目の前が真っ暗になった。ポ〇モンで手持が全て瀕死になるとこうなるんだろうか、と呑気に考えていると徐々に光が差し込んでくる。闇を抜けた先に見えてきた光景というのは――
「冷たっ!?」
雨? 否、これは嵐だ。人工の雨、人工の暴風、これが合わさった暴風・大雨ゾーン。それが金術錬錆の飛ばされたエリアだ。
そこで錬錆は気が付いた。
(ちょっ、待てよこれ。こんな高さから落とされたら……)
目測でしかないが恐らく地上10mぐらいの高さだろうか。これだけの高さともなれば、人間の脆い肉体であれば容易く死ねるだろう。運が良ければ腕か脚の一本程度、とも考えたが暴風……体勢の維持が困難なため、それは不可能な現実だ。
あっ、これ死んだわ……。軽く走馬灯が過った。しかしそれは杞憂に終わった。
「
突如黒い影が飛来してきたと思いきや、全身を掴まれてそのまま近くのビルへと放り込まれる。助けられたとはいえ突然の事だったので完全に受け身を取れず転げてしまった。
「っつぅ~~~~……」
「手荒になってすまないな、金術」
「あっいや、別に……ありがとう」
最後のありがとうはボソリとつぶやいた程度だったので常闇には聞こえなかっただろう。
「それよりも、これからどうする」
「どうするって……何が?」
まぁ何か、というのは理解はしている。このまま隠れて救助が来るのを待つか、或いは自衛のため抵抗をするか。出来る事はせいぜいその二択のみ。だがそのどちらにも必然的に付きまとう事がある。
「敵と相対せば必然的に戦わなねばならない。例え逃げに転じたとしても、接敵の可能性は0ではないだろう」
「つまり、どっちにしろ戦う以外他ないって事か」
「そういう事だ」
これまでの流れを整理すればこの結論以外他は無いだろう。
なにせ用意周到に計画された奇襲。チンピラ上がりとはいえ揃えられた頭数。そしてワープ能力持ちによる生徒の分断、それによる少数を各個撃破。
これだけやられたのであれば、生徒に出来る事は救援が来るまでの間は個々の対応。つまりは“自分の身は自分で守れ”という事だ。
幸いと言うべきか、この暴風エリアに転送されたのは二人。どこから敵が出てくるか分からないこの状況下では、お互いにサポートし合えるというのは大きな利点だ。ともなれば必然的に続く会話も限られてくる。
「金術、ここはお互いの個性を理解し合っているのが得策だと思うが」
一瞬開きかけた口が動きを止めた。
下手を打てば命も危ぶまれるこの状況。お互いをサポートし合うのであれば個性の把握は必須と言える。しかし錬錆は迷っていた。果たして己が個性を伝えていいのかと。戦闘訓練の時ですら嘘をつき、これまでの授業でも嘘の類のものでやり通した。だが土やコンクリートの操作程度で生き抜けるなんて甘い考えは無い。同時に伝えねば連携を必要とする場面で決定的な綻びが生じかねない事も理解していた。
だが、それでも錬錆は一歩踏み出す事が出来なかった。次第に開いた口も噛み締める様に固く閉ざしていく。
錬錆の内心を知ってか知らずか、常闇が口を開いた。
「俺の個性は“
ちょ、何勝手に話し始めてんのキミ。
「
「ちょ、ちょちょちょちょちょ! ちょっとタンマ!!」
「なんだ?」
いや、なんだじゃないでしょ。なに個性のこと打ち明けてんの? なんで弱点までさらしてんの? バカなの、死ぬの!?
