金術錬錆のヒーローアカデミア   作:島村共数、

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グロ注意。残酷な描写タグがようやく初仕事します。


第16話 金術錬錆 ◆・■■■②

 その日はあっという間に時間が過ぎていった。

 いや、正確にはこうだ。

 何事にも集中できず、ただただ時間だけが過ぎていた。

 

 理由は明白――――

 昨晩、この世のものとは思えない光景を目にしてしまった。

 この超常社会、人に害を為す個性はいくらでも存在する。クラスメイトにしたって、直接的火力が凄まじい爆豪や轟、芦戸のような個性は一つ制御を誤れば容易に人を傷つける。

 13号先生もUSJでの訓練(結局できなかったが)前にそういった旨の忠告をするぐらい個性は代を重ねるに連れて高火力化、複雑化している。

 故に個性による想定外且つ常人ならざる傷害はいくらでも起こる可能性がある。

 だがあれはそれとは別だ。

 

 人が人を喰らう――――

 

 そこに道徳の欠片もなく、倫理は完全に破綻している。

 ()るのは獣の理、ただそれだけだ。

 人の形をしたものがそれを成すというのは、そもそも想像すらしたくないものである。

 

 それを目にした錬錆が平静を保つというのは無理な話であった。

 稽古中は気が乱れた事で蛸殴りにされ、孤児院では相手の子供たちにすら心配される始末だった。

 それでも、問題ない、と引き攣りながらも笑顔を浮かべ続けたのは評価してもいいだろう。

 無論、師匠からはたらふく叱られたが。

 そんな事もあってか、その日の職場体験は早めに切り上げられた。

 日も暮れた後に緑谷から位置情報だけが記されたメールが送られてきたが……正直そんなことに気を回せるほどの余裕はなかった。

 いつもなら22時頃まで起きてるのだが、気が滅入っていた事もあってか21時を過ぎる前には眠りについてた。

 

 

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 子供の泣き声が聞こえる――――

 

 本当に小さい……4歳ぐらいの女の子だろうか?

 ああっ、放っておけない。泣いている子供をそのままになんてできない。

 

 どうしたんだい――――

 

 そう手を伸ばした瞬間、その子は更に表情を引きつらせた。

 

 なんで――――どうして――――

 

 その時初めて気が付いた……

 

 自分の手が、 血と肉片で真っ赤に染まっている事に――――

 

 

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「――――――――ッ」

 

 開かれた左目で今一度自身の手を見つめる。

 なんて変哲もない、いつも通り、血の跡も欠片もない普通の手だ。

 それを見てほっとした。

 

「ああっ、僕は正常(ふつう)だ……」

 

 にしても、厭な夢だった。

 一昨日の晩、目にした一件に引きずられたのだろうか?

 職場体験も折り返し地点に入ったのだし、ここらで気持ちを切り替えなければ。

 といっても、気分転換できるようなものなんて持ち込んできてない。

 軽く散歩……は止しておこう。

 気持ちを切り替えたいというのに、その気分が落ち込む原因となった事をやるのは悪手だ。

 

「………テレビ見るぐらいは、いいよな?」

 

 時刻は5時過ぎ。

 昨晩早く寝てしまったせいか、今日はその分早く起きてしまったようだ。

 この時間帯となればニュースぐらいだが、まぁいいだろう。

 いつもは投稿に時間を奪われる都合上、どうしてもSNSやネットニュースで済まされてしまう。

 こうやって時間がある時ぐらいは牛乳片手にのんびりとニュース番組を見るのもたまにはいいだろう。

 それに番組によっては視聴者のペット紹介のコーナーがあったりするのだが、時間が許してくれるならそこまで見たい。うん、わんこやにゃんこに癒されたい。

 うん、そう思うと気持ちが躍って来たぞ。

 服を着替え、ルンルン気分で事務所へ向かう。

 こんな時間だ。いくらなんでも誰も起きてないだろう。

 そう思いながらドアノブに手をかける。

 

