鬼太郎伝説   作:最後の春巻き(チーズ入り)

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どうも春巻きです。
とあるアニメを見てから書きたくなったので書きました。

つべこべ細かいのは後にして、取り敢えずこの作品は
まなちゃん可愛い、猫姉さん素敵のという作者の気持ちと、鬼太郎をヒロインにしてぇって謎の気持ちが同居して書かれたものです。

それを踏まえた上で、本編をどうぞぉ!



まなちゃんが出会った日

「おぎゃあ! おぎゃあっ!」

「鬼太郎! もう少しッ! もう少し頑張るんじゃ!」

 

 此処は何処ぞの名も無き墓場。無数の卒塔婆が突き刺さり、土気とじっとりとした湿っけに満たされた場所である。

 おおよそ、人の気配など全く感じられないそこで、何やら赤ん坊の泣き声と、甲高い何者かの声がする。

 

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

「すまんっ、すまん鬼太郎! 生まれたばかりなのにこんな苦労をかけて!」

 

 墓穴から必死に這いずり出ようとしている赤ん坊と、その赤ん坊を引っ張り上げようと頑張っている頭部が目玉の小人。

 それは余りにも奇怪な光景。こんな真夜中の墓場に赤ん坊がいることもさることながら、その赤ん坊をあやしながらどうにかして墓穴から出してやろうとしている目玉の小人。

 

――妖怪。

 

 世に人がそう呼んでいる。

 人に悪さをしたりする悪い存在。人を化かし、人を食らう闇の世界に生きる者達。それが妖怪に対する世間一般の印象だろう。

 

「は、早くせねばっ! 泣き声を聞きつけてケモノにでも襲われてしまったら、鬼太郎の命が!」

「おぎゃあ! おぎゃあ!」

 

 目玉の小人が焦っている。

 それもそうだろう。如何に妖怪といえど、生まれたばかりのか弱き身の上では、獰猛な野犬にでも襲われてしまったら、そのまま食い殺されてしまう。

 いや、ケモノじゃなくても、もしも人間にでも見つかってしまったら、不気味に思われ殺されてしまうかも知れない。

 

「せめて雨が止んでくれればっ!」

 

 ぬかるんだ土が、鬼太郎の小さな身体を飲み込もうと滑るのだ。

 必死になって這いずり上がろうとしても、土が滑って流される。引っ張り上げようと目玉の小人が頑張っても、その小さな身体で、自分よりも大きい赤ん坊を引き上げることなど、とてもではないが出来ない。

 

「くっ、わしが病気になぞならなければっ!」

 

 目玉の小人は嘆く。何故この子が生まれてくるまで持たなかったのだ! そう思わずにはいられない。

 もし自分がまだ生きている内ならば、知り合いの妖怪に預ける事も出来ただろう。少なくとも、生まれた瞬間生き埋めになり、こんなにも苦しい思いをすることは無かった筈だ。

 

「おや、久方ぶりに外の世界に来てみたら」

「っ!?」

 

 すぐ後ろで声、咄嗟に振り返り――絶句した。

 

「妖怪の赤ん坊と……目玉の妖怪? これは随分と珍しいな」

 

 奇抜な巫女服を身に纏い、その全身から太陽もかくやと言わんばかりの膨大な霊力を溢れ立たせた見目麗しき女だ。

 かつて遠目で見た京の都の伝説の陰陽師、安倍晴明よりも光に満ち溢れた人間。そんな妖怪にとってはバケモノ級に驚異的な怪物が背後に立っていた。

 

「お、お主は一体?」

「フフッ、話は後にしようか、まずはこの子を安全なところまで連れて行くとしよう」

 

 土に埋もれた赤ん坊の身体引き上げ、優しく抱き上げる。……その際に目玉の小人も、優しく手に乗っけられ、その女の肩へと降ろされる。

 

「ああ、これも何かの縁、この子が自力で生きていけるようになるまでは面倒を見てあげようか」

 

――世界が変わる。

 

 雨が振り続ける寂しい墓場から、華やかな光に満ち溢れた幻想的な神社へと。

 

「おいでませ、おいでませ、此処は何処の幻想か、誰が夢見た幻想か、此処は何処の幻想か、誰が夢見た幻想か」

 

 後に目玉の小人――目玉おやじは語る。

 この時の出会いがあったからこそ、わしと鬼太郎は今もこうして生きて行けているのだと。この時の出会いがあったからこそ、鬼太郎は人間を助ける事を決めたのだと。

 

「我が名は――」

 

 

 

 

 

 

 

――『鬼太郎伝説』、始まり始まり〜

 

 

 

 

 

 

 

――この世には、目には見えない闇の住人たちがいる。

 

 此処は東京某所、忙しなく人々が行き交う渋谷のスクランブル交差点。

 信号が青になれば、人の群れが巣穴を突かれたアリのごとくざわざわと渡り歩き、赤になれば、反対に無数の車が行列を作って走り出す。

 

「うえーい! チャラトミチャンネルのチャラトミでーす! 今日は渋谷のスクランブル交差点で、信号無視をしたらどうなるのかやってみるねー!」

 

 その中心で、お馬鹿な行動に出る人間が一人。

 世界で有名な動画サイトウーチューブ。その動画投稿者であるウーチューバーである青年が、赤になったスクランブル交差点のど真ん中を、縦横無尽に走り回る。

 

「馬鹿野郎! 危ねえだろうが!」

「こっちは急いでるんだぞ!」

「何やってんだよ!」

 

 車を運転している人間からしてみれば、溜まったものではない。万が一轢いてしまえば、その後の人生がおシャカにされてしまう。

 中には大事な会議で急いでいる人間もいるというのに、とんだ迷惑ウーチューバーである。

 

「お前ら脇役ぅー! 俺主役ぅー! フゥーッ!」

 

 本当にとんだ迷惑ウーチューバーである。

 

――時として奴らは牙を剥き、君たちを襲ってくる。

 

「うっ!? ううっ!? う、ううっ……」

 

 突如として、調子に乗っていたチャラトミとかいう青年が苦しみ出す。

 撮影道具のカメラ(撮影棒で撮っている)を取り落とし、何かを必死に押さえ込むかのように、うつむき頭を抱え込んでいる……遅めの中二病かな?

