第1話 金術錬錆:オリジン
事の始まりは中国で“光る赤ん坊”が生まれたというニュースであった。以来、世界中で何らかの特異体質――所謂『個性』が発現するようになり、今では世界の総人口の8割が個性を身に宿す超常社会になった。
そしてこれは、超常社会で誰かを助けるヒーローを目指す一人の少年の物語である。
「立てやオラァ!!」
(――――空が青いなぁ)
冒頭で「ヒーローを目指すぜ」と息巻いたのにいきなりのこの状況。そんな状況にありながらも、彼は異常なまでに冷静に空を見つめていた。
「おいおい、いつになったら反撃してくるんだ? 個性使って見せろよ」
「まぁた人様に個性使って見せろよヴィラン野郎」
人の気持ちも知らずよくもまぁ好きな事を――
まぁ俺自身も他人の感情にはそこまで関心無いし言えた義理は無いが…。
そう思いながら何度も殴られた。時間としてはそこまで経っていないだろう。けれど辛い状況下では不自然なまでに時間が長く感じるものだ。いつまでも反撃してこない俺に飽きてきたのか、連中はつまらねぇと吐き捨てるようにその場を後にした。
一人残された俺は仰向けになってまた空を見上げていた。
「下らない――――」
口の中には鉄の味が満たされている。どうやら口を切ってしまったようだ。
腸が煮え繰り返る。けどやられたからやり返すという事はやっても意味がないと彼は知っていた。何せここは学校。例え一度ケリがついたとしても、二度三度と繰り返す。それがイジメというものだ。
「こんな社会、壊れちまえばいいのに……」
人類の8割が何かしらの特殊能力を持つ超人社会。そんな社会になろうと人間というものは変わらないものだ。常に自分より弱いものを見つけ、それを甚振り、蔑み、悦を得る。そんな人の在り方に心底ウンザリする。
それに、過去の事を何時までも蒸し返されるのは嫌いだ。確かに過去の経歴ほど物を言うことはないが、それでも過去に囚われて今を蔑ろにするのは良くない。あれは終わったことだし、そもそも俺は悪くない。突発的なことだ。ただの正当防衛だ。それなのにすべて自分が悪いとなるのはあんまりだ――。
教室に戻り、席に着こうとすると
と、ヒーローを目指すと言いながら内心ではヴィラン染みた事を考えながら、ただ黙々と、淡々と悪戯書きを消していく。これがここ一年ぐらい続いている教室に入った際のサイクルだ。正直ここまで続いて慣れてしまった自分が嫌になってくる。
そして時間は流れて放課後を迎える。正直言って放課後はあまり好きじゃない。何せ一度学校を出ればそこは教師の目も気にせずに済む自由空間だ。周囲の目を気にする低俗な連中はここぞと言わんばかりに牙をむく。そんな狭い世界の処世術として身に着いたのが、片道一時間の隣の地区まで
そしてこの日が、後々になって思えば人生の転換期になったんだろうと思う。
散歩の道中、商店街の妙な騒ぎが起こっている事に気が付いた。不自然な人だかり。不自然な爆発音。それは超常社会において日常――とまではいかないが、割と当たり前になった現実。それが起きている証拠だ。
「何かあったんですか?」
「ああっ、
おいおいマジかよ、と思いつつ(我ながら情けない程の)野次馬根性で野次馬の中をかき分けて最前列までたどり着く。そこで錬錆が見た物とは――
「マジだった」
ヘドロのような
なんて情けない――。それが驚愕の次に抱いた思いだった。人質に取られているから手を出せない、これはまだ分かる。だが相性が悪いから手を出せない?それを補って、それを乗り越えて助けるのがヒーローじゃないのか。それにただ見ているだけの野次馬もそうだ。誰もヒーローを手伝おうと、彼を助けようと動きもしない。ヒーロー活動には認可が必要とはいえ、ただ野次馬根性で見ているだけ。その現状に心底腹が立った。そう、何もしない自分に対しても――心の中で卑下したその時だった。
「馬鹿ヤローーーー!!止まれ!!」
周囲の声にハッと意識が戻る。
一人の中学生が群集やヒーローの制止を振り切りヘドロヴィランへと向かっているのだ。
あいつ馬鹿か――。
飛び出した彼に対して、そして先程とは相反する言葉が内心出てくる自分に反吐が出る。なんで彼が飛び出す必要がある。
何で俺は何もしない。
ここは大人の役割、子供の出る幕じゃない。
子供は無力だ。けど彼は飛び出した。
助けなくちゃ。
けど――
どうしようもない言い訳だけが心に、騒然とする大人たちの情けない声が耳に響く中、何故かその言葉がハッキリと聞こえた。
「君が、助けを求める顔をしてた!」
俺――
「――ッたく! やる事は一つって事かよ!!」
彼の言葉が聞こえた瞬間、自分の中で何かが吹っ切れる音が聞こえた。立派に言い訳を偉そうに並べる自分を殴り飛ばしたのだろう。そして俺の体は緑髪の少年と同じように無意識のうちに飛び出し個性を使っていた。
「うだうだ悩むのはもう止めだ――。こっからは振り切らせてもらうぞ!」
右手が地面に触れると同時に地面が隆起し、緑髪の少年に迫りつつあるヘドロの左手を両断する。さらに人質が傷つかない範囲で追撃を加えようとしたが、
「邪魔してんじゃねぇぞ、クソガァァァァァアアア!!」
標的がこちらに変わった。切断された左腕は再生成され、錬成へと爪を立てる。もう一度個性を使って石壁を出現させるも、本体が流体な所為かあっさり突破されてしまう。
(ああっ、これは終わったわ――)
特に思い起こすものなんてない。走馬灯もクソもない。だが未練がましくも「まだ生きたい」とは思う。その時の俺も、周りにいた人々も絶望的状況に諦めていた。
しかし諦めてはいけない。日本には昔からこんな言葉がある。
ヒーローは遅れてやってくる、と!
