金術錬錆のヒーローアカデミア   作:島村共数、

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入学編
第3話 笑えばいいと思うよ


 春――それは出会いと別れの季節。

 新品ほやほやのシャツに腕を通し、真新しい青いバンダナをキュッと頭に巻く。雄英高校への通学初日の朝、錬錆の顔は中学時とは比較にならないほどスッキリとしたものだった。

 

「錬錆、いってらっしゃい」

「いってきます」

 

 涙を浮かべながらも笑顔で見送る母の姿を背に、あなたは高校生活の一歩を踏みしめた。

 

 

 

「改めて見て校舎デカいなぁ、とは思ったけど……」

 

 なんで教室の扉まで大きいんだよ。まぁ理由は明白、大型の異形型個性に合わせて作られたんだろう。それでも大きすぎて一体何㎏あるか。これが開けられないやつはヒーロー科に不要なのか!?

 なんかもうバリアフリーに適しているのは分かるが、凡庸個性持ちの人間からしてはツッコミどころしかない。しかし内心でツッコんでいても始まらない。意を決して扉を開くと、

 

「態度が悪いな、君は! 足は机にかけずしっかりしたに下ろしなさい!!」

「あぁ~~ん? なんだテメェは!?」

「なにこれ」

 

 修羅の国が広がっていました。

 あまり関わりたくないなと思いながら、静かに自分の席に着いた。にしてもあのヴィラン顔と同じクラスになるとは何の因果か……。あれフラグだったのか? 同じクラスになった時に名前覚えればいいかなんて思ったのがフラグだったのか!?

 そう考えながら先生が来るまで読書にふけようとしていたその時だった。

 

「ねぇ、ちょっといい?」

「うん?」

 

 隣の席の女子に声をかけられた。ふと顔を向けると、そこには見覚えるのある女子がいた。そう、入試実技試験で助けたあの少女だ。

 

「入試の時、ウチを助けてくれた人だよね?」

「えっ、何でそれを」

「あの後ウチも保健室に運ばれてさ、先に目が覚めたんだ。それで顔だけでも見せてって言ったから」

 

 ああっ、なるほど。だからこちらだけが一方的に知っているという訳じゃないのか。しかし珍しい事もあるものだ。基本他人に無関心で人の名前を覚えるのも1ヶ月は軽くかかる自分がたった一度、それも試験中に助けた相手の顔を覚えているなんて。それだけ強烈な印象と言えばそれなのだが、あれから2ヶ月近く経っているというのに。

 なおその答えは案外すぐに出た。

 

「ちょっと遅くなったけどさ、改めて言わせてもらうよ。あの時は助けてくれてありがとう。ウチは耳郎響香、これからよろしくね」

「おっ、おう…。金術、錬錆って言います……。こちらからもよろしく」

 

 ドクン、と胸が跳ねる音が聞こえた。

 おかしい、おかしい!俺はここにヒーローになるために来たはずだ。それが何だこの胸の高鳴りは。こんなこと生まれて一度も味わったことが無い。この10年近く、母親以外でまともに会話した女性という事で緊張しているのか。確かにそうなのかもしれない。だが今一度見てみると、まぁ何という事でしょう。ボブカット、俺好みの髪型ではありませんか。ちょっと見た目だけでは冷めている感じもするが、先ほどの会話からして感謝をちゃんと言える。素晴らしいではありませんか。もう何と言うか――――

 

 

※これ以上続けてもなんかキモイと思われそうなので、作者が代弁します。金術錬錆は耳郎響香に恋をしました。一目惚れです。まぁ恋愛はおろか人間関係すら希薄だった錬錆がそれを自覚するのは、もうちょっと先になるのですがね。

 

 

 ――っと、錬錆が脳内トリップを繰り広げていたがそれは唐突に終わりを告げる。

 

「やるじゃんオメェ!」

「オッフッ!」

 

 声をかけると同時に背中を思いっきり叩かれた。オッフって何だ、オッフって。思わず変な声出してしまったではないか。

 後ろを振り返ってみると、如何にもチャラそうなイケメン男子が後ろの席にいた。

 

