騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

103 / 121
 ニパ子が地球を去って一年、惑星コウグの平和が崩れ去ろうとしていた。


宇宙御家騒動惑星コウグ王位争奪戦 真の戴冠式
あの女が去ってから一年


「一年か……」

 陽歌はおもちゃのポッポ内、ユニオンリバー工作スペースにて愛機であるガンダム紅蓮を整備しつつ、かつての戦いを思い出す。惑星コウグから留学に訪れていた王女、ニパ子が去るのを引き留めるべくGBNに集ったモデラー達。陽歌はスタートから最後まで戦い続けていた。

「ロディ社長が地球にいるの珍しいですね」

「まぁな」

 今日は珍しく、ユニオンリバーの社長であるロディが滞在している。普段からあちこちを飛び回っているので、なかなか地元にはいない。

「おや?」

 そんな時、珍しい人物が入店してくる。サングラスで目元を隠しているが彼女は店に入るとそれを外し、正体を現した。

「おまちしておりました、大空首相」

「首相……わざわざご本人が」

 ロディがここにいたのは、大空まひる首相を迎えるためであった。活動的な人物で陽歌も就任直前の彼女と出会っているが、今本人が出向くというのは異例だ。新型肺炎対策や近づく選挙など、多忙を極めるはず。

「今回のことは人任せには出来ないのでね……惑星コウグから友好国である日本へ救難信号だ」

「惑星コウグ? ニパ子の星?」

 惑星コウグはニパ子が王位についてから平和に何事もなくやってきた。便りが無いのは無事な知らせとはまさにこのこと。しかし、ここに来て急に救難を呼び掛けてきた。

「しかし国家レベルならわざわざ我々に依頼することではないのでは?」

 ロディの指摘もその通り。惑星コウグは日本の友好国、ならば国を挙げて助けるのは自然なこと。

「今回は内容が特殊なのだ。ただの災害などではない。それに、今は野党やマスコミが政権の揚げ足を取ろうと血眼になっているのでね」

 国難に際して不安を煽るマスコミはいつも通りだとして、事情が事情の様だ。

「災害ではない?」

「いわば、クーデターに近しいことが起きている。ニッパーヌ王女の王位の正当性を疑う者が嫌疑をかけ、それを晴らすためにある条件が突きつけられた」

 クーデターとは穏やかではない。日本は憲法的に軍を派遣できない為、一般のトラブルコンサルタントに頼るという理屈は分かる。だがそれが通ればその他の国際問題もユニオンリバーを投げておけばいいという話になってしまう。

「その条件とは、疑いを持つ者たちの軍勢を公式の決闘で撃破すること。一チーム五人、ただし、ニッパーヌ王女のチームは友好関係にある異なる国のメンバーのみで構成しなければならないという条件付きだ」

「いわば、王位争奪戦だな」

 ロディの言う通り、どうしてそんな話になったかはともかく王位争奪戦というわけだ。しかもやけにニパ子サイドには重い条件が課されている。

「だが奴の顔の広さなら余裕だろ。うちから適当な奴と陽歌かマナ辺りを派遣すれば地球人とその他で二枠埋まる。あと三つだ」

「だからこそ、王女もユニオンリバーを名指ししたのでしょう」

 ユニオンリバーの構成員は大半が地球人ではない。なので頑張れば彼らでニパ子以外の四枠を埋めるのは容易。

「あの、でもこんな厳しい条件を突き付けるなんて、相手は不戦勝でも狙ってるんじゃないですか? それに惑星コウグの友好国、と参加者を搾れば、その為に行動する人間を事前に排除できる可能性が増える……。ニパ子自ら出迎えようものなら、決闘を経ずに倒すチャンスが生まれる」

「その可能性は大いにあるな。とすると、有名人で動きが割れやすいマナとサリアは出せないか……」

 陽歌はあまりに厳しすぎる条件に、相手側の罠を警戒した。相手の用意したカードで戦わないのは原則である。

「それに宇宙に出るとなると、否応なしに大がかりな移動手段が必要だな……何か手は……」

 加えて宇宙へ進出するにはどうしても大規模な移動を伴う。ロケット、マスドライバー、いずれにせよ設備の準備などで勘づかれてしまう。相手に察知されない様にするにはどうすればいいのか。向こうも『友好国の人間』を指名してきている以上、こちらの動きがノーマークとは考えられない。

「あ、それならいい方法ありますよ」

 陽歌にはとある策があった。

 

   @

 

「やはり監視が始まっていまス。地球上及び月の主要な航行システムは見張られていまス」

 既に監視の手は伸びており、今からこの地球を出るのも難しい。喫茶ユニオンリバーも不自然なほど客足が絶えず、地下にある設備の動きを監視しているかの様に思えた。

「以前、陽歌くんがPSO2を通じてオラクルに向かったんでスが……」

 アスルトは一同に説明する。何人承認されて参加できるかは分からないが、火球出身扱いの七耶、月の住人であるさな、純地球人のマナ、どの出身とも誤魔化せるナル、サポート要員にアスルトが現地入りすることとなった。