「君を諭しておいて・・・己が実践しないなんて!!」
そう、みんなのヒーローがそこにいた!!
「プロはいつでも命懸け!!!!!! DETROIT SMASH!!!!!!」
悪に正義の鉄槌が下される。
…………空を割り、天候すら変える一撃はさすがにやり過ぎじゃないですか、オールマイト。
結論を言うと、俺と緑髪の少年はヒーローたちからこっぴどく叱られ、逆にヴィラン顔の少年はヘドロの浸食からよく耐えたと称賛された。ヒーロー活動を認可されていない人間、ましてや子供が身の危険を顧みず飛び出したのだ。確かに大人としてはそれが正しいのかもしれない。そう納得する反面、「こっちも少しぐらい褒めてもいいじゃんか」と納得できない自分が心の中に巣くっていた。
その帰り道――
「明日が憂鬱だ……。ちにたい……。フートンが欲しい。セプク出来るものなら、したい」
あれだけの騒ぎ、ましてや報道カメラもあった。夕方のニュースで取り上げられるのは間違いないし、テレビ中継の可能性もある。そう考えたら、明日学校で何を言われ何をされるか……考えただけで埋まりたくなる。
「ちょっと待ちたまえ、君ィ!!」
消沈し帰路に着く錬錆の前に現れたのは……
「怪奇!?骨人間!?!?」
「HAHAHA、初対面の人に面白い事言うね君!」
「ファッ! す、すみません」
ガリガリに痩せこけた長身の男性であった。
「先程の商店街での一件、見ていたよ」
「――――そうですか。で、自分に何か用で? 説教ならもう・・・」
そう自嘲するように立ち去ろうとしたが――
「そう自分を卑下する必要はない。君に礼を、称賛を言いに来た」
称賛? そんな事される筋は自分には……
「君は緑髪の彼と同じように、あの中で誰よりも早く動いた。勇敢に立ち向かった。本来ならば誰よりも先に、私がやるべき役目だった。ありがとう!」
「私に?そんなヒョロヒョロな体でどうやってあのヘドロと?」
「んんん~~~、今のは失言だ!忘れてくれたまえ!!」
「アッハイ」
こっちも重ね重ねの失言だ。大人しく追及しないでおこう。
「それと、君はあの時こう叫んだね。『悩むのはもう止めだ、振り切る』と。トップヒーローは学生時から逸話を残しており、そして彼らの多くが君と同じニュアンスの言葉を結ぶ。『考えるより先に、体が動いていた』と!!」
このとき、また心が揺れる感覚がした。お前には向いてないと、無理だと、馬鹿が見る夢でしかないと。そう蔑まれる日々……。諦めきれずにいた夢、諦めようとしていた夢。そんなヒーローたちと同じ、だと。
「一つ、質問していいですか?」
「なんだね」
「初対面の人にこんなこと言うのもあれですが……、俺は、他人が怖くて、触れ合いたくなくって、ハッキリ言って嫌いになることが多いです。けど、それでも誰かが泣いているのが、傷つくのが見逃せなくって、どうしても助けたいと思うんです……思ったんですよ! こんな俺でも……こんな俺でも、ヒーローになれますか・・・!?」
彼は「ああっ」と一呼吸おいてこう告げた――
「君も、ヒーローになれる!」
思えばここからだった――。俺が――――金術錬錆がもう一度立ち上がろうと、ヒーローになると心から決意したオリジンは。
キャラクター’sファイル
金術錬錆(かなすべ れんせい)
誕生日 11月10日
身長 163cm
好きなもの 鉱石、ゲーム
趣味 読書、映画鑑賞、絵描き
錬錆'sヘア 驚くほど直毛。
錬錆'sアイ 驚くほどやる気なさげ。というか片方虚ろにも程がある。
錬錆'sバンダナ 驚くほどバリエーション豊か。
錬錆'sハンド なんか魔法陣みたいな痣がある。個性使う時以外は手袋ガード。
錬錆's全身 鍛えてはいるが驚くほど普通。
錬錆's脚 驚くほどキック力が高い。健脚。
概要:
この作品の主人公。
黒い髪に常にバンダナを巻いているのが特徴。口数が少なく口下手な所があるため、普段は一人で読書をしている事が多い。
幼い頃から友人と言えるようなものに恵まれなかった為か、超常社会になる以前に放送されていた特撮ドラマにのめり込んでおり、その影響からかスイッチが入る時(曰くエンジンのギアがかかる時)は必ずと言っていい程その作品らの名言・決め台詞を自分流に改変した言葉を口ずさんでいる。
なお家族構成は母親との二人暮らし。