金術錬錆のヒーローアカデミア   作:島村共数、

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第6話 先頭に立ってあれこれ言うタイプじゃない

 屋内戦闘訓練の翌日――。慣れない事に神経を割いてた所為もあってか、寝起き早々に身体の節々が悲鳴――と言うよりか喘ぎ声? 悲鳴と言うには余りにも優しすぎるし、かといって何もないと言えば嘘になる――を上げていた。特に首回りの凝りが酷い。間違いなくこれは寝違えたのだろう。疲れたからという理由で昨晩寝る前のストレッチを怠ったのを軽く後悔しながらも、錬錆は淡々と着替えて足早に通学路へと足を運ばせた。

 えっ、朝食はどうしたかって? 勿論食べましたとも。わざわざ描写する必要もないので、キングクリムゾンさんに仕事してもらいました。

 

 

 

 

 

「おはようございます」

 

 律儀に挨拶を述べながら自分の席へと向かう。我ながら何故ここまで硬い挨拶しかできないのか不思議に思う。席に着くや否や、そんなお堅い自らとは正反対の人物が絡んで来た。

 

「おっす、金術! 今日も校門の前、凄かったな!」

「ああっ、マスコミか。毎日よくもまぁ、飽きずに来るよな」

 

 上鳴との話題に上がったのは言葉通り、連日押し掛けるマスコミの存在だ。理由は明白。No.1ヒーローたるオールマイトが教職に就いた事、その生徒たる自分たちがその教えを受けているという事だ。それを嗅ぎつけたマスコミが「世間は知りたい」という報道の自由を盾に先述に至る……というものである。

 

「まぁそう言うなって。むしろテレビに映るかもしれないんだし、これってチャンスじゃね?」

「チャンスってなんの?」

「決まってんだろ! 可愛い子に声かけられるチャンスだよ!」

「まだ数日の付き合いだけど、その一言でお前がどういう性格してんのか分かったよ」

 

 自称内気で無口、人見知りで人を見る目が無い俺だが、初日から気兼ねなく話しかけてくるお調子者、加えて時折その言動ににじみ出てくるアホっぽさから上鳴(こいつ)が裏表のない良いやつだってのがよく分かる。小中と周りにまともな味方がいなかっただけに、性格は正反対でも数少ない友人が出来るのであればそれは大切にしたいと思う。

 そう頭に過った次に、俺が友達が欲しいなんて思うとはな、と内心自嘲するのだったが。

 

「そういう金術はあんま乗り気じゃねえな。一瞬でもテレビに映りたいって気持ちない訳?」

「いや。俺あんま目立ちたくないし、そもそも何も訊かれてないし」

「オイオイ、そんな事はねぇだろ。質問の一つや二つ……」

「気配殺してたらなんか普通にスルーされた」

「それ逆に凄くね!?」

 

 これこそ義務教育時代(あんこくじだい)を乗り切るために本能で身に着けた金術錬錆の処世術。一人でじっとしていたい時に割と役立つのだが、理由が理由だけに正直言って誇っていっていいのかどうか分からない代物だ……。

 そんな風に上鳴と駄弁っていたら、チョンチョンと肩を突かれる。振り返ると、まぁ何という事でしょう。女子指定制服が宙に浮いてるではありませんか。……とふざけるのはさておき。宙に浮いた制服、というだけでそれが誰なのかがすぐに分かった。ある意味印象に残りにくいが、それ故にある意味印象深い女子生徒――葉隠透だ。

 

「ねぇ、金術君もインタビューされなかったんだって? 偶然だね、私もインタビューされなかったよ」

「あ~っ、確かにその個性じゃ気づかれにくそうだね。隠密行動には適してそうだけど」

「けど後ろから声かけても気づいてもらえなかったのはショックだったなぁ~。失礼しちゃうよ、もう!」

「ははっ、俺も背後にピタリと張り付いていたのに20分以上経っても気づかれなかった事あってさ。結局えらく驚かれたさ。そん時に相手の顔が、豆鉄砲でも喰らったハトみたいでね、あれはあれで傑作だったよ」

「金術くん……」

「葉隠ちゃん……」

 

 ピシッガシッグッグッ!

