16歳になった。私は今、准将となり、海に居る。
……元々Dr.ベガパンクとの契約は「バルジモアに春を齎す」こと。つまり、本来は1年の1/4ほど滞在していればよかったのだが、あまりに居心地が良くて2年も居座ってしまった形になる。居るだけで資金はどんどん増えていくし、Dr.ベガパンクの研究成果を学習できるのは非常に有意義だった。研究所の奥に隠されていた兵器関連の研究にまで手を出してしまったせいで学び取るのに時間がかかってしまったのもある。逆に2年かそこらであの規格外の研究を頭に叩き込めた時点で自分を褒めてもいいと思う。暗記しただけで大半理解してはいないんだけどね。まあそれはこれからやればいいでしょう。
あと未来国バルジモアは偉大なる航路上にあるため、上陸する海賊の数も多い。で、見かけたそれを片っ端から倒してたら准将までスピード出世と。(表向き)海軍に従順で自然系能力者でお偉いさんの孫娘だしまあ出世も早いわなって。で、准将レベルを遊ばせておく余裕はないからお前も海に出て積極的に海賊を狩れと。道理ではある。
「准将! 海賊船を発見しました!」「……また?」
なるほど。この海賊の量なら確かに私を遊ばせておく余裕はないわなって。
「はいはい、やりますよ、やればいいんでしょう?」足元から湧き出た黒い液体が、執務室下のパイプに吸い込まれていく。そして、船は急加速する。この時代の海戦の常識を覆す、『蒸気外輪船』。サウザンド・サニー号がそうであるように、風を問わない小回りと帆船を遥かに凌駕する速度は、それだけで大きなアドバンテージ。おじいちゃんのコネで獲得し、私専用の改造を遂げた、私の能力で動く船。
……本当ならスクリュープロペラが使いたかったんだけど、Dr.ベガパンク曰く『偉大なる航路の海流には耐えられないのでやめたほうがいい』とのこと。
だが、外輪船であれど、波風をものともしない蒸気船の速度は、それだけでこの時代の海戦において規格外だ。あとはこの大砲の届かぬ距離から私が『
急いで甲板に出ると、そこに居たのは赤い巨鳥。特徴的な緑のラインの入った、見たことのない鳥だ。「なんだただの鳥か」「違う! オレサマは
「トリトリの実の能力者か……」『
「准将!月歩なら奴に届きます!」あー、うん。そうだよね。海軍本部准将レベルなら月歩くらい使えて当然だよね。スピード出世のアスカちゃんなら使えて当然だと思うよね。私は使えんぞそんなん。
「私は月歩が使えない。六式の中で習得したのは鉄塊と紙絵だけだ」「なんだ? 六式ってなあのよくわからん体術の事かぁ? 要はお手上げだって言いたいんだろォ? 回りくどい言い方するよなァ海軍のインテリさんはよォー!」海賊は牙を剥いて笑う。そう。私は空を歩く政府の特殊な体術、月歩が使えない。大地を何度も蹴り、音速まで加速する術、剃が使えない。指を銃弾の速度まで加速させ、相手を貫く指銃が使えない。蹴りで発生した衝撃波を鋭利な斬撃として相手を切り裂く嵐脚が使えない。
「いや、必要がなかったから覚えなかったと言いたかったんだ」
瞬間! 私は鳳のゾルンの背後に居た! 月歩は不要だ。足裏から噴射した
イメージするのは、ギアセカンド。麦わらのルフィが体内血流をゴムで加速することで行う身体強化。剃と同様の高速移動を行い、また、打撃にも載せる。そう。これが私の
そしてイメージしろ。全身にジェットの加速を載せた状態で、さらに拳に加速を載せろ。
「JET
その速度を捉えられず、回避もできなかった鳳のゾルンは、自分の身に何が起こったかもわからぬまま、自身の船に激突し、甲板を突き破り、船内に落ちていく。
「「「船長!!!!」」」
船員たちが、私に剣や銃を向ける。だが、雑兵を相手している暇はない。
まるで風呂上がりの少女のように、私の長い黒髪から雫が滴る。
……そして、膨れ上がる。それは、髪よりも黒い泥である。船員たちを絡めとるは、原油よりも、さらにどろりとした泥である。
『
