騒動喫茶ユニオンリバー The novel 異端たる双眸 作:級長
「綺麗だったなー、キリトくんも来ればよかったのに」
「そんなにか、俺も行けばよかったな」
ひと悶着あったものの、浮遊大陸の景色は綺麗なものであった。根っからのゲーマー気質であるキリトと違い、その実力からは想像できないほどリアル寄りの感性を持つアスナとしては好きな人と絶景を共有したい気持ちがあった。
「だったらハルコタンの白の領域いかねーか? あそこもあそこで綺麗だぞ」
響は他にもいいロケーションを知っていた。クエストとなれば戦闘になるので景色を堪能する余裕はないように思われるが、ギャザリングなどゆったりする時間はそれなりに多い。最近はダーカーの影響も減ってエネミーもいなくなった。
「やはり白の領域か、私もいこう」
「ジョアン」
話を聞いてジョアンも合流した。しかし彼女はずんずん教に狙われる身。大人しくしている方がいいのではないか。
「ずんずん教がいて危険じゃないですか?」
「デイリーオーダーのメセタには替えられない。それに面倒だから私が自らおびき寄せて全員始末する」
陽歌の心配も他所に、ジョアンは面倒という理由で即座に倒すことにした。彼女らしい解決方法であった。
「んじゃ、白の領域いくぞ。マルチパーティーになるな」
そんなわけでみんなで白の領域に向かうことにしたのであった。
@
「ずんずん教だ! ずんずん教だ!」
「はえーよ」
白の領域に到着した途端、ずんずん教徒が集まり出した。桜を楽しむ余裕もないへんちくりん集団の殺到に響は突っ込まざるを得なかった。
「ふふ、戦力の逐次投入は愚策……一気呵成に畳み掛けさせていただきます」
「まぁそうなんだけど……」
戦力は一気に投げ込むもの、というリーダー格のずんずん教徒が言うのも納得であるが、まさか出待ちとは思わなかった陽歌なのであった。
「しかし私達が異世界から英雄を呼び出せるというのを忘れていないかね?」
「何?」
響は以前、彼らが謎の少女剣士を呼び出したことを思い出す。あの力があれば一線級の戦力をどこからともなく調達できる。一体今度はどんな敵を呼び出すつもりなのか。
「さぁ現れなさい! 因縁の剣士達!」
どうやらずんずん教徒はキリトや響たちに因縁がある剣士を呼び出すつもりらしい。
(クラディールか? まさか茅場?)
特に強力な剣士と戦った経験があるキリトは警戒する。これはつまり、相手が強い敵と戦っていればいるほど有利な盤面を作れるということ。クラディールはものの数でないとして、もし意思を封じたまま戦闘能力だけを抽出できるのなら茅場一人出されただけでも苦しい戦いになる。
(剣士だと? エルミル辺りだと面倒だな……)
それは響も同じこと。一体一体は屠れても数を出されたら苦しい。
「久しぶりだな……黒の剣士」
「お前は……」
「守護輝士、今度こそお前を倒す」
「まさか……」
現れたのは、夕闇色の怪人と赤い髪の女性。
「ダスク・テイカー! ヘルガ・ノイマン! &ナックルズ!」
「いやナックルズいる?」
悪そうな面子に混ぜられる赤いハリモグラ、ナックルズ。剣士ならぬ拳士であるが特に関係は無さそうだ。キリトは急なスターの登場に動揺した。
「やべ、ロックオンカートリッジさしっぱだった」
「そのシステムメガドラだったの?」
ずんずん教徒の様子からしてこの召喚能力はメガドライブに依存しているらしい。陽歌も噂に名高いメガドラタワーは知っている。
「貴様その歳でメガドラタワーを知っているのか? 一体どんな教育受けてんだ……」
「今はネットがあるから結構有名なんだよなぁ……」
