騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 毎年8月3日は異界入り!


☆SIRENコラボ前編 絶望の寒村と異界ジェノサイダー

 山奥に存在する何の変哲もない限界集落、羽生蛇村。村おこしの為にジャムを突っ込んだ蕎麦が考案される程度に行き詰まったこの村は、自然消滅ではなく土砂災害による破滅を迎えた。

 たった一人しか生き残らなかった悲惨な災害から十数年、この地で慰霊祭が行われようとしていた。八月二日の深夜、日付も変わろうという時だ。

「で、小僧も来たと」

 巫女装束から関係者と思われるがそうでもない黒髪の幼女、七耶が人々の群れを見る。事前に静かな慰霊祭だと言ったのにマスコミもどこから嗅ぎつけたのかカメラを持って密ってる。このクソ暑い中、袖が余るほどのパーカーを着込んだキャラメル色の髪をした少年は事情を話す。

「ほら、阿部さんからも誘われたし」

 アニマルセラピーの仕事をしている関係で陽歌と知り合った阿部倉司が『どうも力を借りた方がいいかもしれない』とトラブルコンサルタントのユニオンリバーに正式な依頼をした。それを受けて陽歌はここにいる。

「確かに、あいつの言う通りならお前の力がいるな」

 袖から覗く義手をもじもじさせて自信なさげな様子からは想像できないが、七耶は陽歌の力を知っている。ユニオンリバーでも稀有な『怪異専門』。魔力でごり押ししていた従来と違い、より適切な処置が出来ると社長であるローディスからもお墨付きだ。

(異界に化け物か……用心した方がいいな)

 桜色と空色のオッドアイからミステリアスな、少女の様に可憐な中世的な顔立ちから一転して右目の泣き母黒から妖艶な印象を与えるが、本質は外見相応の少年だ。その為に七耶がいる。

「しかしせっかく目立たないメンバーを派遣したのにこうカメラばっかじゃねー」

 獣の様な耳と尻尾が生えた少女、さなが愚痴をこぼす。時期が時期、内容が内容だけに静かな慰霊祭をと主催者から希望があったのにこの始末。

「あー、ほらほら下がって下がって」

 件の阿部倉司がマスコミを後退させる。その傍には彼をアニマルセラピーの道に導いた引退盲導犬、ツカサオブジルドールがいる。阿部はチンピラに見えるが、本人は軽いノリの思いやりがある人物だ。

「……」

「やっぱそう簡単に忘れられんか」

 陽歌は動物が好きではあるが、過去のペットロスが原因であまり動物と親しくなろうとしようとしない。ツカサは老犬ということもあり、陽歌は別れるのが怖くて距離を置いている状態だ。

「おーい、春海殿、調子はどうだい」

 さなが唯一の生き残りである少女、四方田春海に声をかける。本人もこの土地に辛い思い出があるだろうに、ようやく踏ん切りがついて慰霊祭というタイミングでこのマスコミの配慮無さ。阿部が近くにいるのはこういう時助かる。

「さて、そろそろ時間だね」

 陽歌は懐中時計を見て災害のあった時間が近づいていることを確認する。

「ん?」

 その時、大きな揺れと共に大地を割る様なサイレンが木霊する。

「これって……」

「おい、これ……」

 春海と阿部は何かを知っているかの様な反応を見せる。が、立っていられないほどの揺れと眩暈を引き起こすサイレンを受け陽歌は倒れてしまう。

 

「ん……」

 ツカサに顔を舐められ、陽歌は目を覚ました。

「七耶、さな!」

 周囲の人が全員倒れていることを確認し、陽歌は起こす。とりあえず関係者は誰もいなくなっていない様だ。

「おい小娘&チンピラ、何か知ってるな?」

 七耶は春海と阿部にこのサイレンと今の状況を聞く。

「ああ、なんか俺が夜見島に行った時に聞いたサイレンと同じだ。化け物が出てきてな……」

「このサイレン……あの時の……」

 春海の言葉を聞き、陽歌と七耶は顔を見合わせる。ここに来る前に聞いた彼女の証言によれば、このサイレンの後村が周囲と連絡が取れなくなり、化け物が出たとか。しかも一日中真っ暗になるとも。

「とりあえず村から出る道を確保しよう」

「そうだな」

 陽歌と七耶は携帯を確認し、圏外になっていることを確かめると行動を始める。元々こういうためにいるので特に慌てることはない。奇怪な事象にも巻き込まれ慣れている。

「お、村人か?」

「いや、ここは廃村のはず……」

 がさがさと物音がし、マスコミたちがそちらを見る。そこにはなんと、ボロボロの姿をした顔色の悪い警察官がいた。足元も覚束ない様子で顔には血が流れている。

(敵意は感じないけど……)