「今日は早起きね。おはよう錬錆」

「あっ、おはようございます」

 

 扉を開いたら先客がいた。

 紫さん朝はやっ。

 思いもしなかった存在に先程までの気持ちは一気に氷点下に落ち、その表情は鉄仮面と化す。

 どうも職場体験中は一人でのんびりとはいかないようだ。

 さらば、今日のわんこ(我が癒し)

 しかしだ、ふと気が付いた。

 まだ5時を過ぎたばかり。いくらヒーロー事務所、加えて夜上夫妻の自宅が隣接していると言えどもだ。当直もいないうちでこんな早く事務所に、それも事務員である紫さんがいる事に不自然に思える。

 

「それよりも紫さん、朝早いんですね」

「今日は特別よ、あっその事なんだけど――――」

「?」

 

 で、紫さんから伝えられた話はこうだ。

 なんでも昨日の行程が終わってすぐ「なんか保須で一悶着ありそう」とか言って一人保須市に行ってしまったそうだ。

 しかもその言葉は完璧に的中し、ヒーロー殺しに加えてUSJに出てきた脳無が複数体出現するという大事件が勃発したそうな。

 で、そんな中に飛び込んだ事もあって師匠は現在も事後処理に追われており、少なくとも昼過ぎまでは帰って来れないそうだ。

 

 なぁんで職場体験中の弟子ほっぽり出して一人ヒャッハーしてるんですか、あの師匠は。

 

「ちなみに彼、脳無をほんk……誤って再起不能にしたみたいでね。帰りが遅くなるのはそのせいらしいよ」

 

 ホントなにヒャッハーしてるんですか我が師匠!?

 とまぁ責任者不在の訳で、本日の職場体験は半日休止状態になるようだ。

 ホント何やってくれてんだよ師匠。

 しかし困ったな。

 職場体験中は基本、体験先のヒーローの指示に従って行動しなければならない。

 サイドキックがいれば多少の事情は異なるだろうが……。生憎にも相棒筆頭のブルーウルフはじめ僅かしかいない相棒全員が何かしらの調査あるいは出張で留守にしている。

 その留守を任されているのが実質副所長の紫さんな訳だ。紫さん自身はヒーローではない。そうなると少なくとも師匠が戻って来る昼過ぎまでは暇を持て余してしまう事になる。

 

(他の皆が職場体験に励んでるってのに……それはなんか申し訳ないな)

 

 そう勝手に罪悪感を抱いていると、それを察してなのか師匠から伝言があると紫さんが話を続けてきた。

 

「私が同行することが前提だけど、孤児院に行くぐらいならいいって」

 

 かくして責任者不在の半日の予定が埋まる事となった。

 

 しかし運命とは面白いものである。

 もし前日ブラッドサーティーンが保須市に向かっていなければ、

 もし保須市に向かうにしても錬錆を同行させていたならば、

 もし先の連続行方不明事件(仮称)に注力していたならば、

 その日起こる事は、多少なりとも変わっていたであろう………

 

 

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 午前9時――

 多くの学校では朝のHRを終え、一限目が始まる時間。

 孤児院では未就学児が中庭に遊ぶ賑やかな声が響く時間だ。

 それ故に孤児院に到着して早々違和感を覚える。

 

「子供たちの声が聞こえない……?」

 

 異変を紫さんも察したのだろう。

 表情が険しいものに変わっていくのが視ずとも肌で感じ取れた。

 

「錬錆くんはここで待機して」

「なっ――――」

 

 正気かと訊きたかった。

 明らかに異常が起きてる現場に一人で、それも無個性の女性が入っていくのはどう考えても無茶苦茶な話だ。

 咄嗟に俺も行くと言いかけたが、

 

「錬錆くんはあくまで学生。仮免も取得してない子供が担当ヒーローの許可なく異常事態に関わる事は禁止されてるわ」

「でも――」

「大丈夫、あたしだって翔の無茶に付き合わされてこの手の事には慣れてるから」

 