「ちょっ、何すんのさ」

「クラスに入るや否や女子に声かけられるなんて、入試の時にツバでもつけたのか?」

「ツバ……?助けはしたがツバは付けてないぞ」

「カーッ! 天然ですか、ジゴロですか!? そういうのをツバつけるって言うだよ!」

「そうなの?」

「さぁ? ウチに聞かれても…」

「てか、アンタ名前なんていうの?」

「それ今聞くの!? まぁいいや、俺は上なr――」

「お友達ごっこやラブコメしたいなら他所へ行け」

 

 廊下側から何処か気怠けなセクシーボイスが教室に響く。

 声の聞こえてきた方向へ目を向けてみると、緑髪のボサボサヘアーの少年と麗らかそうな茶髪の少女に後ろに全身を寝袋に包まれた不審者が立っていた。

 おそらくクラス全員が例外なく、満場一致で思っただろう。なんかいる、と。

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 雄英の教師は全員プロヒーロー、プロヒーローなら大なり小なりメディアへの出演はあるはずだ。当然顔も知られている。

 しかしこんなにもくたびれたヒーロー、いただろうか。いや、見た事ない。

 

「担任の相澤消太だ、よろしくね」

 

 しかも担任だった。

 さらにさっきまで身を包んでいた寝袋の中をガサゴソと物色し始めたよ、この人。

 

「早速だが、体操服(コレ)着てグラウンドに出ろ」

 

 自分が入っていた寝袋の中に突っ込まれていた体操服……それ、汚くないっすか。

 そんなツッコミを入れる暇も質問もする暇もなく、全員がグラウンドへ出された。

 

 

 

 

 

「「「「「個性把握テストぉ!?」」」」」

「入学式は!? ガイダンスは!?」

 

 茶髪の少女――麗日お茶子というらしい――の抗議を相澤先生は、そんな悠長な行事に出る時間はない、と一蹴する。

 なんでも雄英の“自由”な校風は生徒だけでなく、教師側にとっても同様だそうだ。

 

「中学の頃からやってるだろ? “個性”禁止の体力テスト。爆豪、中学の時ソフトボール投げ、何mだった?」

「67m」

「じゃあ“個性”を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい。早よ、思いっきりな」

 

 そう言って相澤先生はあのヴィラン顔――爆豪に計測器の様なものが付属したソフトボールを投げ渡す。

 後に知る事になるのだが、この爆豪は一般入試一位、それも表面上の評価点である敵撃破ポイントのみで通過するという顔付相応の結果を残したそうだ。その爆豪が出したソフトボール投げの結果は、相澤先生の言う“個性禁止テストの非合理性”に納得するものであった。

 

「死ねぇ!!!」

 

(――――死ね?)

 

 個性による爆風に乗せられ、ソフトボールは空の彼方へと飛んで行く。

 人は声を張り上げながら力を入れると、無言の状態で同様の行動を起こす際と比較して良い結果を出せると聞いた事がある。しかし仮にもヒーロー目指すんだから、もっと他にいい掛け声は無かったのか。

 内心で錬錆がツッコミを入れているが、実際は彼もどっこいどっこいだったりする(理由は追って知るべし)。そんな中、個性を使った「最大限」の結果が出た。

 

「まず自分の「最大限」を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 相澤先生の持つタブレットに表示された数値は705m。個性無しの記録と比較して実に10倍以上の結果だ。

 

「個性を思いっきり使えるんだ!!流石ヒーロー科!!」

「すげー面白そう!!」

 

 面白そうか、言われてみれば確かにそうだ。錬錆も表面上冷静を保とうとしていたが、その頬は緩み内心では興奮を覚えずにはいられなかった。

 しかし緩みかけた空気は相澤先生の一言で一変する。

 

「面白そう……か。ヒーローになる為の3年間、そんな腹つもりで過ごす気でいるのかい? よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

「は?」

「ウェ?」

「「「「「はああああ!?」」」」」

 

 阿鼻叫喚がこだます中、相澤先生の宣告はさらに続く。

 

「生徒の如何は教師(おれたち)の自由――。ようこそこれが、雄英高校ヒーロー科だ!」

 

 雄英高校は常に壁を用意し、生徒の成長を促す。

 これが俺たちA組ヒーロー科にとっての、最初の壁となった。

 

 

 

 

 

第一種目:50m走

 

 純粋な体力テストであれば、脚の瞬発力を計る事を目的としている。個性把握テストでは脚のそれが個性を使えばどうなるのか、というテストだ。ならば何も脚力に拘らなくてもよい。飯田天哉と青山優雅の個性は見本とも言えるいい例になった。