 

「う、うわぁぁぁぁぁあああああ!?」

 

 絶叫するチャラトミの顔面から、真っ赤な木が生え上がる。

 その身体を押しつぶさんばかりに猛烈な勢いで生え上がり、遂には、その場から迷惑ウーチューバーチャラトミの姿が消え去り、その代わりにスクランブル交差点の中心には、全体的に真っ赤な色合いの大木がそびえ立っていた。

 

「「……」」 

 

 目の前で人が木になった。ウーチューブ風に言うなれば、渋谷の真ん中で木になってみた。そんな余りにも非現実的なものを見てしまった人間が何をするか? 叫ぶ? 泣きわめく? それとも現実逃避だろうか?

 

――カシャ(シャッター音)

 

 パシャパシャカシャカシャと、機会音声が鳴り響く。

 そう、現代日本の人間達が取ったのは、写真を撮り、SNSで拡散するという行動だった。……げに恐ろしきは現代人、もしかしたら自身の身に危険が起きるだろうという考えは毛頭ない。

 この非現実的で面白い現状を楽しみたいという行動が先走り、スマートフォンを片手に文字を打ち込んでいく。

 

「うっ!? うわぁぁぁあああ!?」

「ぐっぎぃ!? きゃあああぁぁぁ!?」

 

 ほらほら逃げずにちんたらしてるから、その場に残って、SNSに拡散していた彼ら彼女たちの中から新たな犠牲者がまた一人、また一人と増えていく。

 

「ぎゃあああぁぁぁ!?」

「うわあああぁぁぁ!?」

「きゃあアアァァァ!?」

 

 渋谷に森が現れた。人間が姿を変えて出来上がった異様な森。

 真っ赤な、そうまるで、血のような色合いの不気味で不可思議な森が、渋谷の中心に現れたのだ。……渋谷の中心で皆と森になってみた。チャンネル登録ヨロシク、とでも言いたいのだろうか?

 

 

 

 

――『妖怪が目覚めた日』――

 

 

 

 

「違うよ! 妖怪のせいだって!」

「渋谷の森が妖怪のせいだなんて、嘘つくなよ」

「妖怪なんているわけないだろ」

「嘘じゃないもん」

 

 トトロいるもん。

 

「そこの兄弟さん? また、イジメてるのかよ!」

「ま、まな姉ちゃん?」

 

 そこに現れたのが、正義のヒーロー地獄からの使者スパイダーマッ……ではなく。人一倍正義感に満ち溢れ、好奇心旺盛な、現役女子中学生の犬山まなちゃんその人である。

 快活な笑顔がとても良く似合い、青い瞳と、まるで犬の尻尾みたいな可愛らしいひと房のおさげがチャーミングな美少女。……まだまだ垢抜けていないところもますますポイントが高い。

 

「やっべ、デカまなだ!?」

「お、おい!」

「呼び捨てにすんなっ!」

 

――ゴスンッ

 

「ッ!?……ッ!? な、何で俺がぁ〜」

「に、兄ちゃん!?」

「後、私はそんなにデカくない……筈」

 

 その年の中学生にしては立派な物をお持ちでって意味合いだと勘ぐるのはイケない。

 

「お、お前には関係ないだろ!」

「関係あるよ、お隣の子なんだもん」

「まな姉ちゃん」

「大丈夫? どうしたの?」

「おばあちゃんが言ってたんだ。人を木にする妖怪が何百年も前に封じられたって。……きっとそいつが復活したんだ!」

「……う、うん?」

 

 まなちゃん、ちょっと困惑である。

 流石に現代の日本で起こったでたらめな事件が、妖怪の仕業などと言われてしまったら、そうなるのも無理はない。

 時は科学の時代だ。そんな時代に、妖怪のせいなのねって言われても「はい、そうですか」って納得できる筈などないのである。

 此処で簡単に否定せずに言葉を探しているまなちゃんの善性の高さが窺い知れる。

 

「妖怪なんているわけねぇだろ、ばーか!」

「いるよ! 見えないだけなんだ!」

「だったら出してみろよ」

「ん?」

「ひぃ!?」

 

 シュバッと片手を立てて見せれば、大の男が怯え頭を抱える。……情けないと思うなかれ、まなちゃんの手刀は普通に痛いのである。一撃喰らうと脳細胞が一瞬で数万程度消し飛ぶくらいの痛みなのである。まなちゃんつえぇ。

 

「おばあちゃんが言ってたんだ! 妖怪ポストに手紙を入れると来てくれるって!」

「はぁ? 誰が?」

「き、鬼太郎が……」

「鬼太郎?」

 

 誰かの名前だろう。しかし、鬼太郎なんて名前の妖怪はどんな話でも聞いたことはない。メジャーな妖怪、とかならわかるけども、孫悟空とか猪八戒とか沙悟浄とか? とはまなちゃんの談である。……うん、西遊記好きなのかな?

 

「何だそれ」

「アハハハハハッ」

「鬼太郎は妖怪を退治してくれるんだッ!」

「だったら呼んでみろよ! そもそも妖怪ポストって何処にあるのか知ってのかよ?」

「うぅ、し、知らない」

「ほら見ろ、やっぱ嘘じゃん」

 

 じゃんじゃん言ってると、どっかのカラクリ忍者になっちゃうって、じっちゃが言ってた。

 

「じゃあ、お姉ちゃんが探してみるね。こんなときはネットに聞くのが一番!」

 

 まなちゃんファインプレーである。

 すかさず現代社会を支配している文明の利器をカバンから取り出して検索を開始する。

 某知恵袋にて、妖怪ポストの場所を探している、という内容を書き込んだ。

 

(答えてくれる人なんていないよね?)

 

――ピコンピコン

 

(い、いたぁぁぁぁぁ!?)

 

 残念、知ってる人いました。

 回答者nya3_nekoさんから送られてきた、妖怪ポストがある場所へのリンク。早速、そのリンクをクリックしてみると、割と近場にあるようだ。……これはもう行くしかあんめぇ!

