ヒーロー科の午前中は驚くほど普通だった。
プロヒーローを育成するヒーロー科といえど、あくまで学生。勉強が本文だ。午前中は現代文、英語、数学といった文科省が掲げる必修科目。入試であれだけ騒がしかったプレゼント・マイクですら、(ややテンション高めとはいえ)普通に教師をやって普通の授業をやっていた。ギャップに困る。
で、昼は大食堂で一流の料理を安価で頂ける。かのクックヒーロー、ランチラッシュの手料理を、学生の懐に痛まぬワンコインで頂けるのはこの上なく嬉しい事だ。が、同時にこの感覚に慣れてしまって社会に出た時に支障が出るのではないか……。そう思うと弁当持参の方がいいのではとも思ってしまう。一つ懸念事項が増えた。
そして、午後。ヒーロー科のみに許された唯一無二の講義、そして取得単位数もヒーロー科の中でもダントツにトップたる、ヒーロー基礎学の時間が。
「わーたーしーがー!! 普通にドアから来た!!!」
オールマイトと共にやって来た。
少し驚きはしたが、憧れのヒーローの一人であるオールマイトの登場に教室の中は歓喜の声で溢れた。
新米ながらもヒーローとしての経験が物を言っているのか、堂々たる姿で教壇に立つ。
「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作る為、様々な訓練を行う課目だ!! 早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!!」
「BATTLE」と書かれた札を掲げながらオールマイトがそう宣言した。すると壁の一部が動き出し、中から番号が記されたアタッシュケースが出てくる。
それはヒーローにとって個性に次いで象徴する存在――――ヒーローコスチュームが収められたケースだ。
ヒーロー科は被覆控除により一着、ヒーローコスチュームが支給される。これは入学前に提出が義務付けられている『個性届』、『身体情報』。これらの情報と本人の『要望』を沿う形で各サポート会社がコスチューム作成をしてくれるというシステムだ。
で、俺のコスチュームの出来はというと――――
「思ったよりしっくり来るな」
動きやすいようにと注文したズボンに、左胸に
ヒーローというにはあまりに場違い、というか普通に研究者とか科学者という方がピンと来る衣装。だがこれこそ、錬錆が求めるコスチュームの極致であった。
(本当はドクター・ストレンジみたいなスタイリッシュなのがいいんだけど……まぁこっちの方が個性的にも趣味的にも実用的にも性に合うか。何より気に入ったし)
趣味で絵を描く事が功を成したのか、ほぼほぼ要望通りのデザインに仕上がっている。当初は無地であったTシャツに関しても、サポート会社の独断によりワンポイント趣向が凝らされてあった。この出来には錬錆少年大満足。
「さぁ、始めようか。有精卵共!! 戦闘訓練の時間だ!!!」
全員着替え終わり、グラウンドに集結するのを見てオールマイトが笑顔で出迎える。他の皆も己の個性を生かす為か二十人二十色、己が色を十分に引き出すコスチュームに身を包んでいる。……一番最後に出てきた緑谷のフードを見て、オールマイトの頭が連想してしまい吹き出しそうになった事は心の奥に閉まっておこう。
「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか?」
いの一番に飯田が質問した。どこか見覚えのあると思ったらそうか、入試の実技試験会場か。
「いいや、もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ!!」
曰く、敵退治が屋外で行われる印象が強いのは一般人が目に見る範囲での事で、実際は監禁や裏取引の現場となる屋内での凶悪敵摘発率が高いそうだ。故にそういった小賢しい敵戦闘を想定した2対2の屋内戦が今回の授業となる。
オールマイトの説明が一通り終わると蛙の個性――蛙吹梅雨が「基礎訓練もなしに?」と当然皆が思った疑問を投げかける。彼女の質問を皮切りに他の皆も質問を上げていく。
「勝敗のシステムはどうなりますか?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」
「別れるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「このマントヤバくない?」
「んんん~~~、聖徳太子ィィ!!!」
おい、最後のだけオカシイだろ。
流石のオールマイトもさばき切れないのか、カンペを取り出して説明を続ける。おい、教師がそんなんでいいのか。
「いいかい!? 状況設定は「
(((((設定アメリカンだな!!)))))
「コンビ及び対戦相手は、くじだ!」
「適当なのですか!?」
くじと聞いて錬錆は内心ホッとしていた。何せ生まれてから此の方、二人組を作ってください、は呪詛めいた死の宣告でしかないからだ。知らない人と組むのは不安だが、今回に関しては問題ない。クラスメイトとはいえ、まだ全員知らない人の範疇だから!
