センゴクの孫   作:はむらび

5 / 7
火に油を注げ

 海軍コートが、爽やかな海風に揺れる。私は今、造船の町、ウォーターセブンに居る。古代兵器プルトンを獲得することを考えた場合、アラバスタのそれ(歴史の本文(ポーネグリフ)が読めないと話にならない・王下七武海クロコダイルを敵に回すことになる)と比べたらウォーターセブンのそれ(フランキーの体内・CP9が見張っている)の方がまだマシだと思ったからだ。

 

 だけど……「やっぱりフランキーを殺すのは駄目だよなあ……」そう。1週間ほど見張ってみた結果として、あの変態(フランキー)、あまりにも隙がなさすぎる。当初の予定では寝ている間にでも『プルトンの設計図』を奪取し、コピーした後に元の位置に戻そうと考えていたが、あの変態、本気で気配を消した私がフランキー一家の建物内に足を踏み入れた瞬間に起きて出てきた。

 寝室に睡眠ガスを流し込んで爆睡させているうちに盗もうとした時も、睡眠中の上無色無臭のはずなのに一瞬で気付いた。本当なんなんだあの変態。

 

 だが。殺せない。暴力で気絶させて強引に強奪することもできない。そうしてしまえば、『プルトンの設計図を誰かフランキー以外が持っている』事実が存在してしまえば、原作が成立しなくなる可能性が、ないし『ニコ・ロビンが麦わらの一味に真の意味で協力しない』可能性が極めて高いからだ。

 歴史の本文を読むことができるオハラの生き残り、ニコ・ロビンが居なければ、まず間違いなく麦わらの一味はひとつなぎの大秘宝(ワンピース)に到達しえない。それでは困る。

 

 ここでひとつなぎの大秘宝(ワンピース)についてのおさらいだ。それは、海賊王ゴール・D・ロジャーが遺したとされる、富・名声・力に直結する何か。白ひげ曰く「存在する」、原作者曰く「友情とかこれまでの冒険とかではない」という、逆に言えばそれだけしかわかっていないブラックボックス。だが、恐らくそれは、世界を転覆させうる何かである。

 

 この世界には、かつて古代王国が存在したという。それは高度な文明を持ち、天竜人の祖先たる20の王により滅ぼされたとされる。その思想は、それそのものが世界政府への脅威であるという。そして、原作で明かされた情報から考察するにひとつなぎの大秘宝は、ほぼ間違いなくその古代王国に大きく関係した何かである。で、あるならば、ひとつなぎの大秘宝とは世界政府への脅威となるそれだ。

 

 私は、それが欲しい。探しに行かずともよい。原作通りであれば、麦わらのルフィは必ず()()にたどり着く。その時に交渉するなり奪うなりすればよい。だが、たどり着けないのであれば困る。私には、それがどこにあるのかわからない。仮に場所が分かったとしても、その道を開くのに『Dの血筋』であったり、あるいは『覇王色の覇気』、『万物の声を聴く能力』、もしくは他の特異な血統・才能を要求するものであったならば、私には手に負えない。覇王色はお爺ちゃんにもあるし私にもないとは限らないんだけどさ。

 

 

 

 

 と、いうわけでやることがなくなった。で、暇になった私はバカンス中と言うわけだ。有給取っちゃったからね。海列車を通じてカーニバルの町サン・ファルドや美食の町プッチなどと繋がるウォーターセブンは、造船都市として以上に観光都市として素晴らしい島だ。町の中に水路が走る光景も美しいし、物資も豊か。治安も非常にいい。タライ海流と海列車を経由すればマリンフォードからすぐ着く交通の便もいいし……ウォーターセブンの綺麗な水に漬けこみ柔らかくしたご当地食材水水肉。コレがいい。原作のルフィは食べ歩きをしていたが、私はきちんとレストランで頂く。最初聞いた時は水っぽくてまずそうだと思ったものだが、実際のところ高級肉の柔らかさととれたて野菜の如き瑞々しさを兼ね備え、水分で薄くなる分の味はピリリと強くスパイスを効かせて……

 

 「「美味い!!!」」

 

 声が重なる。声の出所を振り向くと、私と同じ水水肉をほおばる、手配書で見覚えのある顔が隣の席に座っていた。

 

「げぇ!!! 海軍!!」

 そこに居た男の名を、ポートガス・D・エースと言った。

「げぇ! とは何だげぇ! とは! 女の子だぞ!」「海賊が海軍見たんだからそれくらい言うわ! 捕まるかもしんねェんだぞ!」「言わんとすることはわかるが言い方ってものがあるだろうが! 休暇(バカンス)中だから見逃してやろうと思ってたのに!」「あ、見逃してくれんのか。ならいいや」「いや疑えや!」