 そうこちらの言葉はすべて遮り、紫さんは「10分して戻ってこなかったら警察に通報しなさい」と付け加えて孤児院へと入っていった。

 

「…………くそっ……」

 

 ああっ、腹が立つ。

 紫さんに対してじゃない。どこまでも無力な自分に対してだ。

 俺は、金術錬錆はヒーロー科の生徒。ヒーロー候補生だ。

 それでも、それでもだ。紫さんの言う通り、確かに俺は学生だ。ヒーロー仮免許すら持ち合わせてないただの学生……。

 今現状何かする権利なんて持ち合わせてない。

 責任ある大人(年上の一般人)をただ見送ることしかできない。

 その事実が、錬錆の心を深く締め付けた。

 

 

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「――――――っ」

 

 あれから5分が経とうしたところか。

 紫さんが戻ってくる気配はない。それどころか元より漂っていた厭な気配が孤児院全体を覆うような気がしてきた。

 これ以上は待てない――

 10分、と言われたがそれは長すぎる。仮に10分待ったとしてそこから警察とかに連絡したとしても早くてもさらに10分、下手したらそれ以上はかかるだろう。

 もしも、仮にだ。孤児院の中で異変が起きていたのであれば。それは一分一秒が命取りとなる。なれば10分など悠長に待っている訳にはいかなかった。

 それに5分もあれば覚悟を決めるには十二分、うだうだ悩むのは(今日のところは)ここで終わりだ。

 

「――――行くか」

 

 静かに孤児院の扉を開く。

 外に響いてこなかったから分かりきってはいたが、やはり子供たちの声は聞こえない。いや、それどころか――――

 

「人の気配がしない……」

 

 小学生、中学生が学校に行ってるのであれば分かる。だがここには未就学児の子もたくさんいたはずだ。

 にもかかわらず、人っ子一人誰もいる気配がしない。

 まだ朝の9時を過ぎたばかりにもかかわらず、丑の刻ではないかと思えてしまう静かさには電気すらついていない事も合わさり不気味さを助長している。

 そして大した情報も得られない聴覚とは反比例するかのようにある存在が鼻孔を刺激する。

 鉄の――――それもまるで肉食獣によって腸から喰いちぎられた生き物だったなれの果て(ご馳走)のような、トテモ生々シイニオイ……

 

「――――ッ」

 

 そこで何が起こったのか――――

 想像したくもない。無事でいてくれ。そんな事を考えるのは止めろ。だから急がねば。急いでどうする?見たくもないのに。そうでないと願いたい。だから確かめねば。嫌なら逃げればいい。逃げたくない、助けたい。もし無事じゃなければ、お前の想像通りならどうする?そんなこと想像する(考える)な!!

 厭な事ほど容易に思い浮かべてしまう。だから否定し続けた。

 心拍は上昇し、たいして動いてもいないにも関わらず呼吸が乱れる。

 その静けさも相まってか、徐々に短くなる呼吸と心臓の音が鮮明に聞こえてきた。

 その間にも厭な映像が脳裏を駆け巡る。その度に否定し続けた。

 そして気が付いた時にはニオイの大本にたどり着いていた。

 そこにいたのは一人の女性――――とても見覚えのある人だった。

 

「ゆかr――――」

 

 まさに倒れ込んでいた紫さんに駆け寄ろうとした瞬間だった。

 

 ドゴッ

 

 脳が揺れる。

 視界がブレる。

 身体を支える力は失われ膝から崩れ落ちる。

 抗いようのない衝撃にそこで意識を手放してしまった――――

 

 

------------------------------------------------------------------------------

 

 

 何かの音が耳にまとわりつく。

 ヌチャ、クチャ……

 ああっ、気色悪い。

 生々しく、みずみずしく、生臭く、ねっとりとした厭な音とニオイ。

 意識を回復させるにはそれは充分過ぎるものだった。

 