と書いている筆者すら悲しく思える独白を抱いていると、クジ引きの結果が発表された。
Aチーム:緑谷、麗日
Bチーム:轟、障子
Cチーム:八百万、峰田
Dチーム:爆豪、飯田
Eチーム:芦田、青山
Fチーム:砂藤、金術
Gチーム:耳郎、上鳴
Hチーム:蛙水、常闇
Iチーム:葉隠、尾白
Jチーム:切島、瀬呂
こうなった。確か砂藤って個性把握テストで10位だった……、と思い出そうとしていたら当の本人が来た。
「今日はよろしくな、金術」
「あっ、ああ。よろしく」
コスチュームや体格から見て、恐らく増強系の個性持ちなのだろう。もしそうだったら、支援タイプの発動型個性である俺との相性は前衛後衛がハッキリしている分、ある意味合致しているだろう。
そうこうしているとさらに2つの箱が出てきて、一戦目の組み合わせ決めは行われた。そのカードは正しく、女神様はどこまで御見通しでどこから手を加えているのだろうか、後々彼らの因縁を知るようになってからはそう振り返ざるえない組合せであった。
「Aチーム対Dチーム……、緑谷・麗日対爆豪・飯田か」
他人と余り関わらない、所謂ぼっち族の自分でも緑谷と爆豪の仲の悪さは見て取れた。どちらかと言うと、爆豪が一方的に突っかかってる感じがしないでもないが。
そうこうしているとヒーロー・ヴィラン両チームが準備を、それ以外はモニター室へ移動してモニターで観察するように言われた。度が過ぎたらオールマイトの判断で中断すると付け加えられたが、爆豪が何か含みある表情を浮かべているが果たして大丈夫なのだろうか。
「金術はどっちが勝つと思う?」
で、モニター室に移動すると席が近い事もあり割と絡むことの多い上鳴が予想を聞いてきた。
「そう言う上鳴はどう予想してんだ」
「そりゃ爆豪と飯田だろ! 体力テストで3位4位コンビだぜ? 爆豪の個性も派手だし、それだけで負ける要素見つけんのが難しいっしょ」
「まぁそうだろうな」
上鳴の言う事はもっともだ。単純なテストの順位だけ見れば、爆豪と飯田は格上。爆豪は明らかに戦闘特化の個性だし、飯田に関しても他を寄せ付けないスピードの持主だ。爆豪が核防衛の対人戦闘を、飯田がそのスピードを生かして捕獲に動けば負ける方が難しい。ただそれはまずありえないだろう。
「確かに事個性、その扱いに関しては爆豪と飯田が上回っている。個人戦闘なら負ける方が難しいだろうさ。けど緑谷が言ってたように、こういう課題ではチームワークが重要になってくる。その点じゃ仲良さげな緑谷と……麗日?の方が連携を取れるだろうさ」
「なるほど、そういう見方もあんのか」
「何より、爆豪あの性格だろ? 緑谷がボール投げで自分と同じ記録出した時に噛みつく狂犬ぶり。あいつが真面目一辺倒っぽそうな飯田と反りが合うとは思えない。恐らく独断専k……」
「いきなり奇襲!!!」
峰田の声に反応するようにモニターへ目を移すと、案の定爆豪が単独行動に出て緑谷・麗日に攻撃を仕掛けているのが見えた。分かってはいたが随分苛烈だなぁ、と思いつつ初撃の爆破でついつい忘れかけていた出来事を不意に思い出した。
「あっ、あの二人ってあの時の……」
「どうかしたの?」
「いや、一年ぐらい前にヘドロのヴィランが暴れてるって騒ぎあっただろ? その時ヘドロに人質に取られたのが爆豪で、それを放っとけなくて助けに飛び出したのが緑谷。今思い出した」
「そういえばそんな事あったよな~。てかやけに詳しいな!」
「だって俺その現場いたし」
ついでに緑谷同様個性使って助けに出た、という事は付け加えないでおこう。そこで雑談を中断させ、再度モニターへと注意を向ける。
何か緑谷と爆豪で言い争っているのが見えるが、定見カメラでは音声が拾えない。その内容に切島は興味があるようだ。ぶっちゃけ俺も興味ある。
緑谷が啖呵を切ると、麗日が別方向へと移動し始めた。どうやら緑谷が爆豪を引き付け、その間に麗日が核の隠し場所を探す作戦の様だ。同中な上に普段の緑谷に対する態度、それに先ほどまでの言い争いを見るとどうも二人の間には深い因縁があるように見える。緑谷に対する異常な敵意を考えれば、敵を両断するには打って付け。緑谷への負担が大きいので最良とは言えないが、悪くない手だ。いや、むしろ古い付き合いがあるからこそ、ここでは最善の手と言えるかもしれない。
これも後々知る事になるのだが、緑谷は日頃からヒーローの個性や戦法、咄嗟の癖などを研究・分析しており、それを幼少の頃からノートにまとめているそうだ。これには必殺技開発の折に随分世話になったのだが、それは後で語るとしよう。この分析ノートの成果からか、緑谷は個性を用いわず単独で爆豪と渡り合っている。別のモニターに目を移すと、麗日が核を守護する飯田と接敵するのが見えた。飯田が何か面白い事でも言っているのか、吹き出す麗日が映る。何を言っているのか妙に気になる。
