騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
以前の事件の後、調査により夜見島近辺に時空の歪みが観測された。そのためユニオンリバーはメンバーを派遣、実地調査を開始する。
「ねぇ、付近の漁港で夜見島に行きたいって女性を漁師が船に乗せていったみたいだけど」
陽歌は他のメンバーからの連絡を受け、七耶に相談する。
「どうせ夏の肝試しだろ。なんでも集団失踪があった島らしいからな。そう行ける場所じゃないしSNSで話題沸騰するぞ」
だが彼女はよくあるインスタ蠅の無謀な行動と考えた。調査チームは自前の船で夜見島を目指していた。
「しかし以前行ったことのある阿部ちゃんを誘わなくてよかったんですかに?」
猫耳の様な髪型をした金髪の少女、ナルが阿部倉司を連れてこなくてよかったのかと聞く。かつても夜見島は人が住んでいたのだが、集団失踪で全滅。かつて足を踏みいれたことがある者も阿部を覗いて心当たりがないという状態だ。案内出来る人間がいれば多少なり心強いはず。
「いや、非戦闘員を連れていくわけにもいかん。あいつやツカサが生還出来たのも偶然だから、今度巻き込まれても私達が守れるとは限らん。地図は描いてもらったし……」
七耶の言う通り、わざわざ阿部をもう一度危険に巻き込むのは推奨できない。以前の羽生蛇村跡での事件は偶然巻き込まれた結果に過ぎない。
だが肝心の地図は何故か真横から見たものになっている。しかも雑。
「分かるか!」
最初から阿部の情報は期待していなかったので問題はない。とりあえず夜見島に乗り込んでから考えるべきだろう。
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「はっくしょん!」
噂に反応したのか、現在羽生蛇村で慰霊祭の片づけをしていた阿部倉司はくしゃみをする。しかし、それがあるものを刺激してしまう。
「く……クソ過ぎだろ……」
ついにあの阿部も二度の異界入りで絶望してしまったのだろうか。
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「それでアスルトの奴が何か刀を改修したみたいだが?」
七耶は陽歌に刀のことを聞く。実はあの事件の直後、恭也の持つ刀を分析したユニオンリバーの錬金術師、アスルトがある材料を取ってくる様に依頼していた。
「なんか恭也さんの力との相性をより強くしたとか」
七耶に拾わせたのは、恭也の持っていた刀『焔薙』の材料と同じ隕鉄。あの刀は羽生蛇村を取り仕切る神代家に伝わる名刀で、現地で採取された隕石に含まれた鉄で出来ている。その為、恭也の異界ジェノサイダーぶりを担保するあの白い炎、霊獣『木る伝』の力を分けて貰った陽歌もそれをより定着させて振るうためには刀にその隕鉄がいい材料になる。
後から刀に金属を追加? と思われるかもしれないがまぁ、そこは錬金術なので。
「ん? なんですかにあれ?」
ナルは遠方からする何かを発見する。それは、なんと赤い津波。
「おいおい、今のご時勢どう表現するんだよ!」
「波の演出最近自粛気味だよね、当たり前だけど」
メタいことを言いつつ、三人を乗せた船は赤い津波に飲まれる。その直後、人間サイズのロボが海から顔を出す。
「ふぅ、咄嗟に変身して助かった」
七耶の本来の姿を模した形態、サーディオンイミテイトだ。中に陽歌とナルを格納して海岸に上がる。
「預金消し飛ぶからもう戻るぞ」
強力故に制限もあるこの姿。用事を済ませたらさっさと戻ってしまう。三人が降り立ったのはまるで海水浴場の様に整備された砂浜だ。だが、海の家などの文字はどこの言語とも取れない不思議なものだった。
空に浮かぶ不気味な漆黒の太陽が意味するものとは。
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「いやー、何だったんだあの赤い津波」
あの津波に飲まれたのは七耶達だけではなかった。金髪の眼鏡をかけた少年がどうにか無事に夜見島に辿り着いた。森に囲まれた湖にどんと客船が浮いているという奇妙な状況であるが、津波が赤い時点でもうそこは些末な問題であった。