そう反論したが、続く常闇の言葉に再び閉口した。
「人の秘密を知るにはまず己から……。他人任せでは解決しない事もある。そういう時は自分から動かねば意味が無い。それに、お前は口が堅そうだからな。
「随分信頼してるんだな。クラスメイトとはいえ、たいして会話もした事もない奴なのに」
「ヒーローを志す者同士、信頼せねば意味はあるまい」
信頼しないと――――
その言葉が胸に深く突き刺さったのを覚えている。いくら個性の扱いが上手くなっても、いくら体を鍛えても、いくら時が過ぎようとも『他人を信頼しなくなった』ことはあの頃から一切変わってない。いや、違う。あの頃の俺と今の俺は違うんだ。
そう言い聞かせるように錬錆は自分の額を小突いた。気持ちを切り替え、『いま』やるべき事と向き合った。
「そうだよ……な。ああっ、そうだ。常闇が弱点含めて個性の秘密を明かしてくれたんだ。こっちも秘密を明かさなきゃフェアじゃない。ああっ、教えなきゃな。それよりも常闇……」
何かありげに懐に手を忍ばせる錬錆に、常闇も首をかしげる。そして錬錆が叫ぶのと忍ばせた手を引き抜いたのは一瞬であった。
「伏せろ!」
錬錆の言葉に驚きながらも寸の所でしゃがみ込んだ事で、寸の所で常闇の頭上をすり抜ける。同時に鈍い音が部屋に鳴り響く。
敵だ。音もなく敵が忍び寄っていたのだ。頭を抑える敵の傍らにどう考えても白衣の中に納まらないであろう鉄パイプを握りしめる錬錆が立っていた。
「くそっ…ガキが。なんで気づきやがったんだ」
「はっ? んなもんベラベラ喋る訳ないだろ」
頭上に構えた鉄パイプが勢い良く振り下ろされる。その狙いは肩。頭を狙わなかったのは、錬錆のせめてもの情けだろうか。いずれにしろ、全力で振り下ろされたその一撃は
「金術、その個性は……」
「悪い、俺口下手だからさ。説明するより見せた方が早いと思ってね。俺の個性、本当の個性は“錬金術”。あらゆる物を分解、分子レベルから造り変え、新たな存在を創造する個性だ」
「さて、次行くか」
一通り個性の説明をし終えた後、ギャーギャー叫ぶ声が煩わしかったので猿轡と適当な長さの紐を錬錆してSMプレイの如くきっちり縛り上げ拘束した。勿論天井に吊らしておいた。常闇も何かツッコミを入れたい様子だが、敢えてスルーしている。
「それよりも金術。お前の個性で橋を創れば、元より戦闘を回避できるんじゃないか?」
「あっ……、忘れてた」
やるべき事が定まれば即行動。今いるビルが暴風エリアのどの辺りにあるのか、エリアの脱出ゲートがどこかを把握するため屋上へと駆け上がる。幸いと言うべきか、エリアそのものはそこまで広くは無い。少しずつ進み続けたところ、ゲートもそこそこ大きめという事もあってか、すぐにその位置を把握できた。が、
「いるな……」
「ああっ、一人いる。体形からして恐らく異形か増強系だな」
出入口目前の建物屋上……。塀に身を潜めながらそれを視認した。体長は2m弱、腕周りを中心に上半身が異常なまでに発達している事から、件の2例いずれかに当てはまる事が分かる。相澤先生も言っていたが、その手の個性の旨味は総じて近接戦闘に限られてくる。稀にオールマイトみたいなバグが存在するけど。
「金術、ここは俺が行こう」
その言葉にギョッとした。確かに錬錆の個性はどちらかというとサポート向き、対人にはあまり向かず近接戦闘ともなれば己の技量以外頼れるものは無い。異形型や増強型の相手など以ての外だ。そうなれば常闇の
「
「大した自信だな。……信じていいんだな」
「フッ……任せろ」
そう言い残し常闇は塀を飛び越えて行った。それから数秒後に何かがぶつかり合う衝撃音が伝わってくる。恐らく戦闘が始まったのだろう。
「さて…、じゃあ俺は他の連中が寄って来ないに壁張りにでも勤しみますか。ああっこっちも任せろ。なんせこっちは、
