「まったく無茶したもんだね。自分の身体を痛みつけるような技はご法度だよ。ヒーロー目指してるのなら尚更さ」
「お手数おかけします。リカバリーガール」
「謝るぐらいなら使わない事! それが一番だよ」
「だってさ、緑谷」
「アンタに言ってんだよ! ボケるぐらいならワンテンポ前にやんな」
「すみません!!」
USJでの一件が収束して1時間も経ってないだろうか。俺はそこそこの重症を負った緑谷、オールマイトと共に本校舎の保健室で治療を受けていた。まぁ実際には俺の治療を今終えた所なのだが。
リカバリーガールの忠告が身に染みる。怒りに身を任せてた所も割とあったが、まだ未完成の必殺技を使って身を傷つけるとかヒーロー失格だ。まぁそれ以上に驚いたのは――――
「にしても、あの時会った骨人間がオールマイトだったとは……」
「そのあだ名はヒドくない、金術少年」
完全無欠のNo.1ヒーロー、オールマイトは既に満身創痍でまともにヒーロー活動できる時間も限られている、という事実とその真の姿だった。
時間を少し遡るとしよう。
それは敵連中がUSJから撤収した直後だ。
「無茶をしなければやられていた。それ程に強敵だった」
救援に駆け付けたヒーローの一人――セメントスに対して、頬から滴り落ちる血を拭いながらオールマイトはそう告げる。視線の先には敵が消えた空虚がある。
これだけの事が起きながらすぐに察知できず、それどころか敵を取り逃がした事は大きな失態だ。
しかし失態だけを見て留まるという事を彼らはしない。セメントスはオールマイト含めその場にいる怪我人の救護活動へと動き出したのだった。
「しかし、こうなってしまった以上は彼にも説明しなければいけませんね」
「ん? それはどういう……」
そしてその時になってようやくオールマイトと緑谷出久は気づいたのだ。オールマイトが抱える秘密を知りえない者が真の姿を目の当たりにしている事に。
「――――――――!? 怪奇! 骨人間!!」
「骨人間です!!(ゴフォッ!!)」
「オールマイトぉ!?」
で――――
そんな事があったの現在進行形で3人仲良く保健室に運ばれて治療を受ける事となった。
そして3人分の治療を終えたリカバリーガールが説教を始める――――と思ったがどうやら違うようだ。
「事情が事情なだけに、小言も言えないね」
納得していないが納得せざる得ない、そう言いたげにため息交じりの言葉が投げられる。
「多分だが、私また活動限界早まったかな? 1時間くらいは……」
「また早まった、1時間くらいは……って事は随分前から、少なくとも初めて会った1年以上前からそんな感じなんですね、オールマイト」
「金術少年、君にも説明しないといけないようだね」
「ええっ。ついでにいくつかの疑問、解決させていただきますよ」
そこからオールマイトに問い質すターンが始まった。
あまりにも人相が異なる痩せこけた姿について――――
「衰えた」という言葉とどう関係しているかについて――――
突然変異的に覚醒した緑谷出久の個性に関して――――
二人の関係性に関して――――
これはおそらく聞いてはいけない事だろう。そう思いながら他人に対する疑問を勝手に解釈して納得する訳にいかないと、ここぞとばかりに訊ねた。
オールマイトも観念したのか、一つ一つ答えた。
今から6年前、敵との戦いで負った傷の後遺症で自身に活動限界がある事を――――
一年前に起きたヘドロ事件、その日に
自身の個性は
そしてその個性の後継者に、緑谷出久を選んだ事を――――
全ての質問に対する答えが出た頃には、金術錬錆の脳内処理は既に限界を超えていた。
「えーーーーーーーっと……、確かに何事にも例外はあるけどさ……。他人に力を譲渡する個性って何? 確かに緑谷が毎回力使いこなせずバキバキに骨折れてるのってオールマイトの全力を常人が振るったから、って言えば説明つくかもしれないけど……。てか常人が耐えきれないパワーを振りかざすオールマイトってなんだよ。逆にそっちの方に興味がわくは。人間の体の神秘ってすごっ。そりゃ個性の無い時代に比べれば、今は十分神秘の塊だけど。それでもこれはおかしいだろ。俺も中々に脳筋な自覚はあるけどさ、流石にこれは脳筋過ぎる。理性のあるハルクの方がまだ現実味あるよ……ボソボソボソボソボソボソボソボソ……」
「念のためもう一回言っとくけど、今答えたこと全部オフレコだからね。金術少年」
語る端々で、知っている人間は限られたごく少数だけである事、もし多勢に知れ渡れば力を欲する邪な思いを抱く者達に命を狙われる事が伝えられた。
