一か月一万円で生活するアルトリア・ペンドラゴン   作:hasegawa

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 皆さまの熱いご要望にお応えし、原典ネタをひとつ。






冬木の虎

 

 ~一か月一万円生活、七日目~ (ナレーション、間桐慎二)

 

 

「おや、今回はシンジですか」

 

「……なんだよ、言いたい事あるなら言えよ。

 衛宮の頼みじゃなきゃ、誰がナレーションなんか……」

 

「いや、良い仕事だと思うよ。相変わらず君は、何でもそつなくこなすな」

 

 プイッと顔を背ける慎二に対し、「おー」とパチパチ手を鳴らす一同。

 朝起きた時のセイバーの様子、そしてランスロット(雌鶏)と無邪気に戯れる彼女の様子を流暢に説明している。慎二のナレーションは大変好評のようだ。

 

「あ、でもよ?

 ……よぉ間桐の坊主。おめぇ一回“もやし炒め“って言ってみ?」

 

「えっ」

 

 顔を背けながらもどこか照れた様子でいた慎二。その表情が凍り付く。

 

「そうね。ぜひお願いするわ」

 

「あいにく、もやしは切らしちゃあいるが構う事ぁねぇ。今言え」

 

「ですね。ナレーションをするなら、ぜひ言ってもらわないと」

 

「ではよろしく頼む。……よし、みんな目を瞑れ」

 

「えっ? え」

 

 慎二の返事も聞かず、なにやら目を瞑って“聞く態勢“に入るサーヴァント一同。

 戸惑っている慎二を余所に、もう“もやし炒め“を全身で感じ取る気まんまんだ。

 

「……えっと……も、もやし炒め?」

 

「「「…………」」」

 

 腕を組み、「うーん」と考え込むサーヴァント達。そしてオロオロと戸惑う慎二。

 

「……駄目だな、芯がねぇ」

 

「なんと言うか……心にグッと来ません」

 

「もう少し、もやしという言葉に深みを……」

 

「彼は若すぎたな。将来性に期待しよう」

 

「 なんなんだよお前らッ!! なんなんだよ!! 」

 

 言わせといて、この仕打ち――――

 もう慎二じゃなくてもプンスコしちゃうだろうが、サーヴァント達のもやしへの想いはそれほど深いのだ。妥協は許されないのだ!

 

 もう「ムキャー!」と怒る慎二を宥めつつ、のほほんとモニターを見る一同。

 やがて〈ピンコーン♪〉という、セイバー宅への来客を知らせる音が聞こえてきた。

 

『セイバーちゃーん! あーそびーましょーっ♪』

 

『!?』

 

「「「!?!?」」」

 

 元気よくピンポンを鳴らし、はち切れんばかりの笑顔で玄関先に立っていたのは、藤村大河。

 士郎の姉貴分であり、セイバーとも家族のように親しくしてくれている、虎柄のシャツのお姉さんである。

 

『お~、やってるわねぇセイバーちゃん! 感心感心っ♪」

 

『……た、大河? どうしてここに……』

 

『いやね? 士郎からセイバーちゃんがここに住んでるって聞いてね?

 私もう居ても立っても居られなくなっちゃて! 遊びに来ちゃった♪』

 

「あーよっこいしょ」とばかりにズカズカ中へ入り、持ってきた荷物を床に置く大河。

 さっそく足元に寄って来たランスを見つけ、「おーよしよし」と背中を撫でている。

 

『そうですか……会いに来てくれたのですね。感謝します大河』

 

『なんのなんの! 私とセイバーちゃんの仲じゃなーい♪

 もういつでも飛んでくるわよ私は! 原付バイクに乗って!」

 

 突然の来訪に驚きつつも、嬉しそうに微笑むセイバー。

 まだ7日とはいえ衛宮家を離れていた彼女にとって、こうして大河の顔を見られたというは望外の喜びであるようだ。

 

