騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸   作:級長

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 思ったより長くなったマジで


二周年記念 マーガレットの時間旅行(後編)

 ユニオンリバーに敗北した歴史を変える為、時間遡行を行ったマーガレット。偶然くっついてきたフレズヴェルクのアマツキと長い歴史の旅に出た。本来なら数年のはずが一気に陽歌の生まれた年代まで戻ってしまうという事故を乗り越え、徐々に現代へ近づいていた。

「ねぇ、陽歌くん遅くない?」

「そうだな、今日は寒いってのに」

 寒いある日、家の近くで陽歌を待っていた彼女達は帰りの遅さを心配していた。

「図書館にでも行ってるのかな……でももう閉館の時間だし」

 図書館は通常、午後五時で閉まる。だがその時間は過ぎている。短い日は沈み、雪がちらちらと舞い始めた。

「……おい、今何年だ?」

 アマツキはマーガレットに年代を聞く。彼女はこの時代で契約した携帯を持っており、それで今の日時を確認して伝える。

「えっと……」

「しまった! もうそんな年か!」

 教えられたアマツキは飛翔し、学校の方へ向かう。話は聞いていたが、詳しい日時は知らない。ただ年数は分かっていたので警戒くらいはしておくべきだったと彼女は悔いる。

「な、何?」

「今日がその時だったんだよ! あいつが腕を失う原因になった……」

「ええ? なんだって?」

 陽歌が腕を失ったのは事故や病気によるものではない。他者の悪意によって引き起こされた『事件』なのだ。二人は学校へ急ぐが、学区の端にある自宅からではどうしても時間が掛かってしまう。本来はスクールバスで通う様な距離、マーガレットもタイムリープしている都合免許が持てず、自転車で駆け抜ける他ない。

「ここだ!」

 学校に着けば後は明快、ジャングルジムに縄跳びで腕をきつく固定されている陽歌を救出するだけだ。

「か、硬いなぁ……」

 硬結びに加え、伸びるビニール製の紐を伸ばして結んだせいで既に腕に血色がなくなっていた。陽歌本人も意識を失っており、早急に助けねば凍死の危険がある。

「離れろ! 断ち切る!」

 アマツキは脚部のブレードで綺麗に縄跳びを切断し、陽歌を解放した。

「救急車だ!」

「うん!」

 救急車を呼び、病院に搬送してもらう。自分達の存在が陽歌に露見してはいけないので、影から見守ることしか出来ない。

「結末を知っているのに、無力だな……」

「うん……」

 改めて時間遡行の制限を感じる二人であった。時間遡行中に再度遡行することは出来ない、歴史を変えようとしても修正力によって似た様な事件が起きて結局歴史は変化しない。

「これ考えるとよく折れなかったよね都知事」

「よほどメンタルが強いか状況を把握できない馬鹿か、本気で自分なら例外になりえると思っている大馬鹿か……」

 そう考えるとセーブと引継ぎを持っていたとはいえ、何度も自身による東京オリンピック開催に固執した大海都知事はかなりの難物であったことが分かる。

 

 そしてついにこの年がやってきた。全ての始まり、陽歌とユニオンリバーの出会いがあった年。まだ初夏であるが、九月には該当のイベントが始まるのでいっそう警戒が強まる。

「そういえば特にこの時期の記憶がないとか言ってたな。単純に限界なんだと思うが……」

 アマツキも陽歌からはこの時期の情報を得られなかった。ユニオンリバーと遭遇する頃には半ば死んでおり、ここら辺が心身共に限界であったのは想像に難くない。

「何あれ?」

 その時、マーガレットは何かを見つける。それは巨大な姿をした異質な人型生命体、侵略宇宙人であった。

「あれは、ダダ……それもパワードの方か? なんでそんな厄介なもんがここに……」

 予想していない事態に困惑するアマツキであったが、それ以上に状況を混沌とさせたのは歩道橋の上に立つ陽歌であった。以前までのボロボロの姿はどこへやら、顔色もよく服装も整っている。

