一か月一万円で生活するアルトリア・ペンドラゴン   作:hasegawa

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騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)

 

 

 

『丈夫なたまごを産むためには、健康が不可欠だ』

 

 ちゃぶ台カメラに、セイバーとランスロット(雌)が仲良く並んで映る。

 

『環境や食事はもちろんですが……なにより健康の為に必要なのは、

 “適度な運動“ではないかと私は思うのです』

 

 ズイッと身を乗り出し、カメラにドアップになるセイバー。それに合わせてランスもズイッと身を乗り出す。「コッコッコ」と喉を鳴らして。

 

『思えば昨日までの二日間、我らはただただ卵を産もうとし、

 こうして床に伏せているばかり』

 

「オメェは伏せてなくていいんだよ。ほっといてやれよ」

 

『……しかし、それではいけません。

 なので本日より、我らの日課に運動というものを取り入れようと思います。

 ――――さぁ行きますよランスロット! 私についてきなさいっ!』

 

 胸元で〈ぐっ!〉と手を握り、その場でピョーンと飛び上がるセイバー。着地と共に床にしゃがんだ姿勢となり、そのままヨチヨチ歩き出した。

 

「――――ん゛ふっ!!」

 

「――――こ“ふッ!!!!」

 

 口から何かを噴出するサーヴァント達。衝撃的な光景を目にし、驚愕の表情を浮かべる。

 それもその筈、いまセイバーがやっているのは“あひる歩き“だ。

 床スレスレまで腰を落とし、おしりをフリフリしながらアヒルさんよろしく歩いているのだ。ひよひよ、ひよひよ。

 

『そ~れ、いっちに♪ いっちに♪』

 

『コッコッコ』

 

 満面の笑みでおしりを左右に揺らし、部屋をぐるぐる周っていくセイバー。後ろにランスを引き連れ、仲良く行進だ。

 

「ごっ、ごめんねセイバーッ! 笑ってはダメなんだけどっ……!」

 

「流石にこれはッ……!! かっ、彼女は真面目にやっているというのにッ……!!」

 

 必死に笑いをかみ殺すサーヴァント達。ランサーなどはもうひっくり返って悶えている。

 

「愛らしいっ! 愛らし過ぎますセイバーッ!!

 なんですかこのかわいい二人は! 私をどうする気ですか!!」

 

「な、なんつーいい顔してんだセイバーは!!

 俺ぁもうダメだッ……! 笑っちまうっ……!」

 

 おいっちに、おいっちに。コッコッコ。

 モニター内の微笑ましい光景と、この場の地獄のような光景との対比がすごい。

 

「ちなみにコレ、これから毎朝やるぞ。

 セイバーとランスの朝の日課だから」

 

「てめぇ坊主ッ!! いまお前ッ……いまッ!!」

 

 もう我慢出来ずガハハといくランサー。他のメンバーも耐え切れずに撃沈だ。

 

 

 現在画面には、テテテと全速力したり牛歩のようにノッシノシしたりと、あひる歩きでストップ&ゴーを試みるセイバーが映っている。懸命にトテトテついていくランスも愛らしい。

 

 笑ってしまった事を心の中で騎士王さまに詫びつつ、必死に口元を押さえてにやけるサーヴァント達だった。

 

 

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 ~一か月一万円生活、四日目~ (ナレーション、カレン・オルテンシア)

 

 

『――――さぁ行きますよランスロット! そ~れいっちに♪ いっちに♪』

 

「 連続アヒルやめろ!! 俺らを殺す気かッッ!! 」

 

 ようやく画面が切り替わり、「助かった……」と思って手を下ろした瞬間に、またアヒル歩き。

 再び口元を押さえ直し、プルプルと震えながら画面を観る一同。

 ライダーなどはもう「~~ッッ♡♡♡」と座布団に顔を埋め、足をバタバタさせているが。

 

 

「なにこのハイパーあひるタイム! そういう番組なの?!」

 

「私なにか良い事しましたか……? 何かのご褒美ですか……?」

 

 なにやらおかしな事になっているライダーはさておき……やがて映像内にカレンボイスのナレーションが入る。

 