もう凄いんだか馬鹿なんだか分からなくなってきた。
「担当直入に聞きます。あなたは私をそのずんずん教とやらぼスポークスマンに祭り上げることが目的ですか?」
ジョアンは誤魔化すことなく目的を尋ねる。ここはもうハッキリさせた方がいい。
「何度も申し上げている通り、そうです。スポークスマンなどとんでもない。あなたをずんずん教の聖母としてお迎えしたい。しかしきっと邪魔が入ると思い、私はメガドラタワーを媒介に戦士を呼び出す機能を生み出したのです! 結果的に変な世界に繋がりましたが……」
「なるほど、僕らがこっち来ちゃったのはそのせいか……」
まさか馬鹿なずんずん教と為に陽歌とキリト達はこっちにきてしまったらしい。エーテルを媒介にした副次効果だろうが迷惑な話だ。
「さぁ、もっと見せてあげますよ!」
赤と黒のツートンをしたキャストと、錆色の鎧姿が現れる。
「レンヴォルト・マガシ! ラスト・ジグソー! さて、歓待の準備はこんなところですか……」
ジョアンと陽歌を除く全員を相手取れるだけの増援を呼び、教徒は戦いを始める。
「僕は数に入ってないか……チャンスだな」
陽歌は戦えない振りをして機会を伺った。ラスト・ジグソーの丸鋸が飛び、戦いの始まりを告げた。
「面倒なことばかり、してくれます!」
ジョアンがそれをカタナの鞘で防ぎ、そのまま抜刀する。ブレイバーの代名詞、カウンターエッジ。しかしその刃は業炎に包まれ、ラスト・ジグソーではなくずんずん教徒へ向かっていく。
「ぐへぁ!」
すっぱり斬られ、血を吹き出しながら倒れるずんずん教徒。これは死んだな、と誰もが言外に思ったその瞬間、血が逆再生の様に血が戻っていきずんずん教徒は立ち上がる。
「いやぁ手厳しい」
「不死の能力?」
陽歌は敵が不死と分かると、一気に攻める準備をする。
『気をつけてください、あれは不死の酒でス!』
「不死の酒?」
そこにアスルトから通信が入る。不死の能力でも陽歌の耐不死とは相性が悪いから忠告ということなのだろうか。
『錬金術のある一派が最終到達点としていた存在でス。悪魔の酒とも呼ばれており、同じ酒を飲んだ者に「食われる」という弱点がありまス。故に完璧な不死でない為不死殺しが効きにくいかも……』
「でも、斬ってみせる!」
陽歌は具現武装のブーツを展開し、ずんずん教徒へ一気に迫る。
「不死の私が斬れるなど……」
陽歌は一撃で仕留めるつもりで刀を呼び出し、切り裂く。ずんずん教徒は不死といえども痛みがある為か反射的に攻撃を避ける。それが幸いした。浅く斬られた身体の傷は、血の戻りが遅い。
「な……再生が遅い……」
「効くか」
どうやら効くらしい。それが分かると、陽歌は全力で敵を追い、ずんずん教徒は全力で逃げる。
「俺達も行くぞ!」
キリトの先導で一斉に呼び出された敵に斬り掛かる戦士達。響はヘルガと無意識に刃を交える。
「あなた、気に食わないわね」
「そりゃこっちのセリフだ!」
互いに凄まじい嫌悪感を覚えている。彼女達の知る由もないが、響はグラールの英雄、エミリア、そしてヴィヴィアンの遺伝子を継いでいる。このヴィヴィアンはヘルガのクローン的な存在でありながら真反対の性格をしており、これがこの嫌悪を引き起こす原因となったのだろう。
「カンランキキョウ!」
響が刀を投げ、回転させてヘルガに攻撃を仕掛ける。しかし回避されてしまう。
「なんて野蛮な……剣を投げつけるなど……同じヒューマンと思いたくもない」
武器を失った、これは大きな隙だとヘルガは勝負を決めに掛かる。が、なんと刀が戻ってきてヘルガの背中に直撃する。