「これは心強い。セイバーにとって何よりの励みとなるでしょう」

 

「あぁ。この生活の中、気の知れた友人の存在というのは本当に大きい」

 

「いいトコあんじゃねーか、あのねーちゃん。ちっと見直したぜ」

 

「セイバーも嬉しそうね。あんなにニコニコしちゃって♪」

 

 感謝と親愛を伝えるように大河の手を取るセイバー。そして「なっはっは!」と豪快に笑う大河。

 そんな二人の微笑ましい様子を、サーヴァント達も暖かく見守る。

 

『さてさてセイバーちゃん! こうしてお部屋でまったりするのも良いんだけど、

 今日はランスちゃんも連れて、一緒に遊びに行かない?』

 

「よっし!」とばかりに立ち上がる大河に、セイバーは「?」とキョトン顔。

 

『うちの蔵から良い物を持ってきたの!

 いっちょコレで、今日のばんごはんをGETしに行きましょうっ♪』

 

 大河が荷物の中からゴソゴソと取り出したのは、二本の“釣り竿“。

 それをグッと顔の横で握り、満面の笑みを浮かべた。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 澄み渡る青空。

 絶好の釣り日和に恵まれた、冬木の漁港。

 

『あぁ~龍之介ぇ~! 今夜は貴方の大好きな、カレイの煮つけを~っ!』

 

『……よ、余のお魚が! なぜ途中で糸が切れる!? 余のばんごはんが……』

 

 ふと見渡せば、自分達と同じように港にやってきた釣り人達が一喜一憂している姿がある。なんとのどかな光景だろうか。

 

『海ねぇ……セイバーちゃん』

 

『海ですねぇ……大河』

 

 視界一杯に広がる海、潮風の香り、海鳥の声。その全てを身体全体で感じ、魂が揺さぶられる想いだ。ランスも心なしか「じぃ~ん」と目を細めているように見える。

 かの征服王は最果ての海(オケアノス)を目指して人生を駆け抜けたというが、彼の思い描いていた海も、こんな光景だったのだろうか。

 そんな事を考えながら、セイバーはタイガが持参したミニチェアーに腰を下ろし、イソイソと釣り具の準備にかかる。

 針の先にエサをひっかけて、海に向かいビシュッと投げ放つ。二人とも剣術の心得がある為か、それは釣りの素人とは思えない位に遠くへと飛んだ。

 

『お、やるわねぇセイバーちゃん! 見事な振りだったわ!』

 

『大河こそ見事なお手前です。流石と言わざるを得ない』

 

『これはもう……競争するしかないわね。

 より遠くに飛ばした方の勝ち……どう?』

 

『面白い。貴方の挑戦を受けよう、大河。

 今日が冬木の虎の最後の日となるでしょう』

 

『はっはっは♪ ぬかしよるわ小娘♪

 じゃあやるわよセイバーちゃんッ、雌雄を決するは今ぞ!』

 

 もう魚を釣る事も忘れ、助走をつけて「おっしゃー!」「そいやー!」と竿を振る二人。

 地平の彼方まで届けとばかりに、二人の釣り針が空高く飛んでいく。

 

「そういうアレじゃねーんだけどなぁ、釣りってのは……」

 

「まぁ良いんじゃない? セイバーも楽しそうにしてるし」

 

 セイバーお得意の「う゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ーーー!!」というエッジの効いた声を聞きながら、その姿を微笑ましく見つめる一同。

 最近は部屋にこもっている事も多い彼女だが、今日大河と一緒にここに来た事は、心身共に良いリフレッシュになったのではないかと思う。

 

『――――空に輝くは南十字星ッ! この聖帝、藤村の物だッ!!』

 

『……大河ッ!! 貴様の髪の毛一本すらッ……この世には残さないッッ!!』

 

ジョーカー(切り札)を切らせてもらう。ゼロ距離……とったぞッ!!』

 

