オリジナルで戦闘回考えるのムズカシイ!!ムズカシイ!!
ヒーロー基礎学実技訓練、その日最後の試合が間もなく行われようとしていた。
厳選なるくじ引きの結果、俺と砂籐――Fチームは敵サイド。対するEチーム、青山芦戸ペアがヒーローチームとなった。で、今まさに現在進行形でヒーローを迎え撃つべく、敵チームが準備を進めているところだった。
「砂籐、個性がどんなものか教えてほしいんだけど」
ある程度トラップの配置を終えたところで、錬錆にしては珍しく自ら会話を切り出した。
「ああっ、いいぞ。俺の個性は『シュガードープ』。糖分10g摂る事で3分間パワーアップできるんだ」
「3分間……ウル〇ラマンみてぇ」
「そりゃあ俺も思ったけどよぉ……」
「にしても発動と増強の複合型か。となると使用上限や増強の限度も……他に何かないのか? 摂取量増やせばその分強くなるとか、時間が伸びるとか」
「いや、10gで3分。それ以上は伸ばせねえよ。ただ短時間で使い過ぎると眠くなったりするな」
「なるほど、大体わかった。両親か、はたまた役所かは知らないけど、随分的確な個性名を付けたもんだな。シュガードープ、その名前通り効果はドーピングそのもの。身体に直接の害が無いのは救いだが、これは面白い。3分間と言う時間制限がネックだが、近接戦闘での3分は非常に大きい。増強型や異形型でない限り、大抵の相手は取れるだろう。しかし長時間戦闘が得意なタフなタイプだとそれが一気に仇となる。今回は10分間という時間設定がある訳だし、接敵し次第使うという判断は短慮過ぎるな。となると使いどころは5分切った辺りか? 5分前後の範囲なら一度効果が切れても2回目の使用を計算に入れらる。だが連続使用がどの程度可能なのか、デメリットが発現がどのタイミングで出るかが読めないのがやはりネック。ヒーローチームの事も考えれば、俺が青山、砂籐が芦戸の相手をした方がいいだろう。個性把握テストの成績的な意味で。となれば接敵と同時に個性使用の短時間決戦のカードを切るのがセオリーか? でもやっぱ……ボソボソボソボソボソボソ」
「おい金術。戻ってこいよ……」
「あっ、悪い。少し考え事してた」
「少しってレベルかよ……。それよりお前の個性はどうなんだよ?」
一度思考を働かせようとすると深く考えすぎてしまう。考えるより感覚で動いた方がいい成績を出せる(と考えている)のに、こればかりは嫌な悪癖だ。
数テンポ遅れて少し考えた返答した錬錆だったが、この時に少しばかり嘘をついた。
「地形操作……、地面やコンクリートを媒介に壁を生やすことができる。基本的に長方形のを直線状にしか出せないけど、その気になれば円柱状や波状にも出せる」
「って事は妨害とかには打って付けって事か?」
「まぁそうなる。ただ直接触れたうえで半径5m以内のものしか操れない。それ以上離れていても操れない事は無いんだが、脳が許容オーバーして動けなくなっちまう。つまり今この場ではここで待機した上で迎え撃つ一択、それだけしか出来ないさ」
移動しながら壁を形成して道をふさぐ、と言う芸当は出来なくはないのだが何分それを行うにはどうあがいても自分の脳のスペックが足りない。やったところで自分も迷子になり袋小路になること確定だ。無理だと分かり切った事はしない、けど無茶はする。それが金術錬錆のモットーだ。
「そういう事だから俺はここでの防衛戦に徹するのがセオリーだと思ってる。最終的判断は任せるけど」
本来なら八百万か飯田か、頭の切れそうな奴にこういう事は任せたいのだが、組み分けが違う以上いない奴に頼っても意味がない。それに相澤先生と違い、今回は除籍とか無い様なので自分のペースで進む事に最初から決めた。無理に気張っても頭の悪い自分が考えた所で碌な事にならない。なので相手に合わせる。
「俺の個性も時間制限あるからなぁ……金術の言う様に防衛に徹するでどうだ!?」
「よっし、それで行こう」
二つ返事で言葉を返し、お互いに気合を入れようとしたその時だった。
そう、馬鹿は光ってやってくる。
「ビューーーーーッ☆!!」
「バカかよっ!?」
