一か月一万円で生活するアルトリア・ペンドラゴン 作:hasegawa
~一か月一万円生活18日目~ (ナレーション、クラスメイトの後藤くん)
「誰だよ!? 知らねぇよッ!!」
士郎のお願いに快くナレーションを引き受けてくれた後藤くん。なにやら原典である番組を観て予習してきたのか、その口調もまるで本物の黄金伝説のナレーションの人みたいに喋っている。大変有能な男だ。
ちなみに彼のフルネームは後藤劾以(ごとう がい)というらしいが、みんなには知る由も無い。慎二たちも今日初めて知った。
『――――う゛お゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛っっ!!
待っていなさい無人島ぉぉおおーーーっっ!!』
「「「!?!?」」」
モニターに映るのは、一面の大海原。視界一杯に広がる海だ。
そして今その水平線の彼方から、なにやら〈バババババ!!〉と水しぶきを上げてこちらに向かってくる人影がある。
『う゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛ーーーーッッ!!!!』バババババッ
「……え!? 何あの子!?」
「
やがてカメラの前に姿を現したのは、頭にランスロット(雌鶏)を乗せ、背中にナップサックやら寝袋やらを背負い、そして右手に魚突きのモリ的な物を握って水面を爆走してくるセイバーの姿。
彼女お得意のエッジの効いた雄たけびも上げている。アララララ~イとばかりに。
「怖い怖い怖いッ!! 何してるのよあの子!!」
「普通そこは船だろう!? 漁船とかだろう!?」
『う゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛お゛ーーーーッッ!!!!』バババババッ
前日、赤いドレスの女の子から貰った栗により、決意を新たにしたセイバー。
所持金がほぼ底をついている彼女は、その戦場を人里から自然の恵み溢れる無人島に移すべく、現在行動中なのである。
某ハマグチェマッサル氏ならば漁船などに乗って無人島に向かうのだが……セイバーの場合は精霊の加護によって“水の上を走れる“ので、このような形となっている。
『問題無いッ、30時間までならッ!!』
「脳筋かおめぇはッ!! せめて歩数で言え!!」
やがて背中に大荷物を抱え、頭にニワトリを乗せたセイバーがババババッとカメラを追い越して行く。
本日のカメラマン担当であるイリヤが、雄々しく海原を駆け抜けていくセイバーの後ろ姿を映しながら、船長にもっとスピードを上げるよう指示を出している。
「――――というか、漁船あるじゃないですか!!!!」
「なんで走ってんのよセイバー!! 乗っけてもらいなさいよっ!!」
『う゛お゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛ーーーーッッ!!!!』
『コケェェーーーーッッ!!』
ヨーソローとばかりに雄々しく海を進んでいくセイバー。まるでゴーイングメリー号における羊さんのように、頭にニワトリさんを乗せて。
その身は、さながら解き放たれた矢の如くであった。
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『――――上陸ッッ!!(キリッ)
ここが我らの生活の舞台となる、無人島です!!』
本土から船で約1時間、セイバーの足でも同じく1時間ほど走った先にある無人島。
今日の朝、なけなしの10円玉を使ってイリヤの住むアインツベルンに電話したセイバーが紹介してもらったこの土地。
そこは全長約2キロほどの小さな島であり、その陸地の大半が生い茂った森、そしてゴツゴツした険しい岩場で形成されている。
「ほんとに来ちまいやがったよオイ……。まさかとは思ったがよ……」
「ねぇ坊や、これはOKなのかしら?