「何をする気だ?」

「……」

 陽歌の腕は義手でなくなっており、左手にはガントレットの様なものが付いている。それを機動し合掌する様な形で右手の指輪を読み込ませた。

「ウルトラタッチ! ××××―×!」

 そして、左腕を掲げて何かを叫び巨人のシルエットへと変貌していく。その眩さに目が眩んだところで二人は寝床で目が覚める。

「な、何が……」

「おい、時間見ろ」

 マーガレットはアマツキに促されてスマホの時間を見る。すると、あっと言う間に九月まで時間が進んでいることに気づく。予定の時間まで26日もない。

「な、なにこれ?」

 一体何が起きているのか分からないが、とりあえず二人はいつもの様に時間を潰すことにする。

「さっきの何だったの?」

「陽歌の奴が記憶を無くした理由と関係あるかもしれんな」

 アマツキは一応記憶だけしておくことにした。以前金湧を調査した時、エヴァリーが光の巨人にまつわるアイテムを手に入れたので何か関連性があるのだろうか。

「ん? 何あの騒ぎ」

 おもちゃ屋に行くと、いつもでは考えられない騒動が起きていた。金湧は民度が低いので喧嘩や怒号は日常茶飯事であるが6年も住んでいるとそれでも慣れてこの騒ぎに異質さを感じるものだ。

「フハハハハ、皆の衆! 我々マーケットプレイスが在庫を纏めて分配してやろう! 多少の手数料はいただくがな!」

 有名な都市伝説、小さいオッサンをそのまま姿にした様な存在が指揮を執っていた。しかしファンシーさは欠片もなく、禿げた頭頂部を左右に少ない髪で必死に隠した脂ぎった中年太り。服装も外に出るというのに白いタンクトップにステテコと清潔さすらない。妖精の様な羽根だけが浮いて見える。

「マーケットプレイス?」

「転売屋軍団だ。幹部の何人かはあいつらにブチ殺されたがな」

 転売屋ギルドマーケットプレイス。ホビーから生活必需品まであらゆるものを買い占めて転売する犯罪組織。四聖騎士の天魂を模したアイテムで変身する幹部、アダムスミロイドも存在する。

キンキン声が耳障りなおばさんが変身するピンク色の蛇を模した、金色のモーニングスターを持つファルス・ザ・スネクロイドはエリニュースにより撃破。ワンダーフェスティバルにて、チンピラ崩れの変身する顔が何故か下半身にもある上に鼻が展開式の砲台になっている象のケンタウルス、ガネス・ザ・エレファントロイドはエヴァリーによって討伐。巨大なミル貝のベニス・ミルシェルロイドはヴァネッサに切り裂かれ、手足の生えたオタマジャクシのフログ・カウパロイドは就任直前の大空まひる首相によって撃破された。一見すると無能雑魚集団の様に見えるが、四聖騎士やそれに準ずる人々が異様に強いだけで一般には十分脅威である。

「下ネタ縛りでもしてんの?」

「知るか」

 そのあんまりにあんまりなモチーフにマーガレットはドン引きする。もし自分が改造人間にされてこんなデザインだったら即座に身を投げている。

「って、あいつ私が欲しいもんも買い占めたのか?」

 アマツキはマーケットプレイスの買い占めの中にFAガール用バッテリーの替えがあることに気づいた。一般家庭のコンセントで充電できるとはいえ、バッテリーが寿命を迎えるとどうしようもない。ファクトリーアドバンスの技術で長持ちするバッテリーとはいえ、FAガール開発の期間までは頻繁に充電しない様にするなど、かなりヒヤヒヤさせられた。

「おいそこのちっせえオッサン!」

「なんだ、お前は……」

 マーケットプレイスはホビーを扱っているのにFAガールであるアマツキを知らなかった。あまりベースから改造されていないのですぐにフレズヴェルクだと分かるはずだが、所詮転売屋の知識はこんなもの。