「な、ギャアアアア!」
「悪いな、こっちはそんなお行儀よくねーんで」
刀をキャッチすると、神速の二連撃で響はヘルガを切り裂いた。
「潔く散れ、まやかし。サクラエンド零式!」
見えない、悲鳴を上げる暇さえない鋭さであった。同じ遺伝子を持っていても、その実力は鍛錬で大きく変わる。
「貴様……強いな?」
「どうやら俺をご指名か」
マガシはキリトを見て、強さを図り自ら戦いを望む。二刀流同士の苛烈な戦い。キリトとしてはこの一種のミラーマッチとも言える戦いはあまり経験のないことであった。
「俺以外の二刀流と戦えるならここに来た甲斐がある!」
キリトが最近、様々なゲームに顔を出す様になったのには理由がある。デスゲームという大きな山場を乗り越えた彼であるが、またその手腕を必要とする機会が発生した。己の技量を向上するため、様々なゲームの二刀流を体験するというのが一つの方法であった。というのもソードアートオンラインではユニークスキル扱いの二刀流、そして同じゲームエンジン『ザ・シード』によって生み出された同種のフルダイブゲームでも二刀流は希少、あっても扱い熟せないプレイヤーが多い。
相手がなんであれ、一定の実力を持った二刀流の剣士は参考になる。
「デュエルアバター唯一無二の飛行能力! そして空から放つ火炎! 僕が最強であるこの証があれば、お前らになど負けない!」
「飛ぶくらいで威張られても困るよ!」
ダクス・テイカーが飛翔する中、マトイはテクニックで容赦なく攻撃する。デュエルアバターは同レベル同ポテンシャルという原則を持ち、その中でもダスク・テイカーはその名の通り
「ギャアアアア!」
この様に実力差が大きいと火を吹け様が飛ぼうが大したことないのだ。
「俺に近づくとどんな鉄でも錆びるぜぇ……」
ラスト・ジグソーはジョアンとの戦いに入った。心意という特殊な力で周囲を錆させることが出来るのだが……。
「面倒かつ無意味です」
だが、錆びるまでには時間が掛かる。神速のブレイバー、その上位に位置するジョアンにはまるで意味がなく切り裂かれる。
陽歌はずんずん教徒を追う。追いすがるが、刀のリーチは届かない。その時、彼の脳裏にキリトの言葉が浮かぶ。
(心意っていうんだけどな、イメージで現実を上書きするんだ)
彼らの世界における特殊な力、心意。主にフルダイブゲーム上でしか使うことが出来ないのだが、ここをそこだと定義すれば、動力を溢れる霊力で補えばあるいは。
「これで……!」
届かない、とあればリーチを伸ばしたい。ならば方法は一つ。陽歌は鞘と刀の柄を合わせ、イメージを上書きする。刀から、薙刀へ。
「心刃……秋茜!」
刃の端から炎を吹き出す薙刀、秋茜。その長い尺を全身で振り回し、加速しながら追い詰めていく。
「仏陀斬り、茜!」
「うごぁああ!」
見事、刃がずんずん教徒に直撃する。遠心力と炎の加速を得たその刃は通常の刀よりも深く入り込み、切断まではいかないものの脊椎を粉砕することが出来た。
「ぐげぼ! き、貴様……」
「これで終わりだ……、心刃、幽焼弧焼!」
陽歌は元の姿に戻した刀と鞘を持ち、二本の刀という心意をそこに重ねる。鞘がもう一本の刀へ変化し、二刀流が可能となった。
「スターバースト、ストリーム!」
「ぐげええええ!」
高速の剣戟がずんずん教徒を刻む。バラバラとなった教徒は川にその身体の大半が落ち、再生しようにも肉片や血はどんどん遠くへ流されてしまう。弱体化した再生能力では集めることが出来ない。
「ぐへ……あと、少しだったのに……」
「あれは?」