 陽歌は敵意や害意に敏感であるが、そればかりに頼りはしない。手に拳銃を持っているのは見逃せない。

「待って! その人は……!」

 そして敵意の無さを塗りつぶす邪悪な気配。二人の生存者から化け物のことを聞いていた陽歌は退避する様に言うが、マスコミは不用意に近づく。

「第一村人発見! 早速取材しま……」

 渇いた音がし、マスコミのレポーターが倒れる。何と警察官が発砲したのだ。小さなリボルバーから煙が上がり、レポーターも動かない。このサイズでも人体には致命傷だ。

「な……」

 マスコミの悲鳴が上がる中、陽歌は走って警察官に近寄る。そして、虚空から真紅の炎と共に刀を取り出し、敵を切り裂いた。

「はっ!」

 一般的なものよりわずかに大きい刀であるが、小柄な彼が持つと身の丈はある様に見える。その刀で警察官を斬り倒し、様子を確認する。倒れている隙に懐を確認し、財布と取る。

「免許証からしてあの土砂災害の時期の……?」

 警察官の名は石田徹雄。顔は知性を感じない様にだらけ、目から血を流している不気味な状態だ。

「まさに生ける屍、屍人だな」

 免許証の発行と期限が土砂災害の間の期間。つまりこの警察官はそこで消息不明になった者だ。七耶は阿部や春海の証言にもいた怪物、その姿を屍人と称した。この手の魔物は倒しても蘇るのが通例だ。

「……じゃあまた生き返るかも」

「よし、縛ろう」

 話を聞いた陽歌は復活を予期し、さなは迷わず備品から持ってきたロープで木に警察官を縛る。

「とりあえず脱出ルートを確保しようじぇ。私と小僧で行ってくる」

「じゃあ私はスタッフの皆さんを守ってるね」

 テキパキと役割分担し、行動開始。マスコミは勝手に動き始めたが、それは依頼に含まれていないので無視。

「よし行くぞ」

「うん」

 七耶と陽歌は移動を開始した。村は無くなって久しいが、住宅地をぶち抜く形で道路が通じているのでもしかすると当時より行き来は容易かもしれない。

「ん?」

 が、早速陽歌は異変を察知する。所々、まるでゲームのバグかの様に古い町が道路に食い込んでいるのだ。

「異界に入ったんじゃねーだろうな……」

「最悪七耶がぶち抜けば出られるでしょ」

「まぁそうなんだけど」

 超兵器である七耶なら時空を破って異界から脱出できるが、まぁそれなりに被害が出るので避けたいところだ。

「屍人の群れだ!」

「よーし……」

 陽歌は建物から出て来た屍人を刀で斬っていく。屍人は斬られると傷口が赤く発火してそのまま息絶えていった。復活する様子は見られない。

「なんか反応が変……」

「そりゃお前、あのしつこい都知事を斬ったんだからな。不死身になんか特攻あってもおかしくないだろ」

 陽歌はタイムリープをしてまでオリンピックを自らの手で開こうとした都知事を討った。その影響から不死だとか転輪の様なものを断ち切る力が得られたのだろう。ドラゴン殺しの伝説を持った剣が直にドラゴンへの特攻兵器になる様なものか。

「ん? あれは……」

「おー、光の柱だ」

 進行方向とは逆の方に光の柱が現れたが、今は帰路の確保が最優先だ。幸い屍人の復活を阻害出来るなら脱出も一気に楽になるだろう。

「あ、こりゃダメだな……」

 だが、村の端まで来て七耶は脱出を諦める。村の周囲は赤い海に囲まれており、道が途切れているのだ。

「ちょっと先生、いつまでぐずぐずしてるんですかー?」

「ん?」

 引き返してさなと合流しようとした時、女子大生くらいの若い女性が男を引きずっているところに出くわす。男性は顔色こそ屍人の様に悪く動揺しているが、まだ人間の様に理性を保っている。