 影が薄い同盟結成――

 錬錆と葉隠の間に奇妙な絆が結ばれた。

 

「いやなんでだよ!?」

 

 

 

 

 

 そして朝のHRの時間がやって来た――――

 まず最初に昨日の戦闘訓練に関する講評が入る。案の定私怨に突っ走った爆豪と片腕ぶっ壊してぶっ倒れた緑谷に忠告の言葉が投げられた。初日の除籍云々は合理的虚偽と言っていたが、あの後プレゼントマイクに訊いた話では相澤先生の生徒除籍率はトップクラスなのが事実らしい。今回の注意も「次やったら除籍な」という意味で、除籍云々を相澤先生風に言い換えれば「悪い癖を直さないのは合理的じゃない」というものなのだろう。少なくとも、錬錆にはそういう認識を与えた。

 で、――――

 

「HRの本題だ……。急で悪いが今日は君らに……」

 

 その言葉にクラス中が静かにざわめく……。やはりみんな初日の個性把握テストの印象が残っているのだろう。また臨時のテストか、と戦々恐々する中だされたお題は――

 

「学級委員長を決めてもらう」

「「「「「学校っぽいの来たーーーー!!!」」」」」

 

 ――割と普通だった。

 すると皆が一斉に立候補し始める。普通科であれば雑務程度で率先してやろうと思う人は限られてくるが、ヒーロー科はそうではない。集団を導くスキルの下地を養う事が出来るため、必然的に立候補者が増える事になる。

 

「みんなやる気ありすぎ……」

「金術は立候補しないの?」

「先頭に立ってあれこれ言うタイプじゃないし、今回は棄権で」

 

 そんなヒーロー科にも、立候補しようとしない人間は勿論いる。その最たる例が俺だ。中学時代のあれこれを引きずるつもりはないが、他人を牽引するという行為に苦手意識を持っているのは事実。それが集団となればなおさらだ。ヒーロー科に属していてこういう事を言うのはやや不謹慎かもしれないが、No1よりNo2に向いていると自負している。上に立つ者をサポートする、しかし下っ端では出来る事が限られる。故にNo2。トップヒーローよりトップヒーローのサイドキック。そういう在り方こそ、金術錬錆の理想だ。

 故に副委員長の立候補ならまだしも、委員長の立候補はしない。そういうスタンス故の棄権である。

 

「静粛にしたまえ!!」

 

 そんな中、手を挙げ我こそはと叫ぶクラスの喧騒をぶち破ったのは飯田だ。お前が一番うるさいぞと思ったが、周囲を一度黙らせるにはそれ以上の声を張り上げる事が有効だと聞く。実際自分もそういう立場ならそうするので、ここは黙っておこう。

 

「多を牽引する重要な仕事だぞ。やりたいからやれるモノではないだろう。周囲からの信頼あってこそ務まる責務……。ならば、ここは民主主義に則り、投票で決めるべきだろう!!」

「そびえ立ってんじゃねーか!! 何故発案した!?」

「何がしたいんだよ飯田……」

「日も浅いのに信頼もクソもないわ、飯田ちゃん」

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

 

 蛙水や切島が辛辣な意見を述べる中、錬錆本人としては呆れながらも飯田の意見には賛成であった。切島が言う様に皆自分が立候補するだろうが、錬錆みたいに立候補を辞退する人間の意見も投票では反映される。……最も、蛙の個性――蛙水の言う通りまだ信頼もクソもないのだが。

 結局「時間内で決まれば何でもいい」という相澤先生の言霊もしかりと受けた事により、投票によって学級委員長を決める事となった。……教師がそんな投げやりでいいのだろうか?

 で、その結果は――

 

 

「僕、三票――!?」

 

 緑谷が三票、八百万が二票、以下一部を除いて自身立候補による一票か0票。これにより緑谷が委員長、八百万が副委員長に決まった。

 なお爆豪がその結果に納得いかなかったのか「なんでデクに!?」と驚いていたが、肘からテープを射出する個性の男子――瀬呂の間髪入れず「お前に入れるよりかは分かる」というツッコミが決められた。正直言って金術錬錆もそれには同意である。

 またこれは予想通りだが、投票結果に金術錬錆の文字は無い。つまり0票だ。元々本人が立候補するつもりは無いし、他の面々も大抵自分に入れている。故にこちらに回ってくることは無いので当然の摂理という事だ。

 ではその一票はどこに行ったかというと――

 

「クッ……一票だけとは……、分かっていた!! 流石は聖職と言ったところか……!!」

(ホント何がしたかったんだよ飯田ェ…)

 

