金術錬錆のヒーローアカデミア   作:島村共数、

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第2話 デカァァァァァいッ説明不要!!~説明不要だから何がデカいかは言わない~

 ヘドロ事件から暫くして――俺は少しだけ日本を離れた。

 ヒーローになる事を決意して以降、幼少の頃に預けられたヒーロー事務所に本格的に弟子入りし、個性を磨くようになった。日本を離れたのはその人が「暫く海外で活動したいから」だそうだ。

 最初は見慣れぬ土地、話す事も聞く事もままならぬ異国の言語に戸惑う事が多かった。けど新天地での生活は荒んだ心を癒すには十分だった。別に年下の女の子と仲良くなったかたとかそういう訳ではない。いや、まぁ少しはあるけど。ともかく、異国で過ごした4ヶ月は掛け替えのないものとなった。この4ヶ月で築いた人と人との絆は、また別の機会話すとしよう。

 

 そして時がたって2学期が始まり、そこから先も周囲からの侮蔑と自らを鍛え上げる日々が続いた。

 ただでさえヒーロー志望の受験生は多いのに、偏差値は79。人気・実力・学力、いずれもヒーロー学校では頂点ともいえる雄英を受験しようというのだ。生半可な気持ちでは突破できない。学校にいる間は常に参考書を開き勉強、放課後は肉体の鍛錬と個性の練習を繰り返しだ。

 そんな俺を嘲笑うかのよう周囲の目はより冷たいものとなった。この前の一件はニュースで取り上げられた事、そして3年の1学期が始まってすぐに休学した事もあり、校内で俺の事を「問題児」というレッテルで知らぬ人間は一人もいない。錬錆の来歴を踏まえ、二度に渡って人に個性を使った男、として。二回どころか一度たりとも使った覚えは本人にはないが、そんな人間が本気で雄英に行くと言っているのだ。ヴィラン予備軍と認識されているそれを蔑まない思春期の人間はいないだろう。

 時に参考書を破かれることあった。時に机を教室から投げ出されることもあった。その度に個性を使って元に戻す。一日のうちにやる工程が増え、一週間のうちの日課が一つ減った。

 そんな真っ黒な義務教育工程はあっという間に過ぎていった。

 

 

 

 そし受験日当日――

 

「校舎デカッ……」

 

 受験会場でもある雄英高校本校舎を見てこの感想が言える。

 その程度には余裕がある様だ。いや、余裕というか焦りと不安が二人三脚組んで校庭五周ぐらいしたことで却って冷静になっているだけかもしれない。

 

「どけデク!!」

 

 どこかチンピラ染みた怒声が聞こえてきた。

 こういう時一瞬ビクッと身体が震えてしまう。義務教育という名の暗黒期に身についてしまった変な癖のようで、我ながら恥ずかしく思う。

 振り返ってみるとツンツンしたヴィラン染みた顔の少年とそれに怯えるモジャモジャした緑髪の気弱そうな少年がいた。どうやら自分の似たようなムジナが受験したので不良からやっかみを受けているようだ。

 目を配りつつも絡まれたくない一心で錬錆は足早に受験会場の中へ入った――

 

 

 

 

 

 そして――

 

『YEAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!』

 

(……うるさい)

 

 実技試験説明会場、その中心にボイスヒーロー「プレゼント・マイク」の姿がある。

 彼の説明によると、

 

・制限時間10分

・武器や道具の持ち込みは自由

・演習会場は分かれており、各自指定される

・敵は4種類。

・それぞれにポイントが振り分けられており、倒せば得点が入る。

・うち1種は倒しても点数が入らない(ゼロポイント)のギミック。

 

 という実戦形式で行われるそうだ。

 プレゼント・マイクはこれらポイントの振り分けをスーパーマリオに例えた。それを聞いた他の受験生から「まんまゲームみたいな話した」と話す声が聞こえる。なるほど、ゲームという例えは一理ある。決められた数での点取り合戦、そういう種類のゲームも確かにあるからだ。試験という場では、そうした方が分かりやすいだろう。

 