『無駄に力だけあってな……。全力あの世へ持っていけいッ!!!!』

 

『国へ帰るんだな。お前にも家族がいるだろう』

 

『エクスカリバー(釣り竿)を破らぬ限り、貴様に勝ち目はない!』

 

『地球のみんなッ! オラに元気を分けてくれ!!』

 

『……もってくれ私の身体ッ! 三倍だぁぁぁあああ~~~~ッッ!!』

 

『セイバァァァァアアアアーーーーーーッッ!!!!』

 

『大河ァァァァアアアアーーーーーーーッッ!!!!』

 

 だがもう彼女らが何を言っているのか分からない。それは決して魚釣りをしている者のセリフでは無かった。

 

『おぉタイガ……大河ッ! 人の皮を被った鬼めッ!!』

 

『勝てば良かろうなのよセイバーちゃん!! 貴方は甘すぎた……優しすぎたのッ!!』

 

「ちょえぇぇい!」と雄たけびを上げた大河がセイバーの肩を踏み台にし、天高く舞い上がって竿を振る。

 釣り針は目で追えない程に高く〈バシュゥゥ!!〉と飛んでいき、地平線の彼方へキュピーンと消えた。

 

「おい、釣りをしたまえよ君達」

 

「無駄に見応えのあるバトルですが……未だに釣果ゼロです」

 

 Fate/zeroならぬ、釣果ゼロ。これでは胃袋という名の聖杯を満たす事は出来ない。

 やがて散々騒ぎ倒してからその事に気付いた二人は、普通にイスに座ってのんびり釣りをする事とした。

 

『フィッシュ! フィッシュよセイバーちゃーん!』

 

『いま網を用意しますっ!

 おぉ見てみなさいランスロット! あんなに立派な魚が!』

 

 その後お昼時までワーキャーと釣りを続けた彼女たちは、アジ一匹、サバ二匹、ブダイ一匹というなかなかの釣果を上げ、坊主の回避に成功。

 初挑戦の釣りながら、見事に晩ごはんをGET。笑顔で帰路に着いたのだった。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

『あ~面白かった! それじゃあそろそろお腹も空いたし、

 一緒にごはんでも作りましょうか♪』

 

 セイバー宅へと帰還した大河は、さっそく持ってきた荷物をゴソゴソし始める。セイバーはランスを胸に抱え、その姿を見守る。

 

「そういや誰かとメシを食うのは、これが初になるな」

 

「いつもはランスと二人の食事ですからね。今日は賑やかになりそうです」

 

 この生活が始まってから初めてのお客さんであるし、セイバーもニコニコと嬉しそうだ。

 なにやらランスの方もずいぶん大河を気に入っているようで、彼女の破天荒な行動にも決して慌てる事無く、ずっと機嫌良さそうにしていたりする。とても懐の深いニワトリなのだった。

 

『じゃじゃーん! はいこれ小麦粉!

 今日行きがけにスーパーに寄って買ってきたの! 特売だったのよ~っ!』

 

 大河がナップサックから取り出したのは、フラワーと書かれた小麦粉(500g)。

 これさえあればパンだろうがお好み焼きだろうが何だって作れる、まさに神が与えたもうた万能の粉なのだ!

 

『勝手に買ってきちゃって悪いんだけど、セイバーちゃん40円だけ貰えるかな?

 本当はあげちゃいたいんだけど、士郎がルールだからって言ってて……』

 

『構いませんよ。むしろ大河に感謝したい位だ。

 私が以前スーパーで見た時、小麦粉は140円もしましたから。

 いつかは手に入れたいと思っていたのです』

 

 がま口を取り出し、大河に十円玉4枚を手渡すセイバー。残り軍資金は2633円となったが、前回手が出なくて悔しい思いをしていた小麦粉を手に入れる事が出来て、彼女もほっこり顔だ。

 

 以前の彼女ならば、小麦粉などあっても何も作れはしなかっただろう。しかし今は士郎より持たされたノートパソコンがある。様々なレシピを調べる事が可能となったのだ!