「私達にとっての命綱を買い占めるとは……やはり転売屋はここで殺しておくべきか」

「ほう、必要なものか、いいことを聞いた。どんどん集めてやるから私達から買え」

 必需品と聞けば買い占めるのを辞めるどころか儲けようとする始末。やはり転売屋という生き物は救えない。

「それを買い占めたら惨たらしく死ぬってことを教えてやるよ!」

 なのでもう殺して教える他ない。

「私を殺す? この最弱のアダムスミロイド、ミクダデ・ザ・フェアリロイドにすらお前は勝てない! そう、経済という人類のみ持つ基準によって進化した人類が我々であるが故に!」

「自分で最弱とか言っちゃったよ……あ、時系列的には最初のボスか」

 よくある幹部最弱を自称してしまうミクダデに戸惑うマーガレットであったが、タイムリープしているので時系列で言うとここが初のアダムスミロイド戦になる。つまり最弱。

「あーはいはい、よくある最弱って言ってるけどその世界の評価基準に乗らないだけで普通に無双するタイプね、もう食傷気味だ」

 アマツキは最初からオッサンを相手にする気はなく、荷物を運ぶメンバーに脚の刃を向けた。

「お前が死ねば問題ない!」

 だが、その刃は届かない。間に突風が吹きすさび、アマツキは跳ね返されてしまう。

「はっはっは、人員が狙われることくらい予想済みだ!」

「チッ、てめーを殺さねーとあいつらも殺せねぇのか」

 オッサンは高速で飛び回り、アマツキを妨害する。

「小さすぎて私じゃ追えない!」

 マーガレットも支援したいが相手が小さく、まるで虫を相手にしている様なものだ。通常、虫は人間を脅威に感じて逃げるのだがオッサンは積極的に攻撃してくるのでウザいことこの上ない。

「最も最弱最小が恐ろしいのだ!」

「そりゃサイズ差がある場合だろ。虫みてーに小さい奴からは人間の動きが止まって見えるって陽歌も言ってたし」

 しかしその理論はサイズの差がある場合のみ。オッサンとアマツキの間にはサイズ差がない。

「だがこの速さ! たかがおもちゃに進化した人類を止められまい!」

「お前が誰を相手にしてるのか分かってんのか?」

 自身満々のオッサンに、アマツキはただ、近くにあったポップを吊るす細い柱に捕まるだけ。

「私はフレームアームズガールラインナップ最強のフレズヴェルク、そして浅野陽歌が調整したアマツキだ。お前如き、こうだ!」

 その柱を軸に横回転を始めるアマツキ。移動用に使っていたキラービークの翼をその回転の動力とし、凄まじい竜巻を店内に引き起こす。

「や、やめろ! 吸い込まれる!」

 吸引力が発生しており、オッサンは必死になってレンジの持ち手に捕まる。しかしその扉が開いたりレンジが動いたりし始めたので、持ち手を伝ってなんとか冷蔵庫まで移った。

「な、なんて奴だ……だが、レンジやら炊飯器やらを吸い込んでしまえば中心の奴に激突し自滅……」

 小型の家電が吸い込まれていく様子をみてオッサンは震えながら勝利を確信した。だが、中心にそれらが届くと同時に蹴り飛ばされ、マーケットプレイスの頭に激突しメンバーが次々斃れていく。

「げぶ!」

「あべし!」

 小型家電とはいえ結構硬い上、なんとか目で追える程度の速度で飛ばされているので無事では済むまい。だが転売屋に慈悲は無用。最終的に全員殺す。

「なにぃー!」

「テラーオブ、サイクロンスラッシュ!」

 人間への憎しみを帯びたアマツキが、その人間を恐怖させんがために作り上げた必殺技。FAガールとしての演算機能を的確に吸い込んだ物体を目標にシュートする為に使う恐ろしい技だ。