(けれど腑に落ちない点もあった。(ヴィラン)との戦闘を想定した試験なのに、何故お邪魔虫が必要なのか。自分より強い相手、という想定なら納得いく。時には退き、作戦を立てるのも大切だ。けれどそれを態々入試でやる必要があるのか?それに多数を振るい落とすのが目的なら、単純な点取り合戦で済むはずだ……ボソボソボソボソ)

「ねぇ君、ちょっと怖いよ」

「ああっ、悪い。……声に出てた?」

「バッチリね」

 

 妙にキラキラした人に注意され急に恥ずかしくなる。さっき堅物そうなのに同じような事をして注意されたのもいるし……実技試験が始まるというのにどうも緊張感に欠けているようだ。

 っというか、こいつは一体何なんだろう。注意したかと思えば、ずっとこちらを凝視しているし。しかも無言で。これはある意味でかなり――苦手なタイプだ。

 

 

 

 動きやすい服装、というか着慣れた服に着替え、愛用の白衣を羽織って実技試験会場となる市街地演習場へと向かった。

 持ち込み自由という事なので、あらかじめ用意していた釘バットを手に持つ。打撃武器であれば鉄パイプでも鉄板入り木刀でも何でもよかったのだが、何故か自然と釘バットはテンションが上がる感じがするので今回の武器に選別した。

 一見動き辛そうに感じられる白衣も、個性を使うための道具をいくつか仕込むため大事な(ツール)だ。もし釘バットがお釈迦になっても、即席武器なら多少用意できる。個性に関しては問題ないだろう。

 準備運動をしながら周囲を見渡す。

 流石は、と言うべきか。みんな落ち着いて、各々が自分のやり方で試験に備えていた。

 逞しい尻尾を持つ者、イヤホンプラグのようなのが伸びた者、顔が吹き出し(?)の者……十人十色とはよく言ったものだ。これから彼らと競争する事になる。全38枠の一般合格者、狭き門を賭けた競争を――

 

『はい、スタート!!』

 

「……は?」

 

 開始を告げる鐘は突如として鳴らされた。

 一切の前触れもなく、予兆もなく、天変地異が襲い掛かるのと同じように。

 周りも一瞬動揺が走ったが状況を理解し、一斉にスタートする。

 

「チクショウ! 思いっきり、出遅れたぁ!!」

『メメタァ』

 

 悔しさなのか、単純に自分の情けなさからか……周りから遅れて動き出すと同時に勢い任せに持っていた釘バットを前方へ投げ飛ばした。それが偶然にも2Pの敵に的中! 装備を失う代わりに2Pを獲得した。

 

 

 

 そこから5分ぐらいが経過しただろうか。倒した敵の数は3Pが3体、2Pが2体、1Pが5体の合計19P。倒せているには倒せているのだが……

 

(足りない……ッ。圧倒的に足りない……ッ!)

 

 周りの状況を見ても分かる。30点台を出すのが見えるのに対し、俺はまだギリギリ20点にも達していないのだ。戦闘に結び付く個性ではない割には出来ている方だとは思うが、それでも全く足りていない。

 もっと敵を倒さないと――と思ったその時だった。奴が、動き出したのは。

 

 ドガァァァァン!!と地面が割れる音がした。音が響く方向へと視線を向けるとそこには、巨大な鉄の塊が佇んでいた。

 

「デカァァァァァいッ説明不要!!」

 

 例のギミック――0Pがビルを薙ぎ倒し迫ってくる。

 あんなのとまともにやり合っている暇はない。或いは単純なまでの圧倒的な脅威。理由はどうであれ、皆が怯み0Pから逃れようとする。

 俺も逃げようとしたが、異変に気が付いた。

 

(なんだ…? 何か動いて――ッ!?)