「なんだお前ら、迷ったのか?」

「あら、こんにちは。普通の人に会うの久しぶりね」

 七耶はともかく刀を持った陽歌を普通と称する辺り女子大生もかなり感覚が麻痺している。

「そっちの人は……さっきの屍人の悪い感じと、何か優しいものが混ざってる?」

 陽歌は男の容態を確認した。屍人の気配に加えて何かがあり、そのおかげで屍人になっていない様だ。

「あー、そういえば先生私に水飲むなって言ってたけどあの赤い水ってダメなものなのね。飲んじゃったの?」

「赤い水? あの海のです?」

 女子大生は多少この状況に詳しい様子だ。

「あ、僕は浅野陽歌です」

「攻神七耶だ」

「私は安野依子。こちらは民族学の教授の、竹内多聞先生」

 互いに自己紹介を済ませると、陽歌は男の名前に覚えがあった。

「もしかして、羽生蛇村の文化の論文を執筆された竹内多聞先生?」

 実は依頼がある前から陽歌は本の虫故に羽生蛇村の名は頭の片隅にあった。今回の件で再度論文を読み直した結果、多聞の名を記憶するに至った。

「へぇ、先生知ってるの。小さいのに物知りねー」

「だが様子がおかしいぞ。小僧なんとか出来るか?」

 七耶は陽歌に多聞の治療を要求するが、そんな術は当然知らない。

「え……いや僕もそこまで……」

 陽歌も困っていると、耳にふと声が届く。

(力を送ってみて……)

「こう、かな?」

 声に従い、陽歌は手を翳して念を送る。すると、赤い炎が薄く多聞を取り囲み、顔色が改善する。そして意識もハッキリした様だ。

「あれ? ここは……安野、化け物になったんじゃ……」

「そんなわけないじゃないですか。何言ってるんですか?」

 何が何だか分からないままに治療が完了。陽歌の耳に響いた声はこう告げた。

(赤い水の呪いがあなたの呪いに押されて弱くなった。これでたまたま入った私の血が赤い水に勝てる)

「へぇ、毒を以って毒を制したの……」

 退霊の力、ということで勘違いされがちだが、陽歌の力は本質的に祓うものではなく呪詛。呪いや怨霊をより強い呪詛で破壊している形になる。養父の残した刀はその力をより強く、求める形で出力するアンテナに過ぎない。

「とにかく助けられたようだな。礼を言う」

「いえ、僕も何だか分からないうちに出来たので……」

 目前の問題は解決したが、脱出出来ない状況に依然変わりはない。

「さて、道も塞がってたしとりあえず他の連中と合流だ」

「しかしこうなってしまっては脱出の道筋はないぞ?」

「あー、大丈夫大丈夫。最終手段あるし、生存者拾えてラッキーだった」

 多聞が言う通り、基本異界は取り込まれたが最後脱出出来ない。しかし七耶には可能なのだ。そのため、まずは全員と集合する必要がある。

 

   @

 

 慰霊祭の会場で待機していたさなは、屍人となった警察官の監視を続ける。マスコミは彼女の忠告も聞かず、あちこちに散逸してしまい手が付けられない状況だ。

「お? これ純金じゃね?」

 待ちくたびれたのか阿部は何かを拾って春海に見せる。金色の碁石に見えるものだが、なんでそんなものが落ちているのか。気丈に振舞ってはいるが春海もこの事態に動揺しており、阿部はそれを感じ取ってなんとか気を紛らわせようとしていた。

「お、こっちの山にもアケビ生えてんだな」

 そして異界のものを遠慮なく口にする。これのノリで一回帰還しているのだから恐ろしい。

「ん?」

 その時、ツカサの鳴き声が聞こえた。さながその方向を見ると、先ほど撃たれたレポーターが起き上がっていた。ただし、屍人として。

「うお! 生きてた!」

「あれって……」

 阿部はのんきに驚いていたが、春海は即座に危険を察知する。

「はぁ、面倒を増やしてくれたね。二人共下がってて」

 さなが構え、二人を庇う様に立つ。その時、白い炎が飛来して屍人を焼き尽くす。

「陽歌……いや……」

 炎から陽歌だと思ったさなだったがその色から即座に否定する。炎の飛んできた方からしゃかしゃかとヘッドホンから漏れる様な音楽が聞こえ、そちらを見ると刀を手にし猟銃を背負った少年がいた。