 

「例えば菓子パンなどを作れば、この生活に不足しがちな糖分も摂取可能だろう。

 あとは思い切ってケーキ作りに挑戦するのも良いかもしれないな。

 美味しい甘味は心を豊かにするし、良い経験にもなるだろうさ」

 

「夢が広がりますね……! 小麦粉というのは本当に凄い……!」

 

 この節約生活において、おやつを買って食べるのは難しい。しかし自分で作る事が出来るのなら話は別だ。

 小さな幸せ、心に潤い。これは生きていく上で非常に重要な事だと思う。ただ生きるだけが人生に非ずなのだ。

 

『ありがとねセイバーちゃん。代わりにと言ってはなんだけど、

 備品としてこれを持って来たの! セイバーちゃん欲しかったんでしょ?』

 

『なんと!? こめびつ先生ではありませんか!! おおっ!!』

 

 備品としてこめびつ先生を受け取り、キラキラと目を輝かせるセイバー。

 雑貨は一万円ルールの対象外なので、大河に感謝してありがたく頂いておく。これで我が家のお米が虫さんに食べられてしまう心配はナッシング。安泰である。

 

『ほかにもランスちゃんの為のペットヒーターとか、給水器とか。

 これは家に転がってた腹筋ローラーにぃ~、10㎏のダンベルにぃ~。

 あとPSP版“タイガーころしあむ“でしょ~』

 

『おぉ……なんと……』

 

 途中いらなさそうな物もだいぶ散見されるが、セイバー宅に必要な雑貨を矢次に渡していく大河。

 

「スケッチブックと……クレヨン!?

 騎士をなんだと思ってやがんだアイツは!?」

 

「家にあった物をガサッと持って来た感じね……。

 まぁ貰っておけば良いわ。彼女の厚意なのだし」

 

 家にいる時は退屈する事もあるだろうし、これがセイバーの生活を豊かにするなら文句は無い。

 次々にナップサックから出てくるマグネットの将棋盤やハンドスピナーなどを、サーヴァント達も苦笑しながら見つめる。

 

『これで渡す物も渡したし、それじゃあ改めてごはん作りに取り掛かりましょうか♪

 セイバーちゃん、早速その小麦粉を貸してもらえる?』

 

『ん? 釣った魚を焼くのではないのですか? 何を作るのです?』

 

『まぁ見てて見てて! ……それじゃあちょっとお台所をお借りしてぇ~。

 この小麦粉にぃ~』

 

 大河がセイバーから小麦粉を受け取り、約300gほどをボールの中に入れる。

 そして計量カップで100mlの水を加え、グイグイと元気にこねていく。

 

『……よっし! それじゃあ仕上げよセイバーちゃん!

 ちょっとそこに座って構えてて? 野球のキャッチャーみたく』

 

『? こうでしょうか大河?』

 

『かぁ~めぇ~! はぁ~めぇ~……! はぁぁぁあああーーーーーッッ!!!!』

 

『!?!?』

 

 こね終わった小麦粉の球を、某ドラゴンボールよろしく発射する大河。「とどめだぁー!!」とばかりに飛んで来たそれを、セイバーが慌ててキャッチする。

 

『ナイスよセイバーちゃん!

 それじゃあ今から、この小麦粉を使ってお米を作ります(・・・・・・・)!!