 

 海賊王の息子にしてスペード海賊団船長、そして、麦わらのルフィの義兄。ポートガス・D・エース。あまりにも豪放磊落な、あるいは王の気風を持つ男。

 

「よし、食った食ったー! 嬢ちゃん、ついでに払っといてくれ!」

「待て」

見逃すつもりだとは言ったが、勝手にメシの料金を払わされてまで見逃すつもりはないぞ。すてこらさっさと走り出す男の背を眺め、私は脚に力を籠め……

「あの……お代……」「あーもう!」

適当に財布から出した金を叩きつける。足りないことはないはずだ。

「あの……お連れ様の分も……」「あー、もう!!」

 

 

 ……とはいえ、どうするか。私と彼が戦えば、まず間違いなく負けるのは私だ。それは、覆らない事実。

 現段階で、私も……そして原作通りなら彼も*1、武装色の覇気が使えない。そして、炎は私の、いや、ギトギトの実の『弱弱点』だ。(あぶら)(ほのお)に触れられないが、(ほのお)(あぶら)に触れられる。

 

「やっぱ戦わずに何とかするしかないかぁ……」

 スペードの海賊団と交渉し、奴の食い逃げした分のB(ベリー)だけでも払わせる。せめてスペードの海賊団の船員が全員あれほど雑頭でないことを望もう。少額で准将に追われなくなるんだ。多分払うだろう。払ってくれ。いくら石油を売って金があるとはいえ、会ったばかりの他人に払う金など1Bもないんだ。しかもアイツ結構食ってたんだぞ!いくら海兵相手とはいえ、あまりにも遠慮がなくないか!?

 

 追う。追う。追う。男の背は、近づかない。繁華街である以上、能力を使って加速するわけにはいかない。一般市民のいる中でのジェット加速は危険だ。海兵である以上、罪なき一般人を傷つけるわけには……ん?

 

 辺りを見回す。一般市民が見当たらない。店先の商品を残して、忽然と消えている。ここは、ウォーターセブンの港近く。観光客が港から上陸することもあって、ウォーターセブンでも有数の繁華街のはずだ。

 だが、人ひとりいない。客も、店の主も、火事場泥棒すら見当たらない。

 

 いや、一人だけ居る。火拳のエース。私が追っていた男だ。そして、その眼の睨む先にあったものこそ、この状況を引き起こしたそれだ。

 

 アクア・ラグナ。年に一度、この島を襲う、桁違いの大波。島民たちは、それを察知して逃げたのだ。だが、あの規模だ。海岸沿いのこの地区は、まず間違いなくとんでもないことになる。

 

 男は、拳を握り締めていた。何をしようとしているかは、一目見ただけで想像がついた。

 

「アレをやる気かい?火拳のエース」「おう。なんだ?手伝ってくれんのか?」「仮にも海兵だからね。市民の暮らしは守らないとだ」「おれは海賊だけどな。まあ、美味いメシのある島を守らねェと、ってのは同感だ!」

 海賊王の息子と、海軍元帥の孫。握りしめられたその拳は、同時に燃え上がり、そして撃ちだされる。

 

火拳(ひけん)』!!! /『銃砲身(バレル)』!!! 

 

 2つの自然系の能力。火と油。その相乗効果は、圧倒的な熱を生み出し、まるで大砲が撃ち込まれたかのごとく、波の壁を穿ち、くり抜いた。くり抜かれた波はどこに消えたのか。そう。蒸発したのだ。軍艦を数隻並べたほどの体積の水が蒸発した。蒸発により瞬間的に体積が1700倍になったそれは、行き場を失った圧力を持て余す。穿たれた海のトンネルが炸裂する。結果として、街を避けるように、波が割れた。

 

 

 くるぶしまでが波に浸かる。あれほどの波をここまで抑えることができたのだ。上出来も上出来だろう。市民の明日を護ったわけだし、まあレストランの金くらいはチャラに…… ふと横を振り向く。

 

 居ない。

 

 後ろを見ると、すたこらさっさと逃げる、オレンジ色の影が。人ひとりいない商店街で、店先の食材をひっつかんで逃げる火事場泥棒が……「水水肉、美味かったぞー!」むか。いい奴だと思った先から完全に人の神経を逆なでしおって。やっぱチャラにするの、やめよう。

 

「待てぇー!!!」結局、半日かけても捕まえることはできなかったのだが。

*1
ノベル版。火拳のエースが覇気に目覚めるのはシャボンディ諸島である。ウォーターセブンより少し先。




火拳のエースは出航から半年程度を想定しています。ルフィがW7に着くのと同じくらいの時間。
なので年齢は2年前準拠でルフィ(17)<アスカ(18)<エース(19)になるはず……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。