『土下座をするばかりの惨めな一日を終え、新しい朝を迎えたセイバーさん。

 今日も乞食のようにウロチョロと徘徊し、健気にたまごを探します――――』

 

「言い過ぎだろオメェ。頑張ってんだよコイツも」

 

 カレンの花のような声で言う毒舌はともかく、イソイソと部屋を見て回るセイバー。

 ちなみにカレンのナレーションによると、昨日もセイバーの食事は納豆1パックとごはん一合であったらしい。

 

『……無い。やはり無い』

 

 沈痛な面持ちで床を見つめるセイバー。どうやらこの日もランスはたまごを産まなかったようだ。

 

『まぁ昨夜は一晩中ランスを見ていましたから、当然と言えば当然ですが』

 

「ホントに一晩中やったのね。なにその無駄な情熱」

 

 セイバーも初日に言っていた通り、ニワトリはとてもデリケートな動物だ。今すぐ飛んでいって「お前が原因なんだよ」と言ってあげたいが、それも叶わぬ望みだ。

 

『ふむ、では今後の為、一度ニワトリの事を調べてみましょうか。

 シロウ、ありがたく使わせて頂きます』

 

 ノートパソコンの電源を入れ、ブラウザを立ち上げていくセイバー。なにやらランスも興味津々のようで、一緒になってノーパソを覗き込んでいる。

 

『にわとり……友……共存……と』

 

「心意気は買う。だが“ニワトリ“、“飼育“にしたまえ」

 

 やがてなんやかんやしつつ、セイバーは無事にニワトリ飼育についてのページに辿り着く。そこにはニワトリを飼う為の心得や、たまごを産みやすい環境について沢山書かれている。

 

『なるほど……ニワトリがたまごを産む為には“光“が重要なのですね。

 光を浴びる事により体内に栄養素が作られ、たまごを産む為のエネルギーになると』

 

「これに関しては問題なさそうですね。この部屋は日当たり良好ですから」

 

「うむ。ランスも機嫌良さそうにしているからな。問題はあるまい」

 

『後は、やはり“ストレス“が大敵であるようだ。

 環境の変化、縄張り意識、飼い主への信頼……。

 ランスが快適に過ごせるよう、これからも精進していかなけれは』

 

「やり方はともかく、よくやってはいるんだよなコイツ。

 ランスも心を開いてっし、こうして努力も惜しまねぇ」

 

「目指せニワトリ博士ね♪

 このまま頑張っていけば、きっとランスも応えてくれるわ♪」

 

 後は土下座を止め、プレッシャーかけるのを止めさえすれば充分いけそうなのだが……。画面の中のセイバーと共に、サーヴァント達もウンウンと唸る。

 

『ん? ……こらランスロット! いけません!』

 

 セイバーの声に思考を中断し、モニターに視線を戻してみれば……、そこにはなにやらキーボードの上に乗ろうとしているランスと、それを困り顔で阻止しようとするセイバーの姿。

 

『乗ってはいけません! これは我が主の大切な……、ってコラ!

 そこに座ったら画面が見えませんよ……ランスロット!』

 

 セイバーが「あわわ……」と窘めるも、「つーん!」とばかりにその場を動こうとしないランスロット(雌鶏)。

 どうやらセイバーがパソコンばかりしているのが気に喰わず、「わたしとあそんで!」と意思表示しているのが見て取れる。

 

『あぁ、マウスのコードが足に……。

 絡まってしまいますよランスロット? ダメと言っているのに……』

 

(つーん!)