 ちねるわよ! セイバーちゃん!!』

 

『!?!?』

 

「「「 !?!?!? 」」」

 

 口をアングリと開けるセイバー。満面の笑みでそう宣言する大河。サーヴァント達も度肝を抜かれてしまっている。

 

「き……貴重な小麦粉が!! パン作りの材料が……!!」

 

「おい、“ちねり“ってアレか……? あのハマグチェの大将がやってた……」

 

 あまりのショックに放心するアーチャーを余所に、以前TVでちねりを観た事があったランサーが声を上げる。

 それはこの企画の原典であるTV番組で、某ハマグチェマッサル氏が編み出した製米術。

 小麦粉を小さくちぎって、お米に似た“何か“を作り出す……、通称ちねりと呼ばれる調理法であった。

 

『あ……あの、大河? 我が軍にはすでに充分なお米の蓄えがあります。

 わざわざ小麦粉を使って、お米を作らずとも……』

 

 冷や汗をかきながら、セイバーがそう進言するも……。

 

『 ――――――駄目ぇぇぇえええーーーーーーッッッッ!!!! 』

 

『!?!?』

 

「「「 !?!?!? 」」」

 

『 駄目よッ、ちねらなきゃ!!

  小麦粉もちねらずして、何が一か月一万円生活よ! バカにしないでよッ!! 』

 

 虎の咆哮が1LDKの部屋に木霊する。

 その魂の叫びに、一同は恐れおののくしかない。

 

『……セイバーちゃん? 貴方が初日に10㎏もお米を買ってしまった時、

 私の心は深い悲しみに包まれたの……。分かる? その時の私の気持ち』

 

『…………』

 

「「「…………」」」

 

『さぞ、ちねるのでしょう……。

 さぞセイバーちゃんは、毎日ちまちまと小麦粉をちねるのでしょう……。

 そうワクワクしてた私の純情を返してっ! 返してよっ!!』

 

 もう足をドンドン踏み鳴らしながら、「ひどいひどい!」と涙を流す大河。

 関係ないけれど、近所迷惑なのでぜひ止めて頂きたい。

 

『私なら、ちねる!! もうわき目も振らず、ひたすら一か月間ちねり続けるわっ!!

 貴方にはその心意気が無いのっ!?』

 

『――――ッ!?』

 

『さぁ来いよセイバーちゃん! お米なんか捨ててかかって来いッ!!

 それとも貴方……、このこめびつ先生がどうなっても良いと言うの!?』

 

『ッ!? 卑怯ですよ大河!! それは私の大事な……!』

 

 窓をスッと開け、こめびつ先生を持った手を外に出す大河。まるで「落としちゃおっかな~?」とでも言うように。

 

『さぁどうするのセイバーちゃん……ちねる? ちねらない? どっち!?

 ――――握ってるのは左腕だ! 利き腕じゃないんだぜ!?』

 

「大人げねぇよ!! 何がお前をそうさせんだよ!!」

 

 大河のよくわからない情熱に押される形で結局ちねる事になったセイバー達。

 円卓(ちゃぶ台)に着き、そこにちねったお米を順番に並べていく作業に入る。

 

 ランスが興味を示して「コッコッコ」とやって来たので試しにひとつ味見をしてもらったが、この子の反応を見る限り、出来は上々のようだ。

 時に雑談しつつ、時に無言になりつつ、ひたすら二人はちねり続けていく。

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

~一時間後~

 

『うんうん! 良いペースよセイバーちゃん!

 このままドンドンちねり続けて、ドリーミンな晩ご飯を完成させましょう!』

 

『はい大河。段々コツも掴んできましたし、やれそうです』

 

 

 

~二時間後~

 

『それでね~セイバーちゃん? あの時の士郎ったらね~?』

 

『――――ほう、それは興味深い。

 その“ペンギンクラブ“とやらを見つかって窓から飛び降りたシロウは、

 いったいどうなったのですか?』

 

 

 

~三時間後~

 

『オラオラオラオラ! オラオラオラオラオラ!!』

 

『すごい……目にもとまらぬ速さでちねり米が出来上がっていくッ……!

 私も負けてはいられません!』

 

 

 

~四時間後~

 

『2045……2046……2047……』

 

『よいしょ……よいしょ……よいしょ……』

 

 

 

~五時間後~

 

『……はぁぁあっ……! ……はぁぁぁあ~~っ……!』

 

『……ッ。……ッ。……ッ』

 

 

 

~六時間後~

 

『あのねセイバーちゃん? 私ね……?

