金術錬錆のヒーローアカデミア   作:島村共数、

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第9話 勝利の法則は、これで決まりだ

 錬錆と常闇が暴風エリアを脱出して中央広場へと向かい始めたのと丁度同じ頃――

 

「もう大丈夫……私が来た!」

 

 オールマイトが駆け付けていた。

 

 

 

 

 

 USJのほぼ中央地点にあるセントラル広場……。オールマイトの救援が確認されてもなお、戦闘が続いている事が分かる程の衝撃が響いていた。

 完全無欠の超パワーを誇るオールマイトの拳を受けてもなお立ち続け、かつ同等のパワーを振りかざす脳無の存在。その場にいた緑谷や切島、轟はおろか常に勝気な爆豪すら戦慄を覚えていた。

 その最中に言葉を発せたのは、ただ一人余裕ともとれる笑みを崩さないオールマイト。そしてヒーローという存在を嘲笑うかのように持論を述べる無数の手が張り付けらた(ヴィラン)――死柄木だけだった。

 

「俺はな、オールマイト! 怒っているんだ! 同じ暴力でヒーローと敵でカテゴライズされ、善し悪しが決まるこの世の中に!!」

「めちゃくちゃだな。そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの」

「自分が楽しみたいだけだろ嘘つきめ。バレるの、早…」

「ピーピーうるせぇぞ、手むくじゃら野郎」

 

 この時、確かに死柄木はおろか黒霧の意識もオールマイトに向かっていた。それを利用したのか、あるいは彼自身が持ち得る才能なのか……。それを予測できた者がこの場にどれほどいただろう。襲撃者は音もなく、気配もなく、忍び寄り一撃を浴びせた。

 

「フゥ……とりあえず一発、ぶん殴ったぞ」

 

 それは誰もが想像もしない、金術錬錆の参戦だった。

 これにはさすがのオールマイトも一瞬呆気にとられていた。

 

「金術少年、なんて無茶な真似を…。いや、それよりも早く離れなさい!緑谷少年達と早く逃げるんだ」

「断る。あの手むくじゃら野郎は俺一人で十分……です」

 

 まさかの拒否にオールマイトも開いた口が塞がらなかった。だがそんな状況でも噛みつく事を忘れない者が一人いた。

 

「うぉい!何仕切ってんだバンダナ野郎!!」

「爆豪…お前いっつも他人の事をモブモブ言ってるけどよ。主人公ってのは生きてるやつ全てに当てはまんだよ。その人にはその人なりの人生があって、その生きてる道が物語で、その物語の主人公こそ生きてる当人なんだよ。俺が主人公の物語じゃ、お前の方がモブだ。モブはモブらしく大人しくしとけ」

「んだとゴルァ!!」

「か、かっちゃん……。金術くんもほら、僕ら5人で掛かれば勝率は上がると思うしここは……」

「あの手むくじゃらの奴の個性、壊すとかそういう類だろ?」

 

 そう言いながら錬錆は右腕を上げる。確かに授業前は新品同様に解れも無かった袖がボロボロに崩れ去っていた。今や肘から先があるかどうかまでしかなかった。

 殴った一瞬の接触、ほんの少し掠った程度であろうがそれでも錬錆は相手の個性の影響であると見切った。

 

「だったらなおさら、俺一人で十分だ」

「脳無、黒霧やれ。俺は子供をあしらう」

 

 生徒に(ヴィラン)の相手という重責を担がせる事にオールマイトは苦々しく思うが、それを待ってくれるほど(ヴィラン)は甘くは無い。

 死柄木と脳無の行動開始、オールマイトの決断、そして錬錆が懐から片手に2本ずつ試験管を取り出したのはほぼ同時であった。

 戦いの場は整えられた――――

 

「実験を開始しよう」

 

 それをおもむろに振ったと思うや否や手に破片は刺さったのではと思いかねない勢いで握り潰したかし結果として、そうなる事は無い。それどころかガラス片や中に入っていた物質を含め、全てが粒子状に変換され錬錆の両手に収束される。そして光が収まるのと同時、粒子だったものはテコンドーで使われるようなグローブへと錬成された。

 

「勝利の法則は、これで決まりだ!」

 

 音無きゴングが鳴り響く――――

 

 オールマイトと脳無のラッシュはその衝撃により周囲に小規模の暴風を巻き起こす。

 緑谷らはおろか黒霧すら手を出せないその横で錬錆と死柄木が拳を交えていた。錬錆が崩壊を有する手を弾き、錬錆が攻勢に出ると死柄木がそれを避ける。

 互いに有効打はおろか牽制すら入らない状況が続く。

 だが五手、六手と進むとその膠着も終わりを告げる。錬錆の動きを捉えた事で、繰り出された右ストレートをいとも簡単に受け止めたのだ。

 

「どうした……その程度の力で俺に挑んだって言うの? それともあれか? 正義感だけで突っ走ってあわよくば皆にヒーローだって讃えられたかったのかな? そういうの、ホント反吐が――」

 

 ――出る、と言いかけた時ようやく死柄木は気づいた。直接接触して個性を使っている。それにも関わらず目の前の存在が一切崩壊していない。それどころか崩壊を始めるそぶりすら見られない事に。

 

「言っただろ、俺一人で十分だって。触れた瞬間に崩壊するなら、崩壊した瞬間に片っ端から作り直せばいい」

 

 そこで生まれた隙を見逃す程、この時の錬錆は甘くは無かった。重いブローが死柄木の脇腹に食い込まれる。体勢が崩れ、繋がっていた腕が離れてからは錬錆の一方的なターンとなる。