なにか今回の趣旨から随分外れているような気がするのだけれど……」
「俺達も随分審議したんだけどさ……。
ただもう原典の方にガッツリと前例がある以上、文句は言えなかったんだよ」
今回セイバーにこの一か月一万円生活という挑戦をして貰ったのは、一人暮らしをする中で家事やお金の大切さを学び、自立心を養ってもらうためだ。
そういう意味で言えばこの一万円もクソもない無人島での生活というのは、本来の目的から大分ズレちゃっていると言わざるを得ない。
ちなみに原典であるTV番組においても、某ハマグチェマッサル氏のこの暴挙はしばし議論の対象となっていたらしい。なにお金も使わず魚獲ってんだと。
ただ番組スタッフによる「番組的に面白いからOK」という非常に高度な判断により、この海に出てのモリ突き漁という行為がハマグチェ氏の代名詞的な名物となっているのだ。
「食材を買うのではなく、獲るか……。
まぁ食事の有難みや苦労を知り、物を学ぶという意味では何も変わらんか」
「セイバーも言っていましたが、すでに彼女はある程度の家事を修得しています。
以前のように部屋でニワトリに土下座しているよりは、
よほど健全だという見方も……」
現在無人島に上陸し終え、荷物を地面に置いてなにやらゴソゴソやっている彼女を見て思う。
残念ながら買い物の仕方を覚えるまでは至らなかったが、これは今後士郎たちと共に経験を積んで行けば充分に修得可能だろう。
この企画を通してより多くの経験を積むという意味では、この無人島0円生活もアリなのかもしれない。
『モリ、ランタン、寝袋、調理道具その他もろもろ、全てOKです!
――――ではこれより、我らの無人島0円生活を開始しますッ!!
声を上げなさいランスロット! そ~れ、えいっ、えいっ、おーーう!!
えいっ、えいっ、おーーう!!』
初日にあの部屋でやったのと同じく、ランスと共に声を上げるセイバー。
命を誓うように、この島に戦いを挑むが如く! 一人と一羽で雄たけびを上げていく。
『では早速ですが、海に入ろうと思います。
アインツベルンの協力により、しっかりウェットスーツも準備してきています』
「待てっ! まずは一通り島の探索をせんか!!
何より拠点の確保こそが優先されるべきだろう!!」
『――――甘いです!! そんな事では、この先生きのこる事はできませんよ!!』
「えっ、なんで返事してるのこの子!?」
まるでこちらを見ているかのように、〈カッ!〉とカメラ目線するセイバー。
『そんな事は、食料を確保した後でやればよろしいッ!!
私はすごくお腹が空いているのです! なによりまず食料なのです!
――――私が上陸したこの場所が拠点! この場こそが拠点ッ!!
少しでも体力を温存し、明日に命を繋げるのです!!
そうしないと、すぐ死にます! すぐ死にますよ無人島ではッ!!』
「……ッ!」
なにやら合っているような間違っているような事をハッキリ言うセイバー。
これだけ自信満々に言われると、もうそれで良いのかもしれないという気さえしてくる。
とりあえず大そうな能書きはたれていたが、彼女が言いたいのはつまり「ごはん食べたい」である。
『では行ってきますランスロット! いざ海へッ!! ウラーラーラ-ラー♪』
何でそんな事が出来たのかは知らないが、バサッと服を脱ぎ捨てた瞬間にウェットスーツを装着したセイバー。
大漁を誓うようにランス(雌鶏)にブンブン手を振りながら、勢い良く海の方へ向かって行く。
「一応訊いとくけどよ坊主? 泳げんのかセイバーは?」
「あぁ、前は泳げなかったみたいだけど、夏にみんなでプールに行ったからさ?
今では俺と同じくらい泳げるぞ」
あのわくわくザブーンで泳ぎ方を教えた思い出。士郎に手を握っていてもらい、おっかなビックリと泳ぐセイバーの姿はとても愛らしかった記憶がある。
そして最終的に、セイバーは士郎と競争ができる位まで泳げるようになったのだ。
「ただプールとは違い、海には波がありますから。大分勝手も違う事でしょう。
それに今回は泳ぐのに加えて“潜る“のですから」
「未経験のセイバーには難しいでしょうね。
でもサーヴァントである彼女なら、何があっても命の危険は無いでしょうし。
のんびり応援する事としましょう♪」
右手にモリを構え、青に銀色というセイバーのイメージカラーその物であるウェットスーツを着込んだセイバーが、海に面した浜辺に到着する。
とめどなく波が打ち寄せる、見ているだけで胸が高鳴ってくるような大自然の光景が眼前に広がる。
『釣りとは違い、海に入っての漁……。
先日の大河との釣りでも、何度海に飛び込んでしまおうかと思った事か』
「馬鹿な大学生かおめぇは。釣り人達が大騒ぎだよオイ」
「海藻まみれで陸に上がってくる騎士王……。私は見たくないな」