「――――――ッ」

 

 意識が戻ると同時に頭が割れる様な痛みが奔る。

 しかしその痛みのおかげか、目覚めたばかりの脳もすぐに覚醒した。

 手が動かない、正確には後ろに回された状態で身動きが取れない状態。加えて横を向いて地に伏している――――なんで雑に倒されているかはさておき、腕が動かないのはおそらく縄で縛られているからだろう。

 まぁそんなこと後からでもどうにかなる。

 しかしなんだ、この異臭は……。

 それに先程からまとわりつく不快な咀嚼音……。

 一体何が起きているんだ――――そう思いかけた錬錆の視界にそれは入って来た。

 

「れんせ……く…」

 

 声の主の姿に言葉を失くした。

 あるべき左腕(もの)が無く、なにかに千切られたかのよう根こそぎ抉られた両脚。その傷口からはとめどなく鮮血が溢れ出ている。

 それは――数分前まで五体満足だった夜上紫の無残な姿であった……

 

 本当に、本当に言葉が出ない――――

 なんで、どうして――――そんなちんけな事しか頭に浮かばない――――

 

「れん、せいく……にげ……っ」

 

 紫さんが何か言っている。

 その言葉すら錬錆の耳には届かなかった――

 

「るっせぇなぁ……」

 

 その瞬間、ずっと空間を支配していた咀嚼音が鳴り止んだ。

 ゆったりと大きな影が動く。

 

「食事の時は静かに、が常識だろ。それにお前は前菜(オードブル)主料理(メイン)を前に出しゃばるんじゃねぇよ」

 

 男がそう言い終えると同時に声にならない叫び声が響き渡る。

 いま目にしている光景は幻なのだろうか?

 人が人たらしめるため、人が人の世を作るため、人が社会を形成し営みを築くため、犯してはいけない三大禁忌の一つ――――

 男は、紫さんを喰らっていた――――

 それを理解した時には、俺の沸点は限界を超えていた。

 

「何してんだテメェっ!!」

 

 錬錆にとって拘束は意味をなさない。

 なにせ彼の個性は物を創り変える力だ。それこそ腕が折れて使い物にならない限り多少の拘束は却って彼に武器を与えているようなもの――――

 彼を拘束していたそれは彼にとって使い慣らした武器(長槍)に姿を変えた。

 予備動作無しで行われた跳躍は一瞬にして標的との距離を詰める。

 だが敵も長年逃げ続けただけの事はあった。錬錆が放った一撃を難なく躱し、一跳びで間合いを取る。

 僅か一回跳んだだけで10m近く下がるとはどんな脚力しているのやら――――

 血が上り切った頭でそう考えながら、追撃をかけようとする。しかし、

 

「れん、せ……いく……」

 

 今にも消えてしまいそうなかすれ声で正気に戻った。

 そうだ、今こんなやつの相手をしている場合じゃない――そう判断するや否や槍を手放した。いや、手放したという言い方は少し語弊がある。正しくは、投げ捨てた。

 敵に投擲するにしては勢いなどなく、距離も中途半端な位置に突き刺さった。一体何がしたいのやら、とでも言いたげな視線を敵が向けたその時だ。

 錬錆が放った槍は内側から爆発し、一気に白煙が立ち込める視界を奪い去る。

 数十秒の間が開いた後、視界が晴れた時には錬錆と紫の姿は完全に消えていた。

 

「逃げたか――――だがまぁいい。俺から逃げられる訳ねぇんだからな」

 

 

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「紫さん、痛いですけど少し我慢しててください」

「――――――ッ」

 

 コスチュームの一部を破き、傷口の近い箇所をきつく縛り上げる。

 救助訓練で学んだ圧迫止血法だが……傷口が大きい事もあってか完全には止まり切れない。加えて傷口は一つ二つ所の話ではない。医療知識など無いから正確には分からないが、人体の欠損度合もかなりの重度と思われる。