「その時のデータが義手に記録されていたんでス。そしてその義手は四聖騎士のパーツを元に作っているので、互換性がありまス」

「つまりあいつのエーテル適正をねこに突っ込んでオラクルにワープしようってわけか」

「とら」

 PSO2からオラクルへ行くには、エーテルという特殊な粒子に適正を持つ必要がある。そしてこのエーテルは人間にしか扱えないのだが、エーテルとフォトンは同質、そしてフォトンの変質したものであるダーカー因子が機械を浸食出来るのなら話は簡単。陽歌の義手に記録されたデータを元にエーテル適正をナルに付与すればいいのだ。

「んじゃ、行きますに」

「おう」

 ナルの意思により、PCに映った画面からオラクルへ移動する。

「ここがPSO2……」

「おまちしておりました。皆さんが陽歌くんのおっしゃっていたユニオンリバーの方々ですね」

 彼らが移動したのは、アークスシップの艦橋。普段は金髪の女性、に見えるロボット系種族、キャストのシエラが切り盛りしている。

「ダーカーとやらも関係していないのに協力してくれるなんてな」

「宇宙の平和を守るのはアークスの使命ですから」

 ダーカーやその大元との戦いはひと段落したが、アークスの使命は終わらない。

「それに情報部によると各惑星で不審な動きがあるようです。アリの子一匹外に出さない勢いの監視がコウグの友好国に敷かれています。陽歌くんの懸念していた通り、惑星コウグの友好国に網が貼られているようです」

「やはり仕掛けてきたか」

 子供でも思いつくほど露悪的な手段を使ってくる辺り、相手はなりふり構わない様子だ。

「思ったより大変なことなっちゃってますねー」

「そうだな、やはり地球から直に行かなくてよかったじぇ」

 マナと七耶は陽歌の案に乗ってよかったと安堵する。自分達ならなんてことないが、それで他人に被害が出てはたまらない。

「それで……肝心の陽歌くんは?」

「あいつはあいつでやることがある」

 陽歌は自分にしか出来ないことをするべく行動していた。

「では、こちらも人員を派遣します。条件が友好国から各一人というのは厳しいですから」

 シエラも厳しい条件に対抗すべくメンバーを募ることにした。

 

   @

 

「ここが惑星コウグっすね」

 ニパ子の救難を受けたのは地球だけではない。東京シャードにある成子坂製作所もその一つであった。ピンクの髪をした黒いスーツの少女、比良坂夜露は僅かなアーマーだけで宇宙空間を飛ぶ。アリスギアを纏うアクトレスである彼女には、宇宙などシャード内と大した違いはない。

「宇宙港に監視があるなんて妙っすね、何があったんでしょうか」

 アクトレスが宇宙へ出る為の港にも敵勢の監視があった。それもアクトレスやシャードエンジニアの通常業務に差しさわりがあるレベルで武器を持った人間が構えている。

無用な衝突を避けるべく、夜露が単独で偵察に出ることとなった。戻ることに関してはギアのベイルアウト機能を使えば問題ない。

「おや、シタラさんが喜びそうなものがあるっす」

 惑星コウグに近づいた夜露は宇宙船とその上に乗っている赤い巨大ロボットを見つける。同僚の好きなロボに似ている。そこを目印に降りて、救援を出していた存在を探す。別の同僚の話では、ギアで大気圏を突入した例はなく、惑星というものに近づきすぎると重力で吸い込まれるらしい。ギアなら耐えられるしベイルアウトも出来るので命の問題はないが、ここまで来て送還では報われない。

「さて、どこから救難が来ているものか……」

 彼女が辺りを見渡すと、同じく宇宙船に人が乗っているのを見つける。

「あ、皆さんが救難信号を出していた人達っすか?」

「お前が……そうか」

 夜露が話し掛けると、その人影は五人に別れる。全員少女で、アリスギアなどの装備もないのに宇宙に出ている。

「やはり救援を出していたか……見張りをかいくぐるとは只者ではないが……ここで終わりだ」

「も、もしかして敵の方っすか?」

 助ける側と思いきや、まさかの待ち伏せ。防御には優れているが、アリスギアは人間に向かって発砲出来ない様にリミッターが掛けられている。戦闘は今、不可能だ。

「アタシはレジー、王位継承者の一人だ!」

 ピンク髪を下の方でツインテールにした長身の少女、レジー。

「王位継承の決闘、行わずに消えてくれれば一番確実だったが……」

 ショートの銀髪をした少女が刀を手に夜露へ吶喊する。その時、ロボットの目が金色に光った。

「何?」

 少女は一歩下がり、様子を見る。ロボットの腹部が開き、中から小柄な影が飛び出し二人の間に入った。

「ダイバールックじゃなくなったけど……おかげで力が使える」

 なんと、陽歌が姿を現したのだ。あのロボットは彼がニパ子との激戦で破れ、宇宙船に放置された愛機のガンダム紅蓮。あれが記念碑的存在として、外見だけ修復されてここに存在したのだ。

「まさか、あの警戒網を抜けてきたのか?」

 予想外のルートから参戦されたことに動揺を隠せない少女達。こうして、惑星コウグを巡る大いなる戦いが始まろうとしていた。




 王位争奪戦メンバーリスト

 ニパ子チーム

 ボランティア愚連隊
 比良坂夜露

 出身:ムーンシャード群東京シャード
 所属:成子坂製作所、芦原高等学校
 能力:エミッション適正、アリスギア使用、浸食
 
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。