 飯田の足には排気口の様な器官があり、おそらくそれがエンジンのような役割している。これが3秒04という驚異的瞬発力(スピード)を生み出しているのだろう。

 逆に青山は全く走っていない。ではどうやって50mを突破したのか。理由は簡単。青山の個性は、腹からビームのようなものを射出する個性。ビームを撃ち出す反動を利用して短時間ならば飛行できる様だ。……というか1秒しか持続しない事をなんであんなドヤ顔で言えるんだ? てかこいつ受験の時に会ったな。

 ともかく、この2人を見てテストの趣旨をようやく理解できた。自分の個性で「何が出来て」「何ができない」か。体力テストを下敷きにする事で、それを結果として分かりやすく見る事が出来る。

 

「次、金術と上鳴。準備しろ」

「っと、出番が来たか」

「しゃあっ、金術! 今朝知り合ったばっかだけど、負ける気はねえからな!」

「いや、これ競争じゃねえから。割と自分との勝負だかんな」

 

 一応策は考えている。いつもやっている土の操作、その応用をすればいい。ただ問題は、これからやろうとしている事を試したことは一度もない、文字通りぶっつけ本番という事だ。だが、

 

(壁は超えるためにある――か。確かにその通りだ!)

『ヨーイ……』

 

 その掛け声と同時に個性で自分の背後に2m半程度の土壁を形成させる。まず第一工程、クリア。

 次に第二工程――っと言ってもここでは個性を使うわけではない。青山がやっていたように、スタートと同時に飛び出せるよう片手が土壁に触れた状態でジャンプするだけ。

 あと必要なのは第三工程の――

 

『START!!』

 

 タイミングのみ!

 開始の合図とともに、個性を発動させる。土壁の側面から新たな壁が生み出され、それが射出機のような役割となりあなたを撃ち出す。金術錬錆が土壁を作り出す早さは1秒当たり凡そ8m、時速にして約29㎞/hと言ったところだろう。実際に数字に出されてもよく分からないだろうが、自動車の一般道制限速度がおよそ40㎞/hと定められている。まぁつまり、自動車で走っているのと同じぐらいの勢いで射出されたという事だ。

 ただその時、あなたはある事を完全に頭の中から忘却していた。すごい勢いだけど、着地どうしよう……と。

 

『5秒47』

「どわっはぁーーーーっ!!」

 

 顔面からモロに着地したのはゴールするのとほぼ同時であった。

 これまで土の食感を味わった事は何度かあるが、ここまでギャグ的に、ここまで強烈に味わったのは初めてだ。

 その吹っ飛びように周囲も驚いたのか、一緒に走ってた(走ったとは言っていない)上鳴や耳郎さんが心配して駆け寄ってきた。……上鳴のはどこか茶化しが入った賛辞だった気がするが。

 

 

 

第二種目:握力

 

 ぶっちゃけここで書くことは特になし。だってこの種目個性の使いどころ無いんだもん、とあなたはいじけた。結果もザ・普通よりちょっと上、48㎏。そして八百万という女子が個性で万力を作り出して悠々と好成績を叩き出しているのを見てさらに凹む。

 

 

 

第三種目:立ち幅跳び

 

「個性は使えなくもない、か」

 

 ここまで手を使って個性を発動させる場面がほとんどだったから勘違いされるが、彼――金術錬錆の個性は別に手を使わないといけない訳ではない。トリガーとなるのは要素は複数あるのだが、敢えてここで語るべき最小事項だけをあげるとしたらそれは「ある模様」、そして「接触」だ。金術錬錆の手の甲には奇妙な痣がある。それと全く同じ模様を描いた上で俺の人体が接触すれば、個性を発動する事できる。彼に戦い方を教えてくれた人曰く『発動型の中でも稀有な例』らしい。

 つまり何が言いたいというと、予めシューズの裏地にソレを描いていれば、あとは必要な時にスイッチを入れるだけの話だ。

 

 ズドドドドド、と地面が盛り上がり肉体を宙へと追い飛ばす。やった事は50m走で見せた技の足で発動&放物線を描くように飛ばすver。さっきは慣れない感覚故に着地に失敗したが、今回はそうはいかない。何せジャンプに近い要領と飛んでいるからだ。そう、失敗しようが――――

 

 そんなあなたの思いは呆気なく砕け散る。

 片足を着くまでよかった、のだがそこで勢いを軽減するのに失敗し、何故かきれいなフォームでの前転を決める事になった。回り方はきれいだが、旗からの見た目としては全然決まっていない。というか普通に恥ずかしい。人はこんな時、どんな顔をすればいいんだろう?