 殴る――

 殴る――

 頭突く――

 蹴る――

 そしてまた殴る――

 本来サポート向けとも言える創造系個性を作り直し続けて突き進む(・・・・・・・・・・)という用法により、接触も難しい相手にラッシュが叩き込まれる。

 

「これで、締め(フィナーレ)だ――」

 

 トドメの一撃を放つ。が、その一撃は空を切った。

 錬錆の左腕は黒い靄の中を突き抜け、別の場所に現出している。

 

「死柄木をやらせる訳にはいきません。オールマイトの戦いに介入は出来ませんが、これぐらいはさせていただきます」

 

 黒霧の個性『ワームゲート』が徐々に狭まっていく。このままでは空間を断絶される事で錬錆の左腕は千切れ、二度と繋がる事ないだろう。

 それを理解した瞬間、錬錆の行動はあまりにも早かった。

 ボン、という爆発音が鳴り響く。それを発したのは爆豪ではなく、ましてや戦いの当事者となった黒霧でもない。

 そこに残っているは最後の一撃を避け後退した死柄木、予想外の事が起きたとでも言いたげに表情を曇らせる黒霧、そして左手に火傷と裂傷を負う錬錆であった。

 

「――――ッ」

(まさか一瞬で、グローブを爆弾に作り変えるとは……)

 

 爆発で生じる衝撃を利用してワームゲートから腕を引き抜く。ここまでは分かる。だがそれは、左手に爆弾の衝撃をまともに受ける事を意味するのだ。いくら切断を免れる為とはいえ、15歳の子供が自傷前提の行動を即断するとは。

 目の前にいるそれが本当にヒーローの卵なのか。それが恐れなのか、それとも純粋な興味だったのか。この時の黒霧は知る由もなかった――――

 

 

 

 そしてそれと同じくして、すぐ隣で繰り広げられるもう一つの戦いも終結を迎える。

 

「ヒーローとは常にピンチをぶち壊していくもの! 敵よ、こんな言葉を知ってるか!? Plus Ultra(更に向こうへ)!!」

 

 ただ純粋に攻撃をつなげていく錬錆のそれとは異なり、一発一発全てが100%のラッシュ。ショック吸収とはいえ、100%の連撃となると話は異なる。限界を迎えた脳無はオールマイトのトドメの一撃を受け、USJの天井を突き抜け吹き飛んでいく。

 

「やはり衰えた……。全盛期なら5発も打てば充分だったろうに、300発以上も撃ってしまった」

「衰えた…? 嘘だろ…完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を…チートがぁ…! 全っ然弱ってないじゃいないか!! あいつ…俺に嘘教えたのか!?」

 

 再び笑みを浮かべるオールマイトと苦々しい表情を浮かべる死柄木。USJを襲った事件は収束に向かっていた――――

 しかしオールマイトの内心はそこまで穏やかなものではなかった。

 かつて強大な(ヴィラン)との戦闘で負った後遺症、個性OFAの譲渡。その影響でオールマイトがヒーローとして活動できる時間は24時間の中で2~3時間程度。この事実を知るのはオールマイト本人と力を継承した緑谷出久のみ。そしてその限られた時間の大半を通勤途中の事件解決に要してしまっていたのだ。最早立っているだけでも限界であった。

 それに気づいてか、或いは獲物を狩る直感が働いたのか。オールマイトを仕留めんと死柄木と黒霧が動き出す。

 オールマイトの危機に気付かず皆が撤退しようとする中、勇猛にも飛び出した影が二つあった。

(――ッ! 折れた!! さっきはうまくいったのに……でも、届いた!!)

(もう左手が痛いだの反動がどうだの言ってる暇はねぇ……連中はここで潰す!)

「オールマイトから、離れろ!!」

「俺の事を無視すんなよ、ヴィラン野郎!」

 

 両足の骨が砕けようとも、己が腕を焦がし炭化しかけようとも、正義感の塊である緑谷出久と金術錬錆は目の前の存在を見過ごす事は出来なかった。

 しかしそれを見逃す程敵もバカではない。二人の奇襲に反応するや否や、黒霧の個性により錬錆の技は水難エリアの水面へ叩きつけられ、緑谷には黒霧の身体を通して現れた死柄木の手が近づいていた。

 

「二度目はありませんよ」

 

 万事休すか――

 そう思った瞬間だった。発砲音が鳴り響くのと死柄木の手から血が噴き出たのは同時でった。音の発生源、即ちその主のいる場所に誰もが意識が向けられる。

 

「1-Aクラス委員長飯田天哉!! ただいま戻りました!!!」

 

 この窮地の中で唯一脱出していた飯田天哉の帰還。それはプロヒーロー達の救援を、そして(ヴィラン)にとって時間切れを意味した。

 その事実を突きつけられた(ヴィラン)連合の動きは速かった。スナイプの銃撃、13号のブラックホールが逃がすまいと追撃に出るも一歩遅く、既に黒霧のワームゲートは展開し終えている。

 黒い靄が徐々に小さくなっていく中、死柄木が忌々しく言葉を残して消えていった。

 

「今回は失敗だったけど………今度は殺すぞ。平和の象徴、オールマイト」

 

 そして転移が終わったのか、黒い靄は点となり、無にかえっていく。

 先ほどまでの戦いが嘘のようにUSJを静寂が支配する。

 こうして、後にUSJ襲撃事件と呼称される戦いは幕を閉じた。

 しかしこの一件を境に災厄とも言える戦いの始まりになる事とは、この時は誰一人として知る由もなかった――――

 

 




誤った個性の使い方って、なんか響きエロいよね(峰田並感)
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