思わず本音が漏らしてしまった。何せこちらが抱えているのはハリボテとはいえ核である。それに、殺傷能力のあるという青山のビームが飛んできたのだから。そりゃ言いたくもなるは。しかしそれを目の当たりにした錬錆の行動は実に冷静であった。
本音が漏れ呆気にとられるところはありながらも瞬時に個性で3枚の壁を生成させる。しかも最後の1枚には内部に反射板を仕込むおまけつきだった。それが功を成したのか、1枚目2枚目を意図も容易く砕いたビームは3枚目に当たった瞬間、明後日の方向へと跳ね返っていく。
「青山お前……心中趣味でもあんのかよ」
「これぐらい対応できないと、エレガントじゃないよね☆」
「こっちの実力を織り込んで、って事かよ」
「………」
「おいなんか言えよ!?」
人の事を言えないが本気半分考え無し半分だったとは……。青山、恐ろしい奴。個性の使い過ぎで顔色が変わっている時ですら表情一つ変わらない。何を考えているのか、正直言って分からない。故、恐ろしい。
「けどこっちには錬錆が作った反射板があるんだ! そっちの戦力は半減したも同然だ」
(それ俺のセリフ!? 盗るなよ、砂籐ェ…)
相方に言いたい事を言われ、若干意気消沈しつつもその目は真っ直ぐ相手を見つめている。何せ相手は個性把握テストにおいて自分より上位にいた存在だからだ。個性には適材適所、相澤先生も言っていたが出来る事と出来ない事がある。純粋にそれぞれの種目へ個性が生かし辛かったとはいえ、それは相手も同じこと。純粋に順位付けという数字だけの話なので甲乙つけがたい点はあるものの、彼らが自分より個性の扱い方が上手い事には変わりない。故に錬錆自身、油断をしているつもりは全くなかった。
しかし錬錆は気づいていなかった。芦戸三奈の個性は、錬錆にとって天敵であるという事を。
「ピチャ?」
何か液体が固体に接触するような音が聞こえる。すると、まぁ何という事でしょ。横幅5m、立派にそびえ立っていた反射板の真ん中付近が溶けているではありませんか。それも一回では終わりません。徐々に、徐々にその穴が広がっていき、今やヒト一人が何とか通れそうな程度には広がっています。最早対青山君用に作り出したレーザー反射壁はその機能を何一つ果たさなくなりました。
「ふっふっふぅ、この芦戸三奈ちゃんの酸の前にはお手上げのようだね!」
「あっ、これオワタ」
「オイ、これどうすんだよ!?」
「知らない。自分で考えて!!」
青褪めたその表情とは裏腹に、個性を使って超速度で壁を再生成させる。しかしそれもジリ貧。酸耐性とレーザー反射性能を両立させた物質の生成理論など錬錆は知らないし、工程を省いて完成し得るイメージも一度難しいと決めつけた事には何の思考も割かない錬錆にとっては個性をもってしても作りようがないからだ。
この場面で最も怖いのはレーザーだが、それに偏っているが故に酸で溶かされ続ける。故にこのままではどちらかが許容量を超えるまでのぶつけ合い、消耗戦に至るに他ならない……のだが、作り出せる壁にも限度はある。何せ壁の生成には周囲のコンクリート、つまりこの建屋・施設本来の形を成すソレを原料にしなければならない。金術錬錆の個性は詰まる所そういう類のモノ、故に消耗戦に講じるにしても限度がある。そもそも無制限作り出せるとしたらそれは物理法則を無視しているので、個性以上に人知の領分を超えている。出来なくてほぼ当然だろう。その事は錬錆自身も理解しているのだが……。
(このままじゃマズイか……)
単純な防衛に徹してから時間として1分弱と言ったところか。早くも限界が訪れた。それは錬錆と砂籐にとっての、ではない。フロアそのものだ。先に述べた通り、金術錬錆の個性は周囲の物質の構造操作と言うのが特徴だ。それだけなら聞こえはいいが、実際は等価交換。要は使えば使った分だけ、その体積は消費される。
元々ひび割れていた周囲の亀裂が徐々に増している。個性の使用によるフロアの限界を、パキッ、という不快音が示している。
これはマズイ。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい。どうすればいい?