 応急処置を終えた時点で錬錆の頭は後悔で満たされていた。

 突入するにしろ、しないにしろ、まず通報してから決断していればよかったのではなかろうか――――

 そうすればすぐにでも警察や救命医が駆け付けていただろう。紫さんが余計に苦しまずに済んだであろう。

 本当に自分は――――

 

 否、後悔するのは後からだ――――

 

 確かにもっとやりようはあったはずだ。だがすべてはもう過ぎ去った事……。

 いつも言われている、いつもそうしている事だ。

 “目の前にある事に全力を尽くす”――――

 されど、いま俺がやるべきことは……

 

「紫さん、少し待っててください。すぐ片付けてきますんで」

 

 右手をポケットの中に入れ、中にあるもの弄る。

 それは職場体験初日、説明の時に渡された緊急時の発信機だ。

 ボタン一つで師匠(ブラッドサーティーン)の下へ異常の発生と発信地を知らせる優れものだ。念のため持ってきていて正解だった。

 午後一に帰って来ると言っていたから、これで予定より早く帰って来るだろう。師匠の事だ、法定速度無視して駆けつけるぐらいの信頼はしている。

 それを起動させ静かに立ち上がる。

 いま奴と戦える人間は俺しかいないのだ。ああっ、ならばやる事はただ一つ――――

 

 

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「よく出てきたなぁ。オイ、前菜はどこやった? まずそっちが終わんねぇと主料理に行けねぇだろうが」

「――――言いたい事はそれだけか?」

 

 逃げる事を止めた錬錆は中庭にて標的(ヴィラン)と相まみえた。

 錬錆と敵の距離は20m程度。

 だが180近くあろうかと巨体を前にすればその距離もわずかなものに感じてしまう。

 しかしその両腕には得物はなく、ただただ瑞々しい鮮血が滴るだけ。

 服装に至っても小汚さが目立つ以外、なにか忍ばせることなどかなわない、どこにでもありそうなきわめてラフなものだ。

 対してこちらの得物は身丈ほどの長棒に予備の警棒が2本。

 驕るわけではないが武具あり、という観点から言えばこちらが有利だろう。

 武具の観点、そして要救助者の存在が錬錆の判断を大幅に早める結果となった。

 ダンッ、と地を蹴る音が後から追ってくる。

 音よりも速く――

 標的が動き出すよりも前に錬錆は間合いの中へと踏み込んでいた。

 そこから放たれるは横薙ぎの一閃。錬錆が放った過去最速の一撃は、ほんのそこらの敵相手では回避不能と言えよう。

 が、その一撃は無情にも空を切る。

 外した――――

 それを理解した瞬間考えるよりも先に長棒を切り返し、第二撃を叩き込む。

 が、それも空振りに終わりただただ地面に穴が開くだけに終わる。

 

(なんだ、この得体の知れない気持ち悪さは……)

 

 渾身の力で放った一撃を躱されたことで違和感が更に増す。

 素人なりにも、曲がりなりにも武芸に心得のある身。加えて、個性でもないのにアホみたいな反射速度を誇る師匠に稽古を付けられていれば、厭でも分かってしまうものだ。

 人間が攻撃を避ける際は、相手の攻撃を見て、その軌道を瞬時に判断し、回避行動に移る。その前にある程度の予想が前提として入る者もいるが、それでも攻撃と回避はコンマ一秒であっても先に攻撃が出るものだ。

 にもかかわらずその時間差(ラグ)が一切ない、文字通りこちらが攻撃するのと同時に回避行動をとられているように感じる。

 まるでこちらの動きを全て把握しているかのような、――背筋が凍るなんて表現ではない。身体中を舐め尽くされたかのような、えたい気味の悪さだ。

 

「ああっ、いいなァ……いい顔してんじゃねぇかおめぇ……」

 