『では改めて海に突貫ですッ!! ウラーラーラーラー♪』
セイバーがまるで敵軍に突撃していく兵士のように砂浜を走って行く。
「とりあえず、あの子が楽しそうで何よりだわ」
「最近は部屋に籠り切りでしたし、久しぶりの運動が嬉しいのでしょうね」
満面の笑みを浮かべ、モリを頭上に掲げながら元気に走って行くセイバー。
ようやく今その足先が海水に触れ、〈ピチャン!〉という音を立てる。
『――――きゃっ♪ ちべたぁ~~い♪』
「「「!?!?」」」
足先を水に入れたその瞬間、なにやら変な声を上げて浜辺へと引き返してくるセイバー。
「だ……誰よ今の声……!」
「えらく可愛らしい声が聞こえたが……。空耳か何かか……?」
今モニターには、両手をグーにして女の子走りしているセイバーの姿が映っている。眼前の光景を受け入れられないサーヴァント一同。
『あぁ、少し驚いてしまいました。
しかしもう大丈夫。改めて海に突貫です』
再び「ウラーラーラー♪」と浜辺を駆けて行くセイバー。
その姿は先ほど同様、敵軍に突貫していく勇猛な兵士の如くだ。
『――――きゃっ♪ つめたぁ~~い♪』
「早く海入れよ!! なんなんだよオメェ!!」
再び足が水に触れた瞬間、波打ち際から逃げ出していくセイバー。
波と戯れるあまりの楽しさに、今まで積み上げてきた王様キャラをかなぐり捨ててしまっている。
その姿は、どこにでもいる女の子の如しだ。
「誰も居ないからって、やりたい放題ねこの子……」
「これが彼女の“素“なのでしょうか……。なんですかあの女の子走りは……」
「こういう所もあるのかと感心はするが、流石に少しイラッとくるな……。
恐るべきは、プライベートビーチの解放感か……」
その後も何度か「きゃっ! つめた~い♪」という一人芝居を繰り返してから、ようやく海に浸かっていくセイバー。
先ほどまでとは違い「さむいッ! とんでもなくさむい!」という結構ガチ目の悲鳴がスピーカーから響いてくるが、それにサーヴァント達が同情を返す事は無い。はよ行けとばかりだ。
『……おぉ……! おぉ~!!』
海面に浮かび、水中メガネごしに海の中を眺めるセイバー。そこには思わず驚嘆の声が漏れる程に美しい光景が広がっていた。
光によって青く輝く、非常に透明度の高い水質。そこに住む色とりどりの生き物たち。
群れをなす小魚のカーテン、カラフルな模様の熱帯魚、岩陰で寛いている大小さまざまな魚、そして神秘的な海藻の揺らめき。
普段決してみる事の出来ない素晴らしい景色に、観ているサーヴァント達も思わずため息を漏らす。
『――――全部……食べ物だッ!! これ全部食べても良いのですか!?』
「ブレないな君は。少し安心したよ私は」
花より団子。まぁシュノーケリングではなく漁に来たのだし、当然と言えば当然の意見である。お腹が空いているのだセイバーは。
『久しぶりに我が槍が唸ります……!
いざ勝負です魚たちよ! 我が
「そんな大そうなモンじゃねーよ。ただの三本モリだよそれ」
実はアルトリア・ペンドラゴンにはセイバーの他、ランサーとしての適性もあり、生前愛用していたとされる槍の名前がその
別に今握っている槍は真名解放とかじゃなく、ただゴムの力でミョーンと発射して突くのだが。
それはともかくとして、沢山お魚がいる所を目指し、意気揚々と潜水を試みるセイバー。
だがライダーの危惧していた通り、泳ぎ方は知っていても潜り方はまた別なのか、なにやら水面でひっくり返って足をバタバタさせるだけに留まっている。
なかなか魚たちのいる水底まで身体を持っていけない。
『くっ……このっ! このっ!!』
肺活量に物を言わせ、なんとか悪戦苦闘しながら海底にたどり着く。
しかしビシュッと放った
『なっ!? ……なんという素早い身のこなし! さぞ名のある騎士と見受けたぞ!』
「ただのカサゴよそれ。凡百の兵士だわ」
「凄く美味しいんですけどね……」
カサゴは煮つけにしても唐揚げにしても美味だが、残念ながらありふれた兵士である。セイバーが言うように、決して俊敏性A+も持っていない。
その後もめげずにお魚たちに突貫していくセイバーだが、慣れない水中での戦闘の為か、中々成果は上げられないようだった。
「ふむ、苦戦しているようだなセイバーは」
「素潜りなんて初めてするんだもの。むしろスムーズじゃないとはいえ、
あそこまで潜れるのは流石と言えるのではなくて?」
「使っているのはゴム式の得物ですが、なかなか様になっているように思えます。
ランサー、専門家としての意見はどうなのですか?」
「んあ?」
思わず間延びした声を返すランサー。対してサーヴァント達は期待した目を彼に向けている。
「いや……、俺ぁ別に専門家じゃねぇが……」
「えっ。でも貴方ランサーじゃないですか」
「ランサーって言ったって、モリなんざ握った事ねぇよ!