一応作戦は成功しているようだが、肝心な確保担当の麗日が飯田に見つかってしまった。これでは元も来ない。加えて麗日対策に核保管場所には一切の設置物が片付けられいるというおまけつき。追い込んだと思いきや形勢は敵チームに有利。だがそれだけでは終わらなかった。
緑谷を追い込んだ爆豪が何やら篭手をいじり出すのが見える。それを見た瞬間、右眼孔の奥に焼き付いた光景、その時と同じ悪寒が背筋に駆け巡った。
「まさかあいつ!?」
「爆豪少年ストップだ! 殺す気か!?」
オールマイトの制止も聞く耳持たず、次の瞬間施設全体を爆音と衝撃が襲う。
ホワイトアウトしたモニターが復帰するやいなや、そこに映ったのは半壊したビル、そして命辛々避ける事に成功した緑谷の姿だった。
「どう拗らせりゃ授業であんな真似できんだよ……」
「先生止めた方がいいって! 爆豪あいつ相当クレイジーだぜ、殺しちまうぜ!?」
切島だけじゃない。爆豪の異常な行動に皆驚くか、或いは一種の恐怖を覚えている。オールマイトもこれが明らかな問題行動と見たのか、もう一度同じ技を使うと判断した時点で強制終了すると宣言する。
それに爆豪は(イラつきながら)格闘戦へと移行した。そこから一方的、いくら授業における敵役とはいえ、あまりに度の過ぎた執拗な攻撃の連続だった。
「リンチだよコレ! テープを巻き付ければ捉えた事になるのに!」
「ヒーローの所業に非ず…」
猛攻に次ぐ猛攻。当初は緑谷も冷静に対処できていたが、考える暇も与えない連撃、そして蓄積ダメージの影響で完全に押されている。いくら分析しようと、身体がついていかなくては意味がない。
これには堪らず逃げの一手に出た。しかし逃げた先は壁際、行き止まりだった。背には壁、前方は爆轟。もはや逃げ道などない。ここからヒーローチームが勝つには、爆豪を倒す他ない……様に思われた。その予想は見事に裏切られる。
緑谷が再び啖呵を切り、それに爆豪は一切の余裕を失い、両者が同時に右腕を振り上げる。爆豪の拳は緑谷へ、緑谷の拳は空を切り天井へと突き上げられた。緑谷の個性によって生じた衝撃破は天井を突き破り、いくつものフロアに穴を空けてゆく。そしてその丁度真上にスタンバイしていた麗日が柱を持ち上げ、無重力状態で浮遊する瓦礫を弾丸のように打ち出した。目晦ましを兼ねた攻撃に飯田の動きを封じ込めたのだ。その瓦礫の中に紛れる様に自分を浮かした麗日が無防備になった核兵器を確保した
「ヒーローチーム、WIIIN!!」
色んな事が起こり過ぎて混乱する飯田、真っ青な顔色でキラキラを放出する麗日、呆然と立ち尽くす爆豪、最後の一撃とダメージの影響で倒れる緑谷。ヒーローチームの勝利と言うにはあまりにも異様な光景の中、オールマイトの終了宣言が響く。
「負けた方がほぼ無傷で、勝った方が倒れてら…」
「勝負に負けて、試合に勝ったというところか」
「訓練だけど」
意識不明の緑谷が保健室へと運ばれる中、残った3人がモニタールームへと戻され訓練の講評へと移行する。
「まぁつっても、今回のベストは飯田少年だけどな!!!」
「なな!!?」
なんで本人が驚いてるんだよ、と内心でツッコんだ。まぁ確かにそうだろう。訓練だろうと試合だろうと、大抵勝利した側にMVPを立てるのが普通の考えだったりする物だ。現に蛙吹も「ヒーローチームじゃないの?」と正直に質問している。そこに女子の一人、八百万が挙手して説明する。
「飯田さんが一番状況設定に順応していたから。爆豪さんは私怨丸出しの独断専行と大規模攻撃、緑谷さんも同じですわ。麗日さんは終盤の気の緩み、最後の攻撃が乱暴すぎます。ハリボテとはいえ核は核、普通あんな危険な行為はしません。相手への対策をこなし、且つ“格の争奪”をきちんと想定していたからこそ、飯田さんは最後の対応に遅れた。これらからヒーローチームの勝利は訓練という甘えから生じた反則のようなものですわ」
完璧すぎる分析と回答に、最早オールマイトの教師としての立つ瀬があまりのもない。流石は推薦入学者、と言ったところだろう。というか飯田は何感動してんだ? 授業での講評だよな、これ。
八百万の説明、そして最初の試合の興奮からか皆の集中力は高まり、そこから先はスムーズに進行していった。
そして最後の組み合わせ、ようやく自分の出番が回ってきた――
戦闘解説は書いてて面白いけど、いざオリジナルで書こうとすると急に難しくなる。
次回はそんな感じです。