ただ個性を行使するだけで周囲の物質が消費されていく。これ以上は施設そのものが崩壊しかねない。故に個性の使用を制限せねば。では核はどう守護する? こちらが勝つには核の周囲に壁を張り続けなければならい。だが壊されたら修復する、そんな単純作業すら制限される。なら攻撃こそ最大の防御? どう攻勢に転じる? いくら砂籐の個性が発動条件付き増強系とはいえ、2人相手は荷が重すぎる。なら自分も攻撃に出れば? いや、ダメだ。そうすると防衛に思考が回らなく……。
うだうだと悩んだ末に思考回路が臨界点を突破した結果、錬錆は……頭部を自ら生成した壁に打ち付けると同時に考えるのを止めた。
「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!! もう考えるのは止めだぁっ!!」
「ちょ、どうしたんだよ金術!?」
突然の絶叫に砂籐はおろか、相対する青山と芦戸も驚かずにはいられなかったようだ。一見冷静に見えない、というか癇癪を起したとしか思えない行動であるが、その実錬錆の頭は平時以上に冷静であった。
「砂籐、個性使って青山を抑えろ! 芦戸は俺がやる!!」
「あっ、ああ!分かった」
呆気にとられたならも、個性:シュガードープを発動させた砂籐は強化された跳躍力により青山に突撃、勢いそのまま床を突き破って下層へと戦いの場を移していった。フロアの内壁が脆くなった原因が自分の所為とは言え壊していくなよ、と悪態付きながらも他のフロアから構造成分を移し、組み替える事で吹き抜けとなった床を瞬時に修復させた。
「防衛戦で粘るつもりだったが、タイマンで決着つけさせてもらうぞ」
「その相手に私を選ぶなんてお目が高いね~。もしかして、私に気が――」
「いや、それは無いから安心しろ」
「それはそれでなんかショック!?」
気の緩むような会話が交わされているが、両人はいたって気を緩めていない。なにせ核が錬錆の個性によって四方を囲んで閉じ込めている以上、核の争奪は本訓練における勝敗に関係なくなった。故にどちらが拘束するかされるか、純粋な屋内での戦闘能力での勝負となる。
芦戸三奈から見れば――個性:酸は「溶かす」という性質故に対人戦には基本不向きだ。錬錆や砂籐からは見ていないので知りえていないが、酸を利用して床を滑走する芸当はある。しかしそれを戦闘に直接活用出来るかと言われれば、それまでだ。だが彼女にも錬錆への勝算はある。純粋な身体能力、と言えようか。入学初日に行われた個性把握テスト、彼女に順位は9位。この数字だけを見れば中堅クラスと思えるだろう。だが彼女は違う。酸と言う性質故か個性を発揮すること無く、持ち前の身体能力のみでその順位を獲得した。比較対象として今回チームを組むことになった青山を見てみよう。彼は走り幅跳びでヒーローらしい記録――飛距離を見せたが、それ以外は鳴かず飛ばず。それでも一つの種目にて結果を残した。しかし総合では14位。いくら青山が貧弱そうとはいえ、ヒーローらしい記録を残した相手より上の順位というだけでも彼女の身体能力が他の女子はおろか、並の男子ですら凌ぐ事がうかがえる。
一方金術錬錆――彼も勝算が無いわけではない。これまで散々描写されてきた通り、彼の個性は手に触れる事が条件の発動型。周囲の物質を自在に組み替え操作する代物だが、芦戸三奈の酸からすればカモが背負ったネギぐらい対処が容易だ。加えて身体能力に関しても、少し握力が強くて妙にタフなぐらいでそれ以上の取柄は無い。これだけ言えば、何故彼に勝算があるといったのか疑問に思うだろう。だがこのカタログスペックとも言える、数値可能な能力こそが、初見における彼の勝算を引き上げている理由である。
その理由は今まさに、明かされようとしていた。
先に動いたのは芦戸だ。両足から酸を噴出する事による滑走、一気に間合いを詰めて倒そう、という作戦なのだろう。その判断に誤りはない。先にも述べたように錬錆の身体能力はせいぜい平均的な高校生レベル、たいして芦戸はA組の中でも上位に入るレベルだ。個性把握テストに関しても昨日の今日、記憶が鮮明に焼き付いている。故に芦戸三奈は金術錬錆を御せると踏んだのだろう。だが一つ、大きな見落としがある。入試テストや個性把握テストの中で測り切れない個性があるように、数値化できない当人の技能があるという事を。
それは一瞬で決着がついた――
芦戸三奈が次に見た光景は、ボロボロになった天井と逆さまに写る金術錬錆の姿であった。