それを、元の世界、古代人類は瀝青と呼んだ。
現代において、これはこう呼ばれる。「アスファルト」と。能力の拡張により可能となった、自在な性質の石油を産生する技術。灯油でもガソリンでも軽油でも重油でも、あるいはメタンガスやプロパンガスまで、自然界で油田よりそのまま産出しうる性質の石油なら自在に生み出せる、能力の拡大進化。
高い粘度をもつそれは、これまでの触手よりもはるかに脱出困難だ。
そして、私は絡め取られた雑兵どもを無視し、鳳のゾルンの元へ向かう。「良い能力だね。トリトリの実の……そうだね、牙があって、翼に爪があるってことは「古代種モデル始祖鳥」とか? 飛行能力の古代種とか、すごい貴重な能力だ」「褒められても嬉しかねーよ。どうせ捕まるんだろ?」満身創痍の海賊は、そう答えた。
「いや、捕まえないよ。今ここでお前は死ね」「は?」
直後、海賊の鼻から下は黒い触手に呑み込まれた。気道を塞ぐ。肺の内部に侵入し、肋骨の内側から心臓、肺、肝臓を含む主要臓器を破壊する。気道の内と外から頸椎を粉々に砕く。
この世界の人間は、わりと死なない。一般市民でも銃弾の二、三発なら耐える。名有りの海賊、それも動物系悪魔の実の能力者となると、当然人間の常識を超越したタフネスを誇る。だが、確実に殺さねばならない。
彼に罪はない。いや、海賊活動をしている時点で罪だし、鳳のゾルンは商船の略奪などを多く行う悪めな方の海賊だったはずだ。だが、捕縛された上でそのまま殺される謂れはない。(インペルダウン送りになり死ぬより酷い目に合うかも知れないが)海軍は原則、海賊の生け捕りを旨とする。それは公開処刑を望む海軍の体質によるものであるが……
殺したとしても不慮の事故で処理される。自身以上の実力の相手など殺す気でかからねばこちらが死ぬ……といった理由によるものだ。だとしても、一度捕まえた海賊を殺しまでする理由はない。
だけど。「トリトリの実古代種モデル始祖鳥……かぁ」私は、懐より取り出した赤い唐草模様の果実を眺める。そう。私は、悪魔の実の伝達条件を知っている。上司ベガパンクの研究成果たるそれを、知る機会があった。というか、必要だから知る機会を強引に作った。だから、私が欲する能力者たる彼には死んでもらう必要があった。何十の海賊を狩り、手にかけたのは彼で2人目。能力者は希少だ。1つ目はあんまり強い能力じゃなかった(フカフカの実のクッション人間とかだったと思う)から、私の能力(海軍本部の金庫から貰った)の借りを返す形で海軍本部にタダで返却したし、事実上私が他人の能力を手に入れたのはこれが初めてだ。
「
「准将! 無事ですか!」「無事だよ。まあ、
そして私は思考を続ける。仮に、トリトリの実を器物に食べさせ、従えるとする。で、あるならば、その器物はそれ自身が高い有用性を持つものであることが望ましい。剣は不要だ。扱う技術がない。銃は不要だ。破壊力が足りない。海楼石は有用ではあるが悪魔の実を食べさせられない。と、なると……「乗騎」そう。乗騎。空を飛ぶ鳥の能力の最も有用な使い道とは、言うまでもなく当然、空を飛ぶことに他ならない。
で、あるならば乗騎にするに最も相応しいもの、世界を相手取るにあたり利となる兵装とは何か。「古代兵器……プルトン」そう。鉄人フランキーが設計図を持ち、アラバスタの何処かに眠る、一撃で島をも粉砕する超兵器。世界を相手取るにあたり最も適した、世界をも滅ぼしうる戦艦。私が次に狙うのは、『それ』だ。
トリトリの実:モデル始祖鳥
・始祖鳥に変身する動物系悪魔の実。古代種。
・カラーリングは赤と緑。古代生物なので復元図は諸説あるが。
・世界に5種しか存在しないとされる飛行能力の一つ(なお翼で飛行できる能力だけでも公式で「隼」「不死鳥」「アホウドリ」「鷲」「カブトムシ」「スズメバチ」「プテラノドン」「吸血鬼」の名称の判明した8種+名称不明能力者の革命軍カラス、黒ひげ海賊団ラフィットで合計10種の飛行能力が存在してるんだよな)