「ったく、マジかよ!?」

 

 (0P)の行く先に誰かが倒れているのが見える。遠目からでは分からないが、どうにも動く様子が見られない。恐らく0Pが出て来た衝撃で飛び散った破片に当たったのだろう。しかしこのままでは――

 その時、かつて自分がなりたいと語ったヒーロー像を思い出した。『誰かが泣いているのが、傷つくのが見逃せない。だから助ける。そんなヒーローになりたい』

 

「――――ったく! 『平和を脅かす(ヴィラン)を倒す』、『助けを求める誰かを助ける』。『両方』やらなくちゃいけないのが、正義の味方(ヒーロー)って事かよっ!!」

 

 考えるよりも先に身体が先に動いていた。

 誰もが0Pから逃れる中、一人、唯の躊躇も無く飛び出した。

 

(マズイ――)

 

 だが距離が足りない。このままでは自分が助けるよりも先に彼女が潰されてしまう。だったらやる事は一つ。

 

「――――伸びろおおおっ!!」

 

 近くの建物に手を伸ばし個性を発動させる。個性は手からコンクリートへ、コンクリートから地面を介し、0P近くの建物へと伝達された。時間に換算して一秒にも満たないだろう。瞬きをしている間、その瞬間に巨大な石柱がビルから生え、0P(ヴィラン)を僅かな質量と勢いだけで崩したのだ。

 

(よっし、体勢が崩れた。この隙に……ッ!?)

 

 頭に酷い激痛が走る。慣れないコンクリートの増強を行使、加えて本来直接触れなければいけない個性の遠隔使用。無理無茶をすれば脳に負荷がかかるのも当然だ。

 だが今倒れるわけには行けない。

 視界が歪む。己が体に鞭を打ち、前へ、前へと走り、倒れこんでいるボブカットの少女へと駆け寄る。

 

「おい、大丈夫か」

 

 女子相手だが、この際気にしている場合じゃない(――と言うより自分自身の意識レベルが低下している所為か、割と深く考えずに済んだだけだが)。

顔をぺちぺちと軽く叩きながら呼びかけるが、返答は返ってこない。やはり頭を打ち付けたのか。ならあまり動かさない方がいい。早急にかつ安全に対比するべく、彼女をお姫様抱っこで運ぼうとしたが――

 

「おいおい、空気読めよ……」

 

 0Pが体勢を立て直したのだ。しかもガッチリコッチリこちらに狙いを定めている。

 こちらは満身創痍の非戦闘型個性が一人と意識不明者が一人、対するはほぼ無傷に見える巨大ロボ。まさしく絶体絶命。せめて彼女だけでも助けないと、と思ったその時だ。

 

『 終、 了 ~~~! 』

 

「――――はっ?」

 

 試験終了の合図が会場全域へ走ったのは。

 なんか10分前にも似たような事があったような……。

 疲労と緊張の糸が切れるのが重なった所為か。錬錆の意識はそこで暗転し、助けようとした彼女に覆いかぶさる形で突っ伏したのだった。

 

 

 

 

 

 それから一週間――――

 

 錬錆の日常はこれといった変化もなく何となく過ぎていた。せいぜい言えるのは、自分以外誰も雄英を受験した人がいないのに、試験中にぶっ倒れた事だけ、それも1Pも取れずに雑魚敵(1ポイント)に倒されたという何をしたそこまで捻じ曲がったか分からないレベルに変えられて学校中で噂になっていた事だろうか。もうなんだろうね、ここまで事実が曲解されて噂として流れて来るのは、コワイ!!

 

 あの後、自宅に帰ってから改めて自己採点をした。得意な数理社は勿論の事、現国も合格基準としては十分、英語だけが怪しい結果だったが……。ともかく学科は何とかなるだろう。

 だが実技で取れた点数は、僅か19P。実技試験の合格基準が明かされていない以上判断は難しいが、30Pや40P獲得する人が周囲にいただろう。仮に30Pが合格基準とした場合、点数が足りていないのは一目瞭然だ。

 もはや自分には不合格通知(しけいはんけつ)を待つ道だけしかない。そう思いながらその日もまた学校から帰って来た時だった。

 

「ただいまー」

 

 居間の方から「おかえり」と母さんの声が返って来る。何の変哲もない日常のやり取り。いつもはここで終わって自分の部屋に向かうだけなのだが、その日はちょっとだけ違った。

 

「錬錆。雄英から通知届いていたよ」

 