しかもあれゴム式のヤツじゃねーか!!」
「?」とばかりのピュアな目を向けるライダー。他の面子も同様に物凄い綺麗な瞳を向けている。
「えっ、でも貴方ランサーよね? 槍の英霊よね?」
「解説して下さい。モリってどう使うんですか?」
「いつも潜っているんだろう?
そんな高そうなウェットスーツも着ているではないか」
「 ウェットスーツじゃねぇよ!! 戦装束なんだよ!!
この街に来る時にデザインしてもらったんだよ!! 担当の人によぉっ!! 」
「でも、青いですよね?
それって水中で魚に悟られないようにですよね?」
「 そういう青じゃねーよ!! 俺の国の戦士のアレなんだよ!! 海関係ねぇよ!! 」
「しかし、いつも君は使っているじゃないか。
ほら……何と言ったか。
「 死棘のモリって何だよッ!!!!
槍だよ! モリじゃねぇよ!! なんだよゲイ・モリグって語呂悪ぃな!! 」
「確か、必ず仕留めるんでしょう?
そのお魚……貰い受ける(キリッ)、とか言うんでしょう?」
「 言わねぇーよ!! 言った事ねぇよ俺ぁ今まで!!
だいたい何だよその槍は!? ゴムで発射すんのか!?
俺は戦闘の度に、こうやって槍をゴムでビョ~ンって 」
「――――えっ、アレってゴムで発射してたんですか?」
「 いやしてねぇーよッ!!!! いつも真名解放とかしてんだよ俺ぁ!!!!
ちゃんと魔力で飛ばしてんだよアレは!! アナログじゃなくマジカルだよ!! 」
「君の宝具はコストパフォーマンスに優れると聞くが、まさかそんな秘密が……」
「 ねぇーよ!!!! そこまでコスパは重視してねぇーよ!!
おめぇ魔力惜しさにゴム動力で戦うヤツ、見た事あんのかッ!! 」
「ではランサーでは無い、という事ですか?
じゃあ貴方……いったい誰なんですか?」
「 ランサーだよッ!!!! クランの猛犬でやらせて貰ってるよオイッ!!
おめぇ戦っただろうがよ!? ちゃんと槍的なの使ってたろうがよッ!!
一生懸命やってきたんだよ俺ぁよぉぉーーッ!!!! 」
「うるさいわねバカ! 早く海いって魚とって来てよ!」
「 なんでキレてんだよお前ッ??!!
キレてぇのはこっちだよ!! 届かねぇんだよお前らに言葉がッ!!
こんなにも傍にいるのにッッ……!!!! 」
その後「このランサー、ランサーじゃない疑惑」が一同の間で発生し、ドタバタと騒動に発展する衛宮家。
「捕まえろ! 大人しくしたまえクー・フーリン!!」
「よくも騙してくれたわね! このエセランサー!!」
「酷いです! 今まで信じてたのに!!」
「 なんでだよ!? なんでとっ捕まんだよ俺ぁ!! ……つか力強ぇなオイ!!??
鎖やめろオイ!!!! 誰がアンドロメダだオイ!!!! 」
ワーワーと騒ぐランサーをふん捕まえる一同。
士郎や凛たちも悪ノリして仲間に加わり「それー!」とばかりに飛びかかっていく。とっても楽しそうだ。
「謝りたまえクー・フーリン。
モリを使えずにすいませんでした、と」
「モリも使えないのに、槍の英霊になってすいませんでしたって言いなさい」
「夢を壊してすいませんでしたって。
桜さんを見なさいな。泣いてる子もいるのよ?」
「 嘘つけよオイ!!!! めちゃくちゃ嘘泣きじゃねぇかあの嬢ちゃん!!