「ブライトウィン号……随分と古い船だな」
彼の名は佐天いかずち。悪の組織に改造人間とされた際、失った記憶を取り戻すために顔出しで動画を投稿している。他人からの情報提供に頼るばかりでなく、失われたものを求めて行けば自身に繋がるかもしれないと夜見島の失踪事件を調査していたところだ。
「ブライトウィン号は確か……この近辺で海難事故にあった船だったな。生存者は一名のみで……その詳細は不明。ここに何か手がかりが……」
「あの、いかずちさん」
辺りを調べるいかずちに声をかける女性がいた。
「夜見島遊園に行ってみませんか? 人がたくさんいたところの方が手がかりも多いと思いますし……、船もなくなってしまったので帰る方法を探さないと」
「岸田さん、ここに救命ボートとかあるんじゃない?」
その女性、岸田百合はこの島に残された廃遊園地へ向かうことを提案した。しかしいかずちはのんびりとしている。
「多分遊園の方にもっと便利な……足こぎボートとか残ってると思うんです」
「そっか、救命ボートは動力ないもんな」
いかずちは無人島に漂着したというのにのんきなものだ。少し岸田がピリつくのも分かるだろう。
「さて、んじゃ遊園行きますか。帰りの切符を手に入れてからゆっくり捜索するとしよう」
ようやくいかずちは重い腰を上げて行動を開始した。
夜見島遊園は本当に廃墟の遊園地で、肝試しにピッタリな雰囲気となっていた。こんな状況でなければ動画の一本も撮りたいところだ。
「前に働いていた母が言ってたんですけど、税金対策にボートを鍵の掛かった倉庫へしまい込んだと」
「そんなことが……ん?」
ボートの在り処を岸田が説明しようとしている最中にも、いかずちの視線は明後日へ向く。そこには大きな穴が空いていた。
「なんだあれ?」
「あ、あそこです! あそこにボートを埋めたんです!」
「そんなの使えるのか? まぁ使えなきゃ税金対策にならんか」
どうやら件の鍵はとっくに開いていたらしく、岸田に連れられていかずちは穴の中へ入っていく。さっきは倉庫と言っていた上、洞窟の様な穴とはこれ如何に。しかし彼はまるで何の疑問も抱かず進んでいく。
「立てこもり?」
「こんなところでですかに?」
どうやら海の家で立てこもり事件が発生しているらしく、パトカーやメガホンで何かを言う黒い布を被った化け物がいた。言葉は文字同様に解析不能だが、『無駄な抵抗をやめて出て来なさい!』、『故郷のおふくろさんが泣いているぞ!』というニュアンスは伝わって来る。
「健康優良日本男児を舐めんなよ!」
だが、立てこもり犯の啖呵は日本語だ。それを聞いて思わず前に出た陽歌達の姿を見て、化け物たちは道を作る。
「あ? なんだお前ら、人間か?」
「自衛隊の人……です?」
彼らの姿を見て、立てこもり犯であるフェイスペイントをした自衛隊らしき男が出てくる。手にはライフルを手にしているが、撃つ意思はないのか銃口を下げて引き金から指を離している。
「俺は永井頼人だ。どうやってここへ?」
「赤い津波に飲まれて。僕は浅野陽歌です」
「七耶だ」
「ナルですに」
互いに名乗り、状況を確認する。
「クソ……守るべき国民がいるってのに自衛隊の俺が帰る方法一つ持ってねぇとは……」
「あ、私帰る方法あるぞ」
「何?」
自衛隊といえど一般人の永井には衝撃的だろうが、七耶は異界から散歩感覚で脱出する手段を持っている。アスルトとは別の極度に心配性な錬金術師が搭載した機能だったが、ここ最近使えそうな場面が多い。
「というわけでさっさとここを出て夜見島の調査に戻ろう。永井さんも送り届けないといけないし」
「そうだな」
陽歌が方針を決める。だがその時、遠くの島が光り輝き、その上空が青空で包まれる。
「なんだ?」
「この波形は……」
永井は久しぶりの晴れ空に眩しそうな様子を見せた。七耶の計器に出た反応は、この調査をする切っ掛けになった反応のより強いものだった。
「感じる……あの島に邪悪なものがあるのを……」
「あれがこの世界の夜見島なのか?」
陽歌の直感が、あの島に巣食う根源を捉えた。どうにか移動手段を得ようと周囲を見渡す七耶の目に、白い炎の雨が飛び込んでくる。
「これは!」