あまり誇れない(自称の)二つ名を口ずさみ、錬錆もまた行動を開始した――――
「これで最後か――」
常闇と別れて5分ぐらいが経過しただろうか。出入口ゲートに繋がる全ての道に壁を錬成する事で塞いでいた。ちなみにこちらから見て裏側の側面には強烈な粘着シートをコンクリートそっくりに見せかけて付着させるおまけつき。仮に壊そうとしても増強型や異形型では破壊できず、発動型でも貫通系でもない限りは易々とは壊せないようにした。これこそ(自称)嫌がらせの達人の匠の技である。
やる事も終えた錬錆は急ぎゲートへと向かった。
「くっ……手強いな」
「常闇っ!」
敵の強打で常闇本体ごと後退ったのと錬錆が合流したのはほぼ同時であった。
「これ、状況どうなってんの?」
「思いの外強敵のようでな……決定打が中々に打てない。このままではジリ貧だ」
「言わんこっちゃねぇ!?」
しかしどうしたものか。こちらはサポート系と中距離戦タイプの発動型2人、対する敵は超パワーを誇る近接戦タイプ。戦おうにも地力の火力が余りにも差がある。こちらが嫌がらせで足を絡めようと、中距離で間合いを抑えようと問答無用で突っ込んでくるだろう。この状況を打破できるとすれば、それは動きを止める類の個性か、あるいは相手を上回るパワー系をぶつけるか、それだけだ。
そう、それだけと考えた瞬間一つの可能性が頭に過った。
「常闇。確か
「確かにそうだがそれでは制御が……おい、待て金術」
「大丈夫、光は閃光弾でも錬成して準備しとくから」
「いや、待て。待ってくれ……。待てと言っているだろうがぁぁぁぁ!!」
「だが断る」
常闇の制止も聞かず、錬錆はあるものを錬成する。それは石壁、いや…一つのドームだ。それが常闇と
せっかく作ったお手製ドームが無残にも内側から破壊される。土煙から姿を現したのは影、巨大なまでの影だ。それは先程まで常闇が苦戦していたはずの敵を片腕だけで握りしめ、潰し、そしてまるで鼻水を噛んで丸めたティッシュをゴミ箱へ投げ捨てる様に敵を放り投げた。その圧倒的までな強さに錬錆も呆気にとられる。
「制御が利かない代わりに攻撃力が増すって言ってたけど……ここまでかよ」
ボソリとそう呟く。その声に反応したのか、暴走した
「常闇ッ! 目ェ瞑れ!!」
目を閉じても分かる程の光が世界を支配した。暴走状態の
「随分と無茶なことをするな……」
「信じていいって言われたから信じただけだ。まぁ、ちょっと考え無しだったのは俺も悪かった」
(ちょっとという次元か…?)
「まぁ常闇はここ出た所で休んどけよ。ノシたのはボスキャラだけだし、もしもの時の迎撃も必要だろうし、それまでは休憩も必要だろうし……」
「お前はどうするつもりだ」
そんなこと戦うという決断をした時から決っていた――
「中央広場行って、先生に加勢してくる。一発ぶん殴らねぇと気がすまねぇ」
【マテリアルが更新されました】
金術錬錆
個性『錬金術』
手の甲に錬成陣を思わせる模様が刻まれており、これを介する事で手で触れた物の原子構成を自在に組み替えられる。
また錬成陣を描いていれば、手が触れていなくても個性の行使が可能。(ただし本人が描いたものに限る)
その本質は「分解」「原子変換」「再構成」にあり、本人はこれを「破壊&創造」と呼称しておりそれぞれを分けて行使することも可能である。
非常に汎用性の高い個性であるが、作り出した物の性能は本人のイメージに左右されるという極めて不安定なもの。ふわふわなイメージだと中身を伴わないハリボテが完成してしまうが、逆に理由付けや構成材質、製造工程、構造などのイメージがハッキリしていると本物以上の精度を発揮できるのが特徴。
なお錬成出来る物は即席の武器から防具、果てには布テープや担架など医療キットまで多岐にわたる。
ちなみのこの個性には誤った使い方があるらしく……おっと、先を読み過ぎました。