 しょんぼりしているお隣さんちの子供、裕太くんと、兄弟組、兄の蒼馬と、弟の大翔くんの二人を呼んで、その場所に向かう。……何気にまなちゃん以外の名前が初めて出た瞬間である。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「あ、あそこに手紙を入れればいいのね?」

 

 ビルが立ち並ぶ都会のど真ん中。

 ビルとビルの間にある、人が二人並んで歩ける程度の細い路地。……その奥底に不気味に佇んでいるポストがある。

 藁と木で作られた異様な形の不気味なポスト。都会の真ん中にこんな不思議スポットがあるなんて!?……自分の住んでる町ってまだまだ知らない物が沢山あったんだなぁと、感心してしまう。

 

「うん、そうすると鬼太郎がカランコロンって来てくれるんだって」

「カランコロンってなんだよ」

「カランコロンなんだよ!……よく知らないけど」

「カランコロン、カラン!」

 

 大翔がからかうように復唱する。

 一応、弁明するならば、普段の彼は此処まで意地悪ではない、どちらかといえばイジメられっ子体質の裕太くんを守っている少年だ。……ただ、少しお調子者が過ぎると言うか、イタズラが過ぎると言うか、仲が良い故に遠慮がないと言えば良いのか。

 

――ズビシッ!

 

「に、兄ちゃん!?」

「い、いや、だから何で俺がッ」

 

 大翔……ではなく、その兄である蒼馬の頭頂部に、まなちゃんの手刀が炸裂する。

 弟の責任は兄の責任。兄貴であるならば、弟をたしなめなければいけない場面で一緒になってからかっているのは駄目である。まなちゃんそんなの許しません。

 

「お姉ちゃんが出してあげる。……うーん、手紙ってどう書くんだっけ?」

 

 うずくまる蒼馬お背中を机にしてシャーペンで手紙を書いているまなちゃん、マジ理不尽。

 

「『

鬼太郎さんへ

町の人が木にされて困っています。

助けて下さい。

犬山まな

』」

 

 書き終えたまなちゃんは、そのままポストの方へと向かっていく。

 

「お、おいまな! 本気か?」

 

 無視である、哀れ蒼馬。

 一歩一歩、歩んでいくまなちゃん。奥に進むに連れて、徐々に異様な雰囲気が辺りに満ちてくる。

 低い猫の泣き声、何故かコンクリートの壁から誰かが何かを言っているように聞こえ来る。ビルが影となり、日の光が差し込まない場所は、ジメッとした空気も相まって不気味な印象をまなちゃんに与えていた。

 

「ふぅー……入れたよー!」

 

 無事にポストに投函する事が出来た。ご苦労様です。

 

「お前ー! 呪われるぞー!」

 

 距離が離れたのを良いことに蒼馬が煽る煽る。

 

「何だとー!」

 

 憤り、半ば地団駄を踏みながら蒼馬をしばきに向かうまなちゃんであるが――

 

「あ、きゃあああぁぁぁ!?」

 

――転倒。

 

 足元にあった空き瓶に気付かずに、盛大にすっ転び、色々な物を巻き込んでギャグ漫画みたいに見事なこけっぷりを披露した。……ただのドジっ子である。

 

「あんにゃろぉ! 何処行った!」

 

 怒りのまなちゃんである。捕まったら蒼馬に明日はない。

 

「ありがとう、信じてくれて」

 

 怒れるまなちゃんの袖をそっと掴んで、お礼を言ってはにかむ裕太くん。……ショタ専ならば大歓喜の可愛らしさがそこにはあった。

 そのまま嬉しそうに笑いながら、その場を後にする裕太くん。……周囲のお姉様方の視線が一瞬だけ鋭くなったのは気のせいだろうか?

 そう、まるで獲物を見つけた狩人の様な、草食動物を捕食せんとする肉食動物の様な。……やれやれ日本人は業が深い。

 

「信じたわけじゃないんだよな。21世紀に妖怪なんて、いるわけないのに」

 

 嬉しそうに駆けていく裕太くんの背中を見ながら、やや気まずげに苦笑いするまなちゃんなのであった。

 そう、普通であれば妖怪なんているわけがない。ただの迷信か言い伝え、昔の人達の作り話でしかない。今の科学が発展した便利な世の中では、誰一人として信じる者などいないだろう。

 当然ながら、このまなちゃんとて例外ではない。確かに不思議な存在に対する興味は存在する、もしも存在するならばこの目で直接見てみたいし、友達にだってなりたい。……でもねぇ。

 この時のまなちゃんは信じてなかった。この世界にまさか妖怪なんて存在がいるなんて欠片ほども。……しかし、その認識が覆る瞬間が、すぐ目の前に迫ってきていた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「おい! あんたの弟! また! 裕太くんを! イジメた! でしょ!」

「いてっ! あいてっ! 俺に関係ないよ……」

「あるわ! 兄貴だろ!」

 

 時は過ぎて帰り道。

 学校帰りのまなちゃんが蒼馬をどついている。……どうやらまた弟君が裕太くんをイジメた様子だ。そのとばっちりが兄貴である蒼馬に流れてきたのである。

 何やら弁明を述べているが、弟の責任は兄貴の責任と言わんばかりに、構わず折檻するまなちゃんに流石の蒼馬もたじたじである。……青春だな、滅べ蒼馬。

 

――カァーッ! カァーッ! カァーッ!