「あれ? こっちは殺されてる。この化け物を完全に殺すなんて……」

 少年は警察官の死体を確認した。そして、春海の方を見る。

「もしかして春海ちゃん? 大きくなった……じゃなくてまたこっち来ちゃったのか」

「知り合いなのか?」

 阿部は少年に確認を取る。そして彼はその名を名乗った。

「俺は須田恭也。知り合いっていうか、友達の友達?」

 実に曖昧な関係であったが、そこにわいわいと話し声が聞こえる。

「いや君の様な熱心な生徒がいてくれたらな」

「先生私も毎回ちゃんと授業受けてますよー」

 陽歌と多聞が話している中に割って入ろうとする依子。しかし七耶には疑問が生まれる。

「なんで本人から授業受けている大学生より論文読んだだけの小学生の方が理解度高いんだよ……」

 それは依子が授業の内容より多聞の方に興味があるからであった。

「あ、なんだ依子もいたのか。あと竹内さんも」

「あれ? 恭也じゃない?」

 恭也と依子は面識があったらしい。

「そちらのお二人は?」

「二人?」

 陽歌が恭也の方を見て二人と言うので阿部は困惑した。どう見ても恭也一人にしか見えないが、陽歌にはもう一人、少女の姿が見えている。

「あ、美耶子が見えるのか?」

「もしかして普通見えないんですか?」

「ちょっと肉体失ってて」

 美耶子本人から注釈が入る。ちょっとで済む話ではないが事態が事態だけに慣れてしまったのだろう。

「美耶子ちゃんそこにいるの?」

「あ、春海ちゃん。すっかり大きくなって」

 なぜか春海は目を閉じていた。恭也は黙って美耶子の方を見る。

「もしかして見える人の視界を幻視すれば見えるんです?」

「うん」

 他人の視界を覗く能力、幻視を使えば春海も美耶子が見えるようだった。思わぬ形での友との再会はかつてのトラウマと同じ状況に置かれた春海の心を癒した。

 

全員が集まったところで、情報交換が行われる。

「つまり、慰霊祭の最中にあのサイレンが鳴ったということか」

「はい。それと光の柱も」

 春海の証言から多聞はある仮説を立てる。

「光の柱も以前の件で目にしたな。それに須田くんの話を合わせると、既に討ち果たしたそうだが……この羽生蛇村特有の宗教、真魚教の大本になった化け物がいるそうだ」

「それって、羽生蛇村の民話にあった空から降って来た魚ですか?」

「おそらく。そしてこの奇妙な世界は二回起きた土砂災害の時期が混じって構成されているのは確定的だ」

 陽歌の言葉を肯定しつつ、多聞は真相に迫った。

「つまり須田くんが倒したのとは別に、その化け物がこの世界にはもう一匹いて今回の事件を引き起こした可能性がある」

「二つの時代が混ざっているからボスも二匹? そんなことあるのか……」

 阿部はよく分かっていない様子だったが、今回の仮説ではその通りである。

「都知事の件は無視してもいいの?」

「話がややこしくなるだけだし、倒すのは一緒なんだからそこはいいんじゃねーのか?」

 さなは2020年を繰り返した都知事に要因があるのではないかと考えたが、それを言い出すと周囲の次元を呑み込んで混沌とし続けるこのセプトギア時空の性質も考えねばならないので七耶は無視を推奨した。

 

「よし、村の地理が変わってないならあの化け物の居場所は分かってる」

「なら殴り込みだな」

 恭也と七耶は敵地への殴り込みを提案する。事態の解決に結びつかなくとも、放置出来る相手ではない。

「でもその化け物を倒した時にバラバラになったらマズイよね」

「戦闘要員だけで行きたいけど、全員で固まった方がよさそうだね」

 陽歌の懸念もあり、さなは全員での行動を推奨した。

「あの、テレビの人は……」

 春海は勝手に大騒ぎで付いてきたといえ、マスコミの心配をした。だが多聞はバッサリ切り捨てる。

「厳かに行うべき弔いの儀式に土足で踏み込むからああいう目に遭う。あんなのの心配をしていたら命がいくつあっても足りないぞ」

「確かに、こうも自由に散らばってしまうと元々何人いたのか不確かなものを全部集めるのは至難です。それにとっくに化け物に襲われて死んでるかも」

 陽歌もそこはドライな考えを持っていた。マスコミを探しに散らばるだけでもリスクが高いのだ。呼んでもいないどころか時勢もあり自粛をお願いしたのに勝手に来た以上、こちらが余計な危険を抱える義理はない。

「よし、行くぞ!」

 七耶、さな、陽歌はエジプトにでも行きそうな勢いで並ぶ。後から依子と阿部も加わるが、恭也は首を傾げて先に行ってしまった。

 