 その後、ガチガチ震えた緑谷と若干悔しそうにしてる八百万が壇上で挨拶を済ませたところでHRの終わりを告げた。

 

 

 

 で、昼休み――

 錬錆は食堂へ魅力に染まるまいと、基本的に母親お手製の弁当で昼食を済ませるようになっていた。しかしその日は珍しく当の母親が寝坊した所為で弁当を持ってくる事ができなかったので食堂でお昼を過ごす事となった。

 基本食事処なのでは他人との距離感を気にしてか、特別親しくない限りは誰も彼もが一つ席を空けて座るのが世の常である。しかしここは雄英高校。ヒーロー科のみならず、一般科、サポート科、経営科、全学年合わせても千人近い人が一堂に会する食堂である。加えて食堂の料理長を務めるのはクックヒーロー『ランチラッシュ』。出てくる飯が上手ければ必然的に食堂に足を運ぶ人も多くなる。

 と、なれば空いている席も限られてくる。自称人見知りの錬錆にとって知らない人のとなりで食事を取るのはこの上なく苦渋である。結局色々さ迷った結果、緑谷・麗日・飯田がトリオで固まっているところに空きがあったので、彼らと一緒に昼食をとる事にした。

 

「お米がうまい!」

「炒飯にしてもうまい!」

 

 さすがクックヒーローの作る料理。入試の時に一般開放されていたので、その時に白米を頂いたが、それはもう絶品。炒めても絶品とは恐れ入った。

 

「いざ委員長やるとなると、務まるか不安だよ……」

「まだそんなこと言ってたのか、腹くくれ」

「ツトマル」

「大丈夫さ」

 

 未だオドオドしている緑谷に錬錆はやや呆れ、次いで麗日と飯田が肯定する。

 そういえば入学初日以来、この三人がよく一緒にいるのを目にする。今の肯定といい、緑谷に投票した残り二票はこの二人なのだろうか。

 

「しかし飯田も勿体ない事したよな。もし自分に入れてれば決選投票もありえたのにさ。なんで緑谷に入れたん?」

「確かにそうかもしれないが、緑谷くんのここぞという時の胆力と判断力は、多を牽引するに値すると僕が思ったから……って、何故君がそれを知っているぅー!?」

「(ブラフだったのに当たりかよ……)俺が飯田に投票したからだよ、察して」

 

 理由は分からなくもないが、本当に何やりたかったんだ飯田ェ……。てかそこ、感動泣きするな。泣くぐらいなら自分に投票しろよ!

 

「飯田くんも委員長やりたかったんじゃないの? メガネだし、坊ちゃんっぽいし」

「坊っ!?」

「そこメガネとか坊ちゃんとかどうかは関係ないだろ……」

 

 ツッコミを入れはしたものの、確かに飯田の礼儀正しさ、妙なまでの真面目さは良い意味で育ちの良さを感じる。それにさっき一回だけ一人称が「僕」となったのも気になった。

 別段錬錆は追究するつもりは無かったが、それ以外――緑谷と麗日は興味ありげだったのでその場のノリで訳を聞きたくなった。すると視線に降参したのか、その訳を話し始めた。

 

「俺の家は代々ヒーロー一家で、俺はその次男なんだ」

「「「マジで!?」」」

 

 三人が同時に驚きの声を上げる。

 

「ターボヒーロー“インゲニウム”を知っているかい?」

「勿論だよ!! 東京の事務所に65人もの相棒(サイドキック)を雇ってる大人気ヒーローじゃないか!!」

「詳しいな……。それが俺の兄さ!」

「あからさま!! すごいや!!!」

 

 緑谷のヒーローオタクっぷりに若干引きはするが、尊敬という意味では錬錆も変わらなかった。

 インゲニウム本人含め、移動力・機動力系統の個性は基本的に「ただ速いだけ」と重要視され辛いのが現状だ。しかしインゲニウムはそれらを的確な指示・指導の下、最大限に活かすチームを結成している。適材適所の運用と後身の育成の両立。その事からも錬錆のとって彼は尊敬するヒーローベスト5に入る人物。割と内心では興奮しているものだ。

 

「規律を重んじ、人を導く愛すべきヒーロー! 俺はそんな兄に憧れヒーローを志した。人を導く立場はまだ俺には早いのだと思う。上手の緑谷くんが就任するのが正しい!」

 