 来たか――

 合格の二文字に期待も不合格という三文字にも特に気にも留めず、書類の入った封筒を受け取りそのまま部屋に向かった。結果や課程はどうであれ、自分はやったのだ。やったからにはあとは受け止めるだけ。落ち着け、落ち着け、餅つけ。あっ間違えた、落ち着け。クールだ、KOOLになるんだ、錬錆。

 ――――っと、冷静を保とうとして却って冷静なようで冷静でない、要するに冷静でいられない自分がいた。

 ともかく、開けなければ何も分からない。恐る恐る封切り、中に入っていた投影装置を起動させた。

 

『 Y E A H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H H !!!』

(――うるさい、近所迷惑だ)

 

 映し出されたプレゼント・マイクの第一声で緊張など彼方の空へと飛んで行く。その点感謝するが、それ以上にうるさい。個性ヴォイスの影響だろうが、録画ですらうるさいと感じる音域ヤバ過ぎる……。

 

『待たせたな、受験生のリスナー!!早速試験結果を発表するぜぇ、アーユーレディ!?』

(これで不合格だったファ●タのリアルD●先生味わえそう……)

 

 プレゼント・マイクのあまりのテンションについていけず、全く関係ない事を考える始末。そんな奴は勿論。

 

『端的に言っちまうと、リスナーは不合格だ。筆記はそこそこいい線行ってたが、実技は19P。頑張ったみたいだけど、ちょ~~と足りないなぁ!』

 

 分かってはいたが、分かり切ってはいたが実際に言われる意外と落ち込むものだ。所詮夢は夢でしかない――そう諦めようとした。

 

『表向きに言った事だけ、ならな!!』

「はっ?」

 

 思わぬ言葉に気の抜けた声が出てしまう。今なんと、今何と言った。表向きは?

 

『俺達が見ていたのは何も、単純に敵を倒してポイントを稼ぐ戦闘方面だけじゃねぇ!! 命を懸けて他人を助ける! ヒーローがヒーロー足りえる最重要要素!! 救助活動P(レスキューポイント)!! 俺達教師陣の厳粛な審査によって与えられる、もう一つの基礎能力評価だ!!』

 

 おいおい嘘だろ、それってまさか――→そのまさかだった。

 

『あのロボ・インフェルノをブッ飛ばせないにしろ、足止めするなんて大したリスナーじゃねぇか!! しかも怪我をして動けない女子を助けるおまけつき!! そんな男子リスナーにはぁぁぁ……救助活動(レスキュー)50Pを贈呈するぜぇ!!!』

 

 50、ポイント……。元々持ち合わせていた19Pかけ合わせると合計69P。それが意味することなど、最早語るまでもない。

 

『合格だ! 俺達の元でヒーロー目指そうじゃねぇか、YEAH!!』

 

 ――――言葉が出てこないかった。まさか自分が、雄英に合格できるなど、ヒーローになれる、そのレールを引けたと。

 やれる事をやり、その結果を受け止める。惰性にも似た、ただそれだけを繰り返す錬錆の中で“自分で道を開く”という言葉が築かれた瞬間だった。

 

『あーっ、あとこれはついでだが』

「うおっ、まだ続いてたのかよ!?」

『お前が助けた女子リスナーからお便りだ。“助けてくれてありがとう”だとよ』

 

 人を助ける事――当たり前だと思っている事、ヒーローになればやって当然の事。そこに見返りを求めない。しかしその時錬錆は確かに、人を助けた事に、感謝された事に感動を覚えずにはいられなかった。

 

『ちなみにその女子リスナーも合格してるぜぇ! まったく、合格と一緒にフラグまで立てちまうとはトンデモネェー逸材だなぁ! このフラグ大事にしろよぉ!!』

「最後のは余計なお世話だ!!」

 

 なおこの事は最初から最後まで探知系個性を持つ母さんに筒抜けだった為か、夕飯時まで一切会話が無かったにも関わらずその日は赤飯が出された。この赤飯は合格祝い的な意味だ、と心から願いたい錬錆であった。

 

 




暫くは見せ場もクソもない淡々とした話が続きます
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