 

「うぉっ!? な、何だぁ!?」

「ふぇ!?」

 

 いきなりカラスの群れが木々から飛び上がり、道の街頭が不自然に点滅する。……何なのだろう、いきなりのホラー的な演出にさしものまなちゃんも戸惑いを隠せない。

 

――カラン、コロン、カラン、コロン

 

 そして、音が聞こえる。何か固い木のようなものを転がすような。そんな音が聞こえてくる。……現代っ子のまなちゃんや蒼馬は知らないが、これは下駄の音である。昨今では全く聞かなくなったその音がどうしてか二人の鼓膜を叩いている。

 

「はっ!?」

 

――「……鬼太郎がカランコロンって来てくれるんだって」

 

 裕太くんの言葉が頭に浮かんだ。

 

――カラン、コロン、カラン、コロン

 

 恐る恐る二人は背後を振り返る。近付いてくる音にごくりと喉を鳴らしながら、恐怖を抑えて振り返る。

 

「「は、はぁ〜」」

 

 誰もいない。それに安堵し、大きく息を吐き出す。

 聞こえてくるカラスの声がまるで「アホーアホー」と二人を馬鹿にしている様に聞こえる。……蒼馬はともかく、まなちゃんにそんな態度をとるとは貴様、焼き鳥にしてやろうか。

 何はともあれ、安心して前を向き――

 

「う、うわあぁぁぁぁぁあああああ!?」

「うわっ!?」

 

――絶叫(まなちゃんはちょっと声を上げただけ)

 

 蒼馬は脇目も振らず逃げ出してしまった。……野郎、まなちゃん置き去りにして逃げやがった。男の風上にもおけない奴め。

 まなちゃんも自分を置いて全力疾走していった蒼馬にやや目を点にして呆然としつつ、前に立つ人物に目を向ける。

 

「あ、あんた誰よ!」

 

 それは人間にしては明らかに逸脱した容姿の者だった。

 腰丈まで伸ばされた明るい茶色の髪を後ろの方でひとまとめに結び、左の目を隠した独特のヘアースタイル。隠されずに残された右目はキラキラと輝いてまるでルビーの様な真っ赤な瞳。

 服装は一昔前の紺色の学ランと、神社にいる巫女さんの服を無理矢理合体させたような不思議な服装で、その上から、虎柄の着物(後に説明されるがちゃんちゃんこである)? を羽織っている。……奇抜な服装であるが、かなり綺麗に纏まっていて似合っている。

 自分より僅かに身長が低い程度ではあるが、スタイルも抜群だし、可愛くて綺麗だし抱きついて頭良し良ししてみたいし逆によしよしされたいし友達になりたいし何だコレナンダコレ。……まなちゃん大混乱である。

 

「ゲゲゲの鬼太郎だ。……まみって君か?」

「ま・な・だ・よ! 犬山まな!」

「いふぁい、いふぁい」

 

 思わず勢いでほっぺたを両手で引っ掴んでふにふに伸ばしながら訂正させる。……あ、柔らかい。無間にむにむに出来るよ、これ。とは後のまなちゃんの談である。

 

「それに鬼太郎って。あ、あんたもしかして男なの!?」

「ふぉうだ、いいふぁげんふぁなしふぇふぉふれふぉ」

 

 こんな綺麗な子が男だと誰が信じられるかこんちくしょう。何だか負けた気分に苛まれてちょっとイラッとしたので、そのままの勢いで思いっ切り鬼太郎のほっぺたを堪能する事の決めたまなちゃんである。……若干、鬼太郎が涙目になっているのは決して気のせいじゃないだろう。そして、そんな鬼太郎を見て、何だかゾクゾクッといけない気持ちになってきたまなちゃんなのであった。

 

「手紙をくれたのはお嬢さんかね?」

 

 このままでは話が進まぬと、鬼太郎の髪から顔を覗かせたのは目玉の頭を持った小人である。

 

「うひゃあぁぁぁぁぁあああああ!?」

 

 妙に甲高い声で尋ねてきた小人に思わず後ずさって距離をとるまなちゃん。……そらぁ目玉が喋りかけてきたら恐いよね。

 

「えっ!? な、何! 今のッ!? め、目玉が、しゃべっ喋る?……いやっ、ないないないっ! ありえないっ!」

 

 頭を抱えてしゃがみ込む。……ありえないってことはありえないって、某強欲さんが言ってたのでありえないわけがないのです。まなちゃんは一つ大人になりましたね。

 

「驚かせてすまない、これは、ボクの父さんだ」

「ないないないっ! 目玉だけのお父さんなんているはずない!」

 

 一瞬だけまじめじと目玉を見つめ。……いや、そんな筈がないっ! といやいや頭を振るまなちゃん。時として現実は残酷なものだ。まなちゃんは今日でまた一つ大人になった。

 

「そんなに驚かんでもなぁ、わしはこの鬼太郎の父じゃ! 目玉おやじと呼ばれておる!――わぁ!? これ、くすぐったいっ!」

「ほ、本物!? 特撮っ!? それとも夢ぇ!?」

 

 すかさず触って確かめにかかるまなちゃんの度胸はオリハルコンだと思う。そして、なお信じられないのか自分のほっぺたをふにふにと引っ張り出す。……痛いだけだった。つまりこれはほんもののの!?

 

「はぁ……お嬢さん、見えている世界ばかりが全てじゃないぞ。見えない世界というものもあるんじゃ!」

 

 力説する目玉の小人改め目玉おやじ。……目玉なのに目を閉じている、ナンダコレ。

 

「人間が木になってしまうという手紙を受け取ったが、それは本当かね?」

「こ、これ見て」

「ん? それは何じゃ?」

「ふぇ? す、スマホだけど?」

「ほぉーテレビも小型になったものじゃなぁ」

「テレビじゃないよ、電話も出来るし、渋谷のカメラだって見られるし」

「やや! 渋谷の様子をこんなちっこいもんで見ることが出来るのか!? なる程のぉー、便利な時代になったもんじゃ」

「……ちょっと欲しいかも」

 

 感心する目玉おやじと、まなちゃんの手元にあるスマホを見て僅かに瞳を輝かせている鬼太郎である。……前に友人が使っているのを見たことがあるが、こうして改めて見てみると自分もスマホが欲しくなってくる。

 

「とにかく見て!」

「こ、これは吸血木じゃ!」

「え、ドラキュラ?」

「そっちじゃない、樹木の方だ」

「吸血木?」

「そうじゃ、人間の血を養分として育つ木の事じゃ!」

「な、何でそんなのが渋谷に。……知ってんなら渋谷に行こうよ!」

「うわっ!?」

 