炎は化け物を焼き、完全に消滅させる。ヘッドホンから漏れる聞き馴染みのある音楽、白い炎を纏った刀、須田恭也がこの世界にもやってきた。
「恭也さん!」
「あれ? さっき別れたばっかじゃ……」
長い時間異界を彷徨っていた恭也にとって一日二日は誤差の範囲。思わぬ再会を果たした一同は近くの船をパクって島へ向かう。
夜見島に到着した一同は空の異変の中心である鉄塔を目指す。しかし、船を降りた瞬間にどこからともなく無数の銃弾が飛ぶ。
「伏せろ!」
「うお! 不意打ち!」
永井のおかげで事なきを得た七耶。当たっても痛いくらいだが。出てきたのはセーラ服の女学生、が屍人になったもの。
「こいつ……」
即座に恭也が反撃しようとするが、陽歌が前に出て止める。
「あれに繋がってる大物が近づいてる。ここは僕が抑える!」
「戦力の分断はまずいですに」
ナルの言う通り戦力が分かれるのはあまり得策ではない。特に今回の様な、特定の攻撃でしか仕留められない相手には。
「ここは浅野くんの言う通りにしよう。俺も残る」
だが永井は以前の経験を元に考えを述べる。
「前は敵の親玉があの鉄塔で現実を浸食しようとしていた。それと似た様なことを今回をやろうってなら、時間はない」
「そうか、んじゃ急ぐぞ!」
七耶、ナル、恭也は鉄塔へ向かい、陽歌と永井は屍人に向き直る。屍人は短機関銃の他、刀も持っていた。
「しゃがめ!」
永井の指示に従い、陽歌は身を屈める。彼も屍人への永井の攻撃意思を読んでいたため、それがなんのためかは即座に理解できた。
ライフルに残された最後の弾を叩き込み、屍人の動きを止める。その隙に陽歌が接近し、刀で切り裂いた。
「【仏陀斬り!】」
桜色の炎は不死の屍人にさえ永遠の死を与える。無事に屍人を撃破したのも束の間、海から巨大な頭に手指の様な足が無数に生えた怪物が姿を現した。
「あんときの親玉野郎か……何度でもぶっ倒してやるよ!」
永井は屍人から短機関銃と刀を取り上げると、怪物に向けて発砲する。堕辰子の様に特定の攻撃しか効かないタイプではないようだが、あまりダメージを与えられていない。
「【焔】!」
陽歌の斬り上げと共に巻き起こった火炎が化け物を巻き込む。だが、不死を断つだけで火力は見た目通りなので表面を焼くことしか出来ない。
「タフいな……」
「前は燃料タンクにぶつけてやったからな、それでやろう!」
永井は以前倒した経験から戦術を練り、化け物を誘導する。短機関銃で牽制しつつ、化け物の突進を誘導する。
「来い!」
付近に落ちている燃料タンクの前に陣取り、化け物が突っ込んでくる瞬間に回避する。だが、化け物はタンクに激突する瞬間にブレーキをかけて停止した。
「こいつ……学習してるのか?」
陽歌は敵が前に倒された記憶を持っている可能性を考えた。そんな彼に永井は刀を渡す。
「二刀流になればめっちゃ強くならないか?」
「いえ、二刀流って鍛錬しないと一刀流より効率が……」
永井から刀を受け取った瞬間、陽歌の脳裏に太刀筋が浮かんだ。この技ならいけるかもしれない。彼は渡された刀を地面に突き立てると、化け物へ向かって走る。
「【潮】!」
一見するとただの袈裟斬りだが、返す刀での攻撃をせず一撃目と同じ位置に戻ってきた時に温存していた分の力も使って連撃を放つ。打ち潮と引き潮の様に、同じ場所への攻撃が連続していく。まるで波が岩を削っていくかの如く、化け物を燃料タンクまで押していく。
「今です!」
化け物が燃料タンクに激突したとこを見極めると陽歌は後退し、永井が隙を見て通電させておいた電球をコードと共に投げる。
割れた電球から散った火花で化け物は炎上し、こちらの戦いにはどうにか決着がついた。
七耶達は鉄塔を急いで登っていた。この鉄塔を使って親玉が良からぬことをしようとしていることに間違いはない。
「おーい!」
その時、知らない人物が下から追いかけてきた。いかずちと七耶達は面識がない。
「あ、他の人いたんですかに」
「大変だ! なんか穴の方で男が女の化け物に取り込まれた!」
いかずちの端的な説明の間にも、彼の後方からはとんでもないものが迫っていた。鬼の形相で彼を追う岸田と堕辰子に似ているが女の顔をした化け物だ。実は岸田百合、この化け物、母胎の手先である鳩という存在だ。そこでいかずちを誘導して自身の復活を試みたのだが、その前に別の鳩が男を誘導して復活に成功していたというわけだ。