 

「笑えばいいと思うよ」

 

 青山テメェぶん殴んぞ。こんな事態になってもそのドヤ顔崩さねえのは、多分お前だけだわ。

 ちなみに記録は514m。

 なお雄英の受験を決断した1年前、師匠の下で同じ方法で記録は取ったのだが、その際の記録は114m。実に400m飛距離が伸びており、確かな成長があるのを感じ取れる。のだが……何故だろう? どこか作為的なものを感じる。

 

 

 

第四種目:反復横跳び

 

 やはり個性派の使いどころ無し。というか、なんで使える→使えないの順でテストが回るの? まとめてやってくれた方がテンポいいんですけど、と謎の電波が飛んできたが気にしないでおこう。

 ちなみに反復横跳びは個性の云々が無くとも割と苦手なのはここだけの話だ。結果が悲惨――という訳でもないが下から数えた方が早いのは言うまでもない。

 そして――――

 

 

 

第五種目:ボール投げ

 

 これに関してはあまり語りたくない。結果だけ言うと120m。無論個性は使うには使ったが、最後に頼れるのは己が肉体だ。個性使ったのにどうやって投げてたかって? だからこそ、今はあまり語りたくない。あえて書くことがあるとすれば、ボールを殴って飛ばしたぐらいか。

 なお緑谷が705mという超記録を出した際、何故かそれに爆豪をキレるという一悶着があったが……特にこれにも首を突っ込んでいないので語るだけにしておこう。同時に相澤先生の個性が直視した相手の個性を消す『抹消』である事、ドライアイを患っている影響で持続時間が短い事が明かされた。

 で、続く第六種目上体起こし、第七種目長座体前屈、第八種目長距離走に関してもこれといった記録無し。自信のある上体起こしも平均のそれを少し上回るレベルで、あとは平々凡々なものだ。身体を鍛えているとはいえ、発動型かつ条件・対象が限られている。ある意味已む無し、と言ったところだろう。

 そうしてすべてのテストが終了した。

 

 

 

「んじゃパパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」

 

 錬錆の順位は15位。

 見事に下から数えた方が早い位置だ。まぁヒーローらしい結果と言えば50m走と立ち幅跳び、あと(ボールをぶん殴って飛ばしたおかげで)一般人より頭一つ突出してるレベルのボール投げぐらいだ。ある意味残等な結果である。

 自分より下位にいるのは個性の性質をテストに生かしきれなかった上鳴に耳郎響香、あとは透明人間の葉隠という女子に、峰田というちっこいの、それとボール投げ以外パッとしなかった緑谷が最下位だ。

 除籍という事実が確定したからか、緑谷の顔が苦悶の色に染められる。

 人にはいつ伸びるか、そのペースがある。初日からこれはやはり残酷だ、競争という競技はどうも好きになれない。

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

 ……は? 今なんと。

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

「「「「「はあああああああああああああ!!!??」」」」」

 

 なんだよそれ、スッゴイ嬉しそうな顔で嘘ついたよこの人。最下位だった緑谷はおろか、俺含め大半のメンバーから悲鳴上がりましたよ。

 トップの八百万がちょっと考えれば分かると口にし、上位陣も頷いているが……そんなん考えてる余裕ありませんって。

 

「そゆこと。これにてテスト終了だ。教室にカリキュラム等の書類があるから、目ぇ通しておけよ」

 

 そう言って相澤先生は緑谷に保健室の使用許可書を渡しつつ、ササっと去ってしまった。

 あまりにも壮絶な、そして記憶に残る雄英高校初日が終わりを告げる。

 だがあくまで一つ目の壁を終えたばかり。雄英の生徒である以上、安心している時間はない。超えるべき壁はこれから本番を迎えるというものだ――――

 

 




ボールは殴るもの、友達ならそもそも蹴らないし(なお作者はバレーのサーブが飛ばせなかったので常に殴って相手コートまで飛ばしていた)
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