 鬼太郎の手を掴んで、そのまま渋谷方面まで走るまなちゃん。……こんなに力強く引っ張られるなんて初めての経験である鬼太郎としては、ただただ戸惑う事しか出来ない。

 うわっ、手までスベスベで柔らかいとかっ! こ、こんちくしょー! とはまなちゃんの談である。今日だけで乙女のプライドを何処までも叩き折る鬼太郎に対しちょっとした怒りも込めて、満足がいくまでその柔肌を堪能するのであった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「うぅむ! やはり吸血木じゃな!」

「でも父さん、吸血木を操る妖怪は何百年も前に封じられたのでは?」

「その筈じゃが。……む? えっと、まなちゃんじゃったかな? そのスマッシュ便利そうじゃな?」

「スマホ、スマホですよ父さん。……確かに便利そうだ」

「……やってみる?」

 

 考察も程々に、まなちゃんの持つスマホに興味津々の親子である。目玉おやじだけでなく、普段クールな鬼太郎ですら目を輝かせ、僅かに頬を紅潮させている。……スマホの魔力は人外にすら効果を示す、流石人類が生み出した文明の利器と言えるだろう。

 

「おぉー!」

「すごい!」

「ほら、ここをスワイプして……」

「「ふぉぉぉぉぅ!?」」

 

 文字通り初めてスマホを触る二人からしてみれば、スマホはまるで魔法の道具、自分達の存在を棚に上げて、不思議そうに色々タップしたり、スワイプしたりしてはしゃいでいる。……これにはまなちゃんも苦笑するしかない。

 

「む! 鬼太郎、恐らくこれじゃ!」

「これはっ!」

 

――『怪しい封印をみつけたのではがしてみた byチャラトミ』

 

 またお前か。冒頭で木になってみたしていた迷惑ウーチューバの姿がそこにあった。

 

『うぇぇぇい! からのせぇぇぇい!』

 

 勝手に工事現場に入り込み、そこにあった明らかに何かが封じられている様にしかみえない石。その札を剥ぎ取り、挙句石を持ち上げて破壊するというとんでもない所業の一部始終が動画としてアップされていた。

 グッドも地味に稼いでいるが、それに追随する勢いでバッドも増殖している。コメントの方もチャラトミを批判する声が多い様子だ。

 

「バカもんが! のびあがりの封印を剥がしおったか!」

「のびあがり?」

 

 のびあがり。何百年も前に封印された危険な妖怪で、人間の身体に吸血木の種を植え付ける。何人もの人間を吸木の餌にして大変な被害を撒き散らし、最後にはその悪行を見かねたその時代の霊能力者の力で石の中に封印されたのである。

 

「そ、それでみんな木になったの?」

「……ここからはボク達がやる。君はもう帰れ」

「待ってよ、私が手紙を出したんだよ。着いてってもいいでしょ?」

「……危険な目に遭うぞ?」

「だから?」

「一回は、忠告したからな?」

「さ・れ・ま・し・た!」

 

 鬼太郎が折れる形になり、しぶしぶまなちゃんの同行を許可sする。まなちゃん大勝利である。

 

「何で、また手を掴むんだ?」

「何でって、捕まえとかないと私を置いて行っちゃいそうだから」

「……そんな事はない」

「今の間はなんなのかな〜?」

 

 渋谷に来たときと同様に、しっかりとまなちゃんに手をホールドされてしまった鬼太郎である。さっきよりも力強く、どうやっても逃げられないようにしっかりと捕まえられている。

 正直、上手く撒いてしまおうと考えていたがこれじゃあ手荒な手段を取らないと出来ないな。……とある人物との約束で、女の子に強く出られない鬼太郎としてはもう諦めるしかなかった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「何? ここ」

「大都市に降り注いだ雨を一時的に貯めておく地下貯水槽のようじゃ。……人間なのにそんな事も知らんのか?」

「し、知ってるし!」

 

 知らなかった事は丸わかりである。

 

「この奥であのバカ者がのびあがりの封印を剥がしたのじゃ!」

 

――ピンッ!

 

「あっ」

 

 鬼太郎の髪の毛がひと房だけ、まるでアンテナの様に直立する。

 

「え、何それ、静電気?」

「妖怪アンテナと言ってな、鬼太郎が妖気を感じ取ると立つんじゃ」

「スマホみたい」

 

 例のCMかな?

 

「うぅぅぅん」

 

 天井にある換気用のダクトから半透明の奇妙な物体が降りてきた。巨大な目玉で辺りをギョロリと見回し、無数の手足で壁を歩いている。……そう、これがのびあがりである、断じてホモォなどではない。

 

「間違いない、のびあがりじゃ!」

「う、うぅん?」

 

 鬼太郎と目玉おやじが見ている方向を見るがまなちゃんの目には何も見えない。それどころかのびあがりから発せられる妙な声も聞こえていない。

 

「なんにもいないよ? ふにゅ!?」

「ッッッ!?」

 

 まなちゃんの声が地下の空間に大きく響く。咄嗟に鬼太郎が口を抑えたが、時既に遅し、声を察知したのびあがりは弾かれたようにその場所を凝視し、すぐさま招かれざる客の姿を発見する。

 

「って、きゃぁ!」

「うわぁっ!?」

 

 のびあがりの目に光が集まるのを見た鬼太郎は、まなちゃんを突き飛ばす。その瞬間、のびあがりの瞳から光線が飛び出し、鬼太郎に直撃した。

 吹き飛ばされた鬼太郎は背後の壁へと強かに叩きつけられる、これは痛い。

 

「ぐぅっ!?」

「鬼太郎!」

 

 そして追撃が鬼太郎に襲い掛かる。

 のびあがりの身体から生えてきた無数の手、それが鬼太郎に殺到し、首や両手両足を押さえ付ける。

 まなちゃんの目には何も映らない。だが、鬼太郎が苦しげに顔を歪め、壁に押さえつけられているというのだけは分かった。

 

「お、おりゃぁー!」

 

 咄嗟に近くに落ちていたパイプを引っ掴んで駆け出すまなちゃん。

 何も見えないけど、取り敢えず鬼太郎の目の前にある空間に向かって拾ったパイプを思いっ切り投げつける。放たれたパイプはグルグルと回転しながら、のびあがりの腕に直撃し弾かれる。

 

「なんかに当たった!? って、なにこれっ!?」

 