 開かれた言葉(おと)には反応しない。厭――ただ単純に反応したくないだけだろうか。

 ただ相手の動きに警戒するだけだった。

 それでも構うものかと更に言葉が続く。

 

「なんで俺の動きが? それも寸分違わずかわせる? 分からない……得体の知れない……関わりたくない…… そんなよぉ、困惑と畏怖に濡れた表情(かお)……ああっ! それだよそれぇ!! 俺が待ち望んでいたのは、そういう表情(かお)する奴なんだよ!!」

 

 なんだ、こいつは何を言っているんだ――――

 だがそれは直ぐに理解した――否、理解してしまった――――

 

「だったらよぉ……これ見たらもっといい表情(かお)になるんじゃねぇかぁ!!」

 

 身を包んでいた衣服が剝がされる。

 そこから露わになったのは、

 

――――ゃん

 

 カオ――――

 

―――いちゃん

 

 貌――――

 

……お兄ちゃん

 

 顔――――

 

「私はもう死んだ、もう死んだの――――」

 

 顔――顔――顔――顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔顔

 身体中一面に張り付いた、人の顔だった――

 理解したくない、理解したくもない。

 目を背けたくなる現実(じじつ)がそこにある。

 

「どうだぁ、俺のコレクション……俺に喰われた連中の最期の表情(かお)はよぉ!!」

 

 怒りが、悲しみが、憎しみが、嘆きが――――

 様々な感情が、湧き上がり、渦巻き、混ざり合い、一つになって体に溶け込んでいく(頭に染みわたる)

 ああっ……この感覚はなんだ?

 沸々と湧き上がる衝動――――ああっ、これが――――

 

「これほど、これほど誰かを殺したいと思った事はないぞ――――(ヴィラン)ッ!!」

 

 これが、殺意か――――

 

「ああっ、その表情も堪んねぇな……そそるぜ……今にも喰っちまいてぇなオイッ!!」

 

 誰かに殺意を、本当に殺してしまうかもしれない殺意を向けたのは――――

 

 これが2度目だった――――

 




キャラクター’sファイル

神喰殺魔(かぐい さつま)
ヴィラン名:ゴッドイーター

誕生日 不明
身長 188cm
好きなもの 人肉
趣味 食事(ジャンル問わず)、人体観察

個性:捕食再現
経口摂取した生物を再現する個性。
これだけ見れば雄英のビッグ3の一角である天喰環/サンイーターと同一の個性だが、彼の場合再現できるのが“人間”に限定されている。
一度捕食すればその対象の記憶・性格を読み取り、更には個性を使うことも可能。ただし完全に使うには相手の肉体丸ごと食らう必要がある。また完全に食らったとしてもその記憶や個性は徐々に劣化し、3ヶ月後には完全に消えて無くなる。
なお彼が食った相手の個性を使うことはほとんどなく、基本的に食べた相手の顔を体中に浮かび上がらせるという大変悪趣味な使い方を好んでいる。

概要:
本作オリジナルヴィラン。
上記の通り倫理的のも道徳的にも真っ向から反する個性を授かっており、それ故に長年無個性であると思い込んで過ごしてきた。しかしある日、自分を無個性だからという理由でいじめを続ける同級生をうっかり殺してしまう。死体の処理に悩んでいたが、幼少期より嚙みつき癖がありその日も相手の喉元を噛み千切った彼は「血が美味しい。なら肉はどうだろう?」という考え始め結果死体の痕跡を文字通り無くす=食べるという結論に至り捕食。その際自身の個性を自覚し、以降誘拐・殺人・死体損壊を人知れず重ね続けた。

個性のモデルは『幽遊白書』の巻原、性格のモチーフは『デビルマン』のジンメン。
元々は吉良吉影のような平穏を好む殺人鬼が登場する予定だったが、職場体験編のプロットを組んでる際にデビルマン(実写版)を見てしまった所為でこんなキャラになってしまった。だが後悔はしていない。
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