「だがこの程度……いつまでも回っていられるものか……」

 なんとかやり過ごそうとするオッサンの前に、LBXクノイチがクナイを冷蔵庫に突き立てながら登って姿を現す。

「やっぱ私も小型戦力あったわ」

「なにぃー!」

 マーガレットはLBXを所持していたのだ。オッサンをゲシゲシと蹴り、冷蔵庫から引き剥がそうとクノイチが攻撃する。

「痛い! 子供のおもちゃで私に勝つなど……痛い! 力強い!」

 意外と力が強いクノイチだがオッサンの抵抗も著しい。

「えい」

「いてぇええ!」

 ついに痺れを切らしたマーガレットの手によってオッサンはクナイで手をぐっさり刺される。そして手を放してしまい、竜巻に吸い込まれることとなった。

「あ」

 竜巻の中は斬撃吹き荒れるミキサー。オッサンか即座にズタズタに切り裂かれた。

「ギャアアアア!」

「テラーオブサイクロンスラッシュ……&リバース!」

 そして逆回転により今度はぶっ飛ばされ、あちこちにぶつかりながらオッサンは激しく床に墜落する。

「ば、バカな……我々の否定は人類の進化の否定……! 経済という軸の弱肉強食こそ人類を発展させる……というのに、暴力に屈するなど……」

 オッサンの辞世にアマツキが陽歌からの受け売りで返す。

「ああ、それ正確には適者生存だし、弱肉強食って言葉自体『野生界はこんなんだけど人間界はそうならない様にしようね』って文脈で出た言葉だ」

「そんな理屈……グワーッ!」

 オッサンは爆発して木っ端みじんとなった。

「これで五匹目か、何人いるんだろうなぁこいつら」

「大抵のボスって八人だからもう結構倒したんじゃない?」

 総数は分からないが、もうかなり討伐しただろう。そろそろマーケットプレイスとの決戦も近くなっている。

 

 いよいよ、陽歌とユニオンリバーが出会うべき日となった。しかし肝心の陽歌は動く様子もなく、図書館を追い返されてから公園のベンチで蹲っている。

「ねぇ、よく考えたらなんで北陸から名古屋へ行けたの?」

「知るか、あいつも覚えてねぇんだ」

マーガレットとアマツキは最後の難関に立ち向かう。本人も覚えていない、北陸から名古屋への移動。それはいかなる手段で行われたのか。

「もしかして私達が連れてくの?」

「そうなるな」

 もうそれしかない、とアマツキは肩をすくめる。そんなわけで二人は陽歌を名古屋の吹上ホールまで運び、発見されるように仕向けるのであった。

 

   @

 

「というのが、ここに戻ってくるまでの話だ」

 マーガレットと共にタイムリープの起点まで戻ったアマツキは陽歌の整備を受けつつ事情を語る。12年も余分に生きてしまったマーガレットは年齢を上げ下げするキャンディを処方してもらい、元々の歳に戻った。トキヲモドソードZは12年の酷使で破損し、修復不能なまでになっていた。

「そうなんだ、ありがとね、助けてくれてて」

「ふん、お前に貸しの作りっぱなしってのもシャクなんでな」

 礼を言われても素直に受け取らないのがアマツキ。とはいえこの長い旅で人間への憎しみは軟化しただろうかと陽歌は思った。

(やはり、人間は愚かか……)

 しかしアマツキが見たのは醜悪な人間の愚かな行為。自分にされたことへの憎しみよりも、陽歌を傷つけたことへの怒りが増していた。

「ふあ……」

 陽歌があくびをかみ殺したのを見て、アマツキはベッドに行くように促した。

「寝れる時に寝とけ。お前は人生全体で見れば睡眠不足なんだからな」

「うん、お休み」

 陽歌はベッドに潜るとすぐに寝息を立てた。いけ好かない人間の一人に過ぎなかった陽歌に、一種義憤の様なものを抱えるアマツキ。人間の中には人格の問題から爪弾きとなる者もいるが、彼にはそんな要素が一つともない。人間が嫌いという常に憎める要素を探しているアマツキの評がこれなのだ。

(愚かしい人類にこれ以上、好き勝手させるのは気に入らないな)

タイムリープの影響でデジタルハーネスは外れている。だが、アマツキは逃げることをしない。彼女の中で何かが芽生えつつあった。




 いよいよ5人の幹部を潰されたマーケットプレイスが動き出す?

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