 今まで見えなかったのびあがりの姿が突然見えるようになった。……ナニコレホモォじゃない! 以前、学校のちょっと腐っているお友達に見せられたアスキーアートっぽい見た目の変な妖怪を見て、まなちゃんが思った感想である。確かにちょっとだけ似てるけども。

 

「これが妖怪!?」

「まなちゃんが妖怪を信じ始めた証拠じゃな! むっ!? い、いかん!」

 

 見ればのびあがりが鬼太郎に何かを植え付けようとしている。しかも何故か鬼太郎の腹部に押し付ける形でだ。心無しか、のびあがりの大きな目がイヤラシく弧を描いているように見える。

 おいおい、ナニしようとしてんだ、これが本当の種付けってか、やかましいわ。……このままでは鬼太郎のハジメテが大変なことになってしまう。

 

「うぅぅぅ!?」

 

 そんな最中、のびあがりの目玉に何かが直撃する。見ればそれはクレーン車のフックだ。……え、何がどうしてそうなったの?

 

「おぉ! 何と言う偶然力(ぐうぜんぢから)じゃ!」

 

 目玉おやじはその一部始終を見ていた。

 先程まなちゃんが投げたパイプが、ピタゴラ的な要領で、工事現場内を跳ね回り、最終的にクレーン車のフックが引っ掛けられている荷台を叩き壊し、そのまま振り子の様に、のびあがりの目玉にダイレクトアタックした光景を見ていた。

 何と言う強運、これがまなちゃんの運命力。彼女に秘められた運(物理)は人知の及ばぬ妖怪にすら通用するのだ。

 

「うぅぅぅぅぅ!」

 

 堪らず鬼太郎の拘束を外すのびあがり、そして、そのままダフトから外へと逃げ出した。

 

「逃がすかッ!」

 

 鬼太郎も駆け出し、のびあがりを追い掛ける。

 地下貯水槽から駆け上がり、夜の街を駆け抜ける。高速道路の車すら追い越して、のびあがりを追跡し、先回りする。

 

「うぅぅぅぅぅん!」

「お前の最大の武器は! 最大の弱点だ! 霊毛ちゃんちゃんこッ!」

「うぅぅぅぅぅ!?」

 

 のびあがりの目から放たれる光線を避けながら、接近し羽織っていたちゃんちゃんこを外し、そのままのびあがりに向かって叩きつける。

 のびあがりを中心に衝撃が走る。物凄い勢いでのびあがりはコンクリートの地面に叩きつけられ、バウンドし空へと再び吹き飛ばされる。

 

「うぅぅぅぅぅ(泣)!」

「逃げるなっ!」

 

 眼球へ襲い掛かったあんまりな衝撃に若干涙を流しながら、のびあがりは鬼太郎から逃げる、逃げる。

 のびあがりを追い掛ける鬼太郎の形相は、名は体を表すとでも言いたげに鬼のよう、世の女性を嫉妬させる美貌は健在ではあるが、しかし、目が全く笑っていない。その身から醸し出す雰囲気も相まってかなり恐ろしい。……美人ほど、怒ると恐ろしいと言うが、それは真実なのだろう。

 鬼太郎としては、危うく自分の貞操が物理的に危なかったのだ。いかに普段はクールな彼でも、怒るのも無理はないと言えよう。

 

「う、うぅぅぅぅぅ!」

「むっ!? の、のびあがりじゃ!」

「こ、こっちに来るなぁー!」

 

 逃げ出したのびあがりは、ちょうど地下の貯水槽から地上へと出てきた、運命に愛された美少女中学生まなちゃん目掛けて襲い掛かる。……恐らく人質にでもしようと考えているのだろう。このままでは鬼の形相を浮かべる見目麗しき妖怪の美少年鬼太郎にボコボコのボコにされてぶっ殺されてしまう。

 

「髪の毛針っ!」

 

 無論、そんなことは許しません。

 すぐさま間に鬼太郎が割って入り、のびあがりに向かって攻撃する。己の髪に妖力を通し、まるで針の様に変え武器とする、鬼太郎の十八番の技の一つである。

 無数の髪の毛針がのびあがりの剥き出しにされた眼球に刺さる、刺さる。眼球の中心に無数の針が突き刺さっていく光景は余りにも悲惨、痛々しくて目を背けてしまいたくなる。

 

「うぅぅぅぅぅ!?(泣)」

 

 滂沱の如き涙を流し、仰け反るのびあがり、そりゃあ痛いよ。……そろそろ少しだけのびあがりが可哀想になってきた。

 

「リモコン下駄!」

「うぅぅッ!?」

 

 しかし、鬼太郎には情け容赦などない。むしろそんなものあって堪るか、と言わんばかりに追撃する。

 思いっ切り足を引いて、そのまま前に向かって下駄を蹴り出した。……空中に放り上げられた下駄は、まるで意思を持っているかのように、そう、それこそ誰かによってリモコンで操作されているかのように不規則な軌道を描きながら飛翔し、そのままのびあがりの眼球に向かって、強烈な一撃を叩き込んだ。

 

「ぅぅぅ(虫の息)」

 

 最早、のびあがりに力は残されていなかった。執拗なまでに眼球を狙った攻撃に、のびあがりの体力は削り切られてしまったのである。……哀れのびあがり、彼のつぶらな瞳からは爛々としていた輝きは消え失せ、ハイライトが消失した真っ暗な闇に包まれてしまっていた。

 

「指でっぽう!」

「――ッ!?」

 

――爆発。

 

 指で象られた銃身から、鬼太郎の溢れんばかりの妖力が込められた魔弾が放たれる。

 収束された破壊の光は、のびあがりの目玉に直撃し貫通。……そして、盛大に爆発し、のびあがりの肉体を丸ごと吹き飛ばした。

 とてもではないが、町中で起こっていい規模の爆発ではない。……幸いなのは、この爆発が地上ではなく、空中で起こったという点だ。もしも、地上で爆発していたならば、巨大なクレーターの一つや二つ出来ていただろう。