「うわあああ!」
「何連れてきてるんですかに!」
さすがにこれには七耶とナルも恐怖を覚えた。だが、母胎は岸田を連れて飛び去り、鉄塔の頂上を目指してしまう。
「なんだあれ……」
「美耶子が、あれが鉄塔の頂上に着くとまずいって言ってる。急ごう!」
「お、おう」
恭也の提案で一同はいかずちを加え、鉄塔の頂上を目指すことにした。鉄塔の頂上に辿り着いたのだが、なんと母胎と同じ化け物がもう一体いるではないか。そして二体の化け物が合体し、顔が二つ、腕が二対の両面宿儺の様な姿へ変貌する。
「母胎が二体! 来るですに!」
「こねーよと言いたいとこだが……」
おそらくこの世界を支配した母胎と、セプトギアギア時空の母胎が融合し、さらなる勢力拡大を目論んで来るだろう。
「喰らえ!」
恭也が宇理炎の炎で母胎を焼くが、あまり効き目がない。焼けた痕もすぐに再生していく。さすがに親玉二体の合体は強力だ。
「諦めろ、異なる異界の祖から力を吸収している限り、我は不死身!」
どうやら何かしっかり対策をしているらしく、かなり自信満々だ。
「そぉい!」
その時、後ろから岸田を永井が何かの大きな破片で突き刺した。
「ぐえぁあああ!」
岸田は黒い炎に包まれ、母胎も同様に焼かれる。しかし苦しむ岸田と裏腹に母胎は平然としている。
「ふん、
弱点も克服してしまった様で、いよいよ打つ手がない。
一方そのころ、古いもののトイレを見つけてスッキリした阿部は煙草を吸っていた。実は自生していたアケビに当たってお腹を壊していただけだったのだ。
「ふぅ」
一服付き、煙草をバスケの様に投げてトイレの中に投げ込む。見事、煙草は中へ落ちていった。
「よし!」
ガッツポーズをした瞬間、なんとトイレが爆発したではないか。
「うわああ!」
中に溜まっていたメタンガスに引火したのだ。ここでは単なるハプニングであったが、これが世界の運命を決したのであった。
「ぐええええ!」
突如、母胎の再生能力が衰えて苦しみ出す。
「ば、バカな……羽生蛇の結界に何が……」
実は阿部が爆破したトイレに、鳩に作らせた異界のエネルギーを吸収する呪術があったのだ。二度も阿部に阻まれた挙句上手く行っていた世界線も失うことになるとか母胎は泣いていい。
「これを!」
陽歌が持ってきた破片、母胎の言う闇那其が剣の様に変化する。ちょうど二本、それを彼と恭也が持ち、それぞれの炎を宿す。
「これで最後だ!」
「いけえええ!」
恭也と陽歌、二人が母胎を貫き、炎を流し込む。爆炎に包まれた母胎は崩れ落ちながら鉄塔から転落していった。
「お? なんか戻った?」
七耶は空がいつの間にか青くなっていることに気づいた。通信も回復し、元の世界に戻って来た様だ。
「これで夜見島の問題は解決ですかに?」
「そうだといいな」
当初の目的であった夜見島の調査も原因の討伐で終了しただろう。
一同は船に乗り、帰還した。
「なんだったんだマジで……」
完全に巻き添えのいかずちは何がなにやらさっぱり。
「恭也さんはこれからどうするんですか?」
「なんか異界から弾き出されちゃったみたいだからな」
異界ジェノサイダーをしていた恭也もこの時空の性質が原因で、異界から半ば追い出された状態になった。
「ま、この世界にも化け物はいるらしいし、俺はまだ約束の為に旅をするよ」
とはいえ、それはつまりこの世界そのものが異界の様なもの。ここに巣食う化け物を狩るべく、彼は戦う。
「よくやる気になるな……俺はもう勘弁だ」
迂闊に気合を入れたためえらい目に遭った永井は平和を望んだ。とにかく今回も事件は無事解決。世界の危機は乗り越え、もしかすると彼のいた母胎の地上奪還が成功した世界も消滅したのかもしれない。
「そうだ、美耶子がこれ持ってけって」
「これは?」
恭也は陽歌にある木片を渡す。人の名前が書かれているが、どういったものだろうか。
「滅こう樹だ。聖なる木の枝らしい。何かに使えるんじゃないか」
新たな力を手に入れ、ユニオンリバーと陽歌の戦いは激しさを増していくのであった。