正直脳のキャパシティを超えて更に秘密にしなければならないという責任がのしかかる。
こんな事なら余計な事聞かなきゃよかった、とこの時ばかりは金術錬錆も後悔を覚えた。
「じゃあ次はこっちが質問する番だね、金術少年」
その言葉にハッと意識が戻った。混乱が続いている事には変わらないが、性根が真面目な所為かすぐに人の話を聞く姿勢に移ったのだった。
「金術少年、確か君の個性の錬金術は八百万少女と同じ物質を創り出す類の個性だったよね? だが私を助けようと飛び出した時の技、アレは創造系個性の範疇を明らかに超えていた。教えてくれないかい、君の本当の個性を」
「確かに! そもそも金術くんの個性は地形操作って言ってたはず……そうか! “作り出す”個性なら単純に“増やす”事も出来るのか! だから何も無い所から壁とかを瞬時に作り出す事が出来て……けど待てよ? そうなると元となる素材はどこから持ってくるんだ? 八百万さんは自分の体から、恐らく生命活動に使う何かしらのエネルギーを基にあらゆる物を作り出しているみたいけど、金術くんの場合は……ブツブツブツブツ」
「緑谷、お前は黙って寝てろ。そこら辺に関しては俺も知らないし、知ってることに関しちゃあ後で好きなだけ答えてやるから」
しかしオールマイトの言う事はもっともだ。何せあの技は使っている錬錆はおろか、あの技を発案した師匠本人ですら誤った個性の使い方だと称する代物だ。
そんな技をいきなり出されて驚かない方が可笑しいというものである。
錬錆は混乱する脳内のスイッチを切り替える為か、トン、トンと人差し指で2,3回額を突いた後、質問に対する答えを提示した。
「錬金術、って一緒くたにしてますけど本当の個性、つまり本質は“
一通り説明を終えるとオールマイトは「ふむ、なるほどね」と頷くと、少し考え込んだ後にこう言葉を続ける。君の個性は両親の遺伝かい、と。
答えは否。父親の個性は知らないが、少なくとも遺伝ではなく突然変異的に発生した個性だ、と俺は答えた。
それを聞いたオールマイトは安心と不安が入り混じったような、どこか複雑な表情を浮かべていた。何かあったんだろうか、と思っていたら突然保健室のドアが開く音が聞こえビクりと身体を震わせてしまった。そしてその音の主、というよりドアを開けた存在を見たオールマイトの表情はコロリと明るいそれに移り変わっていた。
「塚内くん! 君もこっちに来ていたのか!!」
どうやら事件の捜査に来た警察の中に友人がいたようだ。先程“口外してはいけない”と言っていた痩せ細った姿をさらしても普通に接している辺り、よっぽど信頼しているのだろう。
ただし団欒な雰囲気は最初だけで、事件に関する聴取に入ると同時に空気が引き締まる辺りはヒーロー・警察という立場の違いはあれど流石プロだと思った。
そしてその会話の中でオールマイトが、「身を挺したのはヒーローだけではない。生徒もまた身を挺して戦った。1-Aは強いヒーローになる」との趣旨の言葉を口にしたのは豪く印象に残ったのだった。
で、その翌日は襲撃事件の事もあり臨時休校。次に学校に行くことになったのはその翌日、まぁつまり事件から2日後の事である。
「皆――――!!朝のHRが始まる、席に着け――――!!」
「ついてるよ。ついてねーのおめーだけだ」
飯田が安定の委員長スタイルフルスロットルに、ある意味安心感を覚えた。
「飯田がああしているだけでさ、ああっこれが俺たちの日常なんだな、って思うところあるのよ。こういうのが癒しっていうのかな?」
「それ絶対違うと思うわ、金術ちゃん」
そんな短い会話が交わさる中、おもむろに教室の扉が開かれた。そこにいたのは――
「おはよう」
「怪奇!? ミイラ男!?!?」
「「「「「相澤先生復帰早えええ!!!!」」」」」
顔中と両腕が包帯で巻かれフラフラとした足取りで教壇へ向かう相澤先生の姿であった。
ケンカはビビった方が負けとか、正義は悪に屈してはいけないとかよく言われるが、(リカバリーガールの治療で大分回復しているとはいえ)重症の身で教壇に立つとは……相澤先生の教師魂には感服する。
そして俺たち生徒の心配する声を他所に、相澤先生は第二声に言葉を続けた。
「俺の安否はどうでもいい。何よりまだ戦いは終わってねぇ」
どこか不安を煽る様な口ぶり。緊張と不安に包まれる中、出てきた二言目は――――
「雄英体育祭が迫っている!」
「「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」」」
いや、それ何かあり気に、勿体気に言う事か?