 

 何度余所に行かせようが、その度にトトトと歩いてきてセイバーの前に座るランスロット(雌鶏)。

「パソコンなんかやめて、わたしを見て」と、徹底抗戦の構えである。

 

「イチャつきやがって。見せつけてくれんなぁオイ」

 

「ランスもこういう所があるのね。可愛らしいじゃないの♪」

 

 なにやら微笑ましい光景に、見ている者達の頬も緩んでくる。

 流石の騎士王さまも、ニワトリさんにかかっては形無しのようだ。

 

「……えっと。私を“萌え殺す“という事で、よろしいですか……?」

 

 そして〈クラッ……〉とばかりに崩れ落ちていくライダー。

 アーチャーが慌ててそれを支えるも、彼女はもう目が♡の形になってしまっており、「ほぅ……♪」と甘い吐息を漏らし続けている。

 

「気ぃ失ってやがる。駄目だなコリャ」

 

「幸せそうな顔だ……。とりあえずここに寝かせておこう」

 

 桜と慎二に預けられ、額に冷たいタオルを乗せてもらうライダー。

 脱落者とかあるんですね……(驚愕)とは思いつつも、とりあえずモニター画面に向き直るサーヴァント達。

 

『あぁ、これでは調べ物は出来ない。

 仕方がない。一度ランスロットを連れて、農家のおじさんの所に行きましょう』

 

 機嫌を直してもらうため、優しく背中を撫でてやる。

 それからセイバーはランスを抱きかかえ、農家のご夫婦の家へと向かった。

 

 

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『あんれぇ~、一晩中見てたんかぃ?

 ニワトリは夜たまごを産まんよ(・・・・・・・・・)?』

 

 セイバーの背後に〈ピシャーン!〉と雷が落ちる。

 どうやら農家のおじさんによると、一晩中土下座したのはまったくの無駄であったようだ。

 

『日中にしか産まんようになっとるんじゃよぉ~。

 たまご産むにゃあ、お日様の光がいるらしくての?』

 

『そ、そうだったのですか……』

 

「やっちまったなオイ。目の下にクマできてんぞ」

 

 途中で中断せざるをえなかったが、さっきのHPで見た“光が必要“とはこういう事だったのだろう。

 夜に土下座するのは無意味だったが、せめてセイバーの愛は届いたと思いたい。

 

『あぁ、それとこの子を見てて分かると思うんじゃが。

 今はニワトリにとっちゃあ、“羽の生え変わり“の時期でなぁ~』

 

『確かに。ランスロットの羽がたくさん部屋に落ちています』

 

 そうであったかとフムフム頷くセイバー。農家のおじさんのお話は、やはり為になる。やって来て正解だったと確信している様子だ。

 

『じゃから今、羽を作るんに沢山の栄養が必要での?

 この時期のニワトリは、たまごを産まんのよ(・・・・・・・・・)

 

『 !?!? 』

 

「「「 !?!?!? 」」」

 

 もうピシャーンどころか〈ズガァァァン!!〉みたいな稲妻がセイバーの背後に落ちる。

 一緒に話を聞いていた一同も、アングリと口を開けてしまっている。

 

『この子を見とると、お嬢ちゃんが本当に大事に飼ってくれとるんが分かるよぉ。

 うちの家内も言うとったが、お嬢ちゃんにならもう、何の心配もなぁわ。

 今はこの子にとって大事な時期じゃから、のんびり見守ってやっておくれ。

 この子は妙にがんばり屋なのか……、たまに産みよる事もあるでな?』

 

 頭をグワングワン揺らし、放心状態に陥っていたセイバー。

 しかしおじさんの暖かい言葉を受け……、この場に意識を戻す。

 

 

『はい、必ず――――

 ランスロットは私の盟友。必ず守ります』

 

 

 おじさんの目を見つめ、はっきりとした言葉を返す。

 自分を信じてランスを預けてくれたこの人に、しっかりと報いる事が出来るよう。

 今一度、誓うようにして。

 

 その姿を見てサーヴァント達は、もうため息すら出なくなる。

 

「……悪ぃ、なんも言えねぇわ」

 

「あぁ、同感だよランサー。私も言葉が見つからん……」

 

「誰も……悪くない。悪くないのに……」

 

 心からの感謝を告げて、セイバーがおじさんの家を後にしていく。

 その背中からは、彼女の表情を読み取る事は出来なかった。

 

 

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『募金お願いしまーす! お願いしまーす!!』

 

 ランスを抱きかかえ、ゆっくりと帰路を歩くセイバー。

 ふと彼女が目線をやれば、そこには駅前で募金活動をしているらしき学生達の姿があった。

 