 確かあの時、コーラを頭から被って火事場に飛び込んでって、その後……』

 

『隠れキリシタンですね、わかります……。

 あれには本当に手を焼かされた。ガウェインもそれで命を落とし……』

 

『いま必要なのは、チュッパチャップスだと思うの。

 ……ブルーベリーなんか食べたって、私のプラモデルは戻って来ない……』

 

『あの日から全てがおかしくなりました……。

 いいじゃないですか、セグウェイに乗ったって……。

 まだ野菜が残っているのに、お皿を下げないで下さい……』

 

 

 

~七時間後~

 

『……死んだら…………死んだら終わりじゃないのよ……。

 ……いいから黙って星条旗を背負いなさいよ……。なんで貯金しないのよ……』

 

『……ザクに、乗りましょう……。それだけが唯一、奈良県を救う手段なのです……。

 ……マクド〇ルドに勝てるワケがない……。墓参りをしましょうよ……』

 

「 ――――もういいッ! 休めッ!! 」

 

「 死んでしまうわセイバー!! 心が死んでしまうッッ!!!! 」

 

 

 サーヴァント達の悲痛な声も届くハズもなく、その後も延々とちねり続けるセイバーと大河。

 ちねり作業が計8時間を超えた頃……ようやく手元にあった小麦粉が尽き、ちねり米が完成された。

 

 

………………………………………………………………………………………………

 

 

『長い戦いだったわねセイバーちゃん……。

 ではこれよりおかず作り! 今日のお魚を料理していくわよ!』

 

『はい大河。なにやら所々記憶がありませんが……ちねり終わったのは嬉しい。

 お魚を捌いていきましょう』

 

 もうクラックラしながら台所に立つ二人。あれからちねり米はサッと茹でられた後でフライパンで炒められ、立派にごはんの状態となっている。

 大河がクーラーボックスから魚を取り出して鱗を取っていき、それをセイバーが捌いていく。

 流石に魚を捌くやり方なんかは知らないので、お腹の部分に切れ目を入れてワタを取る作業だけに留めた。これさえやっておけば何とかなるだろうとの事。

 

「二人は何を作る気でしょうか? オーソドックスにいくなら塩焼きでしょうか?」

 

「魚焼き用のグリルもあるし、網もあったハズよ?

 黒焦げにさえ気を付ければ、あの二人でもなんとかなるでしょう♪」

 

 今日釣ってきたのはサバ二匹、アジ一匹、そして立派なブダイが一匹。

 二人分としても充分な量だし、調理さえ失敗しなければ今日は豪華な夕食となるだろう。

 さてさてどのようにするのかと、サーヴァント達も興味津々である。

 

『はい大河! 下処理は終わりました!』

 

『おーけぇセイバーちゃん! こっちも準備が出来た所よ!!』

 

 悪戦苦闘しながら魚を処理していたセイバーから、カメラが大河の方を映す。

 するとそこには油を投入した大鍋を、もうとんでもない火力で火にかけている彼女の姿があった。

 

「「「 !?!?!? 」」」

 

『さぁいくわよセイバーちゃん! 私の後に続いてね!』

 

『はいっ!』

 

 なにやらお鍋を前にして、神様に語りかけるかのように手をバンザイする二人。

 

『料理の神よぉ~~!! 火の精霊よぉ~~!!』

 

『火の精霊よぉ~~!!』

 

『これをーーっ! “料理“にして下さぁーーいっ!!』

 

『して下さぁーーいっ!!』

 

 天にまします我らが父よ! そう言わんばかりにセイバー達が叫ぶ。

 

『――――そぉーーれ! ピョーーーーーンッ!!!!』

 

 そして気合一閃――――掛け声と共に全ての魚を油に放り込む(・・・・・・)

 その瞬間、凄まじい炎がキッチンに上がった!!