 ちょっと硬いけど、そういうところが信頼に値するんだけどなぁ。と内心でつぶやいている中、突如鳴り響いた警報音と共に静寂は破られた。

 

「警報っ!?」

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難してください』

 

 そこから後は混乱だ。セキュリティ3――それは校内に関係者以外の者が侵入したことを示している(らしい)。雄英高校には関係者以外が敷地内に足を踏み入れた際に雄英バリアーと呼称される壁に覆われる。つまりこれはそれを超えた者がいる、混乱する先輩ら曰く前代未聞の事だそうだ。それだけの事が出来る存在――そんなもの強力な敵の他ない。皆がそう考えた。

 故の混乱、或いは迅速な対応が出来ているが故のパニック。一斉に食堂の出入り口へ駆け込んだだけに、人の濁流が出来上がってしまった。あれの中に飲み込まれれば、最早身動き一つ出来ないであろう。そんな中で錬錆はというと……

 

(炒飯うめぇ…)

「金術くんマイペース過ぎっ!!」

 

 呑気に昼食を堪能していた。

 なんか緑谷の叫び声が聞こえてきたが、そっとしておこう。

 しかしここが迅速に対応したが故のパニック、か。人というのはとにかく不確定事項、予想外の出来事に弱い。その弱さを着かれた時ほど、集団での行動が難しくなる。皆一人一人自分が大事、自分の安全確保が優先なのが少なからず露呈するが故だろう。

 そう分析を行っている内に昼食を食べ終えたので、錬錆もようやく重い腰を上げた。

 

(ご馳走様…。さて、俺もそろそろ避難するか)

 

 いざ動こうとした瞬間、見知った相手が濁流に流されそうになっているのが目に入る。

 

(とりあえず助けて……後は落ち着くのを少し待つか)

 

 考えると同時に手を伸ばし、その人物――耳郎響香を引き寄せていた。

 

「ちょっ…!」

「ごめん、流されそうになってたから助けた」

「いや、それは構わないんだけど……その……」

「少しの間我慢して、悪いけど」

 

 彼女が言いたい事は分かる。この混乱の中で流されないよう、はぐれない様にするには、極論身体を密着させなければならない。実際向かい合わせにこそなっていないものの、お互いの方は密着しており顔の距離もかなり近い。年頃の少女の羞恥心を刺激するには十分だ。なお冷静に見える錬錆もその内心はというと……

 

(おっふ……女子の身体柔らかいでござる……)

 

 峰田の様なストレートなスケベではないが、それでも年相応にムッツリだった。それが意中の相手であれば尚更だ。

 お互いが心臓の鼓動を流行らせる中、いち早く事の顛末に気付いた飯田の機転と行動により事態は収束の目途を見せた。この後、この一件の影響でお互い気恥ずかしさから暫く顔を合わせづらくなったのは言うまでもない。

 

 

 

 で、その日の放課後――というか帰りのHR。

 学級委員長の他、まだ決まっていない各委員決めが行われようとしていた。が、当の委員長である緑谷は何故かソワソワしている。一体どうした物かと思っていたら、ある種予想だにしない言葉を口にした。

 

「委員長は、やっぱり飯田くんが良いと思います! あんな風にかっこよく人をまとめられるんだ。僕は……飯田くんがやるのが正しいと思うよ」

 

 まさかの委員長辞退と譲渡。その事に大半は驚きつつも、一件を目にしていた切島、上鳴を皮切りに歓迎の意を示していた。相澤先生は相も変わらず寝袋に包まれながら、「何でもいいから早く済ませろ」と誡める。いや、だからそれでいいのか担任!?

 そして飯田自身も納得したのか、委員長になる事を受け入れた。無論、投票2位で副委員長になった八百万は若干不満げだったが……。

 まぁ何が言いたいかというと、俺が投票した飯田天哉がA組の学級委員長になりましためでたしめでたし、という話だ。

 そういう話で終われば、本当にめでたしだったのだが……。この時錬錆は疑問を抱きながらも、目の前の事にしか見ないが故に見逃していた問題があった。しかしその問題は一学生で突っ込むものではないし、何よりも教師陣は気づき、対策を打とうとしていた。

 だが皮肉かな。目を逸らしていた疑念は思いの外、すぐにやって来たことは――

 

 




No1よりNo2、っていうのは私自身の信条でもあります。
それと意図的にNo3になるような事はしたくありません。できませんけど。
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