『震災に遭われた方々の為、募金をお願いしまーす!!』

 

『僕らでチャリティーマラソンをやりまーす! 応援よろしくお願いしまーす!』

 

『お願いしまーす!!』

 

 学生服に身を包み、必死で声を上げる少年少女たち。

 たとえ通りすがる人々に無視されようが、怪訝な目で見られようが、精一杯声を上げ続ける。

 額に汗を流し、一生懸命な姿がひしひしと感じられた。

 

『――――』

 

 セイバーの足が止まる。

 今も必死に声を上げる少年少女たちを見つめ、氷のように固まったまま動かない。

 

「……お前、まさか」

 

「……」

 

 でも迷ったのなんか、一瞬だ。

 セイバーが財布を取り出し、少年少女たちのもとへ駆けて行く。どんどん彼女の背中が遠ざかっていく。

 

『ありがとうございます! 応援ありがとうございます!』

 

『『ありがとうございます!!』』

 

 コトンと、500円玉が募金箱に落ちる音が聞こえた。

 この場にいる子供たちは、5人。その全ての想いに報いるようにして。

 

 

『応援しています。がんばって下さい――――』

 

 

 やがて子供たちの声に見送られ、セイバーがカメラのあるこの場に戻って来る。

 その表情は伺えない。ただ言葉も無く、再び帰路を歩き出す背中だけが画面に映っている。

 

 

「義を見てせざるは勇無きなり……か」

 

 

 静まり返る衛宮家の居間。

 小さく呟いたアーチャーの声だけが、響いた。

 

 

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 ランスを膝に乗せ、背中を撫でてやる。

 家に帰ってからセイバーは特に何をするでもなく、ただこうしてランスと共に過ごしていた。

 

『あの子らは、今も懸命に声を上げているのでしょうか』

 

 セイバーが呟く。今日ちょっと拗ねさせてしまったランスを慈しみながら。

 

『あれは私のお金ではない……。シロウが預けてくれた大切なお金だ。

 申し訳ありません、マスター』

 

 カメラの存在も忘れ、誰に言うでもなくセイバーは呟く。

 その瞳も、どこかここではない場所を見つめているように思えた。

 

『あの子らは、学生だった。

 きっとシロウやリンと、同じ年ごろだ……』

 

『シロウは今どうしているだろうか? リンとサクラは元気にしているだろうか?

 ……まだ四日しか経っていないというのに……駄目ですね私は』

 

 誰かの為に頑張る姿――――それが士郎たちと重なって見えた。

 セイバーは何気なしというように、天井を見上げる。

 その顔はこちらからは見えず、彼女が何を想うのかは、窺い知る事は出来ない。

 

 しばらくの間、そんな時間だけが静かに過ぎていったが……膝に乗っていたランスが、じっとセイバーを見つめるように顔を上げている事に、ふと彼女は気付く。

 ランスは喉を鳴らす事なく、静かにセイバーを見つめている。

 言葉が通じぬこの子の気持ちなどセイバーには分かるハズもない。それでもセイバーはランスに笑みを返し、そっと彼女の口ばしに指で触れた。

 

『折れていた、かもしれない……。

 今日のあの子らを見て、私は泣きながら衛宮家へと駆け戻っていたかもしれない。

 シロウのもとへ……。今すぐシロウに会いたいと……』

 

 苦笑しながら、ちょんと口ばしに触れる。

 その仕草はどこか、ランスに“感謝“を伝えるかのように。

 

『でも、貴方がいる。

 ランスロット、私には貴方が居てくれたのです。

 だからこそ、ここへ戻って来る事が出来た――――』

 

 そっとランスを床に降ろし、目線の高さを合わせる。

 そして心からの感謝を。そして親愛を。

 

 

『ありがとうランスロット、共に居てくれてありがとう。

 私を支えてくれて、ありがとう――――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっと伺う事の出来た、彼女の顔。

 

 それはまるで花が咲いたような、心からの笑み。

 

 再び優しく背中を撫でてもらいながら……、ランスがその顔を、じっと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

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 ~一か月一万円生活、五日目~ (ナレーション、葛木宗一郎)

 

 

「 声しぶッ!! 」

 

 先ほどのシーンからの、突然のミドルボイス。その落差にひっくり返るランサー。

 

「宗一郎ッ! いま宗一郎のお声がッ!!」

 

「いや……とても良い声だな葛木先生は。

 さすが毎日教壇に立ち、授業を行っているだけある!! 驚いたよ私は……」

 

「こっちの仕事でも食えるんじゃねぇのか?