 

『うわぁぁぁあああ!! うわぁぁぁぁあああああーーーーーッッ!!!!』

 

『ぎゃあああぁぁぁあああーーーーッッ!!!!』

 

「「「 うおおおぉぉぉおおお!!!! 」」」

 

 パッと見で、威力換算をするなら“Aクラス“に相当するような炎が天井まで上がる。

 バーサーカーだって一回くらい倒せるかもしれない炎が、セイバー宅を混乱に陥れる。

 

『 ――――怒っておられる! 火の神様が怒っておられる!! 』

 

『 うわぁぁあああーーーッッ!!!! 』

 

『 コケェェェーーーッ!!!! 』

 

 もう二人(と一羽)はその場に倒れ込み、目を見開いて炎を見る事しか出来ない。

 やがてセイバーと大河が抱き合ってブルブルと震えているうちに、玄関のベルが〈ピンポンポンポーーン!!〉と連打され、マスクと帽子を被った士郎が飛び込んで来た。

 

「……なぁ、俺これTVで観たぜ? ハマグチェの大将がよ……?」

 

「私も観たわ……。

 ファン根性なのか何なのか、そこまでマネしなくても良いと思うの……」

 

 今モニター画面には、必死で濡れた布巾を燃え盛るお鍋に被せていき、汗を流しながら消火作業をするお隣さんの姿が映っている。

 今日の晩御飯はどうなるんだろう? 本当セイバーはあの人に感謝すべき。隣に住んでてくれて良かった。

 そんな事を白目で語り合う、サーヴァント達だった。

 

 

………………………………………………

………………………………………………………………………………………………

 

 

 今日は本当に賑やかな一日だった。

 三人で囲んだ夕食を終えて、今は穏やかにランスと過ごしていたセイバー。

 時刻も夜9時となり、そろそろお風呂に入ってお布団に入ろうかと考えていた頃。

 ……なにやら再び玄関のベルが〈ピンコン♪〉となり、セイバー宅に来客を知らせた。

 

『あ、あの……! すまぬが少しだけ、お米を分けてはもらえぬか……?

 もうお米を切らしてしまい……、余は何も食べる物がないのだ……』

 

 玄関先に立っていたのは、赤いドレスの可愛らしい女の子。

 大きな帽子を被っているのでその顔は見えないが、なにやらお腹が空いて悲しい気持ちでいるのか、グジグジと泣いてしまっているのが見て取れる。

 

『構いませんよ。困った時はお互い様だ。

 ちょうど魚の揚げ物も残っていますし、それも持っていくと良いでしょう』

 

『お……おぉ! ありがとう隣の部屋の人……! ありがとうっ……!

 この恩は忘れぬっ! 余は必ず恩を返すぞっ……!!』

 

 ラップをしたお皿と、お米を5合。それを女の子に渡して優しく微笑むセイバー。

 元気に手を振って帰っていく女の子の姿を、微笑ましく見送る。

 

 

 

「米と魚は良いのだが……あの娘、なにやら見覚えが……。

 私の気のせいだろうか?」

 

 

 腕を組んで「うーむ」と唸るアーチャー。

 どれだけ首を捻ろうとも、エクストラな記憶は浮かんでこないのだった。

 

 







 ※謝罪

 ご指摘を頂いたのですが、前回までセイバーさんは小麦粉を購入していなかった、すなわち“小麦粉を所持していない“にも関わらず、材料としてマストであるハズのとんかつを作ってしまっています。

 パン粉に関しては備品として用意されているものと考えていましたが、小麦粉の方は完全に私のミスです。
 この第7話および第8話において小麦粉の有無というのはいまさら修正のきかない部分ですので、申し訳ありませんが今回はこのまま通させて頂けたらと思います。
 混乱を招いてしまい、申し訳ありませんでした。

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