかかりすぎるもの。いずれ成長すれば自然と使えるようになるのに、いま無理をしてリンカーコアに障害を残すリスクを背負うのは親として認めたくない」
反対に認めたくない、か。
……何気に頑固だもんね、フェイト。
お母さんに絶対服従だったのも今は昔。やさしさは相変わらずだけど頼りない使い魔と能天気な姉と親バカな母親に囲まれた彼女はしっかりものに成長している。こうと決めたら貫き通す強さを身につけてしまった。
その傾向は今回の事件に巻き込まれてからひときわ強くなった気がする。かわいい子には旅をさせろとはよく言ったものである。こちらとしては嬉しい反面、すごい勢いで大人になっていく彼女に置いて行かれやしないか不安になったり。
まあ、今聞くべきことは一つだ。
「どのくらいかかりそう?」
「ペルタのカードポケット増築なら今日中に仕上がるでしょうね。バルディッシュは準備に二週間、改造に丸一日といったところかしら」
「そんなに短いの?」
「私たちだって何もしていないわけじゃないのよ。あの子たちのデータはリアルタイムで可能な限り収集しているし、それに合わせて改良案は常に用意している。体に過剰な負荷をかける仕様のリスクを極力減らすためにそれだけの時間がかかるだけで、実用にかなう段階なら今すぐにでも用意できるわ」
こともなげに言うプレシアだけど、言っている内容は何気にすごくて、その背景を考えると病院を紹介した方がいいかもしれない粘着質なものを感じる。うん、深く考えると誰のメリットにもならないな。思考停止しておこう。
実際にデバイスの構築を担当するのはリニス先輩だし。きっと今も念話であれこれ相談しているのだろう。
ちなみにフェイトとリニス先輩はいまこの場にはいなかったりする。彼女たちは彼女たちでやることがあるらしい。何の相談かはあっちに行ってからの秘密だと教えてくれなかった。
戦闘関係の情報なら共有しないと命に係わるし、たぶんぼくに必要ないことか趣味の領域だと思うけど。
趣味。その言葉でこの場にいるもう一人の存在を思い出す。彼女の趣味で自分がどんな格好をしているかと同時に。
「そういえばアルフ、話は変わるのだけれど……ずっと気になっていたのだけれどその格好は何なのかしら?」
ジャストのタイミングでプレシアが話題を出す。
今まで蚊帳の外気味だったアリシアが我が意を得たりとぐっと親指を突き出した。
《えへへ、いい仕事したっしょ! わたしのコーディネイトなんだよ!》
「ぼくは恥ずかしいよ」
スカートは落ち着かない。意識したらなんだか内またになってもじもじしてしまう。もっと可愛い女の子がやったら可愛い動作なのかもなんて現実逃避したり。
「そうね……」
そう言ってプレシアはじっくりとぼくの上から下まで舐めるように観察した。
今のぼくの服装。
淡い色の赤いワンピース(フリル付)に、黄色いベスト(首元に大きなリボン付き)。
空気抵抗や動きやすさなど考えていない可愛らしいお洋服でございます、はい。
……に、似合ってるかな?
「私の趣味とは違うけれど、いいセンスだと思うわよ」
《ほんとに? やったあ!》
無邪気に喜ぶアリシアさんを見ているとぼくもこんな格好をしている甲斐があると思うよ。むしろそう思わないとちょっぴりキツイ。
いまさら転生前がどうこう言うつもりはないけどさ、こういう服はフェイトとかアリシアが着るからこそ映えるもの、という気がしてならないんだよね。
でも、こうして着てみて、褒められてみると、たまにはこんな格好をするのも悪くないかもしれない、かな。
《まだまだコーディネイト案はあるんだ! 今度あっちでたくさん撮ってこっちに送るね!》
「ふふふ、それは楽しみねアリシア」
《期待しといて。次はもっとフリフリでロリロリな感じにしようと思うの!》
うん、気の迷いだった。ものすごく断りしたい気持ちでいっぱいです。
でもこんな母子水入らずのほのぼのした空気の中で言い出せる雰囲気じゃないし。
フェイトの家族が笑うのも、彼女たち自身も個人的に大好きだし。
ここは笑って犠牲に、いや、協力するとしよう。……ふぅ。
「で、アルフ。さっきの続きだけど」
ぼんやりしているうちにプレシアは親子ふれあいに一区切りつけたらしい。見事なまでのプライベートから仕事モードへの切り替わりでクール通り越してコールドな視線がぼくを射抜く。
特に含みがあるわけじゃなくて愛娘とそれ以外で温度差がありすぎるだけだからぼくも特にひるんだりせず目を合わせた。
「相手から投げ渡された手段だけで満足するような怠惰な性分であの子の使い魔やろうだなんて、ふざけたこと考えてないでしょうね?」
「何か他に方法があるの?」
これは問いかけではなくて確認だ。
自分の無力さを直視させられる居心地はある。気持ち悪くて吐き気さえ感じるくらいだ。やらなきゃいけないことがあるのに、どう考えてもやれないもやもや。なのに責める相手は自分くらいしかいなくて、足りない分のリスクを背負うのはぼくだけじゃなくて大切な人たちが含まれる。
耐え難い。
だからそれ以上に興奮していた。いくら考えても足りない分を今すぐ埋める方法なんて思いつかなかった。今ある分だけで勝負するしかない。その今ある分を少しでも増やすため人は勉強し、やりたくもないみっともない努力をするのだろう。