 爆発を背景にして立つ姿はまるで夜の闇を支配する魔王か何か、これではどちらが悪役なのか分からないとか、そんな事を言ってはいけない。鬼太郎さんは正義の味方、はい、復唱! 鬼太郎さんは正義の味方! 鬼太郎さんは正義の味方!……そうです、キタロウサンハセイギノミカタなんです、はい。

 

「ふぁぁぁぁぁ!」

 

 まなちゃん大興奮である。

 目の前で起こった非現実的な超次元バトルもさる事ながら、風に巫女学ランをなびかせ、クールな表情でスマートに、そして鮮やかに解決してみせた鬼太郎の姿に見惚れてしまっていた。

 ヤバイ、何この人綺麗でかっこよくて可愛いが同居してて意味分かんないよぉぉぉぉぉ! お友達からお願いしますぅぅぅぅぅ! とは後のまなちゃんの談である。

 

「ふぅ……これで吸血木になった連中も元に戻るじゃろう。……うひゃあ!?」

 

 片手に持っていた目玉おやじを思わず手落としてしまうくらいには大興奮である。

 それはともかくとして、目玉おやじの言った通り、のびあがりが倒れたことで渋谷の街で吸血木へと変貌していた人間たちの姿が元に戻っていく。……悪い奴は倒れ、悪夢が覚めたのだ。

 元に戻って混乱を露わにしている人々の中には、今回の騒動を引き起こした元凶のチャラトミの姿もあった。……これに懲りたら、これからは少しだけ自重してくれるとありがたいところである。

 

「鬼太郎! やったね! うふふっ!」

「……あの、まな? く、苦しいんだけど」

「こんなに小さくて綺麗でくぁわいいのに、あんなデッカイのやっつけちゃったんだねぇ! 凄い! 凄い! 凄い!」

 

 思いっ切り鬼太郎に抱きついちゃうまなちゃん。鬼太郎の頭を抱え込んで、そのまま自分の胸元に押し付けている。……うらyけしからん、もっとやり給え。

 鬼太郎は少しだけ苦しそうにしながらも強引に振り解いたりはしなかった。とある人物との約束で、女の子には優しくするのが常識になってしまっているからである。……後にこの鬼太郎の持っている常識が原因で、乙女たちがやきもきするのは、今は語れぬ先の未来の話である。

 

「……」

 

 そんな傍から見たらキマシタワー! な光景を繰り広げている鬼太郎とまなちゃんを見つめる影がひとーつ。……不気味な仮面を被り、全身を夜の闇よりなお暗い真っ暗闇の外套で包み込んだ謎の人物。

 謎の黒マントは、何処からか弓矢を取り出して、二人に向けて構えた。……つがえられた弓矢の矢じりには、五芒星が描かれ、射られる対象から見て、ちょうど逆五芒星になるようになっていた。

 

「……」

 

 キリキリ、キリキリと引き絞られた矢、限界まで弦を引き、弓が悲鳴を上げんばかりにしなっている。そして――

 

「……ふ、ふ、ふ」

 

――放たれた。

 

 そのまま流星の如く直進し、鬼太郎の背中に向かって飛んでいく。……このまま行けば当たるだろう、心の蔵へと突き刺さり、その命を奪うだろう。

 

「――ッ!? ハァッ!」

 

 だが、そこは我らが鬼太郎さん。そんな単純な攻撃、不意打ちと言えど当たるわけがない。

 鬼太郎は気付いていた。己の背後から向けられている視線に、粘ついた悪意のような危険な妖気を感じ取っていたのだ。

 まなちゃんを傷付けないように、片手で抱きかかえ、その場を飛び退きつつ、放たれた矢に向かって、ちゃんちゃんこをぶつける。

 一瞬だけ拮抗したが、ちゃんちゃんこに秘められたご先祖様とその他のヤバイ面子の力には打ち勝つことは出来ず、矢は払いのけられた。

 

「はっ!? 何っ!? 何なのっ!?」

 

 勿論、そんなことがあったとは知らないまなちゃんは混乱するばかりである。

 自分が抱きしめていた筈の鬼太郎が、いつの間にか自分を抱き締めている。何を言ってるか分かんないと思うけど、そんなちゃちなもんじゃない。もっとロマンティックな何かの雰囲気を感じ取ったじぇぇぇぇぇ! 落ち着け。

 

「……逃げたか」

 

 鬼太郎が視線を向けた先には仕立人の姿は既に無く、夜の闇が広がるばかりだった。

 しかし、鬼太郎は感じ取っていた。これから先、自分達の前にきっと何かが起こるという奇妙な感覚。今までの比ではない、とんでもない規模で騒動が巻き起こるであろうという確信を感じ取っていた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「えぇ!? 鬼太郎細いっ! 細すぎるよっ! それにスラッとしてる! 身長私より低いのにスタイル良すぎぃ!」

「分かったから離れてくれ。……流石に疲れる」

 

 現在、鬼太郎はまなちゃんの自宅にお邪魔していた。

 そのまま帰宅しようとしたところをまなちゃんに捕まって、引きずり込まれてしまったのである。あらやだ、まなちゃんってば強引ね。

 そのまま、まなちゃんの自室で何故か着せ替えさせられていた。……まなちゃんのテンションは天井知らずに上昇しているが、対象的に鬼太郎のテンションは下降していく一方である。

 無理もない、今日は散々駆け回った上に、のびあがりとガチンコ勝負を繰り広げたのである。久しぶりにブチ切れたのも相まって、鬼太郎は疲れていた。いかに妖怪でも、疲れるものは疲れる。正直、さっさとゲゲゲの森に帰ってふて寝したかった。

 

「随分と懐かれてしまったなぁ、鬼太郎」

 

 微笑ましそうに目を細める目玉おやじである。

 正直なところ、目玉おやじは嬉しかった。鬼太郎は普段、遠慮して子供らしい事をしようとしない。そんな鬼太郎を引っ張って遊んでくれそうな女の子。……目玉おやじはこのまなちゃんという人間の少女をたいそう気に入った。

 

「父さん。……はぁ、そうみたいですね。出来ればもう少し落ち着いて欲しいんですが」

 

 ややため息を付きながら、テンションを爆上げして色々と服を見繕っているまなちゃんを見る。……自分の周りにはいなかった人種だ。

 