果たしてこれを見抜けた生徒がどれくらいいるだろうか……。飯田や轟に八百万、爆豪、あと見た目武道に心得ありそうな尾白って尻尾持ち辺りは気づいていそうだなぁ。っと何とも気の抜けたような事を考えつつ錬錆は確保用のテープに手を伸ばした。
「女の子を殴る趣味は無いんでね。悪いけど降参してくれるか?」
「女の子を投げ飛ばす人が言うセリフ~?」
「投げられて受け身取れないなら、それはそいつが悪い」
なお砂籐も砂籐で同じぐらいのタイミングで青山を捕獲したらしく、本日最後の実技訓練は敵チームの勝利で幕を閉じたのだった――――
――で、講評の時間。
「最後の訓練のベストは金術少年だ!!」
「えっ!?」
本人にとって予想外の結末。まさか自分がベストな動きをしていたとは思ってもいなかったからなのだろう。なお当人と落ち込んで終始大人しい爆豪以外の17人は、うんうんと頷いていた。自明の理、誰かどう見ても分かり切った結果である。
「何を驚いているんだい? 核の確実な防衛、仲間への指示、そして何より単独戦闘でも冷静に相手の動きを見て対処した! ちょっと考えすぎで動きに出るのが遅いのが傷だと思うけど、入学したての身を考えれば十分及第点だ! これだけベストを尽くして選ばれないと何故思う!?」
「いやいやいや、買い被りですよ。割と考え無しで動いてましたし。それ言ったら青山や芦戸の方がベストなんじゃないんですか!? この二人だって考えながら行動するぐらい……」
「「…………」」
「おい、なんか言えよお前ら!?」
助け舟を求めた先が悪かったのか、ヒーローチームの二人は終始表情を変えず無言で目が合うだけだった。
こうして雄英高校入学二日目、初めてのヒーロー基礎学による実践訓練は幕を閉じた。
大人になって思い返してみれば、この頃の金術錬錆は自己評価が異常なまでに低くて諦めが早くて、その癖して負けず嫌い。一言で言ってしまえば、割と面倒くさい部類の人間だった。この時、自分がベストだというのは本心で分かっていたのに、他の者がベストだと見当違い事を無意識化で口走っていたのは、自分は一番になれない、と言うどうしようもない程の卑下から由来しているのだろう。そんな俺が変われたのは間違いなく、A組という掛け替えのない仲間と出会えたからだろう。そう思っている――
そして放課後。保健室に運ばれて未だ御寝んね中の緑谷とHRが終わるや否やさっさと教室から出ていった爆豪の二人を除く18人により訓練の反省会が自主的に開かれた。飛び交う会話を聞く限り、他の皆は初戦の熱気に当てられて非常に気が入って訓練に臨んだそうだ。個人的には極めてマイペースに臨んだつもりだったが、かく言う自分も他人に指示を飛ばしたりした辺りを思い返すと大分影響を受けていたのだと思う。
「金術、なに書いてんの?」
ヒョコっと耳郎響香が顔を覗かせてきた。皆から離れ物書きにふけていたら所に異性、それも無自覚の内に好意を寄せる相手が顔を寄せてきた。それは母親と遠縁の叔父夫人以外の女性とまともに接した事のない錬錆の心を揺さぶるには十分すぎた。
(顔、近い……)
その内心、まるで女性の肌に触れた事のない童貞の様に――実際童貞だが――高鳴る鼓動を表面に出さないよう、一生懸命に冷静を装った。
「ああっ、こ、これ? 今日の反省日誌だよ。師匠から『その日やったミスや気づいた事』を日誌に残すように言われてるんだ。で、今日の訓練での反省点を書いてるとこ」
「今日のって……もしかして毎日!?」
そうだけど、と耳郎響香と話していたらガラガラと扉が開く音が聞こえてきた。目覚めた緑谷が保健室から帰ってきたようだ。皆が皆、彼の帰りを待っていたように一斉に群がる。初日があんなんだった事もあってか、ようやくの自己紹介を交えながら緑谷の雄姿を讃えてるようだ。
(……せめて自己紹介ぐらいはしておくか)
書きかけのノートをそっと閉じ、彼もまた緑谷出久を中心に湧く渦の中に入っていった。
この時は先にも言った通り軽く自己紹介をする程度、それも単なるクラスメイトに対するもの程度の挨拶を交わすだけだった。
自称引っ込み思案で他人との関わりを積極的に持とうとしない錬錆にとって緑谷出久はそのままただのクラスメイトで交友が3年間続くものだ、そう思っていた。
だがその予想は数日後、大きく裏切られる事になる――――
理屈っぽいこと並べるけど実際は何も考えず身体動かした方がいい事ってありますよね。
それがここの主人公です。