努力が美しいだなんて努力したことのない子供の発想である。
努力は情けなくて、汚くて、みっともない。
だからこそ人は才能に惹かれるし、努力のみすぼらしさを知っているからこそ努力する人を嘲笑い、否定し、貶め、そして認めて尊敬する。
でも何かをしようと必死になるとき、それが楽しいことも同じくらい事実なんだ。絶対にどう考えても楽ではないけどね。
だからその壁を乗り越えることができるというのはとても甘い誘惑だ。
「魔力変換資質は知っているかしら?」
「……魔法を通すことなく魔力を現象に変換できる特殊能力のこと、だろう? その認識だけど」
「間違ってはいないわね。でも、すべてではない。一般的に知られていないけど、あれは一方通行じゃないのよ」
何を言われているのかよく理解できなかった。正確に言えば何を言いたいのか真意がつかめなかったというべきか。
ぼくもフェイトも雷の魔力変換資質を持ってはいるし、【フォトンンランサー】をはじめとした魔法はその資質を有効活用したものだ。
とへいえ魔力変換資質はありふれているわけじゃないけれど、レアというほどでもない能力だ。あれが常識の壁を打開するどんな手段になるというのだろう。
プレシアがバカを見る目でぼくを見る。どうしてこいつはこんな簡単なことを言っても理解できないんだろうってひしひしと伝わってくる。
しょうがないだろ。天才と凡才では頭の回転が違うんだよ。発想の飛躍ができないというべきか。
《もしかして、魔力から現象だけじゃなくて、現象から魔力にも変換可能ってこと?》
「よくできました。偉いわアリシア。さすが私の娘」
……アリシアは理解できたらしい。やっぱりぼくがバカなだけなのかも。
でもアリシアの言葉を聞いたら何となくぼくも感覚がつかめた。
《えへへ、フェイトが使う魔法の中には現象の雷の方を活用するものがいくつかあるからね。もしかして変換資質って雷そのもの魔法として扱うことができるんじゃないかって以前から思っていたんだ》
「ええ、まさにその通りよ。現象だけなら後天的にいくらでも作り出せるわ。どこぞのが開発したデュランダルみたいにね。でも、現象の方に魔法を介さず干渉するのは変化資質適応者にしかできないの」
プレシアがそれを肯定してくれる。
にしてもアリシア、そんなこと考えていたのか。目の付け所や論理的な思考は母親譲りなのかな。あんまり似ていない親子だと正直思っていたけど。
「だからアルフ。あなたには雷を魔力に還元して使用する技術を身につけてもらうわ。最低でも自然界の雷を誘発して、それを吸収するくらいはやれるようになってもらうわね」
「うん……え?」
そんなさらっと言われて思わず応えちゃったけど、簡単にできるものなの?
確かに自然界の雷は電力換算で100Wの電球90億個分に相当すると聞いたことがあるし、地球のメインエネルギーは電力だ。消費した分をコンセントから補充できればかなり有利になるだろう。
「私は事実やれるわ。箱庭の動力炉のエネルギーを電気に変換して、それを変換資質で吸収して使うというプロセスで個人の限界を超えた大魔法を行使することができる」
いや、プレシアを基準に考えるのは間違っているだろう。
どうしてデバイスを展開しているのですか?
「えーと、ものすごく嫌な予感がするんだけどさ。どうやって訓練するつもり?」
「安心しなさい。あなたは大切なフェイトの使い魔で、アリシアの橋渡し。壊れるような真似はしないわ。とはいえ時間は限られているし、痛みがないと覚えにくいでしょう。あんまり覚えが悪いようだと明日がつらいわよ?」
そこでプレシアはことばを切ると、自愛に満ちたほほ笑みをアリシアに向けた。
「それじゃあ行ってくるわね。名残惜しいけど、これもあなたたちのためだから」
《うん、わかっているよお母さん。じゃあアルフ、頑張ってね》
うん、わかっている。自分で決めたことだし、望んだことだ。
でも大魔導士と名乗り、それに見合う魔女であるプレシアのプレッシャーを正面から受け止めると心が折れそうになるよ。
だいたい、ぼくのデバイスはリニス先輩が改良中でいまここには無いし。この相手に素手で立ち向かえと? 普通にライオンとか猛獣系を相手にした方がマシだ。というか猛獣ならたぶん普通に勝てるし。
キン、とぼくから見ても見事な転移魔法が展開され、見慣れた訓練室に向かい合ってふたり。
「何をしているの、あの子の選んだ服を汚すつもり? 早く【バリアジャケット】を展開しなさい」
「……よろしくお願いします」
言われた通り【バリアジャケット】を展開する。自分の死刑執行にサインした気になった。ええい、弱気になってどうする?
報告が終わってあっちに言ったらみんなで美味しいものを食べに行こうって約束したじゃないか! いくぞ、アルフ、ぼくの戦いはこれからだ!
「さあ、始めましょうか」
目の前が真っ白になった。
別に打ち切りエンドじゃないです。
久しぶりすぎて書き方もストーリー内容もうろ覚えです(汗
誤字脱字などがあればご指摘いただければ幸いです。
ここまで読んでくださったすべての方に感謝を。
追記
魔力変換資質の相互互換性については自分の独自解釈です。
公式では見たことがない設定なので混同しないようご注意ください