満面の笑みじゃねぇか!!!! 」
「えーん、えーん」と愛らしく泣くマネをする桜。ここぞとばかりに士郎に抱き着いているが、これは役得という物なんだろう。
「えー、わたくしがモリを使えなかったばっかりにー。
皆さまにはー、多大なご迷惑をおかけてしてしまいー」
その後、鎖でふん縛られたランサーが、死んだ目をしながら心の籠っていない声で謝罪会見を行う。それを見て「よし!」とばかりに鎖を解いていく一同。
「いや~解決したね。なんか面白かったね」
「めでたしめでたしですね♪ よかったです♪」
「もう二度と、するんじゃないぞっ!」キリッ
「まだまだやりなおせるわ、アンタ若いんだから」
「……なんだこれオイ」
のほほんと微笑む間桐兄妹、そして刑務官的なセリフを言う士郎と凛。
和気あいあいと楽しそうな子供たちを見て、もうため息しか出てこないランサーお兄ちゃんであった。
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その後、停止していた映像を再開し、モニターに向き直った一同。
どうやら流石のセイバーといえども初めての素潜りは難しかったようで、今回は潜る事とモリ突きの感覚を練習する事に終始。約1時間ほどで海から上がって来たようだ。
『……ふむ、決して侮っていたワケではありませんが、
やはりモリ突きというのは甘くない。
しかし次こそは必ず成果を。この三本モリの愛槍にかけて』
ペタペタと岩場を歩き、荷物を置いていた拠点(仮)に引き返して行くセイバー。
今回は坊主という残念な結果に終わったが、まだ日も高ければ時間もある。一度拠点に戻って一休みしてから再び海に潜る事も可能だろう。
そんな風に彼女の表情は明るく、今回のモリ突きに手ごたえ、そして充実感を感じている事が見て取れた。
「初めてだったが、かなり素潜りをものにしていたな。
これならば次回、期待できるぞ」
「魚にも人と同じく“活動時間“があります。
たとえば睡眠時間であり、魚の動きが鈍くなる夜間であれば、
充分良い結果を出す事も可能でしょう」
流石の博識、流石のシーフード好き。ライダーの言葉を聴いて次回に期待を膨らませるサーヴァント達。
初めての獲物はいったいどんな魚だろう? あーだこーだと予想し合う。
アーチャーはカサゴ。ランサーはイカ。キャスターはヒラメを予想し、ライダーは大穴マダイに賭けた。
『ふぅ。ただいま戻りましたよランスロット。
私が居ない間、なにか大事は……』
心地よい疲労感を感じながら、拠点に到着したセイバー。早速待たせていたランスロットに声を掛けるも、なにやら彼女の様子がおかしい。
『えっ。どなたですか? ……貴方は』
「「「!?」」」
セイバーの戸惑いを含んだ声に、モニターを凝視する一同。
やがてセーバーの姿を映していたカメラが荷物とランスロット(雌鶏)の方を向き、そこにいる人物の姿を映し出す。
『――――き、切嗣ッ!?!?』
「「「 !?!?!? 」」」
そこに居たのは無精ひげを生やし、上半身裸に腰蓑だけを身につけた男。
ランスと目線を合わせるように跪き、なにやらヨシヨシと背中を撫でながらエサをあげていた様子のその男は、セイバーの声を聞いてそっと視線をこちらに向けた。
『き……切嗣? なぜ切嗣がこんな所に……?』
『――――』
途端、男が無言で〈ダッ!!〉と駆け出し、森の中に姿を消す。
まるで人間技とは思えない(タイムアルター・ダブルアクセル的な)速度を持って、一瞬にしてセイバーの視界から消えた。
『待ってください切嗣!! なぜ貴方がここにっ!?
……というかここ、無人島じゃなかったんですか!? 切嗣ぅぅーーッッ!!!!』
「「「……………」」」
濡れたウェットスーツをペタペタいわせながら、切嗣を追ってセイバーが駆けだす。彼女の背中がカメラから遠ざかっていく――――
「もう何でもアリだな、この世界。
この無人島生活……きな臭くなってきやがったぜ」
ランサーがそれっぽい事を言って締めてくれたが、一同はもう、それどころでは無かった。