残ったずんずん教徒の目が追ったのは遥か上空。そこには何か卵の様なものが浮かんでいた。宇宙にあるのか姿はぼやけており、惑星の様な新円でもなく楕円だ。
「なるほど、そういうことか」
「マザー!」
ちびマザーが陽歌の頭に乗っており、状況を解説する。
「あの荒唐無稽な召喚術の依り代があれだ。世界を創造するだけの大きなエネルギー。そして聖女と目したジョアンはエーテルとフォトンの両方を操ることが出来る」
エーテルとフォトンは基本、同じ性質を示すものである。しかし僅かにエーテルは『繋がる』ことに特化している。
「この世をも闇に覆い尽くす膨大なエネルギー、フォトンであの卵の殻を内側から爆ぜさせる。その際、エーテルの創造によって理想の世界を中に作っておけば、繋がる力によって飛散したエネルギーがその理想の世界へ、今ある世界を無理矢理繋げて書き換える。ずんずん教、ふざけた名前の割にとんでもないことをするものだ」
マザーはこれでも全知存在、ずんずん教徒の目論見はおおよそ見抜いていた。
「何だって?」
「ふははは……だがこれをこの星に落として、最後の逆襲といこうではないか……これを斬れると思うなよ……何せ、世界そのものの卵なんだからな……」
また妙なもの気軽に用意してくれたものである。しかし、陽歌には可能だ。
「やろうと思えば、出来る!」
刀を鞘に納め、絶対に断ち切るという思いを重ねていく。陽歌は東京オリンピックに纏わる騒動にて、いわば一つの未来を壊したといえる。ならばその硬い信念があれば、不可能ではない。
「心刃、洗骨骨噛!」
変化した刀は無骨な大剣となり、背の部分から炎が噴き出す。
「け、剣なんかで……」
「果敢鳳凰翼、骨砕!」
大きく振りかぶった大剣から放たれたのは巨大な不死鳥。遠くへ飛んで行ってもその姿は小さくなることなく、世界の卵を砕いて爆散させる。
「よし」
こうして、ずんずん教の野望は打ち砕かれた。
「うわ、でっかくなった!」
追い詰められたヘルガは巨大な上半身から脊髄の様なものが伸びた化け物へ変化する。脊髄の先端にはもう一つの頭があるおぞましい存在だ。
「ここで決めましょう」
「おっけ。斬撃に乗れるか?」
響の無茶ぶりにアスナは安請け合いする。しかし、その困難さを分からずに言っているのではない。出来ると把握した上での発言だ。
「シュンカシュンラン!」
響が掲げた刀を振り下ろすと、大きな斬撃の波が巻き起こる。それに乗ったアスナはヘルガまで接近する。
「マザーズロザリオ!」
神速の十二連撃がヘルガを撃ち抜き、トドメを刺す。化け物は崩れ落ち、最後の決着がついた。
@
「ずんずん教の野望は砕かれましたが、まだ皆さんは戻れないみたいですね」
一行はシエラと艦橋で事件の整理をしていた。一応回収できる肉片は集め、ユニオンリバーの方で処理することにした。
「しばらく影響が残るみたいでスが、そのうち自然に修正されるでしょう」
アスルトによるともう問題はないらしい。だが、すぐには帰還できないとのこと。
「迎えは用意したので少し待っててください」
「はい」
陽歌は役目を終え、元の世界に帰ろうとしていた。キリトとアスナはしばらくいる様で、守護輝士である響達にある提案を持ちかけていた。
「なぁ、せっかくだから勝負しようぜ!」
「おもしろい、異世界の剣士と腕比べなんてそう出来るもんじゃない」
響はそれを快諾する。嵐の様に騒動は過ぎ去り、また次の騒動が始まる。この出会いが後に陽歌を大きく助けるとは、まだ誰も知らないのであった。
ここでアークスとの関係を持ったことで、惑星コウグの騒動にてアークスシップを経由した移動が可能になったというわけである。