 なんつーか、耳に心地良い声だぜ。ずっと聴いてられるっつーか……」

 

 大絶賛の葛木宗一郎ボイス。

 後に流れた「セイバーはあれから夕食作りに入り、もやし炒めを作った」というナレーションもみんなに大好評だった。

 どうやら彼の渋い声で言う“もやし炒め“というワードが、妙にハマったらしい。大盛り上がりである。

 もっとしゃべってくれ、もっとしゃべってくれ、そうみんなうるさい。

 

『おはようございますランスロット。

 ……おや? 今日はそちらにいるのですね』

 

 背筋をぐ~っと伸ばし、いつものように微笑みかけるセイバー。

 ランスロットも顔を向けて「コッコッコ」と返事を返すが、その場から動こうとはしない。

 いつもセイバーの眠る布団の上で一緒に眠るのだが……どうやら今は藁の上に居るようだ。

 

『いけないいけない、少し寝過ごしてしまったようだ。

 いつもは私の方が早いのに、今日は負けてしまいましたね』

 

 流石はニワトリだとウンウン頷き、何故か誇らしげにランスを見る。

 私の友は頼れる早起きさんです。そう自慢げにカメラに報告する。

 

『さて、では顔を洗った後、我らの朝食を準備し……。

 ん? ランスロット、なんですかソレは?』

 

 セイバーが腰を下ろし、ランスと目線を合わせる。……その時ふいに、ランスの後ろの方に何か白い物がある事に気付いた。

 

『ランスロットのおしりは毎日見ていますが、

 そのような白の模様は無かった…………って、ランスロット?!?!?!』

 

 思わず〈グルンッ!〉とランスに顔を向け、目を見開く。

 ランスの方は今ものほほんと……だが心なしか“得意げな顔“でセイバーを見ている。

 

「あの野郎、まさかッ!?!?」

 

「なっ……!?!?」

 

「ランスちゃん?! 貴方ッ……!?」

 

 セイバーが座った状態から〈グルルルッ!!〉と前方三回転ひねりを決め、即座にランスの後ろに回り込む。無駄な身体能力。

 

 

『――――たまご! たまごだぁーーっ!!!!

 ランスロットがたまごを産んだぞーーーーーっっ!!!!』

 

 

 立ち上がり、まるで王冠のように頭上高くたまごを掲げる。テッテレー♪ とばかりに。

 そのバックには後光が差しており、〈ペッカー!!〉というファニーな効果音が流れている。士郎が頑張ったのだ!

 

「アイツ空気読みやがった! 産みやがったぞオイ!!」

 

「なんと……なんという忠臣だ君はッ!! 従者の鏡じゃないかッ!!」

 

「ランスッ……あぁランスッ!!

 やったわぁランスロットぉぉぉおおおーーッッ!!!!」

 

 冬木に響けと、まるで世界中に聞かせてやるかのように、セイバーとサーヴァント達が叫ぶ。

 その声に驚いて「えっ?! なんですか?!」とライダーも飛び起きた。無事生還である。

 

『やりましたねランスロット! こんなにも友情に厚い者を、私は知りませんッ!!!!

 あぁ、ありがとうランスロット……ありがとう……!!』

 

 たまごを大切に保管し、「アハハ! アハハ!」とランスを抱き上げる。

 一人と一羽が、1LDKの部屋でくるくると周る。

 

 

 

 

「えっ、朝ですか?

 あぁランスはいつも本当に愛らしい……って、え?」

 

 

 記憶がノーパソのシーンで止まっているライダーを、置き去りにして。

 

 

 


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