「相変わらずすっごい違法建築よね」

 化け物の根城は複数の建物を木材やトタンで繋いだもの。依子は以前見た時と同じ感想を漏らす。

「ここがあの化け物のハウスね……」

「光に弱いみたいだから、こういうものを作ってるんだろう」

 七耶のボケをスルーして多聞は敵の根城に踏み込む。

「ボケ殺しだなー」

 というわけで敵本拠地。凄い抵抗が予想されたが道中で恭也が滅ぼしたのもあり人手不足。そして恭也が手にしている小さな像から放たれる白い炎でそれはもうボコボコなので戦えるのが三人くらいしかいなくても平気だった。

「凄い……」

 立ち昇る白い炎柱に陽歌は息を呑む。サクサクと奥に進み、中心部へ辿り着いた。そこでは、人の背丈の倍はあろうというタツノオトシゴみたいな生き物が浮かんでいた。

「あれがもう一体の堕辰子……」

 恭也は以前撃破したということもある為、堕辰子に対して迷わず炎を放つ。しかし、堕辰子はそれさえ構わず胸部から伸ばした触手で自身のものと思わしき首を取り込む。だが首は落ちていない。

「前も一発で倒せる相手じゃなかったけど……」

 堕辰子は傷一つ負わず、恭也達に迫ってくる。何らかの要因で強化され、通常効くアイテムでもダメージが軽減されているんだろう。

「小僧! 出番だ!」

「うん!」

 ここで陽歌が前に出て、赤い炎を纏った刀で堕辰子を切り裂く。

「【仏陀斬り】!」

 見事に攻撃は直撃。しかし即座に傷が再生してしまう。

「一体何が……」

「なんか耐性が出来たんか?」

 過去に堕辰子を倒した恭也の攻撃も、転輪などを断てる陽歌の攻撃が効かない。七耶は冷静に敵を分析する。おそらく、今取り込んだ首に何か仕掛けがあるのだろうか。

「ねぇ、二人共炎だし花火の火を分けてもらうみたいにすればパワーアップ出来ない?」

 対抗策を練っている最中、依子が突拍子もないことを言い出す。阿部も本気なのかそれに乗る。

「そうだそれなんかよくね?」

「おいおいそんな簡単に……」

 七耶はまさかそんなこと、と思ったが試しに恭也と陽歌は互いの刀を合わせて炎を混ぜ合わせる。恭也の白い炎と陽歌の赤い炎が混ざり、桜色のものへ変化した。

「行ける!」

 陽歌は直感で効き目を察知、攻撃に移る。

「【果敢鳳凰翼】!」

 不死鳥の斬撃が飛翔し、堕辰子の胸を貫いた。傷が燃え、血が吹き出して再生しない。これなら倒せる。

「これで終わりだ!」

 陽歌は苦しむ堕辰子に駆け寄り、下から斬り上げる。すると、桜色の炎が渦となり柱となり立ち昇った。

「【焔】!」

 炎に加えて身体を割かれ、堕辰子はもがき苦しんで地に落ちる。焼け焦げたこの化け物に抵抗する力はない。ただ途切れ途切れで機材の壊れたサイレンの様な呻きを上げるだけだ。

「全て、終わらせてやる!」

 恭也は走り、瀕死の堕辰子の首を落とした。声も聞こえなくなり、全てが終わったことを告げる。

 

 特に大きな異変は起きなかったが、赤い海に囲まれた村は元通りになった。すっかり日も昇り、夜明けだ。この時空の性質なのか、赤い水を取り込んで異界から出られなくなったはずの多聞や依子達も一緒に戻ってきた。

「しかし何だったんだ?」

 七耶は原因も分からず、考えても答えが見えないので諦めた。こういう不思議なことは理由を考えても仕方がない。全員無事に戻れただけで上出来だ。

「俺はこのまま行くよ。まだ美耶子との約束がある」

 恭也だけは一行から別れていく。まだ彼は美耶子との『全てを終わらせる』という約束を果たしていない。

「美耶子ちゃんをよろしくね」

「ああ」

 春海はかつての友を彼に託す。この再会を得ただけで、ここに来た価値はあった。

「これ後で換金しよっと」

 阿部は先ほど拾った金の碁石をポケットにしまう。さすがに純金ではないだろうし、もし金でもそんな値段にはならないのではないだろうか。

 

 そして物語は絶海の孤島、夜見島へと繋がっていく。異界と異界が結びつき、冥府の門が今開こうとしていた。だが、どうあがいても絶望しかなかったあの時とは違う。逃げても逃げ場さえないあの時とも違う。新たなヒーローが闇を裂く。

「眠い……」

「さすがに徹夜だもんねー」

 当の本人は自覚していなかったのだが。




 次回、時間がダブりがちで異界入りであまりとりざたされない夜見島編!
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