「どれにしよっかなー! 次は何を着てもらおっかなー!」

 

 鬼太郎は己の周囲にいる友人たちの姿を思い浮かべる。

 妙に距離が近くて、いつも頬を赤らめている気が強い猫目の少女。いっつもこっすい商売話を持ち込むねずみ顔の男。

 酒のみで気の良いじいさんや、世話好きで頼りになるばあさん。女に弱いが面白い布、仲間思いでちょっと可愛い壁。

 そんな彼らの中に、まなちゃんの様な人懐っこくて構って構ってと、愛らしく纏わり付いてくる人種はいなかった。……いたらいたで、困るから別にいなくても良かったのだが、猫目の少女や人型じゃない布、壁はともかく、ねずみとかじじばばにそんな事されても普通に困るし、出来れば精神衛生上あまり見たくない光景だ。

 

「まな、聞きたいことがあるからボクを連れてきたんじゃないのか?」

「あっ! そうだった!」

「忘れてたのか」

「わ、忘れてなんかないしっ! き、鬼太郎がそんなにくぁわぁいいのが悪いの! その上で綺麗系ってでカッコイイ系って何なのッ! 私をどうしたいのっ! 友達になって!」

「……? 友達になるくらいなら別に良いけど」

「ホントぉ!? やったぁぁぁぁぁ!」

 

 小躍りするまなちゃんである、可愛い……おい、また脱線してるぞ。

 

「いい加減に落ち着けまな。……それでボクに何が聞きたいんだ?」

「えへへ、ごめんね。……こほんっ! ねぇ、鬼太郎ってどうして私達を助けてくれるの? 見返りなんてないし、今日みたいに危険な目に遭うって分かってて、どうして?」

 

 まなちゃんの疑問とは、鬼太郎が人間を助ける理由。

 どうして妖怪である鬼太郎が、何のメリットもないのに、同じ妖怪を倒してまで人間の手助けをするのか? その理由がどうしても知りたかったのだ。

 

「理由か。……約束、だからかな」

「約束?」

「鬼太郎は生まれたばかりの頃、一人の女性に助けられ、育てられてな。その女性とした約束を守り続けておるのじゃよ」

「その約束って?」

一つ、妖怪が人間に悪さをしている時は、人間側に過失がある場合を除いて助けること。

二つ、身だしなみには気を遣い、何処に出ても恥ずかしくない自分でいること。

三つ、女性に対して優しくすること、決して傷付けないこと、なお、相手が極悪人であるならば、無理矢理にでも改心させること。

四つ、常に大切な仲間を守れる力を持ち続け、誰よりも仲間を大事にすること。

五つ、これまでの約束を決して破らないこと、なお、破ったらしばき倒しに来る。

「それが、鬼太郎の師であり育ての親でもあった彼女との約束なのじゃ」

「ほぇー……何だか、凄いんだねぇ」

「もしかしなくてもまな、ちょっとアホの子だったりする?」

「し、失敬な! これでも学年でも成績は上から数えた方が早いよ!」

「鬼太郎、こういうのを天然と言うのじゃ」

「なるほどぉ」

「ちょっと、お二人さん!?」

 

 そのまままなちゃんをイジり出す鬼太郎親子である。……鬼太郎としては先程散々着せ替え人形にされた腹いせも兼ねていたりする。器が小さいとかそんな事言ったら駄目です。

 憤慨するまなちゃんであるが、天然さんであるという事実は変えようがないので、速やかに諦めて置くことをオススメする。むしろ稀少属性なので大事に育てていってもらいたいものである。

 

「意地悪する鬼太郎にはこうだぁ!」

「ま、まなぁ!? く、くすぐった、ひぅっ!?」

「ほぉれここがええんかぁ〜? ここがええんかぁ〜?」

 

 最早、エロオヤジのそれである。鬼太郎を押し倒してその上にのしかかりながら、鬼太郎の脇腹や首元などありとあらゆるくすぐりスポットを蹂躙していく。……まなちゃんの表情が興奮で、やや悪人顔になっているのは気にしてはいけない。実はちょっと発情しているという事実もないったらない。

 鬼太郎も鬼太郎で、女性に手をあげることが出来ないのも相まって抵抗らしい抵抗が出来ず、為すすべもなく、その身をまなちゃんに明け渡すことしか出来ない。

 くすぐられ、蹂躙される身体。だが、どうしてだろう、そこには恥辱しかない筈なのに、僅かばかりの高揚が存在している。……鬼太郎は自分に襲い掛かる未知の感覚に、ただ歯を食いしばって耐えるしかなかった。何のエロげだよこれ。

 

「あ、あの鬼太郎を此処までイジり倒すとは、まなちゃんは将来大物になるのぉ。……それにしても鬼太郎のやつ、ますます岩子に似てきて、よよよ(泣)」

 

 顔を真っ赤にして何かを我慢している様子の鬼太郎を見て、若き日の、今は死に別れた妻岩子の姿を思い出す目玉おやじ。

 ああ、岩子、わしらの息子は元気に育っておるぞ。……いや、見てないで息子を助けろよ、ピンチだぞコラァ。

 

「ほぉれ此処がええのんかぁ〜!」

「や、ヤメロォー! ソレ以上はいけ、あ、あ、アッーー!?」

 

 もうすぐ夜が明ける。

 楽しそうな美少女の声と、悲痛な叫び声を上げる妖怪の美少年の二人の声をBGMとして、日の光が顔を出す。

 

「大丈夫、鬼太郎ッ!? 何か物凄い声が聞こえてきたんだけどッ!?……ニャアッ!? な、ナニしてんのアンタァー!」

 

 修羅場を添えて。

 

 

 

 ゲ、ゲ、ゲゲゲのゲー。……これはとある妖怪の物語である。

 





かくたのぉ!

色んな意味でやらかしたけど、後悔はない、余は満足じゃ。

そんなわけで始まりました、鬼太郎伝説。
私が手がけている某作品のとある存在の影響をもろに受けてしまった鬼太郎を主人公とした作品です。
ノリ自体は殆ど某伝説と一緒ですが、もろとも楽しんでいただけると嬉しいです。
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